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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第5回 楽しいランチタイム


四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(4巻)はコチラから
 1巻はコチラから
 2巻はコチラから
 3巻はコチラから


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5 楽しいランチタイム

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 ピクニックコーナーは、丘の上にあった。

 芝生(しばふ)の広がるそこには、青々と葉をしげらす木が何本か生えている。

 私たちはさっそく、こかげにレジャーシートを広げ、お弁当をならべて、フタをひらいた。

「わあっ、おいしそうね!」

「すごい。これ、全部四人で作ったの?」

 杏ちゃんと湊くんに感心したように言われて、私たちは鼻が高い。

「ふふーん。せやろせやろ。うちはおにぎり担当。のりを巻いたのにはこんぶが入ってて、ゴマのおにぎりには梅干しが入ってて、何もついてない白いおにぎりにはおかかが入ってるねん」

 得意げな二鳥ちゃん。

 そのとなりで、一花ちゃんは、なぜか困ったような顔をしてる。

「作ってるときは、なんとも思わなかったけど……ちょっと作りすぎちゃったかしら?」

「あ……」

 言われてみれば……たしかにそうかも。

「四人分にしては、少し多かったかなぁ?」

 私が言うと、二鳥ちゃんが楽しげに笑った。

「ええやん! 杏ちゃんたちにも食べてもらえば」

 すると、一花ちゃんまで、

「そうね。食べざかりの男子が二人もいるんだし、ちょっとくらい多くても大丈夫よね」

 えっ!?

 こ、このお弁当、湊くんたちにも食べてもらうの?

 ど……どうしよう。

 食べてもらえるのはうれしいけど……。

 私の焼いたたまご焼き、ちょっとこげちゃったかもしれないし……。

「本当? いただきまーす」

 わーっ、湊くん、さっそくたまご焼きを、おはしでつまんで――。

 ――ぱくっ

 た、食べちゃった!

「そ、そのたまご焼き、私が作ったの!」

 たまらず私はさけんだ。

 一花ちゃんから教えてもらいながらがんばったけど、こげちゃったからおいしくないかも!

 ごめんね食べてもらえるなんて思ってなくて、あっそうだ口直しにお茶とかいる!?

 あわてふためいている私の目に飛びこんできたのは――。

「おいしい! これ三風ちゃんが作ったの? すごいね!」

 意外なことに、湊くんの明るい笑顔だった。

「へっ? ……ほ、本当においしいの?」

 信じられなくて、たずねてみる。すると、

「うん。おいしいっ。俺、たまごは半熟のより、これくらいしっかり焼いたほうが好きだよ」

 よ…………よかった……!!

「ありがとう、湊くんっ……!」

『おいしい』だけじゃなく『好きだよ』だって!

 ホッとしたやら、うれしいやら。

 私、舞いあがるような気分になっちゃった。

 となりでは、杏ちゃんが四月ちゃんに話しかけてる。

「ねえ、四月さんは何を作ったの?」

「あ、僕……今回はサポート係だったので……あの……プチトマトを洗ったりとか」

 すると、

「…………いただきます」

 直幸くんが、プチトマトをおはしでつまんで、もぐもぐ食べて、

「……あの……おいしいです」

「……あ……ありがとうございます」

「いやプチトマトやで?」

 二鳥ちゃんに冷静につっこまれてる。

 一花ちゃんと私は、そっくりな顔を見合わせて、「「ふふふっ」」としのび笑い。

 私も、二鳥ちゃんのにぎったゴマのおにぎりと、一花ちゃんの作ったタコさんウインナーを、お皿にとって食べてみる。

 外で食べるお弁当って、どうしてこんなにおいしいんだろう。

 空気がいいからかな?

 それとも、みんないっしょで、楽しいからかな?

 おしゃべりしながら、はしをすすめていたそのとき。

「あれ……?」

 何かに気づいたのか、湊くんが、自分のお弁当から顔を上げた。

「どうしたの? 湊くん」

「そこにいる小さい女の子、どうしたんだろう。迷子かな?」

 見れば、すぐそばの植えこみのカゲに、三歳くらいの女の子がしゃがみこんでいる。

 彼女はひとりぼっちでうつむいていて、しょんぼりしているみたい。

「ねえ、どうしたの? お母さんとお父さんは?」

 湊くんが声をかけると、女の子はびっくりして、しりもちをついちゃった!

「まあ、大変」

「大丈夫?」

 私たちがお弁当を食べるのを中断して、立ちあがってくつをはき、そばに近寄ると……。

 ああっ、女の子の両目が、涙でみるみるうるんできちゃった。

 知らない人たちに話しかけられて、こわくなったのかな?

「あぁあ、あのね、私たち、その……」

『あやしい者じゃありません』『悪い人ではありません』なんて言っても、伝わらないよね?

 あぁ、泣かないで~!

 私たちがたじろいでいたら……。

 二鳥ちゃんがパッとしゃがみこんで、女の子と目線を合わせた。

「こんにちは! なぁなぁ、お歌知ってる? 『森のグーチョキパー』の歌」

 女の子は今にも泣きだしそうな顔で、

「……しっ……て、ゆ」

 と舌足らずに答える。

「知ってる? ほんまに? うれしい! ほんなら、ママが来るまでいっしょに歌おか」

 返事を待たず、二鳥ちゃんは、かろやかに歌いだした。

「♪グーチョキパー~であっそびましょーさいしょ~はどんぐりーのグウゥ~!」

「グウゥ~!」だけ裏声で、歌い方もすっごく面白かったから、私たち、思わずふきだした。

 そうしたら、女の子も、涙を引っこませてにっこり。

 二鳥ちゃんも、まるで幼稚園の先生みたいに、優しくにっこり笑ったんだ。

 そのあとすぐ、

「ああっ! ママ! パパ!」

 女の子は、無事にお母さんたちと合流。

「ばいばい」

 と小さく手をふって去っていった。

「ふう……泣きだすのかと思ったらドキッとしたわ……。二鳥、あんた、子どもをあやすのじょうずねえ」

「本当! 二鳥ちゃん、保育士さんみたいだったよ。すごいね」

 一花ちゃんと私がほめると、

「いや…………」

 どうしてだろう。二鳥ちゃん、苦笑いしてる。

 照れているのとは、少しちがうみたいだけど……。

 小さく引っかかったけど、次の杏ちゃんの言葉で、私たちは石のように固まった。

「二鳥ちゃん、関西弁だからよけいに面白いのよ。……あ、そういえば、四つ子の中で二鳥ちゃんだけ関西弁だけど、どうしてなの?」

「「「「うっ」」」」

「あ、それ、俺もちょっと気になってた」

 み、湊くんまで?

 な、直幸くんも、興味ありげな目でこっちを見てるし。

「ふふっ、まさか、二鳥ちゃんだけ関西出身とか?」

『なーんて、そんなわけないわよね?』と言いたげに、杏ちゃんはむじゃきに笑ってるけど。

 まさにそんなわけ、あるんだよ……!

 私たちは赤ちゃんのころ、別々の施設にあずけられ、ちがう場所で育てられた。

 でも、そのことは、学校の友達にはナイショにしてるんだ。

 お母さんを名乗る、四ツ橋(よつばし)麗(うらら)さんっていうあやしい人のこともあるし。

 彼女は大企業・クワトロフォリアの社長夫人だっていうし。

 全部説明するには、長くて重くてややこしいんだもん。

 どう答えようかとハラハラしていたら、

「え、私は普通に関西弁以外でも話せるよ?」

 にっ…………。

 二鳥ちゃんが標準語をしゃべりはじめた……!?

 その場の全員に強烈(きょうれつ)な衝撃(しょうげき)が走って、みんなポカンとしちゃってる。

「だけどね、私は本場関西のお笑いが好きなの! だからふだん、関西弁でしゃべってるんだよ」

「二鳥早く元にもどって。違和感がすごいわ……」

 一花ちゃんが心の底からお願いするような目を向けると、二鳥ちゃんはイタズラっぽく笑った。

「ええやんか、たまには。さ、みんなお弁当食べてしまお。アリさん来よるでー」

「え、ええ……」

「う、うん……」

『標準語二鳥ちゃん』のインパクトが大きすぎたのかな……。

 杏ちゃんも湊くんも、それ以上何も聞いてこなかった。

 直幸くんは何か考えてるみたいだったけど、じっとだまって、何かを言う様子はない。

 う、うまくごまかせて、よかったぁ……。

 それにしても、二鳥ちゃんがあんなにスラスラと標準語を話せるなんて。

 意外な一面にびっくりだ。

 意外な一面、か――。

 ふと、朝、家で二鳥ちゃんが見せた、おこったような顔を思いだした。

 あれも、意外な一面といえば、そうだよね。

 それに、さっき、二鳥ちゃんは、小さい子をすっごくじょうずにあやしてた。

 あれも、意外な一面。

 二鳥ちゃんは、いつもの元気さのウラに、意外な一面をいっぱいかくしているのかも。

 かくしているものは、いつか必ず表に出てくるんじゃないかな、って。

 なぜだかわからないけど、そんな気がしたんだ。


 お弁当を食べたあと。

「なあなあ、次はどの乗り物に乗る?」

 レジャーシートの上に、二鳥ちゃんが遊園地のガイドマップを広げた。

 そこには、イラストと写真で、遊園地の全体図がわかりやすくえがかれている。

「俺、ジェットコースター乗りたい!」

「うちも! こっちのスプラッシュコースターにも乗りたいわ」

「私も私もっ。あと空中ブランコとか。あっ、お化けやしきもいいわね」

 湊くん、二鳥ちゃん、杏ちゃんは、なんだかこわそうなアトラクションばかりを挙げている。

「僕、全部ムリだ……」

 四月ちゃんが私のとなりでつぶやいて、直幸くんも同意するように、ひっそりうなずく。

 わ、私も、どっちかっていうと、こわそうな乗り物は遠慮したいけど……。

 でも、湊くんといっしょの乗り物に乗りたいな……。

 というか、四月ちゃんも直幸くんも、こわそうな乗り物が苦手なんだ。

 せっかくみんなで遊園地に来たのに、乗り物には乗れないなんて、気の毒な気がするよ。

 そう思ったとき、一花ちゃんがみんなに提案した。

「ジェットコースターとかに乗りたい人と乗りたくない人がいるから、いったん二つのチームに分かれるのはどうかしら。アクティブに遊びたいチームと、のんびり遊びたいチーム」

「いいわね」

 真っ先に杏ちゃんが同意して、

「なるほど」「賛成っ」「さんせーい」

 みんながうなずく。

 そっか。二つのチームに分かれれば、不満が出にくいよね。

「ほんなら、アクティブチームに入りたい人、この指とーまれっ!」

「はい!」

「はーい!」

 二鳥ちゃんが高く挙げた人差し指に、湊くんと杏ちゃんが手を重ねる。

 もし、ここで、私がアクティブチームに入っちゃったら……。

 たぶん、こわそうな乗り物ばかり、乗って回ることになっちゃうんだろうな。

 だけど……私、湊くんといっしょがいい!

 湊くんと、もっと仲よくなりたいんだもの。

 杏ちゃんのジャマをしちゃうみたいで、ちょっと悪いかなって気はするけど……。

 でもっ、私にだって、湊くんと仲よくなる権利はあるはずだよ。

「は、はーいっ!」

 私は手を挙げて、二鳥ちゃんの人差し指に飛びついた。

「えっ?」

 わわっ、湊くんも、杏ちゃんも、二鳥ちゃんも。

 一花ちゃんも、四月ちゃんも、直幸くんも。

 みんないっせいに、ちょっぴり意外そうな表情で私を見た。

「三風ちゃんも、アクティブチームに入るのん?」

 二鳥ちゃんに確認するように聞かれ、私は大きく息をすって、笑顔を作る。

「う、うん! 私もアクティブチームに入るよっ。乗ってみたいな。ジェットコースターとか」

 アクティブチームっていっても、あのフリーフォールみたいな、本当におそろしい乗り物ばかり乗るわけじゃないはずだよ……ね?

 杏ちゃんの言ってた空中ブランコなら、私もなんとか乗れそうだし、お化けやしきだって……。

 私は自分に言いきかせる。

(大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ、大丈夫だよっ)

 すると一花ちゃんが、私のとなりにやってきて、耳元でささやいてくれた。

「三風。何か困ったことが起こったら、いつでも連絡するのよ」

 一花ちゃんには、私の考えてること、お見通しなのかな……?

「あ、ありがとう」

 私は小声で答え、うなずいた。

「アクティブチームは決まりね。はい、それじゃ、のんびりチームに入る人~?」

 一花ちゃんが、二鳥ちゃんをまねて、明るく笑って人差し指を出した。

 すると……。

「……はい」

「……はい」

 四月ちゃんと直幸くんが、そろーっと手を挙げる。

 二つのチーム……なんだか温度差がすごいなぁ……。

 あれ? そういえば。

「一花ちゃんは、のんびりチームでいいの?」

 一花ちゃん、フリーフォールには楽しそうに乗ってたよね?

 そう思ってたずねると、

「当ったり前や!」

 二鳥ちゃんが、ちょっとふきげんな口調で割って入ってきた。

「だって一花もアクティブチームに入ったら、シヅちゃんと直幸くん、二人きりになるんやで。二人きりやったら、デートになってしまうやんか!」

 デ、デートって!

 案の定、四月ちゃんと直幸くんは顔を赤らめ、おたがいサッとすばやく距離をとった。

 動きがなんだか忍者みたいだ。

「こらっ。ヘンなこと言わないの」

 一花ちゃんは二鳥ちゃんをしかって、

「あははははははっ!」

 杏ちゃんは爆笑してる……。

「チ、チームが決まったんなら、ほら、早く行こう! 時間がもったいないぞ」

「そ、そうだねっ。レジャーシート、たたんじゃおうよ」

 湊くんと私が、なんとかその場をおさめた。

 片付けが終わったら、いよいよ、アクティブチーム、行動開始だ。

 私は、ピクニックコーナーの丘から、遊園地を見下ろして、

「ふぅーっ……! よしっ」

 と、ひそかに気合いを入れた。


第6回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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