
四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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9 二人はひどい人?
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『わかった。私、行くわ。そこを動かないで待っていて。いいわね』
一花ちゃんのその言葉を最後に、電話は切られた。
私・三風は、スマホをにぎったままオロオロ。
次はどうすればいいんだろう?
そ、そうだ、もう一度、二鳥ちゃんに電話してみよう。
――プルルルルルル…………、プッ
「あっ、二鳥ちゃ――」
――おかけになった電話は、電源が入っていないため、おつなぎできません……
ええっ、そんなぁ……。
私はしかたなく、通話終了ボタンをおした。
二鳥ちゃん、スマホの電源、切っちゃったんだ。
さっき、かなりカッとなってたみたいだったし……。
もしかしたら、私たちから連絡を受けたくないって思ってるのかな。
こうなったら、私一人でも、あゆむくんをさがしに行こうか。
あっ、ダメダメ、今は一花ちゃんと合流しなきゃいけないんだもん。
ここから移動しちゃいけないよ。
どうするかは、一花ちゃんと会ってから、二人で考えようっ。
うう~、一花ちゃん早く来て~!
もどかしい気持ちでいっぱいになって、足ぶみしていたそのとき。
「ハァ……ハァ……ハァ…………」
坂の下から、中年の小柄(こがら)な女の人と、同じく中年の、大柄(おおがら)な男の人がやってきた。
どうしたんだろう。まるであちこち走りまわったあとみたいに、息を切らしてる。
それに、二人とも、とても不安そうな顔をしてるけど……。
私がその二人に目を向けると、二人も私に気づいて、
「ああっ!」
信じられないものを見たというように、女の人が声をあげた。
「二鳥っ! あんた、なんでこんなとこにおるの!」
男の人も、
「二鳥っ……!? ほんまに……?」
と、絶句して目をむいている。
この人たち、たぶん、二鳥ちゃんの養父母さん――佐歩子(さほこ)さんと武司(たけし)さんだ。
私を二鳥ちゃんだとかんちがいしてるし、関西弁だし、まちがいないよ。
きっと、自分たちの息子――あゆむくんをさがしている最中なんだ。
「あ、あのっ……私、二鳥ちゃんじゃないんです」
答えると、二人はさらに私の近くまで寄ってきた。
「あんた、何言うてんの、どう見ても、二鳥やないの!」
「ち、ちがうんです。そっくりだけど、別人です」
私が佐歩子さんをなだめると、武司さんが早口で言った。
「二鳥やないんやったらだれやっちゅうねん。まさか『そっくりな双子です』とでも言うんか」
「ちがいます。あの、私は双子じゃなくて四つ子の――」
「四つ子ぉ!?」
大人の男の人に、大きい声で何か言われたら、しかられたような気分になってしまう。
思わずだまりこむと、武司さんはあきれたように笑った。
「ウソ言いな。四つ子て、そんなアホな」
な、なんで信じてもらえないの……?
二鳥ちゃん、私たち四つ子の姉妹のことを、養父母さんに伝えていなかったのかな。
たしか、ずっと前、『お母ちゃんとお父ちゃんにメールした』って、言ってたけど……。
本当は、連絡とってなかったってこと?
不穏(ふおん)な予感で、心がざわっとゆれた。
「ああっ、なんやわけわからへん。あゆむが消えて、二鳥が出てきて……」
佐歩子さんが泣きそうな声で、弱々しくつぶやく。
そうだ、あゆむくん……!
私は勇気を出して言った。
「あ、あのっ、あゆむくん、迷子になってしまって、わ、私のせいで――」
その瞬間、二人の目の色が変わった。
「二鳥っ!」
――ガシッ
私、武司さんにうでを強くつかまれた。
「あんた、またあゆむになんかしたんか!?」
ひっ…………。
どなられて、私は目をつむり、身をすくめた。
どうしよう……っ。
何も言葉が出てこないし、うまく説明もできないよ。
そのとき、
「やめてください! 私の妹になんの用っ?」
聞きなれた声に目を開けると、坂の上から、一花ちゃんがかけおりてくるのが見えた。
「い、一花ちゃんっ!」
私は助けを求め、
「に……二鳥やの……!?」
「二人おる……!?」
佐歩子さんと武司さんは、私たち二人を見比べ、目を白黒させた。
「宮美(みやび)、一花……」
佐歩子さんと武司さんは、ゆっくりと、そうつぶやいた。
二人が見つめているのは、さっき一花ちゃんが差しだした生徒手帳だ。
「ええ。私は四つ子の長女の一花。二鳥は次女。三女がここにいる三風。そしてもう一人、末っ子の四月がいます。私たちは四つ子で、私と三風は、二鳥とは別人よ」
堂々と説明する一花ちゃん。
そのとなりで、ほっとため息をつく私。
助かったよ。一花ちゃん、ありがとう。
だけど……。私は小声で聞いた。
「一花ちゃん、どうして遊園地に生徒手帳なんて持って来てたの?」
「私、どこに行くにも、いつも持ちあるいてるわ。いざというとき、学割が使えるように」
なるほど……さすが、しっかり者の一花ちゃん。
「きみら、ほんまに四つ子やったんか」
武司さんの声が聞こえて、私たちはそちらに体を向ける。
「そうです。四つ子です」
「ええと、三風さんか。……声かけて、えらい悪かったな」
ばつが悪そうに言う武司さん。
よかった。誤解(ごかい)はとけたみたい。
だけど、そのとなりで、佐歩子さんは涙目になっている。
「あゆむを……あゆむを知りませんか? ちょっと目ぇ離したスキに、どこかへ行ってしもうて」
「あの……あゆむくん、私、知ってます」
そう言うと、全員の視線が私に集まった。
あゆむくんをさがすためには、正直に言わなくちゃ。
「あゆむくん、私を二鳥ちゃんだとかんちがいして、話しかけてきてくれたんです。それで私、『二鳥ちゃんは別のところにいる』って、言いました。そのあと、本当にちょっと目を離したら、あゆむくんはいなくなっていて」
「……あゆむは二鳥をさがしに行ったっちゅうこと?」
「ごめんなさい……」
私が目をふせると、一花ちゃんがハキハキと言った。
「まだ小さい子なので本当に心配です。入場ゲートの近くに、インフォメーションセンターがありましたよね。そこで、迷子のよびだし放送をかけてもらったほうがいいと思います」
佐歩子さんと武司さんは、うなずいた。
次に、一花ちゃんは私に向かって言った。
「三風、私たちは二鳥をさがしましょう。そこにあゆむくんもいるかもしれないわ」
「う、うんっ」
「いや! きみらはなんの関係もない。二鳥に連絡もせんでええ」
武司さんに、やや強い口調でそう言われ、私と一花ちゃんはとまどった。
「……どうしてですか? 大勢でさがしたほうがいいに決まってるわ」
「ほんまに、ええのよ、だって、二鳥は……」
佐歩子さんは言葉をにごす。
「昔、二鳥と何かあったんですか?」
ずばり聞いた一花ちゃんに、佐歩子さんと武司さんは、だまりこんだ。
「あの……あゆむくん、『にとちゃんのせいでケガした』とか言ってましたけど……?」
思いきって、私もたずねる。
すると、佐歩子さんのみけんにしわがよせられた。
「そうやのよ、二鳥は……あの子は、あゆむをつきとばしてケガまでさして、せやのに、『うちは目を離してただけ。あゆむが勝手に転んだ』なんてウソつくような子や。あの子をあゆむに近づけたら、またどんなひどい悪さするか、わからへんわ」
えっ?
どういうこと、それ……!?
「おい、佐歩子」
それ以上言うべきじゃない、と言うように、武司さんは佐歩子さんのかたに手を置く。
それから、彼は私たちに向かって告げた。
「しゃあないんや。ようある話や。二鳥は養子やったけど、あゆむは俺と佐歩子のほんまの子。せやから、二鳥はあゆむがねたましかったんやろう」
そんな……、そんなのっ――。
「そんなの、とても信じられないわ」
私の思ったことを、一花ちゃんがそのまま口に出してくれた。
そうだよ。信じられない。
だって二鳥ちゃんは、ピクニックコーナーで、小さい子をあんなにかわいがっていたんだよ?
二鳥ちゃんが、あゆむくんにひどい悪さをしているところなんて、まったく想像できないよ。
すると、武司さんはため息をついた。
「信じてもらわんでもええ。とにかく、かかわらんといてほしいんや。……行くで」
武司さんは、坂の下のほうへ歩きだし、佐歩子さんも、無言で彼のあとを追う。
私は思わず、二人の背中に向かってさけんだ。
「あのっ! あなたたちは、二鳥ちゃんを、そのっ……捨てたんですか!?」
佐歩子さんと武司さんは、一瞬だけ足を止めた。
でも、
「今、そんな話、してる場合とちがいますわ」
佐歩子さんはふりむかず、短くそう答え、ふたたび早足で歩きだす。
やがて、二人のすがたは見えなくなってしまった。
ベンチのところに残された私と一花ちゃんは、だまって二人、たたずんでいた。
私、まだ胸が、黒い不安でざわざわしてる。
一花ちゃんも、これからどうするべきか、迷っているような表情だ。
「……二鳥ちゃんの養父母さん――佐歩子さんと武司さんって、もしかしたら、ひどい人なのかもしれない……」
闇をはきだすように、私は言った。
「あゆむくんは、『にとちゃんのせいでケガした』って、たしかに言ってたの。でも、佐歩子さんと武司さんがかんちがいして、あゆむくんに、『二鳥のせいで』って教えこんでいただけで、本当はそうじゃなかったのかもしれないよね」
一花ちゃんはだまってうなずいて、続きをうながしてくれる。
私は、自分の思っていることを、すべてのべた。
「二鳥ちゃんとあの人たち、もしかしたら、もう会わないほうがいいんじゃないのかな……?」
――『うちはあの人らに捨てられたんや!!』
二鳥ちゃんの悲痛(ひつう)なさけびを思いだす。
養父母さんと、二鳥ちゃんのあいだに、何があったのかはわからないけど……。
もし、私たちが、二鳥ちゃんといっしょにあゆむくんをさがすことにしたら、きっと必ず、二鳥ちゃんは養父母さんたちと顔を合わせることになる。
そうしたら、二鳥ちゃん、今よりもっと傷ついてしまうかもしれない。
私はそれが心配で、胸がずっしりと重い。
「三風は、二鳥のこと好き?」
「え?」
ふいに一花ちゃんがたずねてきたので、私は顔を上げた。
「もちろん、大好きだよ」
「どうして?」
「え、だって……」
一花ちゃんが、どうしてそんな質問をするのかわからなかったけど、とにかく私は答えた。
「二鳥ちゃん、すっごく、すっごくいい子なんだもん。元気で明るくて面白くって……しょっちゅう私たちに、『大好き』って伝えてくれるし、私たちのこと、大切に思ってくれてるし……」
「そうよね。私もまったく同じ気持ちよ」
一花ちゃんの目は、いとおしげに細められている。
「二鳥って本当にいい子でしょう。だから私、あの二鳥を育てた人が、そこまで最低な、本当にどうしようもなく悪い人だとは思えないの……。もちろん、二鳥が傷ついてしまわないか、私も心配よ。だけど、あゆむくんのことで、何か誤解が起きているのなら、とけたほうがいいのかもしれないわ」
……それもそうかもしれない。
私は、二鳥ちゃんの笑った顔を思いうかべた。
二鳥ちゃんって、本当に楽しそうに、顔いっぱいで、ニコーッ、って笑うんだよ。
あんなに無邪気な笑顔になれるのは、養子になったお家で、本当の娘みたいに、愛情をいっぱいそそがれて育ったからなんだろうなって……。
私、少し前までは、そんなふうに考えて、納得してたんだっけ。
不安な気持ちは、まだ残っているけれど――。
「三風、行きましょう、二鳥のところへ。あゆむくんが心配だわ。もし、あの人たちが、二鳥に何かひどいことを言ってきたりしたら……私たちで必ず二鳥を守りましょう」
「う……うんっ!」
私は力強くうなずいて、一花ちゃんといっしょに、細い坂道をかけおりた。
気になる続きは、5月12日(月)にアップ予定だよ。おたのしみに!
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