
四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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3 レインボー遊園地
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お弁当を持った一花ちゃんを先頭に、私たちは家を出発した。
「うーん、空、ちょっとくもってるねぇ」
「梅雨ですからね。でも、今日一日、雨はふらないと、天気予報で言っていましたよ」
「これくらいの天気のほうが、暑すぎなくて、かえっていいかもしれないわ」
「せやな~」
おしゃべりしながら、近くの駅まで歩いて。
電車に数十分ゆられて、『レインボー遊園地駅』でおりる。
駅を出ると、はばが広くて、きれいに整備された道が、まっすぐのびていた。
その先にあるのが、レインボー遊園地だ。
巨大なジェットコースターや、カラフルな観覧車なんかが、ここからでも見える。
近づくにつれ、楽しげな音楽が、かすかに聞こえてきた。
(うわ~っ! 遊園地だぁ……!)
楽しみのあまり、思わず笑顔になった私。
そのとなりで、
「くう~っ! 遊園地や~……!」
二鳥ちゃんは、興奮をかくしきれないような、高くて小さい声でひとりごと。
一花ちゃんも四月ちゃんも、うきうきした表情だ。
えっと、湊くんたちとは、入場ゲートの前で待ちあわせだったっけ。
入場ゲートって、西洋のお城みたいな形をした、あれかな?
視線をめぐらすと……。
あ、いたいた!
「湊くーん」
「三風ちゃーん」
私が大きく手をふると、湊くんも、同じくらい大きく手をふりかえしてくれた。
こういうことをすると、『すっごく仲のいい親友』になれたみたいで、うれしいなぁ。
うふふっ、と笑みがこぼれたそのとき。
「四つ子ちゃん! 待ってたわ」
湊くんのうしろから、パッチリしたつり目の女の子がひょこんと出てきて、私はギクリ。
彼女は大河内杏ちゃん。
湊くんの幼なじみの、ちょっと気の強い、サバサバした性格の女の子だ。
このあいだ、発覚したことなんだけど……。
杏ちゃんは、湊くんを自分の彼氏にしようとねらいはじめた……らしいんだ。
そのことを考えると、私、なんだか、むしょうにソワソワしちゃって。
――「杏とナオもさそおうと思うんだけど、いいよね?」
って湊くんに聞かれたとき、思わず、
――「えっ」
なんて言っちゃった。
『なんでこんな気持ちになるんだろう?』
って前からずーっと考えていて……。
あるとき、気づいたの。
――『彼氏や彼女ができた人とは、いっしょに帰ったりできひんようになるんやで』
そういえば、二鳥ちゃんが前に、こんなことを言ってた。
つまり、湊くんが杏ちゃんとおつきあいを始めたら、私はもう、湊くんといっしょに下校したりできなくなるってことだ。
教室で『おはよう』ってあいさつしたり、おしゃべりしたり、なやみを相談したり……。
そういう、今までしていた何げないことも、むずかしくなるのかもしれない。
それはちょっと……ちょっとっていうか、かなり、ヤだな……。
だって、湊くんは、私の大切な友達なんだもの。
杏ちゃんにひとりじめされちゃうのは困るよ。
で、でも、杏ちゃんの恋を応援しないのは、それはそれで悪い気もするし。
いや応援しないわけじゃないけど……結果的に応援しないことになるっていうか……。
今のところ、杏ちゃんが湊くんに、すっごいアプローチをしているような様子はないけど……。
なんともいえない思いをしている私に、湊くんと杏ちゃんは、パッと笑顔を向けた。
「三風ちゃんたち、おそろいだ!」
「すごいじゃない! それって、四つ子コーデ?」
「う、うん!」
私は反射的にうなずく。するととなりで、
「天っ才スタイリストのうちが一瞬で考えました! 素材をいかすシンプルコーデです!」
と、二鳥ちゃんが鼻を高くした。
そう。私たちはおそろいの服を着て、四つ子コーデをしているの。
どういうふうに、おそろいかっていうと……。
一花ちゃんは白いブラウスに、デニムのスキニーパンツ。
二鳥ちゃんは白いTシャツに、デニムのショートパンツ。
私・三風は白いポロシャツに、デニムのハーフパンツ。
四月ちゃんは白い五分袖のカットソーに、デニムのキュロットスカート。
そろえたのは、『白』と『デニム』。
おたがいの服を借りたり貸したりして、組みあわせたんだ。
私たち、元々同じ顔だから、ちょこっとおそろいなだけで、十分おそろい感が出て、立派な四つ子コーデになりました、というわけ。
だけど私、ポロシャツにハーフパンツなんて男の子っぽい服、あんまり着なれてなくって……。
ちらり、と、私は杏ちゃんのほうを見る。
今日の彼女の服は、とってもかわいい。
女の子らしいデザインのワンピースとレギンス。それに、かかとの低いパンプスだ。
いいなあ。なんだか引け目を感じちゃうよ。
と思ったら、
「かわいい! とっていい!?」
湊くんは両目をかがやかせ、すばやくデジタルカメラを向けてきた。
「え……っ、ふえぇ…………っ」
かっ、『かわいい』って言われちゃった!
いや私がかわいいってわけじゃなくて、四つ子コーデがかわいいって意味なんだろうけどっ。
それでも、胸がギュンとなって、ほおが一度に熱くなる。
私、男の子っぽいかっこうになっちゃったけど、四つ子コーデにして、よかったかも……!
湊くんのひとことで、急に自信がわいてくるなんて、私って、やっぱり単純だ。
「ええよ! とってとって!」
二鳥ちゃんは早くもピースサイン。
一花ちゃんは自然体で、四月ちゃんは直立不動。
私があわてて背すじをのばしたとき、湊くんがカメラをかまえた。
「全身がわかるようにとりまーす。笑ってー」
――パシャ
「ありがとう。すっごくよくとれたよ!」
カメラで写真をとっているときの湊くんは、とっても楽しそう。
そんな湊くんを見ていると、私もうれしくて笑顔になる。
写真がどんなふうにとれたのか、見るのが楽しみだなぁ。
「あら……? そういえば直幸(なおゆき)くんは?」
あたりを見回して、一花ちゃんが言った。
「ナオは、お茶を買うって自販機のほうに行ってるわ」
杏ちゃんが答えたと同時に、湊くんが手をふった。
「あ、やっともどって来た。おーいナオ!」
視線の先に現れたのは、短い髪に、メガネのよく似合う、ひょろりと背の高い男の子。
杏ちゃんの双子の弟の、大河内(おおこうち)直幸くんだ。
彼は私たちに気づいて、(たぶん、四つ子コーデに少しおどろいて)ピタリと足を止めた。
「あ…………宮美さん、たち……」
「あ………………」
四月ちゃんは、ほんのちょっと困ったような顔になって、ゆるゆると下を向いちゃった。
「何してんの~、早く来て」
杏ちゃんにせかされて、直幸くんはあわてて私たちの近く――四月ちゃんからは離れた場所にかけよる。
どうやら……直幸くんは、四月ちゃんのことが気になっているようなんだ。
だけど、四月ちゃんは、小学校のころいじめられていたせいで、同い年くらいの他人が苦手。
とくに、男子は大の苦手だから、直幸くんとはうまく話せない。
直幸くんも、あまりおしゃべりが得意なほうじゃなさそう。
少し前に起こった、『ラブレター事件』をへて、二人は友達になったんだけど……。
見てのとおり、距離はあまりちぢまっていないみたい。
四月ちゃん、そのせいで、
――「杏とナオもさそおうと思うんだけど、いいよね?」
って言われたあのとき、『えっ』なんてつぶやいちゃったんだろうな。
気まずそうな四月ちゃんと直幸くんだけど……二人は、いろんなところが似てるんだ。
だから、思いきって話してみれば、きっといい友達になれると思うんだけどなぁ。
なんて思っていたら、
「よしっ、全員そろったし、さっそく中に入ろっか!」
湊くんが元気によびかけた。
「うんっ」
私も、みんなもうなずいて、入場ゲートに向かって歩きはじめた。
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