
四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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2 お弁当を作ろう
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いよいよ、約束の日曜日がやってきた。
今日はみんなで遊園地だ!
朝、ちょっと早起きした私たちは、エプロンをつけて台所に集合。
「さあ、お弁当を作るわよ!」
「「「おー!」」」
声を合わせて、さっそくお弁当作りに取りかかった。
一花ちゃんは、丸いフライパンで、次々におかずを作っていく。
そのとなりで、私は四角いフライパンとフライ返しに悪戦(あくせん)苦闘(くとう)。
いつもは、一花ちゃんがたまご焼きを作るんだけど、今日は私が挑戦してるの。
「三風は器用だから、できるんじゃない?」って、まかせてもらえたんだ。
そのまたとなりでは、二鳥ちゃんが、たわら形のおにぎりをうきうきした顔でにぎってる。
二鳥ちゃん、火を使う料理は、たまにこがしちゃうんだけど、おにぎりなら心配ないよね。
流しで食器を洗ったり、野菜を洗ったり、水筒にお茶を入れたりしているのは四月ちゃん。
今回はサポート&お弁当の盛りつけ係なんだ。
「三風、火が強すぎるわ。たまごが半熟(はんじゅく)のときに巻かないと、たまご同士がうまくくっつかないわよ」
「あわわ、本当だぁ」
一花ちゃんはアスパラベーコンをいためながら、私にアドバイスをしてくれる。
――ガチャ!
「一花! ゴマどこ!? あっ、あったわ!」
――バタン!
――ガチャ!
「一花! のりどこ!? あっ、あったわ!」
――バタン!
二鳥ちゃんはテンションが上がりに上がってるみたい。
「冷蔵庫を何度も開け閉めしないで!」
さっそく、一花ちゃんにおこられちゃった。
四月ちゃんは、大きなお弁当箱を二つ、サッと水で洗ってる。
「このお弁当箱、ちょっと高かったですが、買って正解でしたね」
「ええ。ピクニックや運動会でも使えるものね」
今回のお弁当は、一人分ずつ四つのお弁当箱につめるんじゃなくて、四人分を、重箱みたいな大きいお弁当箱につめるんだ。
なんだか、いかにも『家族』って感じがして、楽しくなっちゃうよ。
気分がうきうきして、つい少しだけ、フライパンから目を離したら……。
「三風っ!」
「え? わあああっ!」
一花ちゃんに言われ、あわててコンロの火を止めた。
たまご焼き、こげちゃったかな!?
おそるおそる、ひっくり返してみると……。
「うーん……。ちょっと茶色くなってるけど、これくらいなら、まあ大丈夫かしらね」
「よ、よかったぁ……」
たまご焼きは、なんとか完成。
私はホッと胸をなでおろした。
「ようし……さっそく切って、お弁当箱に入れるね」
「待って。お弁当箱につめるのは、ちゃんと冷ましてからよ」
「え? 冷ましてから? どうして?」
「ほかほかのままつめたら、湿度と温度が高くなって、食中毒の菌が増えやすくなるの。もう六月だし、その辺は十分気をつけなくちゃ」
「「「な、なるほど……」」」
一花ちゃんの知識に、私たち妹は感心しきりだ。
その後も、二鳥ちゃんがかつおぶしをこぼしたり、四月ちゃんが盛りつけ方にこだわりすぎて、手が止まっちゃったり。
ちょっとしたトラブルはあったけど、お弁当は無事に完成。
「わあぁ……!」
テーブルにならんだ二つの大きなお弁当箱を前に、私は目をかがやかせた。
たまご焼きの黄色。ベーコンのピンク。アスパラの緑。ウインナーの茶色に、プチトマトの赤。
大好きなおかずが、いろどりよく、ぎっしりつまってる。
おにぎりだって、手でにぎったとは思えないくらい、形よくきれいにととのってる。
ゴマをふったのもあれば、のりが巻いてあるのもあって、とってもおいしそう。
朝ごはんを食べたばかりなのに、もうおなかがすいてきそうだよ。
「あっ、もうこんな時間。いそぎましょ」
「フタを閉めますね!」
そう言って、四月ちゃんがお弁当箱にフタをし、ふろしきにつつむ。
「ああっ、せや! うち、日焼け止めぬらな」
二鳥ちゃんはエプロンのまま、ドタバタと台所を出ていっちゃった。
私は冷凍庫から保冷剤をいくつか出して、お弁当といっしょに、保冷バッグに入れる。
「お弁当はこれでよし! だね」
「ええ」
私たちがほほえんだ、そのとき。
二鳥ちゃんがダダダッ、と台所にかけこんできて――。
一花ちゃんに向かって、大きな声でこう言った。
「なあお母ちゃん、うちの日焼け止め知らん?」
「「「えっ?」」」
一花ちゃんも、私も、四月ちゃんも。
二鳥ちゃんですら、一瞬ポカンとした顔になっちゃって。
「だ……だ…………だれが『お母ちゃん』よ」
一花ちゃんはみるみる真っ赤になっちゃった!
「ちょ……ちょ…………ちょっとまちがえただけや」
わわっ、二鳥ちゃんも真っ赤っかだ……!
本気ではずかしがってる二人を前にして、
(ヘタに茶化したりするのはやめておこっか……)
(いっそ聞かなかったことにしたほうがいいのでは……)
私と四月ちゃんは、目と目でそう会話した。
お姉ちゃんのことを、お母ちゃんってよびまちがえちゃったら、そりゃはずかしいよね。
っていうか……。
……そっか。
二鳥ちゃんには、『お母ちゃん』がいたんだ…………。
時間がたって、はずかしさが胸から去ると、ほんの少し切ないような気持ちにつつまれた。
私たちは、みんなそれぞれ、育ってきた環境がちがう。
一花ちゃんは、最初は施設。小学四年生からは、里親さんのお家。
私と四月ちゃんは、ずっと施設。
『お母さん』とよべる人なんて、身近にはいなかった。
だけど、二鳥ちゃんはちがう。
二鳥ちゃんは、小さいとき、大阪にあるお家の養子になった。
血のつながりはないけれど、二鳥ちゃんには、『お母さん』も、『お父さん』もいたんだよね。
自分たちのちがいに気づくと、ちょっとさみしくなっちゃうよ。
二鳥ちゃんも同じような気持ちなのかな?
おそるおそる、表情をうかがうと――。
えっ?
引きむすばれた口に、けわしい目。
はずかしがってるとか、さみしがってるのとはちがうみたい。
二鳥ちゃん、おこってるの?
もしかして、何かイヤなことを思いだしちゃったのかな?
「二鳥ちゃん……」
私が声をかけると、二鳥ちゃんはわれに返ったかのように、何度かまばたきをした。
「あの、二鳥ちゃん、どうかした?」
「……ううん、なんでも、ないよ」
さっきまではしゃいでいたのがウソのよう。
二鳥ちゃんは元気のない声で返事をして、台所を出ていった。
様子がいつもとちがうのはたしかなのに……。
二鳥ちゃんは、その理由を教えてはくれない。
「……二鳥って、なぜかたまに、ああいう感じになるわね」
一花ちゃんが心配そうにもらし、私と四月ちゃんもうなずく。
なんとなくだけど……。
二鳥ちゃんには、何か私たちにかくしていることがあるんじゃないかな、って気がするんだ。
この前、家で中間テストの勉強をしていたときだって、
――「あ、この問題、解き方知ってるで。中学受験で習ったわ」
なんて言って、二鳥ちゃんは私たちをおどろかせた。
――「えっ、中学受験ですか?」
――「二鳥ちゃん、中学受験したことがあるの?」
――「初耳よそんなの」
目を丸くした私たちに、二鳥ちゃんは、
――「む、昔のことはどうでもええやんか!」
困ったような口調でそう言いかえして、だまりこんじゃったんだっけ。
昔、何かあったのかなって、気にはなるんだけど……。
聞いても、きっと今までと同じように、教えてくれないんだろうなぁ。
そう思って、うつむいたとき。
――ダダダダダッ!
また、二鳥ちゃんが台所にかけこんできた。
「一花! 三風ちゃん! シヅちゃん!」
「な、何よ、そうぞうしい」
「めっちゃええこと考えた! みんなで四つ子コーデしよっ!」
「「「四つ子コーデ?」」」
おどろいた声をハモらせた私たちに、二鳥ちゃんはいきいきした笑顔を向ける。
さっきまでのしずんだふんいきなんて、かけらもない。
二鳥ちゃんって、こんなふうに、表情がコロコロ変わるんだよね。
「そう! 四つ子コーデ! みんなでおそろいの服にするねん。四つ子が四つ子コーデってめっちゃおもろいやん! うちらにしかできひんことやわ。湊くんや杏(あん)ちゃんもびっくりするで」
そんなこと言われたら、私もなんだか、ワクワクしてきちゃった。
「四つ子コーデ……ちょっと、面白そうだね」
「あのねえ、あと十五分で家を出なきゃいけないのよ。いまさらおそろいの服なんて、用意できないでしょ」
一花ちゃんは時計を見て、むずかしい顔でうでを組んだけど、
「できるできる! うちにまかせてっ」
二鳥ちゃんは、ばっちりキメ顔でウインクしてみせた。
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