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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第1回 遊園地に行こうよ


四つ子と湊くん、直幸くん、杏ちゃんの7人で、遊園地へ! みんなでワイワイ楽しいし、気になる人もいっしょでドキドキしちゃう一日……になるはずが、二鳥の『過去』にかかわる『ある人物』があらわれて、波乱の展開に!? つばさ文庫の大人気シリーズ「四つ子ぐらし」の第4巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(1巻)はコチラから
 2巻はコチラから
 3巻はコチラから

キャラクター紹介


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1 遊園地に行こうよ

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 「う~~~終わったあ~!」

 下校中、私とそっくりな女の子が、とびきりの笑顔でのびをした。

 彼女は私のお姉ちゃんの、宮美(みやび)二鳥(にとり)ちゃん。

 声も足取りも、楽しそうに弾んでる。

「終わったわねえ……」

 そのとなりで、同じく私のお姉ちゃんの宮美一花(いちか)ちゃんは、ため息をついてる。

 ちょっと心配そうな表情だけど、口元は笑ってるみたい。

「ええ、終わりましたね」

 そのまたとなりで、私の妹の宮美四月(しづき)ちゃんは、自信ありげな、すずしい顔。

 知的なメガネの奥の目が、ゆったり細められている。

「うんっ、やっと、終わったねぇ」

 そっくりな顔の姉妹にそう答えて、私・宮美三風(みふ)はほほえんだ。

 一体、何が終わったかっていうと……。

 それはずばり、一学期の中間テスト。

「中学生になって、初めての定期テストだったから、気合い入っちゃったよね」

「せやせや。好きなテレビも見いひんようにしたし、スマホさわんのもガマンしたし」

「あ、そうだわ。夕飯は久しぶりに、ぎょうざでも作りましょうか」

「いいですね。みんなで具をつつみましょう」

 やった、ぎょうざ!

 最近、勉強時間を作るために、手のかからないごはんばっかりになってたんだ。

 だから、よけいにうれしく感じちゃうよ。

 子どもだけのくらしって、ちょっと大変なこともあるけど、解放感は格別だね。

 空は梅雨(つゆ)のくもり空だけど、心の中には青空が広がっているみたい。

「テストも終わったし、ようやくのんびり、したいことができるね」

「「ええ」」

 私が声をかけると、一花ちゃんと四月ちゃんは同時にうなずいた。

「のんびりすんのもええけど、どっかパーッと遊びにも行きたいわ!」

 二鳥ちゃんはツインテールをゆらして、スキップを始めそう。

 ぴょん、とはねたひょうしに、制服のスカートがひらりとなびいた。

「パーッと遊びに、って、どこによ?」

「どこかはわからんけど、パーッとや」

「いいね! 私、みんなで大きい公園に遊びに行きたいなぁ」

「お弁当を持って、ピクニックに行くのもいいかもしれませんね」

「いや、そういうのもええけど……、もっとパーッと――」

 川ぞいの道を歩きながら、姉妹で楽しく話していたそのとき、

「おーい!」

 うしろから、男の子の明るい声が聞こえてきた。

 えっ? この声って、もしかして……!

 足を止めてふりかえると、期待したとおりの人が、私たちに向かって走って来ていた。

「湊(みなと)くんっ」

 太陽みたいな明るい笑顔に、ちょっとはねた、長めの髪。

 彼・野町(のまち)湊くんは、私のクラスメイトの、とっても優しい男の子だ。

 私、湊くんには、『私たち姉妹は子どもだけでくらしてる』ってヒミツを打ちあけてるの。

 このあいだ、そのことを姉妹に報告したら、

 ――「ま、湊くんなら大丈夫でしょう」

 って、一花ちゃんに言ってもらえて、二鳥ちゃんにも四月ちゃんにも、うなずいてもらえた。

 だから、私、湊くんのことを、友達というより、親友みたいだなって、最近思いはじめたんだ。

 湊くんが、私のことをどんなふうに思っているかは、わからないけれど……。

「あら、湊くんじゃない。どうしたの?」

 一花ちゃんが声をかけると、湊くんは私たちの近くまで来て、立ちどまって。

 いきなりこう言った。

「いっしょに遊園地行かない?」

「「「「遊園地?」」」」

 四姉妹の声が、ぴったり重なった。

「そう。遊園地。レインボー遊園地って知ってる? ここなんだけど」

 湊くんはカバンから、遊園地のパンフレットを取りだした。

 観覧車にジェットコースター、お化けやしき、コーヒーカップ、メリーゴーランド……!

 楽しそうな乗り物が、いーっぱいのってる。

「あ! ここ知ってる! テレビのコマーシャルで見たわ」

 二鳥ちゃんが声を高くして、私も気づいた。

「あ、私もこの遊園地のコマーシャル、見たことあるかも。たしか、リニューアルしたんだっけ」

「そのとおり」

 湊くんは、私のほうを見てニコリ。

 目が合ったとたん、なぜか、心がふわっ、と数センチうかぶような気分になっちゃった。

「この、レインボー遊園地の招待券があるんだ。今度の日曜日、みんなで行かない?」

「行く~!」

 二鳥ちゃんはバンザイのポーズで即答。

「まさにうちが求めてた、『パーッと』やわ! 一花も三風ちゃんもシヅちゃんも行くやろ?」

「う、うんっ。行きたい!」

 みんなで遊園地に行くなんてワクワクするよ!

 私はすぐ、首をタテにふった。

 四月ちゃんも、無言でえんりょがちにうなずいた。

 だけど、一花ちゃんは、

「……うーん……」

 むずかしい顔で、考えこんじゃった。

 宮美家のお財布のひもをにぎっている一花ちゃんのことだから、きっとお金のことを心配してるんだ。

 私たち四つ子の四姉妹は、中学生自立練習計画の参加者。

 一か月に使える生活費は、かぎられているもんね。

「なあええやろ一花。テストも終わったしみんなでパーッと遊ぼうや。あっ、湊くん、その招待券って入場だけの券?」

「ううん、フリーパスもついてるよ」

「ほら一花、フリーパスもついてるって! 乗り物で別料金取られたりせえへんで」

 二鳥ちゃん、すごいいきおいで一花ちゃんを説得にかかってる。

 だけど、一花ちゃんはまだ、「……うーん……」と迷ってるみたい。

 どうすれば、一花ちゃんの気持ちを動かせるかな。

 説得の材料をさがそうと、パンフレットに目を向けると、あるページに目がとまった。

《みんなでお弁当! レインボー遊園地のピクニックコーナー》

 あっ、これだ!

「ねえ一花ちゃん。ピクニックコーナーだって。ほら、お弁当持ちこみOKって書いてあるっ。食費、節約できるよっ。遊園地、行こうよ」

 私が言うと、一花ちゃんはようやく顔を上げて、ゆっくりとくちびるのはしを上げた。

「そうね……。いいわ。行きましょう」

「「やったー!」」

 私と二鳥ちゃんは、息ぴったりにハイタッチ。

 四月ちゃんも、それから一花ちゃんも、にっこり笑ってる。

 わーい、みんなで遊園地!

 はしゃぎたい気持ちでいっぱいになったけど――。

「三風ちゃんたちって、本当にしっかりしてるなぁ……子どもだけでくらしてるだけあって、やっぱりすごいや」

 湊くんに感心したように言われて、ちょっぴりはずかしくなっちゃった……。

「み、湊くんありがとう。だけどよかったの? フリーパスつきの招待券を四枚ももらって」

 はずかしさをごまかすように、私が早口でそう言うと、湊くんはほほえんだ。

「いいんだよ。父さんのつとめてる会社が、この遊園地のスポンサーになってるらしくってさ。昔から、よく招待券とかもらってたんだ」

「へーっ、ええなあ。遊園地のスポンサー会社の社員は、招待券がもらえるんや。湊くんのお父さんにめっちゃ感謝やわ! なんて会社なん?」

「えっとね、パンフレットのここのページにのってる、『株式会社MARUYAMA』って会社」

「へえぇ、そうなんだ……!」

 私は感心して、パンフレットをのぞきこんだ。

 私、お父さんがいないから、よその家のお父さんの話には、ちょっと興味がわいちゃうんだ。

「ふうん、いろんな会社がスポンサーになってるんだね。『株式会社MARUYAMA』に、『山郭(さんかく)銀行』『バーツ証券』それから、『OHSAKA(オーサカ)ホールディングス』……」

「えっ!?」

 二鳥ちゃんが急に大声を出した。

 その場にいるみんなはびっくり。

「えっ、二鳥さん、どうかした?」

「あ、いいや、まさか……。……な、なんでもないよっ」

 湊くんがたずねると、二鳥ちゃんは苦笑いしてすばやく手をふる。

 ど、どうしたんだろう?

 知ってる会社とかだったのかな?

 ちょっと気になったけど、湊くんが、

「ああ、そうそう」

 と何か言いかけたので、私たちは彼のほうに注目した。

「招待券は全部で七枚あるんだ。杏とナオもさそおうと思うんだけど、いいよね?」

「「えっ」」

 私と四月ちゃんは、ほとんどだれにも聞こえないくらい、小さな声でつぶやいた。

 どうしてかっていうと……。

 り、理由は……ちょっと説明しづらいので、またあとで……。

「もちろんいいわよ。遊園地はおおぜいで行ったほうが楽しいに決まってるわ!」

 一花ちゃんはワクワクした顔で笑ってる。

「なんや。一花もほんまは行きたかったんやん」

「だ、だれも行きたくないなんて言ってないでしょ。私だって遊園地は楽しみよ」

「あはははっ、よかったー。俺もすっごい楽しみだよ」

 口を閉じちゃった私と四月ちゃんをよそに、お姉ちゃんたちと湊くんは、早くもワイワイ盛りあがってる。

 そ、そうだよね。

 遊園地は、みんなで行ったほうが楽しいよね。

 よく考えたら、私、今まで遊園地には、二回しか行ったことがない。

 小学校の遠足で一回、施設の遠足で一回。

 どちらも大人といっしょだったっけ。

 だけど、今回は子どもだけで遊園地に行くんだ。

 うんっ、楽しみじゃないわけがないよ。

「私も、遊園地、とっても楽しみ!」

 口に出してみたら、なんだか本当に、100%、すっごく楽しみになってきた。

 私って、けっこう単純なのかも。


第2回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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