
新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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16 僕なんて
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「す……すみませんでした…………僕が書きました……。おっしゃるとおり、これはいじめのことを書いたのではないです…………」
直幸(なおゆき)くんは、たましいのぬけたような白い顔で、棒立ちになったままそう言った。
メガネの奥の瞳は、ゆかに向けられていて、少しも動きそうにない。
「……本当にすみません……僕って……いても迷惑になるだけの存在で……」
『いても迷惑になるだけの存在』……?
どこかで、聞いたことのある言葉だなぁ……。
……あっ!
私はピンときた。
「もしかして、体育のとき、四月ちゃんを保健室まで案内してくれたのって、直幸くん?」
「そうです」
直幸くんはあっさりうなずいて。
四月ちゃんは「っ!」と小さく息をのんだ。
――ってことは!
「すみません……僕……宮美(みやび)さん――四月さんのこと、入学式のときから知ってました。四人姉妹の中で、四月さんだけはさみしそうだったので……失礼な話なんですが、自分となんだか近いものを感じたんです。その……僕、小学生のとき、ちょっといろいろあったので、なんていうか、ほっとけないっていうか、通じあうようなものがある気がして……。いつか話しかけられたらいいなあ、なんて思ってたんですけど……ストーカーみたいですよね……すみません……」
直幸くん、目をふせたまま、始終(しじゅう)淡々(たんたん)と、ぼそぼそと語ってくれて……。
なんだか『自供(じきょう)』ってふんいきだ。
「体育のとき、やっと話しかける機会がめぐってきたんですけど、だいぶ、トチっちゃって……四月さんを保健室まで引っぱって行った挙げ句、変なこと言ってにげちゃいました。……あのあと、僕、『なんであんなことしちゃったんだろう』って家でヘコみまくって……そしたら頭に、教室で二鳥さんがよく歌ってた歌の歌詞がうかんできて……」
あ、そうか!
二鳥ちゃんは二組で、直幸くんも二組。
そして、四月ちゃんのいる四組と、直幸くんのいる二組は、合同で体育の授業をしてるんだ。
「歌詞は、完全にはわからなかったんですけど……気持ちをはきだすように、その辺にあった紙に、あの文章を書いてみたんです。すぐ捨てたつもりだったんですけど……まさか姉に拾われたうえに、誤解(ごかい)されてこんなさわぎになるなんて、夢にも思っていませんでした……」
直幸くんはすべて言いおえると、
「本当に……申しわけありませんでした…………」
と、体をゆっくりと二つに折りまげた。
わああ……。
つ、つまりラブレターは、わたすつもりはなかったとはいえ、四月ちゃんあてだったんだね?
それをかんちがいされて、知ってる人たちに見せられちゃって……。
『さらし者』という、ひどい単語が頭にうかんだ。
みんなもそうなのかな……気まずそうな顔で、だれも何も言えないみたい。
だって、直幸くんがあまりに気の毒なんだもん……。
私だったら泣いちゃうよ……。
おそるおそる、私は直幸くんの表情をうかがってみた。
すると、思いのほか、彼の目に涙はうかんでいなかった。
そのかわりに、こくにじんでいるのは……暗い、あきらめの感情だ。
「じゃあ、そういうことで……」
直幸くんは頭を上げると、そのままフラフラ部屋を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっとナオ!」
杏(あん)ちゃんは両手を広げ、直幸くんの前に立ちはだかる。
彼女の顔は真っ赤。
かんちがいをしちゃったはずかしさと申しわけなさで、決まりが悪くなってるのかな。
「あんたもっとほかに言うことないの? 四月さんと友達になりたかったんじゃないのっ?」
杏ちゃんはそう言って引き止めようとするけど……直幸くんの目はうつろなまま。
「これ以上困らせないでよ……だれも僕なんかと友達になりたいと思うわけないだろ……」
直幸くんは、杏ちゃんをさけて、部屋の出口へと向かう。
進行方向にいるのは……四月ちゃんだ。
一歩、二歩と、直幸くんが四月ちゃんに近づいて。
四月ちゃんと直幸くんの距離が、もっとも近くなった、そのとき。
――ぎゅっ!
四月ちゃんが、直幸くんの手首をにぎった……!!
私たち姉妹も、湊くんも、杏ちゃんも。
かたずをのんで二人の様子を見守ってる。
直幸くんは思わず足を止め、立ちつくす。
四月ちゃんは直幸くんの手首をにぎったまま、声をかけた。
「あの………………………………………………………………………………………………………」
ああっ、声をかけたのはいいけど、言葉が続かないみたい。
だけどだけど、苦手な男子に自分から話しかけるなんて、すっごく大きな進歩だよ!
「エッ、あっ、……………………………………………………………………………………………」
あ。
直幸くんも、何も言えないみたい。
四月ちゃんと直幸くん。
二人とも、相手と友達になりたいと思ってるにちがいないのに……。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
どうしよう、二人とも一時停止ボタンをおされたかのように動かない。
これって、こうちゃく状態だ……!?
と思ったそのとき。
一花ちゃんがツカツカと二人に近づいて、手をひとつ、パン! と打った。
「ああもう、じれったい。あんたたち、友達になりなさい。いいわね四月。直幸くんも」
四月ちゃんと直幸くんは、思わず顔を見合わせて。
二人同時に、コクンと首をタテにふった。
「や……やったな、ナオ!!」
そのとたん、湊(みなと)くんは直幸くんにだきついて喜んだ。
「ぐえ……ちょっと湊……、やめて」
直幸くんは照れるような笑みをうかべてて。
となりで、杏ちゃんは、ふーっ、と大きく息をついてる。
それから、彼女は笑いあう直幸くんと湊くんのほうを見て、ふっと表情をゆるめた。
三人の気まずさは、ふとしたことでほぐれて、なくなっちゃったみたい。
止まっていた時間が、また動きだしたのかも。
なんて、ちょっと大げさかな?
「よかったね、四月ちゃん。友達が増えて」
私が声をかけると、四月ちゃんははずかしそうに顔を赤らめた。
「四月だけじゃないわ。私たちにだって、新しい友達ができたのよ」
一花ちゃんは、優しくほほえんでる。
「よかったようなよくないようなよかったようなよくないような……もお~っ」
二鳥ちゃんは、ほんのちょっぴり複雑そう?
でも。
みんなが丸くおさまって、本当によかったぁ。
私は心からホッとして、にっこりと笑った。
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