
新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
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15 告発状の正体
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「な、直幸(なおゆき)くんと杏(あん)ちゃん、新聞部の部室でケンカしてるって!」
「ええっ!? 大変だ。すぐ行こう!」
私と湊(みなと)くんは教室を飛びだし、急いで新聞部の部室へ向かった。
そのとちゅう、
「三風!」
「一花ちゃん!」
北校舎と南校舎をつなぐわたりろうかで、一花ちゃんとも合流。
「メッセージ読んだわ。……湊くんもいっしょだったのね」
「うん。湊くんが教えてくれたの。あのレポート用紙、直幸くんのだって」
「だけど何かのまちがいだと思うんだ。ナオが告発状なんて」
かたい声で言う湊くんに、一花ちゃんは、「ええ、そうね」とうなずく。
「とにかく向かいましょう。二鳥も来てるといいんだけど……」
私たちは、北校舎の階段を一気にかけのぼる。
三階までのぼりきって、ろうかを曲がると――。
「あっ、四月ちゃん!」
ろうかで、四月ちゃんがオロオロしてる。
たぶん、新聞部の部室を調べに行ったら、ケンカしているところに偶然出くわしちゃったんだ。
四月ちゃんのことだから、きっと部屋に入ることすらできないでいるんだろうな。
私たちは急いでその場にかけつけた。
新聞部の部室は、戸がほんの少し開いていて、中から言いあらそう声が聞こえてくる。
「杏には関係ないだろ!!」
「関係ないわけないでしょう!!」
わわっ、直幸くんと杏ちゃん、かなりヒートアップしてるみたい!
早く行かなきゃ、と思ったとき、直幸くんの大声が聞こえた。
「あのレポート用紙を書いたのは僕だって、杏ならすぐにわかっただろっ。なんで勝手に新聞にのせようとしてるんだよ!?」
あっ!
やっぱり、あの告発状を書いたのは直幸くんだったんだ!
「ケンカはやめなさい!」
――ガラッ!
一花ちゃんを先頭に、私たちは部屋に飛びこんだ。
その瞬間、
「ヒッ……」
直幸くんは固まっちゃって。
反対に杏ちゃんは、
「ふん!」
と不敵にかまえてる。
大きなつくえの上に広げてあるのは、製作中の新聞みたい。
その大見出しは……『四つ子ちゃんの正体はいじめっこ!!』
杏ちゃんは私たちをじろりと見回した。
「そうよ。あの告発状は、本当は新聞部にとどいたんじゃないの。一週間くらい前、私が家で拾ったのよ。書いたのがナオだってことは、もちろん最初からわかってたわ」
「えっ、そうだったの?」
私、おどろいて息をのんだ。
「杏、なんでそんなことしたんだ」
湊くんが問いかけると、杏ちゃんは悔しそうに顔をゆがめる。
「湊は四つ子ちゃんのかたを持つっていうの?」
「かたを持つとかそういう話じゃないだろっ――」
「だってナオが――」
「落ちつきなさい、二人とも」
一花ちゃんは湊くんの前にスッと手をかざし、ケンカになりそうな二人を止めた。
「杏ちゃんが何か関わってるんじゃないかって、私たち、うすうす気づいてたわ。やっぱりそうだったのね。どうしてこんなことをしたの?」
静かに問いかける一花ちゃんに、杏ちゃんはますます態度を大きくする。
「決まってるじゃない。告発状を見た反応で、ナオをいじめてる犯人をさぐろうと思ったのよ」
「直幸くんに、だれにいじめられているか聞くこともせずに?」
「いじめられっ子はね、いじめられてるってことを、なかなか自分から言いだせないものなの。……ナオは特にそうよ」
「じゃ、じゃあインタビューしたのも……」
私がおずおずとたずねると、杏ちゃんは当然のように言った。
「もちろん、目的は最初から、ナオへのいじめをさぐることだったわ。でも一度のインタビューじゃ、だれが主犯かわからなかった。だから直接、告発状をつきつけてみたというわけよ」
そんなっ、杏ちゃん、ひどいよ。
最初に会ったときから、私たちが直幸くんをいじめてるって、決めつけてたなんて。
だけど、私たちのだれかが、本当に直幸くんを傷つけてるんだとしたら……。
そう思うと言葉につまる。
「おおかた、四つ子見分け方表が気にいらなかったとか、そんな理由でしょ? だからって、いじめはゆるされないわ。あなたたち、やっとあやまりにきたの? ナオをいじめていたのは一体だれ? 素直に罪をみとめれば、記事は取りけすわ」
「やめてよ……」
ケンカのときとは打って変わって、弱々しい口調で直幸くんが言った。
「宮美(みやび)さんたちは、僕をいじめてなんかない……」
だけど、杏ちゃんはそんな言葉ではまったく納得しないみたい。
「どうせ、宮美さんたちに口止めされてるんでしょ。『孤独(こどく)』だとか『助けて』だとか、いじめられてないのに、あんな文章、書くわけないわ。イラストの原画をあっさりわたしたのも、宮美さんたちがこわかったからじゃないの? 主犯はだれ? 四月さん?」
名前をよばれて、四月ちゃんはこおりつく。
「杏、ちがうよっ……! 誤解(ごかい)だって言ってるじゃないか」
「誤解っていうなら、どういうことかちゃんと説明して!」
杏ちゃんにピシャッと命令されて。
みんなが注目する中、直幸くんは、ふるえるくちびるを開いた。
「……そ……それは…………に、二鳥、さんの……」
えっ、二鳥ちゃん?
や……やっぱり二鳥ちゃんが何か関わってるの……!?
不穏(ふおん)な予感で、ごくっとツバをのんだ、その瞬間。
――バァン!
ものすごい音を立てて、部室の戸が開いた。
そこに立っていたのは――二鳥ちゃんだ!
い、今までの話、聞いてたのかな?
と思う間もなく、
「あーんーたーかーーーーーーー!!!」
ええええ!?
二鳥ちゃん、すごい形相(ぎょうそう)で直幸くんにせまってるよ!?
「なるほど……! 二鳥ちゃんだったのね! ナオをいじめてたのは!」
杏ちゃんがさわいでるけど、二鳥ちゃんには全然聞こえてないみたい。
二鳥ちゃんは直幸くんを部屋のすみまでズンズン追いつめて、
――バンッ
壁ドンして、みんなに聞こえる声でこうさけんだ。
「あんたか! あんなラブレター書いたんは!!」
へ?
ラブ、レター……?
全員がポカーン。
部屋の中が、シーン…………。
それに気づいた二鳥ちゃんは、
「あっ、言うてもうた」
と、あわてた様子で口をおさえた。
一花ちゃんがうでを組み、二鳥ちゃんをジッとにらむ。
「ラブレターって、どういうこと?」
「や……べつにその…………」
「二鳥っ。ちゃんと説明して」
一花ちゃんにしかられて……二鳥ちゃんは観念(かんねん)したみたい。
しぶしぶといった様子で、自分のカバンを開け、リーフレットみたいなものを取りだした。
一花ちゃんと私は、それを受けとって見てみる。
「これって……歌詞カード? CDについてるやつよね」
「スワロウテイルの『四人なら恋なんていらない』……あっ、この曲って、二鳥ちゃんのお気にいりの曲だよね。学校でも歌ってるって言ってた、あの」
いつの間にか、杏ちゃんも、湊くんも、四月ちゃんも集まってきていて。
私たちは、みんなで歌詞カードを読んでみた。
『四人なら恋なんていらない』
恋なんていらないよ
かたい絆がここにあるんだ
四人がいっしょなら
いつどこにだって行けるものね
恋愛は禁止って
いつの間にかルールになってた
私たちのつないだ手
男の子にはわからないから
だけど恋は無差別に
心の扉をたたいてく
ひとり欠けたら『私たち』は
『私たち』じゃなくなるのに
四人なら恋なんていらない
はずなのにあなたのせいで
毎日が変わってしまった
私だけ恋をしている罪悪感
もういつもみたいに笑えない
四人なら恋なんていらない
ずっとそう思ってたのに
ひとり輪の外にいるみたい
苦しくて孤独で辛くてつぶれそう
お願いだれか助けて今すぐ
「これって……なんか……ちょっと似てる、よね?」
私は、ポケットから告発状のコピーを出して、ならべてみた。
宮美さんのせいで、
毎日が変わってしまった。
もう、
いつもみたいに笑えない。
ひとり苦しくて、
孤独で辛くて。
お願い、
だれか、助けて。
ちょっと似てる、というより。
ところどころ省略してるだけで、ほぼ完全に一致してる。
「告発状は、この歌の歌詞を、書きぬいたものだったってこと……かな?」
ということは…………?
沈黙の中、一花ちゃんがずばり言った。
「つまり、辛いのはいじめじゃなくて、恋わずらいってこと?」
「え゛っ」
杏ちゃんは聞いたことのないような声でさけび、二鳥ちゃんは、
「やと思う」
と、真剣な面持ちでうなずく。
「これは告発状なんかやない……ラブレターやって気づいたのはええけど、差出人の名前もないし、うちら四人のだれにあてたのかもわからへんから、イタズラに決まってると思ったんや」
「どうして姉妹にすぐ本当のことを言ってくれなかったのよ?」
「万が一本気のラブレターやったらイヤやから! 姉妹のだれかに彼氏ができるなんて絶対絶対ぜーったいイヤやったからっ!」
二鳥ちゃんは、両手をぶんぶんふりながら足をふみならす。
それから急にピタッ、と動くのをやめ、キッ、と直幸くんを射ぬくように見た。
「直幸くん、どうなん? なんでこんなん書いたん?」
「…………………………………………すみ、ませ……」
わわっ、な、直幸くん。
血の気が引いて、顔が真っ白になってるよ……!?
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