
新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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17 やっぱりライバル?
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いじめの告発状事件……あらため、ラブレター事件が解決したあと。
私たちは、みんなでいっしょに下校することにした。
一花ちゃん、二鳥ちゃん、私・三風、四月ちゃん。
杏(あん)ちゃん、直幸(なおゆき)くん、そして、湊(みなと)くん。
七人もの大人数での下校は、ワイワイと楽しい……。
……かと思いきや、みんなそれぞれ、うれしかったり、はずかしかったり、久しぶりだったりで、少しだけぎこちないふんいき。
いつの間にか、ほんの少しうしろを、四月ちゃんと直幸くんが二人だけで歩いてて。
五月の風にのって、こんな会話が聞こえてきた。
「あのっ、ナ……お、大河内(おおこうち)、くん」
「ハイッ、なんでしょう」
「あの、ひとつ、お伝えしたいことがありまして……」
「はい」
「四つ子見分け方表の、イラストのことなんですけど」
「アッ……あの絵、本当に、勝手に似顔絵なんてかいてすみませんでした……不快に思われるのも当然です」
「ち、ちがうんです。『面白くない絵』って言ってしまったのは、不快だったからじゃなくて、安心したからなんです」
「へっ?」
「じつは僕……小学生のとき……ヘンな似顔絵を黒板にかかれたことがありまして――」
四月ちゃん、誤解をとこうと、一生懸命(いっしょうけんめい)がんばってる。
ふふふ。なんだかほほえましくて、ほおがゆるんじゃう。
四月ちゃんと直幸くんって、似てるよね。
メガネをかけているところとか、自分のことを『僕』ってよぶところとか。
家族の前ではよくしゃべるけど、家族以外の人の前だと、大人しくなっちゃうところとか。
四月ちゃんは勉強、直幸くんは絵……ずばぬけて得意なものを持っているところとか。
小学生のとき、大変な経験をしたところとか。
そのせいか、今はちょっとネガティブで繊細(せんさい)なところまで、そっくり。
二人はきっと、とてもいい友達になれるんじゃないかな?
「……なるほど、安心したから、ね……それで『面白くない絵』って言ったのね」
二人の会話を聞いていた杏ちゃんがつぶやいた。
直幸くんも、
「そうだったんですか……それは、あの……大変でしたよね」
って納得してるみたい。
誤解(ごかい)がとけて、よかったぁ。
と、安心したのもつかのま。
「なあ、ナオくん! スワロウテイルの曲めっちゃええやろ!? 今度いっしょにイベント見にいかへん? 野外ライブ!」
「え……あの、僕はああいうのはちょっと」
「ああいうの~? ああいうのってなんやの~!?」
わ、二鳥ちゃんが直幸くんにちょっかい出しに、うしろのほうへ走って行っちゃった。
「あ……ああいう人がたくさん集まるとこが苦手ってことだよな、ナオ!」
すかさず湊くんが助けに向かう。
後方のグループは、四月ちゃん、直幸くん、二鳥ちゃん、湊くんの四人になって。
前方のグループは、一花ちゃん、杏ちゃん、そして私の三人になった。
二つのグループは、もう五メートルくらい離れちゃってる。
こっちの会話は、向こうには聞こえていないかもしれない。
「ごめんね、いろいろ。うたがったりして」
とうとつに杏ちゃんが言った。
そっけない言い方だったけど、かえって反省の気持ちが伝わってきて、
「わかればいいのよ」
と、一花ちゃんは心を広くかまえてる。
うんうん、と私もうなずいた。
最初は杏ちゃんのしたこと、『ひどい』って思ったけど、それは、直幸くんが心配だったからやってしまったことなんだ、ってわかったら、すっかり得心がいったから。
杏ちゃんはホッとした様子で、さらにこう言った。
「おわびと言ってはなんだけど……何かもし、困ったことがあったら、言ってよね」
「え?」
「うちはお父さんがライターで、お母さんが看護師(かんごし)なんだけど、お父さんの取材と、お母さんの夜勤が重なると、私とナオだけで一日すごすこともあるの。だから、ほんの少しだけど、想像つくわ。大変でしょ。子どもだけでくらすのって」
や、やっぱり、杏ちゃんは、私たちが本当に子どもだけでくらしてるって、察してたんだ。
あっ!
「そ、そうだ杏ちゃん、私たちが子どもだけでくらしてるって、だれに聞いたの?」
大きなナゾを思いだし、いきおいこんでたずねると、杏ちゃんはあっさりと答えた。
「うちの伯母(おば)さんよ。伯母さんはスーパーで働いてるの。駅を南に行ったところにあるでしょ。スーパーにじいろ」
「ああっ」
一花ちゃんが目を見開いた。
「そうよ。私、『大河内っていう苗字の人に会ったことがある気がする』ってずっと思ってたの。そうだわ。私たち四人がよく行ってるスーパーの、レジを打ってくれる女の人が大河内さんだったのよ。ほら。あの、レジ打ちがすっごく速い人」
「あっ」
私もぼんやりと思いだした。
「あの人、杏ちゃんの伯母さんなの?」
「ええ。こないだ伯母さんに会ったとき、『四つ子ちゃんたち、いつも子どもだけで買い物に来るのよ。お母さんやお父さんといっしょにいるところを見たことがないわ。ちょっと心配』って話を聞いて、ひょっとしたら子どもだけでくらしてるのかなって思って、聞いてみたってわけ」
「そういうことだったんだ……」
こんな単純なことで、湊くんをうたがってたなんて……。
大反省だよ。
私が小さくため息をついているとなりで、杏ちゃんは声をひそめた。
「こんなこと言うのもなんだけど、まだ中学一年生なのに、子どもだけでくらすようにするなんて……ご両親はまた、ずいぶん思いきったことをしたわね」
「そうかしら? おそかれ早かれ、私たち、みんないつかは自立しないといけないんだもの……その練習だと思えばいいのよ」
一花ちゃんは、かみしめるように、でも少しだけさみしそうに言った。
「……えらいなぁ、四つ子ちゃん」
杏ちゃんは、感心したように、ため息をひとつついて。
そして、かたの力がぬけた様子で、思ってることを語ってくれた。
「考えてみれば、私、三風ちゃんたちのことがうらやましかったのよね。そっくりで、四つ子四つ子ってもてはやされて……私とナオだって、十歳くらいまでは『双子でいいね。そっくりね』って言われてたのに……しかも、三風ちゃんたちは姉妹で仲がよさそうだし」
「あら、杏ちゃんだって、直幸くんと仲がいいんじゃないの?」
一花ちゃんがたずねると、杏ちゃんは首を横にふった。
「全然そんなことないわ。昔に比べたら、ナオとは話すことが少なくなっちゃった。幼なじみの湊とも疎遠(そえん)になったし、私と仲のよかった女子の友達は、みんな中学受験して学校が離れちゃって……。なんだかつまんないなぁ、さみしいなぁ、って思ってたとき、ナオがあんな手紙を書いてるのを見つけて、『四つ子ちゃんたち、気に食わない』って気持ちが、『四つ子ちゃんたち、ゆるせない』に変わったのよね」
私、それを聞いて感心しちゃった。
杏ちゃん、すっごく冷静に自分の心を分析(ぶんせき)してるんだもの。
私なら、もっとウジウジ、なやんでしまいそう。
私と杏ちゃんって、全然タイプがちがうんだなぁ。
「……だけど結局かんちがいで、まさかラブレターだったなんて」
「本当よ」
一花ちゃんと杏ちゃんは、視線を交わしてクスッと笑った。
あ、この二人も、ちょっとだけ似てるかもしれない。
はっきり堂々と、自分の意見を言うところとか。
お姉さんっぽいところとか、正義感が強そうなところとか。
「いじめじゃなかったことには安心したけど、まあ内容が内容だったから、姉として、モヤモヤすることはするけど……――」
杏ちゃんはふりかえって、うしろのほうを歩いている直幸くんたちを、ちらりと見た。
直幸くん、二鳥ちゃんにジト目でにらまれて、こしが引けちゃってる。
四月ちゃんが二鳥ちゃんに何か言ってて、湊くんはその様子をほほえみながら見てるみたい。
「――それ以上に、ナオがどう変わっていくか楽しみかも。湊とも、また仲よくできそうだし、四つ子ちゃんとも友達になれちゃったしね」
杏ちゃんの表情は、すっきりと晴れやかだ。
私も同じような気持ちだよ。
姉妹に親しい友達ができるのって、さみしいような気もするんだけど……。
でも、新しい友達が増えたり、今までとはちがう考え方に出会ったり。
そういう、いいことだっていっぱいあるよね。
「そういえば、杏ちゃんと湊くんって幼なじみだったのよね」
一花ちゃんが、ふと思いだしたように聞いた。
「そうよ。同じマンションに住んでるの」
「へぇ、知らなかったわ。二人は多目的室で会ったとき、親しげなのに、ちょっと気まずそうにしてたでしょ。うちの二鳥が『湊くんと杏ちゃんは元カレ元カノなんじゃないか』なーんて言ってたのよ」
うわっ、言っちゃった!
私はギクッとしたけど、杏ちゃんはケラケラ笑ってる。
「あははは、湊が私の彼氏なわけないじゃない」
その言葉を聞くと、体から力がぬけていくみたい。
私は、「あはは……」と弱く笑いながら、ゆっくり胸をなでおろした。
と同時に。
杏ちゃんは、笑うのをピタリとやめた。
「……ちょっと待って……。湊が私の…………彼氏?」
えっ……どうしたの?
杏ちゃん、何か考えてる?
あれっ? 目が、キラキラしはじめたよ?
なんか、『ひらめいた!』みたいな顔してるけど……!?
杏ちゃんは歩きながら、ゆっくりと顔を上げ、まっすぐ前を向いて言った。
「湊が私の彼氏……。……それも、アリかもしれないわね」
えっ!?
「湊って顔いいしコミュ力高いし、背はちょっと低いけど、まだまだのびしろあるわ。私の相手としては不足ないわね。つきあえば新聞にのせる写真とかとってもらえるし便利そう! 悪くないじゃない」
ええええええ~!?
あ、杏ちゃん、湊くんのこと好きに(?)なっちゃった……!?
さけぶのはやっとのことでこらえたけど、かわりに足元がふらついちゃう。
そんな……そんな……。
本当に?
本当に、好きになっちゃったの……?
「……ですってよ、三風。どうするの?」
「へっ、どうする、って……なに、が?」
小声で聞いてきた一花ちゃんに、私も小声で、なんとかそう返した。
「さあ、何がかしら? 三風はもっと、自分に正直にならなくちゃ」
一花ちゃんは大人っぽく、片側のほおだけでほほえんで。
私は何をどうしたらいいか、全然わからなくなっちゃう。
「♪フフフーン――お願い~~だれか助けて~いーますぐっ」
二鳥ちゃんのいつもの歌声が聞こえてきたけれど、助けてほしいのはこっちだよ……。
新しい友達。
新しい人間関係。
これから一体、どうなっていくの――?
いじめギワクが無事に晴れて、すべて解決!と思っていたら、杏ちゃんが湊くんのことを好きになっちゃった!? このあとの三風との関係はどうなっちゃうの!?
次巻・4巻は、四姉妹と湊くん、杏ちゃん、直幸くんが、遊園地に行くお話だよ。どんなことが起こるのか、続きは5月5日(月)にアップ予定! おたのしみに☆
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