
新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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13 信じる気持ち
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放課後。
さようならのあいさつがすむと、教室は一気にさわがしくなる。
急いで部活に行く子たち、おしゃべりの続きをする子たち、つれだって昇降口へ向かう子たち。
私は湊(みなと)くんの机にそーっと近寄って、思いきって声をかけた。
「湊くん、あのう……」
「ん、三風ちゃん、どうしたの?」
「あの、ちょっと聞きたいんだけど……湊くんは、このレポート用紙、どこかで見たことない? 罫線(けいせん)が、グラデーションっぽくなってるの。あ、それから、一番下の部分に、塾の名前か何か、入っているかもしれないんだけど……」
ほかの人に見せたのと同じように、告発状の文章が書いてある上半分は折りまげて、何も書かれていない下半分だけを見てもらった。
そうしたら、湊くん、「え……?」って、目を見開いて。
「これ、知ってる……ナオのだ」
「えっ?」
あんまりあっさり答えられて、私、とまどっちゃった。
「えっ……あのっ、ナオって……直幸(なおゆき)くんのこと?」
「うん、ほら」
湊くんは筆箱から、八つに折りたたんだ紙を取りだす。
その紙、私のとは反対に、下半分が折られてて見えない。
でも、上半分には、
《長いあいだ、借りててすみませんでした。直幸》
ってメッセージが書いてある。
これって……直幸くんが湊くんに、何かを返すとき、そえたものなのかな?
そのあたりはわからないけど、でも。
罫線は、グラデーションになってるし、紙の大きさも同じみたいだし。
たしかに、これ、告発状と同じレポート用紙だ。
それに何より、筆跡(ひっせき)がそっくり!
ってことは、告発状の送り主は、直幸くんだったの……!?
「三風ちゃん、どうしてそんなこと聞くの?」
問われて、私は、ハッとわれに返った。
教室には、もう私たちのほかは、ほとんどだれもいなくなってる。
あっ、最後まで残っていた女の子も、カバンを持って出ていっちゃった。
「そのレポート用紙、なんで三風ちゃんが持ってるの? コピーされたものみたいだけど……」
「え、えっと……」
説明するのなんて簡単なはず。
それなのに、私、レポート用紙の上半分――。
告発状の文章が書かれている部分を見せるのを、ためらっちゃった。
だって、湊くんが杏ちゃんに、私たちが子どもだけでくらしてるってことを話したのか、話してないのか、まだわからないままなんだもん。
私、湊くんのこと、信じていてもいいのかな……?
告発状のこと、ほかのだれかに言われたりしないかな……?
湊くんを信じる気持ちが、水に映るカゲのように、ゆらゆらとゆらいで……。
「み、湊くんこそ、どうしてその紙を筆箱に入れてたの?」
苦しまぎれに、私は問いかえす。
すると、湊くんは、
「それは……ごめん。言えない」
そうつぶやいて、自分の紙をもう一度折りたたみ、手でかくしてしまった。
「あ…………」
なんだか、湊くんが遠くに感じる。
せっかく仲よくなれたのに……。
子どもだけでくらしてるってことも、このあいだ、やっと打ちあけて。
いつか絶対、彼には本当のことを、全部打ちあけようって思ってたのに。
私たち、このまま離れていっちゃうのかな……?
さみしくて、下を向いたら、じわりと涙がわいてきた。
そのとき。
「ごめん、やっぱり言う!」
突然、湊くんがさけんだ。
「三風ちゃんだってこのあいだ、子どもだけでくらしてるってヒミツを話してくれたし、俺だって話すよ。三風ちゃんなら大丈夫。絶対だれにも言わないよね?」
彼の目は、私にまっすぐ向けられていて。
瞳には、少しのくもりもなくて。
湊くん……私を信じてくれているんだ。
そう確信したと同時に、はっきりとわかった。
私が湊くんにいだいていたうたがいは、まったくのまちがいだったってことに。
うたがって、本当にごめんね……!
「三風ちゃん、大丈夫?」
「うんっ……なんでもないの」
ここで私が泣いたら、湊くんは絶対困っちゃう。
ううん。
涙がなくても、私が泣きそうだってこと、とっくに湊くんには伝わってるはず。
私はギリギリで泣くのをこらえて。
心配そうな湊くんに「平気だよ」ってアピールして。
それから、なぜか杏ちゃんが、私たちが子どもだけでくらしてるってことを知ってたことや、湊くんをうたがってしまったことなんかを、みんな打ちあけた。
「――ああ、それで、杏と知りあいなのかって聞いてきたんだね。あのとき三風ちゃん、なんだかいつもと様子がちがってたから、どうしたのかなって思ってた」
「ごめんね……」
ずっとうたがわれていたなんて、イヤな気分になるに決まってるよね。
こんなことなら、すぐに聞いておけばよかった。
『湊くん、もしかして、私たちが子どもだけでくらしてるってことを、杏ちゃんに言った?』
って。
どうして、そうしなかったんだろう。
……あ、そうか。
聞きたいことはもうひとつあったんだ。
『湊くんと杏ちゃんって、知りあいなの? 親しそうなのに、気まずそうだったけど、なにかあったの?』
こっちの質問の答えが、
『元カレと元カノだよ』
とかだったら、なんだかイヤだなって思ってしまって、うまく聞けなくて。
そうしたら、すぐに聞かなきゃならなかった質問まで、聞けなくなってたんだ。
私って、なんてのろまで、なんて勝手なんだろう。
深く深く反省して、じっとうつむく私。
すると、湊くんは私を安心させるような、落ちついた声で言った。
「俺は、杏に三風ちゃんたちのこと、なんにも言ってないよ。……それどころか、ずっとちゃんと話せてない。気まずかったのはさ、こういう理由なんだ」
湊くんは自分の持っていた紙の、一番下の部分を見せてくれた。
告発状では切りとられていた部分――。
四月ちゃんが『塾の名前が入っているかもしれない』って推理していた部分だ。
「……これって……?」
私は首をかしげた。
そこに印刷してあったのは、
《フリースクール イーリス》
という文字だったの。
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