
新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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12 あやしい二鳥ちゃん
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翌日。
登校するときから、やっぱり少し、二鳥ちゃんはヘンだった。
なんだか、ソワソワしてるみたいだったし。
いつもより無口で、ちょっぴり早足で歩いていたし。
一花ちゃんや、私や、四月ちゃんが、
「あの告発状、女の子の書いた字じゃないかしら」
「たしかに、とてもきれいな字だったよね」
「どうでしょうか? きれいな字の男子という可能性もあります」
なんて話を始めたら、
「あっ! 見て! ノラネコや!!」
なんて大声を出して、会話をさえぎろうとしてきたし。
昨日は、『告発状はイタズラや』なんて、急に言いだして……。
今日は今日で、告発状の話題をさけようとしているみたいだけど……。
二鳥ちゃん、告発状のことなんて、どうでもよくなっちゃったのかな?
わからないけど、ともかく、学校についたら、聞きこみを開始だ。
私は、カラーコピーされた告発状を、クラスの友達に見せて回った。
さすがに、
《宮美(みやび)さんのせいで、毎日が変わってしまった》
なんて文章まで見せる気にならなかったから、文字の書いてある上半分は折ってかくして、何も書かれていない下半分だけを、見てもらったんだけど……。
「あ、あのっ、おはよう! ちょっと聞きたいんだけど、このレポート用紙、見たことない? 罫線(けいせん)がグラデーションになってるんだ。それから、下の部分に、塾の名前か何か、入ってるかもしれないんだけど……」
「レポート用紙? …………うーん、こんな色のやつは、見たことないなぁ」
「そっか……。ごめんね、ありがとう」
知ってる人は、そう簡単には見つからない。
といっても、私、教室では地味キャラなので……。
登校して十分くらいたつけど、まだ五、六人の人にしか見てもらえてないや。
ふだん、あまり話したことのない人に自分から話しかけるのって、ちょっと勇気がいるもんね。
一花ちゃんや二鳥ちゃん、四月ちゃんはどうしてるんだろう……。
あっ、ういなちゃんが教室に入ってきた!
「おはよう、ういなちゃん」
「おはよ~三風ちゃん」
「あの、ういなちゃんは、このレポート用紙、どこかで見たことない?」
たずねると、ういなちゃんはきょとんとして、
「それさっきも同じこと聞かれたよ~。昇降口(しょうこうぐち)で、三風ちゃんのお姉さんの、二鳥さんに」
えっ?
「二鳥ちゃんが、なんでういなちゃんに……?」
「あたしにっていうかー、なんか、通る人みんなに聞いてるっぽかったなぁ。あ、そこから見えるんじゃない?」
言われて、私は教室の窓から外を見てみた。
……あっ、いた!
二鳥ちゃんだ。
昇降口を出たところで、告発状のコピーを片手に、すっごく熱心に聞きこみしてる……!
昨日は『イタズラや』なんて言ってたのに……。
今朝だって、告発状には興味なさそうにしていたのに……なんでだろう?
「三風ちゃん、なんで姉妹そろって、そのレポート用紙さがしてるの?」
「う、うん、あの、なんでもないの。ちょっと気になったから……」
ういなちゃんにふしぎそうな顔をされちゃって、私はすぐに窓から離れた。
◆ ◆ ◆ ◆
その日のお昼休み。
私たち姉妹は、南校舎四階の、階段のおどり場に集まった。
この場所の近くにあるのは、ふだん使われない教室ばかり。
だから、めったに人が来ないし、姉妹でこっそり集まるのにちょうどいいって、四月ちゃんが教えてくれたんだ。
「私は何も収穫(しゅうかく)がなかったわ。だれに聞いても『見たことない』って」
と一花ちゃん。
「私も……知ってるって人は、一人も見つからなかったよ」
私は二鳥ちゃんを気にしながら言った。
二鳥ちゃん、階段に座りこんで、ムスッとした顔してる。
ちょっとイライラしてるみたいだし……やっぱり様子がヘンだ。
「僕も……知らないって言われました。ミカちゃんにしか、聞けてないんですけど」
「え? ミカちゃんって?」
「あ、もしかして、この前、四月が話してた、望月(もちづき)紀美香(きみか)ちゃん?」
私と一花ちゃんが問うと、四月ちゃんは、「はい、そうです」とうなずいた。
なあんだ、四月ちゃん、
――「僕、ライバル視されてるみたいなんです。友達っていうのとは、ちょっとちがうかと」
って言ってたのに、紀美香ちゃんのことを『ミカちゃん』なんて親しげによんでる。
「四月ちゃんと、紀美香ちゃんって、友達になったんだね」
うれしくなってそう言うと、四月ちゃんは、
「とんでもない!」
と首をふった。
「だって、ミカちゃん、僕のこと、『友達というよりライバルだよ』って言ってましたし、体育のときとか移動教室のときとか昼休みはいつもいっしょにいてくれるけど、彼女は僕のこと友達だなんて思ってないだろうし……」
「紀美香ちゃんと、ふだん、どんなおしゃべりしてるの?」
「……こないだは『宮美四月』と『望月紀美香』は『美』と『月』……同じ字が二つもあるね、って、話して」
「そのときどんな気持ちだった?」
「……なんだかちょっと、面白くて、うれしくなりました」
たわいのない会話でうれしくなっちゃうなんて、それはもう――。
……いつもなら、こんな場面で真っ先に、
『それってもう友達やん!』
って言ってくれるのは、二鳥ちゃんなのになぁ、と思いながら、私は言った。
「それってもう、友達だよ!」
「え……!? えぇえ……そうでしょうか……」
なやむような、はずかしがるような顔の四月ちゃんに、私と一花ちゃんはニコニコ。
「四月はもっと、自信を持たなきゃダメよ。それで、紀美香ちゃんも、このレポート用紙は知らないって言ったのね?」
一花ちゃんが確認するように聞くと、四月ちゃんはピシッと姿勢を正した。
「話がそれてすみません。ミカちゃんは趣味と特技が勉強なので、今は週五で塾に通ってますし、中学入学前には、いろんな塾の体験入学を受けたそうなんです。ざっと十校くらい」
「じゅ、十校も……」
「……すごい子なのね、紀美香ちゃんって」
「ええ。それで、いろんな塾からたくさん粗品(そしな)をもらったそうなんですけど、こんな色の罫線のレポート用紙は、見たことがないと……」
四月ちゃんは、しゅんとかたを落としてつぶやいた。
「もしかしたら、『塾の名前が入っているかもしれない』という僕の推理が、まちがっていたのかもしれませんね……」
「まだわからないわよ」
一花ちゃんがはげますように言った。
「そうだよ。今日の放課後も聞きこみすれば、知ってる人が見つかるかも」
私がそう言ったとき。
二鳥ちゃんが急に立ちあがり、パンパン、とおしりを乱暴にはらった。
「みんな、もうやめとき! そんな変なもんの送り主さがすの」
「ええっ、に、二鳥ちゃ――」
「そんなイタズラ取りあってたら時間のムダや! もう関わらんとき!」
二鳥ちゃんは、一気にそれだけ言うと、階段をかけおりて、どこかへ行っちゃった……。
残された私たちは、やっぱりわけがわからなくて、顔を見合わせる。
「ずっとだまってると思ったら、いきなりなんなのかしら。二鳥、昨日から、やっぱり様子が少しヘンよね?」
「うん……二鳥ちゃん、自分は送り主を熱心にさがしてるみたいなのに、私たちには『関わらんとき』なんて……」
「二鳥姉さん、昨日からちょっとピリピリしてて、今朝だって、いつもは歌う鼻歌を、一度も歌わなかったでしょう……?」
「……まさか、とは思うけど――」
私も、たぶん四月ちゃんも、うすうす気づいていた可能性。
それを、一花ちゃんは慎重に口にした。
「二鳥、いじめに心当たりがあるのかしら」
「「っ……!」」
やっぱり、そうなのかな?
でも、まさか二鳥ちゃんが?
私は不安で身をかたくしたまま、何も言えない。
「二鳥姉さんが、だれかを故意(こい)にいじめているなんて、そんなこと、あるはずないですよ……」
元いじめられっこの四月ちゃんは、辛そうにつぶやく。
四月ちゃんの気持ちを想像したら、私まで心がキリキリ痛くなった。
二鳥ちゃんがだれかをいじめているなんて、あるはずない。
だけど、二鳥ちゃんが、あやしい動きをしているのもたしか。
「大丈夫よ、三風、四月」
一花ちゃんは、ゆっくりと言った。
「心配いらないわ。二鳥の様子がおかしいのには、きっと何かわけがあるのよ。今日の夜にでも問いつめてみましょう。考えるのが辛いなら、あんたたち二人は、放課後すぐ家に帰ったっていい。聞きこみは私がしておくから――」
「いいえ」
四月ちゃんは、きっぱりと首をふる。
「二鳥姉さんにうたがいがかかっているなら、それを晴らすため、ますます捜査しないわけにはいきません。いじめについて考えるのは、辛いときもありますが……少しずつでも、乗りこえていかないと」
四月ちゃん……自分を変えようとしているんだ。
(えらいなぁ。がんばってるんだなぁ)
そう思ったら、胸がキュッとなって、私も自然と口が動いてた。
「私もっ……二鳥ちゃんのこと、気になるし、このままにして帰るなんてできないよ。私たちは姉妹だもん!」
私たちの決意を聞いて、一花ちゃんは優しくほほえむ。
「わかったわ。それじゃ、みんなで協力して、真相を暴きましょう」
「はいっ」
「うんっ」
四月ちゃんと私が力強くうなずいたとき。
――キーンコーンカーンコーン……
ちょうど、授業開始五分前のチャイムが鳴った。
「そろそろ行きましょうか」
私たちは自分の教室にもどるため、階段をおりはじめる。
「だけど四月、ムリはしちゃダメよ。紀美香ちゃん以外の人に聞きこみできる?」
「うっ……。……『捜査の基本は現場百回』ですから、僕は告発状のとどいた、新聞部の部室付近をさぐってみようかと……」
「なるほど。それもいいかもしれないわね」
一花ちゃんと四月ちゃんの会話を背中で聞きながら……、
「ふぅ……」
私、小さくため息ついちゃった。
今、いろいろなナゾが重なって、胸にのしかかってる。
告発状の送り主のナゾ。
二鳥ちゃんのあやしい行動のナゾ。
そういえば、湊(みなと)くんと杏(あん)ちゃんの関係もナゾのままだ。
……湊くん、といえば。
私、湊くんにはまだ、『このレポート用紙、どこかで見たことない?』って聞けてないや。
湊くんと杏ちゃんの関係をこっそり調べてたのがうしろめたくて、知らないあいだに、さけてしまっていたのかも。
放課後になったら、念のため、聞いてみようかなぁ。
そう考えながら、私は姉妹たちと別れ、自分の教室へともどっていった。
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