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注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし③ 学校生活はウワサだらけ!』第11回 送り主はだれ?


新聞部の杏(あん)ちゃんに、身に覚えのないいじめギワクをかけられてしまった三風たち四姉妹。あさってまでに、姉妹のいじめ告発状を書いたのが誰かつきとめないと、「四つ子はいじめっこ」と新聞に書かれて学校中にギワクを広められちゃう!? いったいどうしたらいいの?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(3巻)はコチラから
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……………………………………

11 送り主はだれ?

……………………………………


「「「「はぁ~」」」」

 家に帰って、居間に、たおれこむようにこしを下ろして。

 私たち四人は同時に、特大のため息をついた。

 あのあと、私たち、杏(あん)ちゃんに、

 ――「誤解だよっ。いじめなんてしてないよ」

 ――「こんな告発状、イタズラや!」

 って説明したんだけど……。

 ――「いじめられている子がせいいっぱいの勇気をふりしぼって書いた告発状かもしれないのよ。イタズラだなんて決めつけて、生徒のSOSを無視するようなこと、新聞部はできないわ」

 なんて、言いかえされて、話しあいは完全に平行線。

 一花ちゃんはいかりが爆発しそうだし、四月ちゃんは泣きそうだし。

 しかたなく、私たちは杏ちゃんの要求をのむことにして、すぐ下校したというわけ。

「なんなのよ、あの杏って子。私の妹たちを悪く言うのもいい加減にしろってーのよ」

「あんなにガンコな子やと思わんかったわ」

「クラスの子に聞いたんだけど、あの子のお父さん、ノンフィクションライターなんですって」

 ノンフィクションライター……?

 って、実際のできごとを取材して、文章を書く人のことだよね。

「あの取材への執念は、父親ゆずりなのかもしれないわね」

 一花ちゃんが言うと、二鳥ちゃんが不満そうに目を細めた。

「せやったらもっとちゃんと、うちらの話を聞けっちゅうねん!」

「まったくよ!」

 プンプンおこってるお姉ちゃん二人と対照的に、

「…………」

 私は、つかれと不安で何も言えなくなってた。

 なんでこんなことになったんだろ……。

 ――「中学にはいじめがあるんだよ」

 なんておどかされて、いじめの被害者にならないよう気をつけていたら、まさか、加害者じゃないかって、うたがわれちゃうなんて。

 やがてポツンと、

「記事になってしまうんですよね。明後日までに、なんとかしないと」

 四月ちゃんがつぶやいて、居間は一瞬、静けさにつつまれた。

 だけどすぐに、お姉ちゃんたちは、ふたたびおこりだす。

「あんなやり方、乱暴よ。私たち、本当に何も知らないもの。潔白(けっぱく)なんだもの」

「せやせや。あんなんイタズラやわ。記事になったって、堂々としてたらええんや」

 イタズラ……。

 本当に、そうなのかな?

 私はカバンから、例の告発状を取りだして、あらためて読んでみた。

 内容はともかく、字はとてもていねいに書かれてる気がするけど……。

「杏ちゃん、『だれかをいじめている自覚がないだけじゃないの?』なんて言ってたね……」

 私がふと思いだしてそう言うと、

「…………僕のせいかもしれない……」

 四月ちゃんが消えいりそうな声で、ひとりごとみたいにつぶやいた。

「イラストの件で誤解されてしまったのと同じように……僕は知らないあいだにだれかを傷つけていて……その人が告発状を書いたのかも……本当にすみません」

「そっ、そんなこと、ないよ」

「せや! シヅちゃん、それは考えすぎや」

「四月はだれかを傷つけたことにまったく気づかないような鈍感(どんかん)な子じゃないわ。それは私たちが一番よく知ってるもの」

 いっせいに四月ちゃんをはげます私たち。

 だけど、四月ちゃんは暗い顔のまま。

「いじめているほうは、たいてい、自分がだれかを傷つけている自覚なんて、ないものなんですよ……。僕をいじめていた――黒板に変な似顔絵をかいたあの男子は、クラスで一番の人気者だったんですけど――彼だって『遊んでいただけ』とか『宮美さんはいつもひとりぼっちなので、面白い似顔絵をかいて、みんなの輪に入れてあげたかった』とか、本気でそんなことを言っていたんです」

「ひ、ひどい……!」

「なんなのよ、その言いわけ」

「信じられへん。かんちがいにもほどがあるわ!」

 熱くなる私たちに、四月ちゃんはおどろくほど冷静に告げた。

「挙げたのは極端(きょくたん)な例です。でも、だれでもみんな、同じようなかんちがいをする可能性があると思います。まじめで敏感な人だって、必ずどこかは鈍感なものだから……他人を無意識に傷つけたことのない人なんて、この世に存在しないと思うんです」

「「「…………」」」

 いじめられた経験のある四月ちゃんの言葉には、説得力があって。

 私たちみんな、だまりこんじゃった。

「だから……だから僕がだれかを、無意識に傷つけてしまったのかも……」

 ふるえる四月ちゃんのかたを、一花ちゃんは優しくだいた。

「四月の言うこと――『だれもが、だれかを傷つけているかもしれない』ってこと、正しいのかもしれないわ。だけど、その考え方なら、だれかを傷つけたのが四月とはかぎらないでしょう。『だれもが、だれかを』……私たち全員が、だれかを無意識に傷つけた可能性があるってことじゃない」

「まあ理屈のうえでは、そうなるわな……」

 二鳥ちゃんも、いくらか落ちついた声でつぶやく。

 そんなつもりはなくたって、だれもが、だれかを傷つけているかもしれない……。

 私はおそるおそる、姉妹に向かって言った。

「もし……これがイタズラなんかじゃない、本当の告発状なら……私たちが、知らないうちに、だれかを傷つけていたり、だれかに誤解されたりしているなら……あやまらなきゃ、だよね。その、だれかに」

 一花ちゃんも、二鳥ちゃんも、四月ちゃんも。

 真剣な顔で、小さくうなずいた。


◆ ◆ ◆ ◆


 告発状の送り主をさがすことに決まったあと。

 私たち四人は、宿題と家事をすませ、夕ごはんを食べてから、居間にもう一度集まった。

「さて、推理開始や! ……とはいえ、みーんな身に覚えがないねんもんなぁ」

 ちゃぶ台の真ん中には、告発状が置かれている。

 これが、ただひとつの手がかりってことか……。

「……いきなりだけど、いいかしら」

 ためらいがちに手を挙げたのは、一花ちゃんだ。

「私、家事とかしながら、いろいろ考えてたの。それで……失礼だけど、この告発状、杏ちゃんの自作自演ってことはないかしら?」

「えっ、自作自演!?」

 私はおどろいて、小さくさけんだ。

「せや、たしかに! だって杏ちゃん『これは告発状にちがいない! 四つ子はいじめっこにちがいない!』って、決めてかかってるような態度やったもん」

「そう。私もそれが引っかかったのよ。インタビューのときは、『話せばわかる子なんだ』って思ったのに、告発状に関しては、すごく意固地(いこじ)だったでしょう。理由はわからないけど、杏ちゃんはスクープをでっちあげて、私たちをおとしいれようとしてるんじゃないかって」

 そ、そういえば杏ちゃん、私たちを、なぜか時々にらんでたっけ。

「でも、そんな……あの正義感が強そうな杏ちゃんが、自作自演なんてするかな……?」

 盛りあがるお姉ちゃんたちと、とまどう私。

 すると、四月ちゃんは、

「その可能性は僕も考えました。ですが、これを見てください」

 そう言って、告発状のとなりに、あの、四つ子見分け方表をならべて置いた。

「四つ子見分け方表の文字を書いたのは杏さんです。告発状と比べると、筆跡(ひっせき)が微妙にちがうんですよ」

 なるほど……たしかに。

 告発状と、四つ子見分け方表。

 二種類の文字は、どちらもていねいで、読みやすい字。

 だけど、はらいの角度や、はねの角度、文字の丸みなんかが、ほんの少しちがう。

「筆跡を、わざと変えて書いた可能性はないかしら?」

 注意ぶかく問いかける一花ちゃんに、四月ちゃんは首をふる。

「それも……ないと思います。もし、筆跡をわざと変えるなら、もっと、がらりと変えるのではないでしょうか。ふだんは丸い文字を書く人なら、大げさなほど角ばった字。ふだんからていねいな字を書く人なら、思いきりきたない字……というように」

 私たちはうなずく。

「ですが、これらの二種類の文字は似ているようで、よく見るとちがう……『同一人物が、わざと筆跡を変えて書いた字』ではなく『まったく別の人物が書いた字』と考えるのが妥当ではないかと、僕は思いました」

「なるほど……言われてみれば、たしかにそうね」

 一花ちゃんはうなずいて、二鳥ちゃんは「う~~ん……」とうなる。

「そもそもや、なんでこれ、送り主の名前がないんやろ。『宮美さん』とはあるけど、うちらのだれに向けたものかもわからんしさ」

「それは簡単です。仕返しがこわかったから、自分の名前や相手の名前を、書きたくても書けなかったんでしょう」

「「あ、なるほど」」

 二鳥ちゃんと私は同時にうなずいた。

 さすが四月ちゃん、今回も推理力がさえてる。

 ……と思ったんだけど。

「……僕にも経験があるのでわかるんです……」

 ああっ……。

 四月ちゃん、声がしずんでる。

 何か辛いことを思いだしちゃったのかな?

 今回はできるだけたよらないよう、私もがんばらなきゃ。

「う~~ん……」

 私は告発状をじっくり観察してみた。

 内容は身に覚えがないから、告発状そのものから、送り主につながるヒントを得るしかない。

 えっと……文章が書かれているのは、紙の上半分のみで、下半分には、何も書かれていない。

 この紙は……ノートくらいの大きさの、縦長の紙で、横に罫線(けいせん)が入ってる。

 たぶん、レポート用紙なんじゃないかな。

 レポート用紙だとするなら……あれ?

「ん……?」

「どうしました、三風姉さん」

 首をかしげた私に、いつの間にかみんなが注目してた。

「あ、えっと、たいしたことじゃ、ないんだけど……」

「なんでも言って、三風」

「せや。力合わせよ」

 お姉ちゃんたちにうながされて、ちょっとはずかしくなりながら、私は言う。

「この紙、レポート用紙だよね。それで、一番下のところが、ほんのちょっとだけ、切りとられてるんじゃないかなって思ったんだけど……」

 そう指摘すると、四月ちゃんがハッと目を見開いて、告発状の一番下の部分を指でなぞった。

「たしかに……これは、カッターなどで、きれいにまっすぐ切られたようなあとです。横幅からみて、この紙は、ノートなどと同じB5サイズのはずですが――」

「シヅちゃん、これうちのノート!」

 二鳥ちゃんが、居間に置きっぱなしだったB5サイズのノートを差しだした。

 大きさを比べてみると……。

「この告発状は、下の部分、およそ1.5センチ程度が切りとられているようです」

「「「つまり、それって……?」」」

 私たち三人の姉がたずねると、四月ちゃんは探偵のようにあごに手を当て、言った。

「告発状の送り主は、このレポート用紙の、下の部分を切りとらなければならない理由があった……そこに、送り主につながる情報があったのでは? たとえば、塾の名前が入っていたとか」

「「「なるほど……!」」」

 私、塾には一度も通ったことがない。

 でも、学校の友達が、塾の名前入りの文房具を使っているのは見たことある!

 可能性はあるかもしれない。

「じゃあ、このレポート用紙の出所をさぐれば、送り主が割りだせるってわけね」

「そこからさらに、筆跡などでしぼりこめば、だれがこの告発状を書いたのか、特定できるのではないでしょうか?」

「よう見たらこのレポート用紙、特徴的やん。ほら、罫線が、左のほうは青っぽいけど、右のほうになると赤っぽい。グラデーションみたいになってるで」

「あっ、ほんとだ!」

 さすが二鳥ちゃん、おしゃれに敏感だから、私たちの気づかなかったことにも気づいちゃった。

「めずらしいレポート用紙だから、どこのレポート用紙か、すぐわかるかもしれないね」

 私が言うと、みんなは視線を交わしてほほえむ。

「よっしゃ! 明日から四人それぞれ、自分の友達とかに聞きこみや。この告発状、コンビニで四枚カラーコピーして、一人一枚ずつ持っ――………………………………………………」

 ……え?

 どうしたんだろう?

 告発状に目を向けた二鳥ちゃん……。

 そのまま、動きをピタリと止めちゃった。

「二鳥、ちゃん?」

 よびかけると、二鳥ちゃんは何かに気づいたかのように、ハッと大きく息をのんだ。

「二鳥姉さん? どうしたんですか?」

「いや……な、なんでもない、なんでもないよ? アハハハハ……」

 二鳥ちゃん、何かをごまかすように笑ってる。

「たしか、カラーコピーって、モノクロコピーよりちょっと高いのよね……まあしかたがないわ。今からコンビニに行きましょう。だれか一人、ついてきて」

 一花ちゃんが告発状を手に取った瞬間、二鳥ちゃんはさけんだ。

「ま、待って! その告発状っ……や、やっぱり、きっとただのイタズラやで!」

「「「えっ!?」」」

 思わぬ言葉に、一花ちゃんも四月ちゃんも私も、同時に声をあげた。

「イタズラって……。二鳥、いまさらどうしてそんな――」

「ととと、とにかく! まじめに取りあわんほうがええって。ムシやムシ!」

 二鳥ちゃんは早口でそう言うと、居間をダッシュで出ていって、

 ――トントントントントン!

 階段をかけあがって、自分の部屋に行っちゃった。

 急に、手の平を返すなんて。

 一体、どうしたんだろう?

 居間に残された私たち三人は、理由が少しもわからなくて……。

 首をかしげて、目をしばたくことしかできなかった。


第12回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319036

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