
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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9 恋なんていらない
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翌朝。
学校に向かって、いつもの通学路を、いつもどおり、私は姉妹といっしょに歩く。
昨日、無事にインタビューは終わった。
一段落ついて安心したからか、一花ちゃんも四月ちゃんも、リラックスした表情。
「♪四人なら~恋なーんていらないーずっとそう~フフフフンフーン――ひとりは~――」
二鳥ちゃんも、ごきげんで鼻歌を歌ってる。
だけど、私はまだ、安心していられない。
湊くんと杏ちゃんが、どういう関係なのか。
湊くんは私たちのことを杏ちゃんに話したのか、話してないのか。
インタビューのとき、気になったことを、自分でたしかめなくちゃいけないから。
学校について、うわばきにはきかえて。
「それじゃ、またね」
「また放課後な~」
「うん」
「はい」
階段のところでお姉ちゃんたちと別れて、二階のろうかで四月ちゃんと別れる。
ひとりになった私は、自分の教室の戸の前で立ちどまり、深呼吸。
昨日の夜、家で練習したセリフを、頭の中で、二度、三度とくりかえす。
(まずは……「おはよう湊くん。昨日は写真をとってくれてありがとう。ところで、湊くんと杏ちゃんって、知りあいなの?」)
(それから……「湊くん、もしかして、私たちが子どもだけでくらしてるってことを、だれかに言った?」)
よしっ、これでバッチリ。
この二つのセリフがうまく言えたら、湊くんから直接、杏ちゃんのことが聞け――
「おはよっ」
「ひゃあぁっ!!」
急に声をかけられて、ドッキーン!
のけぞるようにふりかえると、そこにいたのは――湊くんだ!
「おっ、おはよう湊くん」
どうにか体勢を整えながら、反射的にそう答える私。
「おはよう三風ちゃん。……どうしたの、入り口でじっとして。教室入らないの?」
「はっ入りマス、入りマス」
ロボットみたいになっちゃった。
だけど、この機会はみのがせない。
私、そのまま、湊くんの席まで、彼のうしろを、タタタッ、とついていった。
「あ、あのっ、お、『おはよう湊くん』!」
「え……? うん、おはよう……」
あああっ、湊くん『おはようってさっきも言ったよね?』って言いたげな顔してる。
台本にこだわりすぎちゃった。どうしよう。
ええい、もう、いきおいで聞いちゃおう。
「あのっ、『昨日は写真』――」
「ああ、そうそう! 昨日はびっくりしたよ。三風ちゃんたち、新聞部に取材されてたの?」
チャンス!
湊くんのほうから話題をふってくれた。
「そ、そうなのっ。あの、湊くん、杏ちゃんと知りあいなの?」
やった、うまく聞けた!
すると、湊くんは……、
「あー……」
ちょっとだけ、言いよどんで。
「幼なじみだよ。おんなじマンションに住んでるんだ。でもまあ、なんていうか、ちょっといろいろあってさ……」
「そ、そうなんだ……」
湊くんらしくない、歯切れの悪い答え。
やっぱり、昔、何かあったんだ。
『ちょっといろいろあって……』の『いろいろ』って、なんなんだろう?
――「幼なじみからカレカノになって、でも別れてしまったから、今は気まずいとか」
ふいに二鳥ちゃんの言葉を思いだしたら、胸がまた、ギュン、ってちぢんで。
知りたい気持ちと、知りたくないような気持ちにはさまれて、頭が動かなくなっちゃった……。
「カバン、置かないの?」
「えっ、あ……うん」
通学カバンを持ったままだってことに、言われて初めて気づく。
私、すぐ自分の席まで移動して、カバンを置いた。
そのまま、いつものクセで、イスにこしを下ろしたら……。
あっ、二つめの質問!
『湊くん、もしかして、私たちが子どもだけでくらしてるってことを、だれかに言った?』
って聞くのを、すっかり忘れてた!
気づいたけれど、もうおそい。
湊くんは、自分の席で、仲のいい男子とおしゃべりを始めてる。
もう一度聞きに行くなんてできないよ。
あー……、何やってるんだろ……。
――ガクッ
カバンにひたいをおしつけて、ため息ついちゃった。
◆ ◆ ◆ ◆
その日のお昼休み。
「野町くんと大河内さん?」
「そう。二人はその……小学生のころ、どんなふうだった?」
給食を食べおわったあと、私は教室のすみっこの窓辺で、ういなちゃんとおしゃべり。
湊くんと杏ちゃんは、同じ、あやめ小学校に通ってたはず。
ういなちゃんも、あやめ小学校出身って、この前言ってた。
だから、『何か知ってるかな?』って思って、聞いてみたんだけど……。
「うーん、あたし、六年間、その二人と同じクラスになったこと一回もないからなぁ」
「あぁ、そっか……」
「あやめ小って四クラスまであって、まあまあ大きかったからねー。クラス替えも二回しかなかったんだ。二年から三年になるとき一回、四年から五年になるとき一回。……あ、でも」
え、何か思いだしたの?
「野町くんと、大河内さんと、双子の弟の大河内くん、三人でいっしょに下校してるのは、よく見かけたっけ」
「そうなんだ……! それ、何年生くらいのとき?」
「小一からずーっと……あ、でも、小五くらいになると……――」
――ドキ、ドキ、ドキ……
ほんの数秒のあいだに、鼓動がどんどん大きくなっていく。
『小五くらいになると、野町くんと大河内さんは、二人きりで下校していたよ』
そんな言葉が続くんじゃないかと思ったら、息をするのも忘れそうだったんだけど……。
「――小五くらいになると、野町くんと大河内さん、別々に下校してたみたいだよ」
へ?
「そう、なんだ」
「まー小五にもなるとねえ……男子と女子がいっしょにいたら、ひやかされたりするらしいじゃん? あたしは経験ないけど~」
……情報を整理すると。
湊くんと杏ちゃんは、同じマンションに住み、同じ小学校に通っていた幼なじみ。
小四くらいまではいっしょに下校してたけど、小五からは別々に下校していた。
やっぱり、二人はただの幼なじみなのかな。
ちょっとだけ、ホッとした気分。
だけど……。
ただの幼なじみだとするなら。
湊くんと杏ちゃんのあいだにたしかにある、あの気まずさの正体ってなんなんだろう。
恋愛がらみじゃない何かが、あったってこと……?
……手がかりがまったくないよ。
「はぁ……」
私はため息をついて、三つ編みの毛先をいじった。
こういうのを、『暗礁(あんしょう)に乗りあげる』っていうんだろうなぁ。
あ、四月ちゃんなら、すっごく頭がいいし、推理力抜群だから、ナゾがとけるかな。
でも……四月ちゃん、同年代の人が苦手だから、相談するのは悪いかな……。
考えこむ私の顔を、ういなちゃんは、じー……っと見つめて。
唐突に言った。
「三風ちゃんって野町くんのこと好きなの?」
「ちっ、ちがうよ!!」
わ………………!
急に大声、出しちゃった……!
ギューン! ってちぢんだ心臓をおさえながら、おそるおそる、ふりかえると……。
やっぱり、教室にいる何人かの生徒が、少しおどろいた顔で私のほうを見てる。
でも、注目されたのは数秒間だけ。
やがてみんな、ほかのことへ、自然と興味をそらしていった。
地味キャラで、助かった……。
「もー。急に大きな声出さないでよ~」
大げさに両耳をふさいでるういなちゃん。
「ういなちゃんが変なこと言うからでしょ……」
もうおこる気力もないよ……。
はぁ……と、何度目かのため息をついて。
それから、ふと目線を上げると、窓ガラスには、うっすらと自分のすがたが映ってる。
……私はゆっくりと、自分を見つめなおしてみた。
たしかに、私、心の調子が、昨日からちょっと変だ。
『好き』とか『元カレ元カノ』とかいう単語に反応して、胸がギュン、ってなったり。
ふいに湊くんにあいさつされて、飛びあがったり。
ういなちゃんに変なこと聞かれて、さけんじゃったり。
もしかして。
私って、もしかして、湊くんのこと――。
……ううん、そんなのないよ。
私、きっと、湊くんが約束をやぶったのか、そうでないのかが知りたいだけ。
そのために、湊くんと杏ちゃんの関係を調べてるんだよ……たぶん。
からまわりする心を、なんとか落ちつけていたら……。
天気やテレビの話と同じ声のトーンで、ういなちゃんは言った。
「だって、野町くんって普通にかっこいいじゃん。明るくて、男女とかあんま関係なく接してくれて。でもお調子者とか、チャラいってわけじゃなくて、なんていうか、あれだよー、コミュニケーション力がすごい高くて、大人だな~って感じ」
……ういなちゃんって、意外と他人のことを、よく見てるのかも。
知りあって間もないころ、湊くんは、カメラの使いかたがわからなくて困っていた富士山(ふじやま)さんに、声をかけてきてくれたんだ。
そのとき、すぐ近くに私たち姉妹もいて、一部始終を見ていて。
知らない大人に自分から話しかけるなんて、社交的で優しい子なんだな、って私も思ったっけ。
――「港みたいな活気あふれる明るい人になってほしい、って思いをこめて『湊』」
杏ちゃんの言葉を思いだす。
湊くんは、名前にこめられた願いどおり、活気あふれる明るい人に育ったんだなぁ。
「私も……湊くんのそういうところは、す――」
「好き?」
「す、ご、い、って思ったの~っ」
ニヤニヤ顔でくっついてきたういなちゃんを、「からかわないでよ」と引きはがす。
私、湊くんのことはすごいって思ってるし、仲よくなりたいとも思ってるけど、それだけだよ。
それに、それにっ。
湊くんは私のこと、ただの友達としか思ってないだろうし。
もしかしたら、私と仲よくしてくれてるのだって、私が四つ子の一人で、めずらしくて、目立ってて、面白いからってだけの理由かもしれないし。
もしそうなら、私が湊くんを好きになったって意味ないし。
……そうだよ、意味がないんだ。
想いがとどかないのなら――失恋するかもしれないなら――傷つくってわかってるなら。
恋なんて、したくない。
――「感情の種類が変わっただけよ。大きさは変わらないの」
なんて。
私、一花ちゃんみたいに、あんなにおだやかな表情で言えそうにないもの。
いやだからべつに私は湊くんのこと好きってわけじゃないんだけどっ。
「はぁ~………………」
……あ~もうヤダ。
自分が何を考えてるのかわからなくなってきたよ~…………。
「恋ってツラ~い」
「だからちがうよぉ」
とりあえず、ういなちゃんにはつっこみを入れておく。
私は、自分の気持ちが自分でもわからなくて……。
そっとフタをして、考えるのをやめちゃった。
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