
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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7 初めての恋バナ
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杏ちゃんたちと別れた私たち四人は、すぐに学校を出た。
インタビューがやっと終わったので、姉妹はみんな、ホッとしたような、つかれたような顔で、帰り道をのんびりと歩いてる。
二鳥ちゃんは、ふいに「んーっ」とのびをして、息をすいこむと、
「♪恋なんてーい~らないよ~かたいー絆がーここにあるんだ~四人がーいっしょ~なら~いつどこにだって~行けるものね~――」
また、あのお気にいりの歌を歌いだした。
もうそろそろ、夕暮れの時刻だ。
歌声のひびいていく空は、オレンジ色に色づきはじめてる。
内側から光を放つような雲が、あっちにも、こっちにもうかんでて……。
「今日の夕焼け、きれいねえ」
「♪フフーン――いつも~みたーいに~笑っ……おぉ、ほんまやな。写真とろっ」
二鳥ちゃんはすぐにスマホを取りだして、空に向かい、カシャ、とシャッターをおした。
写真――。
――「私、湊の写真好きだし」
あのとき、杏ちゃんがさらりと言った言葉。
思いだしてしまったとたん、胸がチクリと痛んだ。
私、湊くんのとった写真、まだ一枚も見せてもらったことないや。
杏ちゃんは、何枚くらい、見せてもらったことがあるのかな…………。
「……湊くんと杏ちゃんって、どういう関係なんだろ……?」
気がついたら、疑問をそのまま口に出しちゃってた。
「「「え?」」」
「あ、えっと、あのっ、ほら今日、湊くんと杏ちゃん、なんか気まずそうじゃなかった? 湊くんが気まずそうにするのってめずらしいからさ、なんか気になっちゃって……」
いっせいにこちらを向いた姉妹たちに、私はあせって説明をする。
「ああ、そういうたら……」
二鳥ちゃんは少し考えて。
それから、なんでもないように言った。
「あの様子は、ひょっとしたら、元カレと元カノちゃう?」
えっ――!?
心臓どころか、全身が、ギューン!
ちぢみあがって、フリーズしちゃった……。
「だって湊くんって人気ありそうやん。杏ちゃんも美人やし。昔つきあってたとしてもおかしくないわ。幼なじみからカレカノになって、でも別れてしまったから、今は気まずいとか」
そ…………そうなのかな……。
幼なじみから……カレカノ……。
頭真っ白。言葉が見つからない私。
すると、一花ちゃんが、苦々しい口調で言った。
「杏ちゃんといえば、どうして彼女、私たちが子どもだけでくらしてるってことを知ってたのかしら。まったく、あの質問には参ったわ。早く切りあげたくて、結局何もくわしいことは聞けなかったけど……ウワサの元はだれなのよ、もうっ」
……湊くんと杏ちゃんが、昔、つきあってたんだとしたら。
やっぱり、湊くんが杏ちゃんに、私たちが子どもだけでくらしてるってことを話したの……?
杏ちゃん、
――「とっても仲のいい、とある人に、こっそり教えてもらいました」
って、言ってたし……。
だけど……今の不安な気持ちを、ここで打ちあけることなんてできないよ。
じつは私、
『湊くんに、子どもだけでくらしていることを伝えたよ』
って、まだ姉妹に言えてないんだ。
言わなきゃ、って思いながら、言うタイミングがなくて、今日までズルズルきちゃった。
今、そのことを正直に話したら……。
姉妹は、湊くんのことをうたがって、悪く思うようになるかもしれない。
私の好きな人たちが、私の好きな人をきらいになっちゃうなんて。
そんなのって、悲しいよ。
あっ、あ……、『好きな人』って、『友達として』ね!
私、一人で勝手にほおを熱くして、首をふった。
……だけど、そもそも。
本当に、湊くんは杏ちゃんに、私たちが子どもだけでくらしてるってことを、話したのかな?
あの日――。
病院の庭の、プラタナスのこもれ日の下でした約束を思いだす。
――「わかった。だれにも言わないよ。二人のヒミツだね」
って、湊くん、たしかにそう言ってた。
湊くんは、約束をやぶるような人じゃない、よね……?
決めつけるのは、まだ早いかもしれない。
私、湊くんのこと信じたい……ううん、信じてる。
湊くんと杏ちゃんが、どういう関係なのか。
湊くんは私たちのことを杏ちゃんに話したのか、話してないのか。
自分の力で、きちんとつきとめなくちゃ……!
私がひそかにそう決意したとき。
二鳥ちゃんが突然、大きい声で言った。
「あ! 言っとくけど、宮美家は恋愛禁止やで!」
「「へっ?」」
私と四月ちゃんは、びっくりして顔を上げる。
すると、さらに、
「やぶったら謹慎(きんしん)や!」
「「謹慎!?」」
「なんなのよ、謹慎って」
一花ちゃんは、半分笑いながら、二鳥ちゃんのかたをペシンとたたく。
だけど二鳥ちゃんは、思ったよりずっとまじめな顔をしていた。
「謹慎……はどうでもええけど、とにかく恋愛は禁止なっ」
「意外だわ。二鳥はどっちかっていうと恋愛の話題が好きなんだと思ってた。だって私が『あこがれてる人がいるの』って話をしたとき『彼氏!?』って、それはやかましくって」
「もうっ、それはそれ! うちの言うてんのは、『つきあいの浅い、よう知らん男子に姉妹を取られたくない』ってこと! 彼氏ができたらいっしょに帰ったりできひんようになるんやで。小学生のとき、うちの親友やったヒナちゃんって子も、そうなってしもたんや」
「私たちは家に帰ればいっしょにすごせるじゃない。恋愛くらい自由にすればいいでしょ。アイドルじゃあるまいし」
「せやけど、姉妹のだれかに彼氏ができるやなんて、考えただけでなんやモヤモヤするやん! なあ三風ちゃん、シヅちゃん」
「「えっ? えっと……」」
二人同時につぶやいて、だまっちゃって。
四月ちゃんは何も言う様子がなかったから、しかたなく私が答えた。
「私、恋愛なんて、したことないから、わかんないよ……。あ、でも、もし、姉妹のだれかに、その……彼氏、とかができたら、たしかにちょっと、さみしい気持ちにはなるかも……」
四月ちゃんもうなずいてる。
「ほら見てみ」
と得意げな二鳥ちゃんに、一花ちゃんは挑発するような口調で言った。
「あらそう。じゃあ、二鳥は、今までだれにも恋したことないの? 初恋もまだなの?」
「初恋? あるよ。けど姉妹に出会う前やからセーフ、ノーカウント」
「何よそれ」
一花ちゃんはあきれてる。
「初恋の人って、どんな人なの?」
なんとなく気になっちゃって、私は聞いた。
そういえば、姉妹でこういう話……いわゆる『恋バナ』をするのって、初めてかも。
「ふふっ。うちの初恋のお相手は――」
わざともったいぶるような言い方に、私の胸はドキドキ。
一花ちゃんも四月ちゃんも、じっと二鳥ちゃんの言葉を待っている。
たっぷり注目を集めてから……二鳥ちゃんは言った。
「ずばり、椿吉(つばよし)トウキくん! 今はまだ『GOODBOYS(グッドボーイズ)』の研究生やけど、もうすぐ新ユニットが結成されてデビューするってウワサが――」
「なんだ、アイドルなの?」
あはは……二鳥ちゃんらしいね。
「『なんだ』とはなんなんよ。一花の初恋は?」
「えぇ、私?」
「うちが言うたんやから、一花も言わなあかんで」
二鳥ちゃんにつめよられ、一花ちゃんは、
「うーん……」
としばらくうなって。
それから、ポツンとこう言った。
「千草(ちくさ)ちゃん、かしら」
「「「えっ」」」
千草さん?
一花ちゃんの初恋の人が?
千草さんは、一花ちゃんが里親さんの家にいたときに出会った、六歳年上のお姉さん。
心がすさんで不良になっていた一花ちゃんは、千草さんのおかげで、立ちなおることができたんだって。
だけど、
「え……やっぱり……え……? ていうか千草さんって、女の人やろ?」
とまどった口調で、二鳥ちゃんがたずねる。
それって、初恋なの?
疑問な私たちに、一花ちゃんは大まじめに答えた。
「もちろん、千草ちゃんは女の子よ。だけど、あれはたぶん恋だったんだと思うの。だって私、小さいころから、ずっと男の子みたいなショートカットだったのに、千草ちゃんのロングヘアにあこがれて、髪をのばすようになったんだもの」
「「「おぉお……!」」」
「髪がちょっとずつのびて、ちょっとずつ千草ちゃんに近づいていくんだな……って思ったら、鏡の前でこう、胸がキュッ、ってなったのよね……」
「「「うわぁ……!」」」
一花ちゃんの話があまりにも胸キュンだったので、私たち三人の妹はもだえた。
恋って、こういうキラキラした、あまずっぱい気持ちのことをいうのかな?
だとしたら、すっごくステキ!
「ねえ、今でもまだ千草さんのことが好き?」
私が聞くと、一花ちゃんはうなずいた。
「もちろん大好きよ。でも恋ではなくなったわね」
「どうして?」
「私が小学六年生になったばかりのころ、千草ちゃんに彼氏ができちゃったからよ」
「「「えっ」」」
それってつまり……失恋?
自分の好きな人が、自分以外の人を、特別に好きになっちゃうなんて……。
キラキラでふくらんでいた私の胸は、あっという間にしぼんでしまった。
二鳥ちゃんも四月ちゃんも、なんともいえない顔で口をつぐんでる。
でも、一花ちゃんの表情はおだやかだ。
「私の恋は結局実らなかったけど……千草ちゃんが大切な人だってことは変わらないわ。感情の種類が変わっただけよ。大きさは変わらないの」
感情の種類が変わっただけ……か。
私には、まだ完全に理解できないかも。
恋ってなんなのかなぁ。
だれかを、恋愛の意味で特別に好きになったら、私、どういう気持ちになるんだろう。
もちろん、私だって、少女マンガとかは読んだことがあるから、『恋ってきっとこんな感じのものなんだろうな』って、なんとなく想像はつくよ。
だけど、私が現実で、実際に体験する恋は、マンガとはちがったものかもしれないものね。
「幸せやろうなぁ……好きになった人のこと、ずっと好きでいられたら」
「え?」
声がわずかに、冷えているような……言葉にほんの少しだけ、ふくみがあるような。
そんな気がして、私は二鳥ちゃんのほうを見た。
けれど、まぶしい逆光で、細かな表情まではわからない。
「ふふ……まあね」
一花ちゃんは、二鳥ちゃんの変化には気づかなかったみたい。
ちょっとはずかしそうに笑ったあと、
「四月は?」
と、ふいにたずねた。
「な、何がですか?」
「初恋の話よ」
「な、なんで僕に聞くんです……? 恋なんて、したことないに決まってるじゃないですか……友達すらいないのに……」
四月ちゃんは、くらーい目をして答えた。
四月ちゃんは、小学生のとき、学校でも施設でも、いじめられていたみたいなんだ。
そのとき、唯一(ゆいいつ)の友達だった英莉(えいり)ちゃんっていう子が、いじめっこにどなってくれたらしいんだけど……次の日から、その英莉ちゃんまでいじめられるようになってしまったんだって。
その経験から、四月ちゃんは、
――「友達は作らないって決めてるんです」
って、同い年くらいの他人に、心を閉ざしてしまったみたいなんだけど……。
「やっぱりまだ……家族以外の人と話すのは、苦手?」
私がたずねると、四月ちゃんはうなずいた。
「苦手なのもありますし……やっぱり僕みたいな人間は友達を作らないほうがいいと思うんですよ。すぐ失敗して、イヤな気持ちにさせてしまう……今日だって」
「せや! シヅちゃん、インタビューの最後のとき、なんであんなこと言うたん?」
二鳥ちゃんが、ずばり聞いた。
そういえば、あのことは私も、気になってたんだ。
「四月ちゃん、直幸くんのイラストを『面白くない絵』って言ってたけど……」
「あのイラストが、本当に気にいらなかったってわけじゃないんでしょう?」
一花ちゃんが問うと、四月ちゃんはコクリとうなずいて、わけを教えてくれた。
「僕……小学生のころ、男子に、変な似顔絵をかかれたことがあったんです。黒板に、すごく大きく」
「変な似顔絵?」
四月ちゃんは、またコクリ。
「服がボロボロで、異様に大きなメガネをかけていて、頭にウンチがのった絵でした」
「「「わ……」」」
一花ちゃん、二鳥ちゃん、私は、同時に顔をしかめた。
「その似顔絵を見た人、みんなが面白がって、クスクス笑って……似顔絵……イヤだな、って」
「そうだったの……」
一花ちゃんはなぐさめるように、四月ちゃんの手を優しくにぎった。
「あ! せやから『面白くない絵』って思ったん? 『こんな絵、気にいらん、面白くない』やのうて――」
「――『面白くない絵……まじめにかかれた似顔絵だったから、安心した』!」
「そうです……本当は、そう言いたかったんです」
四月ちゃんは、静かにため息をつく。
「なのに、誤解(ごかい)されるような言い方をしてしまいました。誤解されたとわかったとたん、杏さんにも直幸くんにも申しわけなくて、言葉が何も出てこなくて……いつもこうなんです……」
「そっか……」
他人が苦手だから、言葉が足りなくなって、言葉が足りないから、誤解されて……。
辛いだろうなぁ……。
「ですから、同年代の他人……特に男子と仲よくなるなんて絶対ムリです。こないだ体育でケガをしたとき、知らない男子に保健室に連れて行ってもらったんですけど、あのときも、二人っきりになったら、もうこわくてこわくて……」
「「「…………え?」」」
えっ……?
ええええ、なんか今っ――。
四月ちゃんが爆弾発言しなかった!?
「その男子だれなん!?」
二鳥ちゃんが、ガッと四月ちゃんのかたをつかんだ。
「わ、わかりませんよ、顔なんて見れなかったし、でもちょっと変な人で――」
「ええっ、変っ!?」
「変って何か変なことされたの!?」
私がさけび、一花ちゃんも食いつく。
「お、おち、落ちついてください、何もされてないですって~……」
四月ちゃんは、私たちの反応にとまどいながらも、そのときの話をくわしく聞かせてくれた。
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