
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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6 どうして知ってるの……?
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――「四つ子ちゃんが子どもだけでくらしてる、ってウワサを聞いたんですけど、本当なんですか?」
杏ちゃんからそんな質問を向けられ、私、水をあびせられたように、背中が冷たくなった。
姉妹はみんな、顔をこわばらせてる。
「杏ちゃん、どこでそんなウワサ、聞いたの?」
一花ちゃんがたずねると、杏ちゃんは無邪気(むじゃき)に、にっこり笑った。
「とっても仲のいい、とある人に、こっそり教えてもらいました」
……そんな……。
私、『子どもだけでくらしてる』ってこと、湊くんには言ったけど……。
まさか、湊くんが杏ちゃんに話したの?
だれにも言わないって、約束したのに……?
言葉をなくした私のとなりで、一花ちゃんは慎重(しんちょう)に言う。
「私たちが子どもだけでくらしてるっていうのは……本当のことよ――」
「一花……!」
二鳥ちゃんも、四月ちゃんも、私も、おどろいて固まった。
「本当っ!?」
杏ちゃんは、たちまち目をかがやかせる。
でも、
「――って言ったらどうする~?」
一花ちゃんが急におどけたように笑ったので、杏ちゃんは座ったまま、かくっ、とよろけた。
「もう、まじめに答えてよ。四つ子ちゃんたちは、本当に子どもだけでくらしてるの?」
「杏ちゃんこそ、答えてちょうだい。もし私が、『私たちが子どもだけでくらしてるのは、本当のことよ』……そう言ったら、どうする?」
いつの間にか、一花ちゃんの声からは、ふざけたふんいきがすっかり消えている。
「ええっ? ……そうねえ」
杏ちゃんはちょっと不満そうにしながらも、少し考えて、答えてくれた。
「四つ子ちゃんが子どもだけでくらしているなんて大スクープだわ。どうして子どもだけでくらしてるのかとか、どんな家に住んでるのかとか、子どもだけのくらしってどんなものなのかとか、気になることを、たくさんくわしく聞いて、学校新聞の記事にする」
「その記事、みんなが大注目するでしょうね」
「当然よ」
ほこらしげな杏ちゃんに、一花ちゃんは淡々(たんたん)と告げた。
「記事が大注目されて、私たちが子どもだけでくらしてるってことが、多くの人に知られて……そのうち、悪い人の耳にまでとどいて、私たちが犯罪に巻きこまれたら……たとえば、私たちの家に強盗が入ったりしたら、責任取れる?」
ぐっ、と杏ちゃんはだまりこんだ。
一花ちゃんは、真剣なまなざしで、杏ちゃんを見つめる。
「最近何かと物騒(ぶっそう)じゃない。大人がくらしている家より、子どもだけがくらしている家のほうが、ねらわれやすいのは当たり前でしょう? 場合によっては命に関わることなの。もしそういうウワサがあるなら、絶対にこれ以上広めないで」
「…………」
けおされたように、杏ちゃんは沈黙(ちんもく)を続けて……やがて、うなずいた。
「……わかったわ。興味本位(きょうみほんい)で聞いてごめんなさい」
あぁ、よかった……。
私は「ふぅ……」と小さく息をついた。
今の言い方だと、もしかしたら、
『本当に子どもだけでくらしてるんだ』
って、杏ちゃんに気づかれてしまったかもしれないけど……。
でも、根ほり葉ほり聞かれることも、大勢の人に言いふらされることもなさそう。
『杏ちゃんはまじめな子』っていう一花ちゃんの見立ては、正しかったみたい。
「直幸くんも、いいわね?」
「はっ、はい!」
すっかり空気と化していた直幸くんが、一花ちゃんの声で、ビクッと背すじをのばす。
「さて、新聞部さん、もういいかしら? 私たち、いろいろと用事があっていそがしいの」
一花ちゃんは急にそう言って、立ちあがろうとした。
ま、まだそこまで時間はたってないけど、杏ちゃんは納得してくれるかな?
すると杏ちゃんは、案の定、私たちをよびとめた。
「待って! 最後にひとつだけ。どうしてもこれだけは聞きたいの」
杏ちゃんはクリアファイルから、すばやく一枚の紙を取りだした。
「これの感想を聞きたいのよ。どうだったかしら?」
それは、あの四つ子見分け方表だ。
『なんだ、そんなこと?』と言うように、一花ちゃんがホッとした笑みを見せ、イスに座りなおす。
「そうね。配られたときは、私たち、からかわれてるのかと思っちゃったけど、案外、実用的でよかったと思うわ。これが配られてから、姉妹のだれかにまちがわれることが、少しだけへったのよ。ウワサじゃ、先生もこの見分け方表、参考にしてるらしいし、新聞部に感謝だわ」
「うちもこの見分け方表、めっちゃええと思う。特にこのイラスト! もう、すっごいじょうずに、かわいくかけてるやん」
楽しそうな二鳥ちゃんにつられて、私もほほえんだ。
「私も、そう思います。私、絵をかくのが好きなんだけど、このイラストは本当にじょうずで、わかりやすくて、バランスがよくて……最初に見たとき、大人の、プロの人がかいたんじゃないかって思っちゃったくらい」
「かいた人、やっぱり新聞部の人なん? 『イラスト・nao』としか書いてへんけど、ペンネームやんな、これ」
「え、ええ……」
言葉をにごす杏ちゃんのとなりで、なぜか直幸くん、真っ赤になってるけど……。
あっ、ひょっとして!
「この『nao』さんって、もしかして直幸くん?」
「………………………………はい」
私が聞くと、直幸くんは蚊の鳴くような声でうなずいた。
「ほんまに!? ええっ全然知らんかった! 直幸くんこんな絵うまかったんや。神絵師やん!」
直幸くんと同じクラスの二鳥ちゃんは大はしゃぎ。
私もびっくりだよ。
『nao』さんって、なんとなく、女の子かなって思ってたから。
「……というか、四つ子ちゃんはみんな、ナオのかいた絵だって知ってるんだと思ってたわ。……ねえ、四月さんは?」
「ひゃいっ!?」
いきなり杏ちゃんに名前をよばれて、四月ちゃんの声がうらがえった。
四月ちゃん、インタビューのあいだじゅう、ひとことも話さず下を向いてたけど……。
最後の質問だけは、一人ひとり答えなくちゃいけないみたい。
がんばって!
「四月さんは、この四つ子見分け方表、どうだったかしら。感想を聞かせてほしいの」
「かん、そう……」
「たとえば、最初見たとき、どう思った? なんでも素直に答えて」
「あの……」
四月ちゃんは、うつむいたまま、目だけをあちこち動かして。
それから、ポツンと、
「最初、見たとき……『面白くない絵だ』って、思いました」
えっ?
その場の空気が、カチリとこおった。
「……『面白くない絵』って、どういうことかしら?」
「あの…………っ」
静かないかりをふくんだ杏ちゃんの声に、四月ちゃんは青ざめてる。
私たち、四月ちゃんの真意がわからないから、とっさにはフォローの言葉が出てこなくて……。
「四月さん、この絵、気にいらなかったってことよね。なんで?」
「ぁ………………」
「この絵のことがきらいだって、だれかに言った? 四月さんは、この絵の作者がナオだって、本当は知ってたんじゃないの?」
「やめてや!」
二鳥ちゃんが立ちあがって、さけんだ。
「シヅちゃんはそんなつもりで言うたんとちがう。なあ、シヅちゃん」
「……あの…………っ」
ようやく、四月ちゃんはなんとか言葉をしぼりだした。
「……あの……きらい、とか、そんなんじゃ……本当にそんなんじゃ、ないんです…………」
四月ちゃんの声は細かくふるえて、両目には涙がにじんでる。
杏ちゃんは、そんな四月ちゃんを見て、さすがに悪いと感じたのか、目をそらした。
ど、どうしよう……。
直幸くんは石みたいに固まってるし……こんなとき、私、なんて言ったら……。
どうすることもできず、オロオロしていたら、
「もう、みんな落ちついて。二鳥も座りなさい」
一花ちゃんが軽い調子でそう言って、助け船を出してくれた。
「単なる『言葉のあや』ってやつよ。直幸くんの絵って、中学生とは思えないくらい精巧(せいこう)で……なんていうか、たとえば、新聞の四コママンガみたいな『面白い絵』とは、ちがうことはたしかでしょう? そういう意味よ。ね、四月」
うながされて、四月ちゃんは、ぎこちなくうなずく。
なるほど、そういう意味……だったのかな?
「さ、インタビューはこれで終わりよ! ありがとう、新聞部さん」
一花ちゃんがひといきに宣言して、立ちあがった。
杏ちゃんは、あまり納得していないような顔だったけど……。
結局、何も言わず、四つ子見分け方表を自分のカバンにしまった。
◆ ◆ ◆ ◆
なんとか、インタビューは終わった。
最後は、なんだか、あんまりよくないふんいきになっちゃったな……。
でも、杏ちゃんも直幸くんも、もうそのことを気にしている様子はない。
私も、なるべくそのことにふれないようにして、そそくさと自分のカバンを持った。
「忘れ物はない? それじゃ、帰りましょうか」
杏ちゃんが声をかけ、みんなが多目的室を出ようとしていたとき。
「あ、せやっ、あの四つ子見分け方表のイラスト、原画とかあるのん?」
二鳥ちゃんが、直幸くんに声をかけた。
「え、原画? あ……コピーする前のイラストってことですか?」
「そうそう! コピーって、どうしても、ちょっとあらくなるやん? コピーやない、元のやつがあるんやったら見てみたいねん」
二鳥ちゃんがねだると、直幸くんはおずおずと、カバンからファイルを取りだした。
その中から出てきたのは、なんと、私たちのカラーイラスト!
「ええっ!? すごい! 色ついてるやん!」
「まあ……! あのイラスト、元々はカラーだったの?」
「コピーだと白黒だから、わからなかったよ……!」
私たちは思わず目をかがやかせた。
だって、原画のイラスト、瞳や髪のツヤにまで細やかに色がぬられてて、あまりにステキだったんだもん!
「直幸くん、ほんまに絵がじょうずなんやなあ。あ、なあなあ、これ、よかったらうちにちょうだい! めっちゃキレイな絵やから、家にかざりたいねん。あかん?」
二鳥ちゃんがそう言うと、直幸くんは、「えっ、あっ……はい」と、ゆっくりうなずいた。
二鳥ちゃんはもしかしたら、さっきの気まずい空気の反動っていうか、おわびっていうか……そんな気持ちで、あえて親しげにふるまっているのかも。
でも、直幸くんは、いきおいにおされた、って感じだし、悪いんじゃないかな……。
私はそう思ったんだけど、
「ありがとうっ、ナーオくん!」
二鳥ちゃんは歌うように言って、直幸くんからイラストを受けとった。
急に『ナオくん』なんてよばれたせいか、直幸くんは赤くなってうつむいてる。
「いやー、せやけど、ナオくんがこんなかわいい絵かけるやなんて、全然知らんかったわ。今度また別の絵、かいてもらおかな~。あ! スワロウテイルの絵とか!」
「あつかましいわよ二鳥……」
一花ちゃんがつっこみ、私は、「あはは……」と弱々しく笑った。
何げなく視線を杏ちゃんに向けると――。
――えっ?
やっぱり、気のせいなんかじゃないよ。
杏ちゃん、私たちをにらんでる。
や、やっぱり、二鳥ちゃんのお願いはずうずうしかった?
それとも、私たちのこと、きらいなのかな?
……ううん、杏ちゃんの目……。
何かを真剣にうたがってるような……何かを見やぶろうとするような。
そんなふんいきの、きびしい目だ。
杏ちゃん、一体、どんなことを考えているんだろう?
それに、あのウワサ――。
『四つ子ちゃんが子どもだけでくらしてる』って話を、杏ちゃんはだれから聞いたのかな?
気にはなっていたけど……。
「多目的室のカギは、私たち新聞部が職員室に返しておくわ。それじゃ、またね、四つ子ちゃん。今日は取材を受けてくれて、どうもありがとう」
「うん……またね。こちらこそ、ありがとう」
私は結局何も聞けずに、モヤモヤした心のまま、二人と別れたんだ。
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