
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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5 ウソは言ってない
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湊くんが去っていってから、私たちはそれぞれ席についた。
大きな机のこっち側には、私たち四つ子の四姉妹。
あっち側には、新聞部の杏ちゃんと直幸くん。
二人は、インタビューの準備をしてるみたい。
……さっきのこと、やっぱり気になるな……。
湊くんと杏ちゃんって、どういう関係なんだろう。
結局、湊くんとは何も話せなかったし、杏ちゃんには聞きにくいし……。
直幸くんは、何か知ってたりしないかな……?
私、そんなことを考えて、不安そうな顔をしてたのかもしれない。
「三風、大丈夫よ。答えに困ったらだまっちゃいなさい。私がなんとかしてあげるから」
となりに座っている一花ちゃんが、優しくささやいてくれた。
私はハッとして、小声でたずねる。
「一花ちゃん、やっぱり、ウソをつくの……?」
しかたがないのかもしれないけれど、なるべくなら、ウソはつきたくないよ。
だって、小さいウソをついたら、つじつまを合わせるために、別のウソをつかなくちゃならなくなって、どんどん苦しくなっていくんだもん。
一花ちゃんは、静かな目でうなずいた。
「まかせて。なるべく、ウソは言わないようにするつもりよ」
「さて、それではインタビューを始めさせていただきます」
杏ちゃんの準備が整ったみたい。
直幸くんは、白紙のノートにペンをかまえてる。
いろいろなことが不安だけど……ともかく、インタビュー開始だ。
「あらためまして、今日は取材を受けてくれてありがとう。私はこの取材を通して、あやめ中学のアイドルである四つ子ちゃんの、真のすがたにせまりたいと思っているわ。よろしくね」
わわっ、真のすがたにせまるって。
直幸くんは何も言わないけど、かなりの速さでノートにメモをとってるし。
き、緊張する~……!
「それにしても、こうしてならんでもらうと、四つ子ちゃんって、本当に四人ともそっくりね」
「でも、髪型でわかるでしょ? 身長だって微妙にちがうし」
と一花ちゃん。
「ううん、こうやって座ったら身長なんてわからないし、もし髪型を入れかえたら、だれにもわからないと思うわ。小学校でも注目されてた? クラスは別々?」
杏ちゃんが、キラリと目を光らせた。
いよいよ本題って感じで、私は身をひきしめる。
だけど、一花ちゃんは全然動じてないみたい。
「クラスはみんな別々だったわ。まあ、ある程度、注目はされてたかもね」
「四人でこっそり入れかわったりしなかったの?」
「一度もしなかったわ」
さらっと答える一花ちゃん。
しなかった……というか、できなかったんだよね。
私たちは、四人とも別々の場所で育って、小学校も別々だったから。
注目されてた、っていうのも、両親がいなかったから、って意味だよね……。
かくしてる部分はあるけど、ウソをついてるわけじゃない。
一花ちゃん、さすがだ。
「あらそう? 中学に入ってからも、四人で入れかわったりしてないの?」
「してないわよ。おこられるもの、そんなことしたら」
「みんな、『四つ子ちゃんがこっそり入れかわってるんじゃない?』なんてウワサしてたけど、あくまでただのウワサだったってことね。記事に書いておくわ」
「ええ、よろしく。ついでに、変なウワサは全部まちがいです、って書いておいて」
「四つ子探偵のモデルになったって話も、動画投稿やってるって話も?」
「もちろん。超能力者でテレパシーが使えるって話も、外国の研究機関からにげだしたクローン人間だって話も、四人で覆面(ふくめん)漫画家をやってるって話も、全部まちがったウワサよ」
「わかった。書いておくわね」
「よろしくね」
一花ちゃんがにっこり笑って、杏ちゃんもにっこり笑う。
パッと見たらなごやかなんだけど……。
よ、よく見たら、二人とも目が笑ってない……!?
気のせいかな。なんだか『腹のさぐりあい』って感じだよ?
「では、次の質問です。宮美四姉妹のファンクラブができてるんですが、知ってました?」
「ファンクラブ!?」
ガタッ、と立ちあがり、二鳥ちゃんは身を乗りだした。
「いやっそれどういうことファンクラブて! ほんま!? アイドルみたいや――イテッ」
(はしゃぎすぎよ)
と、一花ちゃんが二鳥ちゃんをこっそり小突いて座らせる。
私もびっくりしちゃった……ファンクラブなんて初耳だよ。
「このあいだ、会員がついに百人を突破したらしいわ。おめでとうございます」
「ありがとう」
作り笑いで答える一花ちゃん。
全然ありがたくなさそう……。
「ファンクラブはその名も『花鳥風月』っていうのよ。姉妹の名前にそれぞれ『花鳥風月』の一文字を入れるなんて、本当にステキね。名前をつけたのは、お母さん? それともお父さん?」
あ、この質問、ういなちゃんにもされたっけ。
やっぱりみんな、同じようなことが気になってるんだ。
「さあ……どっちかしら。どっちかだとは思うわ」
一花ちゃんがはぐらかすと、杏ちゃんはさらにふみこんで聞いてきた。
「そう。じゃあ、次。お母さんやお父さんに、名前の由来を聞いたことは?」
「へっ!? えぇえ、えっと……」
急に杏ちゃんが私のほうを見たから、ギクッとしちゃった。
答えることなんてできないよ。
私、お母さんにもお父さんにも、会ったことないんだもん……。
(どうしよう……)
って困ってたら、一花ちゃんがごく自然に、小さなため息をついた。
「それがね、杏ちゃん……お母さんもお父さんも、ちょっと変わった人みたいで……名前の由来を何度聞いても教えてくれないの。ねえ、三風?」
「えっ?」
こ、ここはしかたなく、ウソをついてごまかそうってことなのかな?
とまどいながら、一花ちゃんを見つめると……。
「ほら、私たち、四人でしょっちゅう『名前の由来は何かしら?』って話しあってるじゃない。お母さんとお父さんに、『どうしてこの名前にしたの?』って、何度か聞いたこともあったけど、二人ともはずかしそうに笑うだけで、答えてくれなかったでしょう?」
パチン、と小さくウィンクされて、あっ、と気づいた。
「そ、そう! そうなのっ」
これ、ギリギリウソじゃないよ!
私たちのとなりの家に住んでる佐藤さんご夫婦は、犬を飼っててね。
とってもかわいい、茶色のトイプードルなんだけど……。
名前が『ツン』っていうんだ。
私たち、近所の愛犬家の人にならって、佐藤さんご夫婦のことを、たまに、『ツンちゃんのお父さん』『ツンちゃんのお母さん』ってよんだりしてるの。
だけど、『ツン』って、ちょっと変わった名前でしょ?
となりの家から、
――「ツン! こらっ、ダメッ。ツン、ハウス!」
なんて声が聞こえてくるたび、姉妹で、
――「どうしてツンって名前なのかしら」
――「全然ツンツンしてへんやん」
――「ふわふわだよね」
――「性格も、人なつっこいですよね」
ってふしぎに思ってて。
一度か二度、佐藤さんご夫婦に『どうしてツンっていう名前なんですか?』って聞いてみたこともあったんだけど、なぜか教えてもらえなかったってわけ。
「教えてくれないって……どうして?」
杏ちゃんがふしぎそうにまゆを上げた。
「知らないわ。だけどひどいでしょ、名前の由来はヒミツだなんて。二人とも、いつも仕事がいそがしくて、私たちのこと、あまりかまってくれないし……」
さみしそうに目をふせる一花ちゃん……名演技だ。
しぐさと表情で、言葉が真実味をおびてくる。
えーっと、たしかに、ツンちゃんのお父さんは会社におつとめしてるし、ツンちゃんのお母さんも毎日家事をしてるから、仕事でいそがしいっていうのも、ウソじゃない……よね。
「それに、うちのお父さんもお母さんも、自分たちのことをあまりくわしく話したがらないのよ。だから私たち『名前の由来は?』とか『お母さんやお父さんはどんな人?』とか聞かれるのが苦手なの。私たちにも、よくわからないから……かくしてるんじゃなくて、本当に知らないの」
「なるほど……。そうなの」
杏ちゃんはちょっと気の毒そうな顔をしてる。
「そんな事情があったのね。記事に書いてもいいかしら」
「ええ、もちろん。『配慮(はいりょ)してほしい』って、書いておいて」
一花ちゃんは事実をうまくかわして答えたけど、目的はちゃんと達成してる。
この内容が記事になれば、私たちに答えにくい質問をしてくる人はへるかもしれないもんね。
「そういえば、杏ちゃんと直幸くんのお母さんとお父さんは、どんな人なの? 『杏』と『直幸』は、どうして『杏』と『直幸』になったの?」
杏ちゃんたちがメモをしているとき、一花ちゃんがそれとなくたずねた。
一花ちゃんのことだから、『逆にこっちからインタビューして時間をかせぐ作戦』なのかも。
「うち? うちは単純よ。双子だったから『杏』はお父さんがつけて、『直幸』はお母さんがつけたの。画数(かくすう)とか見たって言ってたっけ。平凡でしょ。だからちゃんとした名前の由来がある人にあこがれちゃう」
「ちゃんとした名前の由来って、どんなのかしら?」
「そうね。たとえば、さっき写真をとってくれた、あの男の子――湊の名前の由来とか」
湊くんの名前が出た瞬間、胸がドキリと脈打った。
「へえ。湊くんって、どんな名前の由来があるの?」
流れで一花ちゃんが聞くと、杏ちゃんは、ゆったりとほほえんで答える。
「湊はおじいちゃんが写真家だったのよ。若いころ、世界じゅうの港をカメラにおさめて旅をしていたんですって。それで、『港みたいな活気あふれる明るい人になってほしい』って思いをこめて『湊』。湊のお姉さんは『夏の海』と書いて『夏海(なつみ)』ちゃんで、妹さんは『順風満帆(じゅんぷうまんぱん)』って四字熟語から取って『満帆(まほ)』ちゃんよ」
「へえ、三人とも海に関係ある名前なんや」
感心したように、二鳥ちゃんが言った。
「たしかにステキね」
一花ちゃんもうなずいてる。
杏ちゃん、湊くんの名前の由来も、お姉さんの名前も、妹さんの名前も知ってるんだ……。
「あの……」
私、おそるおそる聞いてみた。
「なあに、三風ちゃん」
「あの、杏ちゃん、湊くんと仲いいの?」
すると、杏ちゃんは、ふいに遠くを見るような目になって……。
「ええ、まあ……幼なじみよ」
なぜだろう、ちょっと答えにくそうにしてる。
もしかして。
二人は、ただの幼なじみ、ってわけじゃないのかな?
「……って、話が脱線しちゃった!」
杏ちゃんはいきおいよくそう言って、私たちに向きなおった。
「次の質問です。じつは、これが一番聞きたかったの」
杏ちゃんが、好奇心の光る目で、私たち四人をサッと見回した。
姉妹四人に、ピリッと緊張が走る。
杏ちゃんが一番聞きたかったこと。
それって――?
「四つ子ちゃんが子どもだけでくらしてる、ってウワサを聞いたんですけど、本当なんですか?」
「えっ……!?」
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