
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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4 湊くんと杏ちゃん
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それから、日曜日がすぎて、いよいよ、月曜日の放課後。
私たちはインタビューを受けるため、四人そろって、待ちあわせ場所へ向かった。
一年五組の前のろうかに……あ、いたいた。
「杏ちゃん」
私は小さく手をふり、声をかける。
「三風ちゃん。それに姉妹の子も。今日は来てくれて、どうもありがとう。新聞部の大河内杏です。よろしくね」
杏ちゃんは、大人っぽく言ってえしゃくした。
あれ?
杏ちゃんのとなりに、知らない男の子が一人、いるんだけど……?
「――それで、こっちが私の助手」
杏ちゃんにうながされ、彼は一歩前に出てきた。
短い髪にメガネのよく似合う、ひょろりと背の高い男の子だ。
「あの……二組の大河内直幸(なおゆき)です。新聞部です。よろしくお願いします……」
わわっ、どうしよ、四月ちゃん、カチーンってこおりついちゃった。
男子が苦手って言ってたもんね。
だけど、大河内くんって、大人しそうな子だし、大丈夫じゃないかな?
ん? 大河内?
杏ちゃんと苗字が同じってことは……?
「ナオは私の弟なの。私たち、双子よ」
おどろいた? と言いたげに、杏ちゃんは笑った。
「へーっ、そうやったんかー」
二鳥ちゃんは声を弾ませた。
「大河内くん、おんなじクラスやけど全然しゃべったことなかったし、双子やなんて知らんかったわ。ふふっ、ていうかお姉ちゃんにナオってよばれてんの?」
「あ……はい……」
「うちらもナオくんってよんだほうがええ?」
「いやそれは……」
に、二鳥ちゃん、直幸くん、はずかしがってるよ……?
止めたほうがいいかな? と思ったそのとき。
――ギロッ
えっ?
杏ちゃん、二鳥ちゃんをにらんだ……?
だけど、数秒後には、もうなんともないような顔をしてる。
気のせい、だったのかな?
杏ちゃんって、ぱっちりしたつり目の、『迫力(はくりょく)のある美人』って感じの顔だから……。
角度によっては、にらんでるように見えるだけなのかな?
「ところで、インタビューって、どこでするの? まさかろうかじゃないわよね」
一花ちゃんが上品に笑ってたずねると、
「もちろんよ。ちゃんと多目的室を使えるようにしてあるの。こっちよ。ついてきて」
私たちは、杏ちゃんのうしろをぞろぞろとついて、校舎の中を移動しはじめた。
◆ ◆ ◆ ◆
一年生の教室がある南校舎を出て、広いわたりろうかを通り、北校舎へと入る。
「多目的室ってどんなとこなん?」
移動中、階段をのぼりながら、二鳥ちゃんは杏ちゃんに話しかけた。
「いろんな部活が共同で使ってる部屋よ。普通の教室くらいの広さで、半分は物置き、もう半分にはつくえとイスが置いてあって、会議室みたいになってるの。最初は新聞部の部室でインタビューしようかと思ってたんだけど、ちょっとせまいからね――」
説明が終わらないうちに、
「ついたわ。ここよ。……あれ? 電気がついてる。だれかいるのかしら……」
杏ちゃんは首をかしげながら、『多目的室』と書かれた戸をガラリと開けた。
部屋の中にいたのは――。
「あっ……!」
湊くんだ!
首に、小さなデジタルカメラをかけてる。
そういえば湊くん、前に、
――「俺、カメラとか好きだから、写真部に入ったんだ」
って言ってたっけ。
私、『これから新聞部のインタビューだ』って思って、少し緊張(きんちょう)してたんだ。
でも、湊くんのすがたを見たとたん、ホッとして、思わず笑顔になってた。
湊くん、部活中なの?
……私がそう声をかけるより早く。
湊くんと杏ちゃんは、おたがいに気づいたと同時に、ピタッとその場に固まっていた。
「杏……」
ほんの少し、しずんだトーンで湊くんがつぶやけば、
「湊…………」
と、同じような声色で杏ちゃんもつぶやく。
えっ……杏ちゃんと湊くんって、知りあいなの?
相手のことをよびすてにしてるってことは、かなり親しい間柄(あいだがら)なのかな?
で、でも、なんだか微妙(びみょう)に気まずそうなふんいきだよね……?
え? え? と、私がまばたきを何度かくりかえした、次の瞬間。
しずんだ空気をふきとばすような声で、杏ちゃんはこう言った。
「ちょうどいいわ湊。記事にのせる四つ子ちゃんの写真をとってよ。私、湊の写真好きだし」
えっ!?
『好き』って言葉を聞いたとたん。
私の心臓が、ギュンッ、ってちぢみあがった。
「あ…………」
ふいにうしろで聞こえたのは、とまどうような声。
おくれて部屋に入ってきた直幸くんが、湊くんのすがたを見て、あわてて目をそらしたみたい。
「あぁ……ナオもいたんだ」
湊くん、直幸くんのことも知ってるんだ。
あ、でも杏ちゃんと知りあいなら、自然とそうなるのかな?
湊くんは少しだけ困ったように笑うと、杏ちゃんのほうを見て、
「しょうがないなぁ。わかったよ。とってあげる」
と答えた。
でも、その笑顔は、いつもの太陽みたいな笑顔じゃなくて……。
杏ちゃんからは少し距離をおいているような、ひかえめな笑顔。
「それじゃ、四つ子ちゃん、窓のところに、一花さんから順にならんでくれるかしら」
「……みんな、もう少し寄って。少しあごを引いて。はい。とるよー」
湊くんに写真をとられるのは初めてだ。
うれしいはずなのに、心がグラグラゆれてて、うれしさがちっともわからない。
「湊、写真のデータ、あとで私のパソコンに送ってね。待ってるわ」
「わかった。帰ったら、すぐ送る……」
湊くんは写真を撮影しおわると、そそくさと多目的室を出ていった。
結局、私とは何も言葉を交わさないまま。
こういうとき、いつもなら、必ず声をかけてくれるのに……。
「姉妹いっしょに取材なの?」
とも、
「緊張してない?」
とも、湊くんはたずねてくれなかった。
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