
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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3 受けて立ちましょう
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「三風~、四月のまくらも持ってきて」
「はーい! ぬいぐるみはどうするー?」
「それも、ついでに干しちゃいましょう」
次の日は土曜日。
いい天気だったので、私と一花ちゃんは、家の二階のベランダで、布団を干していた。
布団の干し方は簡単。
まず、ベランダの柵をぞうきんでふいて、きれいにする。
そしたら、そこに、「よいしょ!」と、かけ布団としき布団をかける。
うすいかけ布団は、風で飛ばされないように、布団用の大きな洗濯バサミでとめる。
これだけ。
しき布団はちょっと重いけど、二人で協力すれば問題ない。
「ふう。やっと全部干せたわ」
一花ちゃんが汗をぬぐう。
ベランダにならんだ、さくら・ひよこ・雲・月のもよう。
ふふ、お布団も四つ子みたい。
「次は、まくらだね」
まくらは、まくら専用のネットに入れて、ハンガーに干すんだ。
四月ちゃんがいつもだいてねているネコのぬいぐるみと、二鳥ちゃんがいつもだいてねているウサギのぬいぐるみも、同じようにネットに入れて干しちゃおう。
ちなみに、ネコのぬいぐるみは、元々二鳥ちゃんのものだったんだけど、いっしょにくらしはじめてしばらくたったころ、二鳥ちゃんが四月ちゃんにあげたんだって。
「ふふっ、ネコとウサギがハンモックにのってるみたいね」
「ほんとだっ」
私と一花ちゃんは、ベランダでクスッと笑った。
「今日はよく晴れてるから、きっとほかほかになるわ。……あ、忘れないうちに、ほら」
「そうだった!」
私はスマホを出して、干したばかりの布団を撮影。
指定のフォームに添付して、送信っと。
自立ミッション『梅雨がやってくる前に布団を干そう』は完了だ。
あ、自立ミッションっていうのは、国のえらい人――富士山(ふじやま)さんっていう、ちょっと変わったおじさんなんだけど――が、毎週出してくれる課題でね。
これをクリアすることは、中学生自立練習計画の参加者の義務なんだ。
ひとつひとつこなしているうちに、私もだんだん、できることが増えてきた気がする。
だって私、この家に来たばかりのころ、
――「布団って、どうやって干せばいいんだろう」
なんて、ちょっぴり不安だったんだもん。
今でも、一花ちゃんにたよっちゃうことは多いけど。
あのころに比べれば、少しは成長したかな?
太陽に向かい、うーんと背のびをした、そのとき。
「♪恋なんてーい~らないよ~かたいー絆がーここにあるんだ~四人がー――」
庭から、二鳥ちゃんの歌声が聞こえてきた。
「二鳥と四月は、下で洗濯物を干してるみたいね。手伝いに行きましょうか」
「うん!」
私と一花ちゃんは、ベランダから部屋に入り、一階へとおりていった。
わが家の洗濯物は、一階の庭にある、物干し場に干すことになってるの。
庭へは、居間の縁側から出ることができる。
「♪四人なら~恋なんていらないーフフフフ~ン――あなたのー……毎日~変わって~――」
「ごきげんね。まだ歌ってる」
一花ちゃんが声をかけると、二鳥ちゃんはキャミソールを干してから、くるっとふりかえった。
そのとなりでは、四月ちゃんがピンチハンガーにくつしたを干している。
一花ちゃんはサンダルをはき、庭へ出ながら言った。
「二鳥、その歌、教室でも歌ってたでしょう。休み時間、一組まで聞こえてたわよ」
「ええっ、二鳥ちゃん、教室でも歌ってるの?」
「うん。いっつも歌ってるで!」
ニカッと笑う二鳥ちゃん。
教室で歌うなんて、私はとてもじゃないけどマネできないなぁ。
私、姉妹といっしょのときは、『四つ子ちゃん、四つ子ちゃん』って注目されてるけど、クラスではあんまり目立たない、地味なキャラだから。
「教室で、歌ったりしたら……ヘンな子って思われて、いじめにあったり、しませんか?」
四月ちゃんは、洗濯物を干す手を止めて、本気で心配してるみたい。
小学生のころの経験から、今でもいじめにあうことをおそれてるんだ。
「シヅちゃん、心配しすぎや。なあ三風ちゃん」
「うーん……私は四月ちゃんの気持ち、ちょっとわかるなぁ」
「あら、どうして?」
「私の通ってた小学校に、『中学にはいじめがあるんだよ。ヘンなことしたら、すぐいじめのターゲットになるんだから』なんて、おどかすようなことを言ってきた子がいたんだ」
だから、私も中学に入学したばかりのころは、
(いじめにあいませんように……目をつけられませんように)
って、ちょっと身がまえちゃってたっけ。
「ヘーキヘーキ。友達二、三人で歌ってるし、もう、そういうキャラで定着してるし、それにうちは歌がうまいから!」
二鳥ちゃんが自信満々に胸をはると、一花ちゃんが苦笑をもらす。
「自分で言う……? まあ二鳥なら、いじめられても、はねかえしそうね」
「それは一花もやろ」
「まあねー」
一花ちゃんはきげんよく、洗濯されたバスタオルを、パン、パン、とふって、シワをのばした。
「だけど、教室であんまりうるさくしちゃダメよ。家なら歌ってもいいけど……えーっと、その曲のタイトル……『四人とも恋なんか知らない』ですっけ」
「『四人なら恋なんていらない』や!」
「おしいわね」
「ぜんぜんおしくないやん。『四人とも恋なんか知らない』やったら、モテへん人らの歌みたいやんか」
漫才みたいなやりとりを聞いて、私たちは青空の下、クスクス笑った。
「『四恋』は有名ちゃうけど、女の子の友情を歌った名曲なんやで。一花もスワロウテイルにハマろ! うち、CDとかライブのDVDとか、雑誌のインタビュー記事の切りぬきとか持ってるから!」
あっ、そうだ!
インタビュー記事といえば。
「また布教が始まったわ」
「二鳥姉さんって……意外とアイドルオタクですよね」
「えぇ、オタクの何があかんの~?」
「あのっ、ねえ、みんな」
私は、なごやかに話している姉妹によびかけた。
「ちょっと話があるんだけど……いいかな?」
◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど、新聞部のインタビューね……」
「あの四つ子見分け方表を書いた人からのお願いなんや」
「そうなの。ごめんね、その場でうまくことわれなくて……」
洗濯物を干しおわってから、私は居間に姉妹を集めて、昨日あったことを報告した。
「大河内、杏さんね……」
話を聞きながら、一花ちゃんは記憶をさぐるように、こめかみに指を当てる。
「どないしたん一花、考えこんで」
二鳥ちゃんがたずねると、一花ちゃんはすぐ首をふった。
「いいえ、なんでもないわ。私、大河内って苗字(みょうじ)の人と、どこかで会ったことがある気がするんだけど、思いだせないみたい……」
「インタビュー、どうします?」
「そうね……………………」
「「「……………………」」」
二鳥ちゃん、私、四月ちゃんの三人は、自然と一花ちゃんに注目していた。
一花ちゃんって、家族以外の他人には、心をゆるさないところがあるから……。
今回はなんて言うかな? って。
やがて、一花ちゃんは顔を上げて、はっきりとした口調でこう言った。
「そのインタビュー、受けて立ちましょう」
「えっ、いいのっ?」
私、感動しちゃった。
だって一花ちゃん、ついこないだまで、
――「私たちに親がいないってバレたら、友達にきらわれるに決まってるんだから」
なんて、かたくななことを言ってたんだもん。
一花ちゃん、ちょっとずつ、考え方が変わってきたのかな?
と思いきや、次に出た言葉は……。
「うまくいけば、新聞部を利用できるかもしれないもの」
「り、利用?」
「ええ。正直ウンザリしてるでしょう、学校でやたらと注目されることにも、おかしなウワサにも。私たちのこと、かくそうとするからこそ、みんな好き勝手なことを想像して、変なウワサを立てるのよ。新聞部のインタビュー記事で、『ウワサはウソですよ。私たち、ただの中学生ですよ』ってことを全校に知らせれば、みんな、『なーんだ』って思って、注目も多少はへるんじゃないかしら。もちろん、私たちが子どもだけでくらしてるってことは、絶対ヒミツよ」
一花ちゃん、心をゆるしたのは、ほんのちょびっとだけだったみたい……。
あ、だけど、そういえば、私、ういなちゃんに似たようなこと言われたっけ。
――「三風ちゃんって、自分たちのこと、あんまり教えてくれない気がするな~。ナゾだからこそ、余計気になっちゃうよ~」
って。
新聞部を利用して、注目をへらす……。
一花ちゃんの作戦、もしかしたら効果があるかも。
「うちは賛成っ」
二鳥ちゃんはピンと手をあげ、明るく笑う。
「スワロウテイルのインタビュー記事とか読んでて、うちも一回インタビューされてみたいなあって思ててん! しかもそれでウワサも消えたら、一石二鳥! ハッ、二鳥だけに?」
「三風はどう思う?」
二鳥ちゃんは「おーい無視かい。すべったやん」って文句を言ってる。
一花ちゃんに聞かれた私は、うなずいた。
「私も……どっちかっていうと、賛成かな。四月ちゃんは?」
「僕はちょっと……不安です……大河内さんって、知らない人だし……」
「大丈夫よ」
不安そうな四月ちゃんに、一花ちゃんがほほえみかけた。
「大河内さんって、四つ子見分け方表の作者なんでしょ? あの表、なんだかんだ、正確でいい記事だったじゃない。私、彼女はそこそこ、まじめな子なんじゃないかって思うの」
「そうそう! あの見分け方表、イラストもめーっちゃかわいかったし。それに、インタビューなんてアイドルみたいでワクワクするやん」
二鳥ちゃんは、やる気満々みたい。
たしかに、あの四つ子見分け方表、最初はぎょっとしちゃったけど、内容はよかったなぁ。
「まあ……姉さんたちがそう言うなら……大河内さんって女子ですよね……? それなら、まあ……僕、女子より男子のほうが十倍くらい苦手なので……不幸中の幸いというか……」
四月ちゃんは、自分を落ちつかせようとするみたいにブツブツ言ってる。
知らない人に対面していろいろ聞かれるのって、たしかに緊張しちゃうもんね。
それに……。
「インタビューを受けるっていっても……私たちが子どもだけでくらしてるってことは、ヒミツにしなきゃいけないんだよね。うまくできるかなぁ……?」
なんだか、私まで不安になってきちゃった。
だけど一花ちゃんは、
「私にまかせて。何を聞かれたらどういうふうに答えるか、考えて、完璧に準備しておくわ」
って、たのもしく笑った。
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