
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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2 インタビューのお願い
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一時間目は国語。
担当の先生は、いつも雑談が多いんだ。
今日は、
「あら宮美さん、今日は髪の毛、結んでないのね。四月さんが座ってるのかと思っちゃったわ」
なんて言われて、はずかしくなっちゃった。
まあ、こんなの、よくあることだけどね。
二時間目は理科。
理科室に移動するとちゅう、階段で、
「にとりん!」
って、知らない女の子によびとめられた。
「にとりん、あのね、集めたノートなんだけど――」
「あ、あのう、私は三風なんですけど」
「わっ、そうなんだ! ……ふふっ、だけど、全然わかんなかったよ。今日は同じ髪型なんだもん。よびとめてごめん。にとりんどこ行っちゃったんだろう。三風ちゃん、まったねー」
どうやら、二鳥ちゃんの友達だったみたい。
こんなことも、しょっちゅうあるんだ。
入学したばかりのころは、「そっくりね」って言われると、
(私に家族ができたんだ!)
って実感して、うれしかったんだけど……。
「そっくりね」がずーっと続くと、ちょっと不便(ふべん)なこともあるんだよね。
やっぱり、髪を下ろしたままなのがいけないのかなぁ。
私たち、顔がそっくりだから、髪型まで同じだと、たぶんだれにも見分けがつかないんだ。
だけど、三時間目は体育だから、お手洗いに寄って三つ編みにするヒマもない。
小学校とちがって、中学校には、二十分の中休みがないから。
とりあえず、運動のジャマにならないよう、髪をうしろでひとつにたばねてみた。
だけど、それが余計に混乱のもと。
私のいる三組と、一花ちゃんのいる一組は、合同で体育の授業をするんだけど……。
「一花! 先生がよんでるよ」
「あっ、ごめんなさい、私、三風です」
「わっ、ごめんねー!」
とか、
「ねえ、一花。サーブの打ち方教えて。むずかしいほうのやつ」
「えっと、わかんないです……私、三風なので……」
「あぁごめん! まちがえちゃった」
とか。
いつもは一花ちゃんがポニーテールだから、かえってまぎらわしくなっちゃったみたい。
ん?
ってことは、みんな髪型のちがいは覚えてくれてるってことなのかな?
体操服を着替えて教室にもどったら、すぐ四時間目の数学が始まる。
そのあと、やっとお昼休み。
給食を食べおわってから、
「よし……できた!」
ようやく私は、お手洗いの鏡で、三つ編みを二本編めた。
二鳥ちゃんが編んでくれたみたいに、おしゃれでゆるふわ……には、なかなかできないけど。
それでも、姉妹でおそろいの、水色の髪飾りをつければ、ちゃんと私、って感じに仕上がる。
「やっといつもの三風ちゃんになったね~」
すぐとなりで、カチューシャをつけたロングヘアの女の子が、のんびりとほほえんだ。
彼女は、私と同じクラスの遠藤(えんどう)ういなちゃん。
……じつは私、友達を作るのがあんまり得意じゃないんだ。
入学して、最初に友達になれたのは湊くんだったけど、女子と男子だから、いつもいっしょにいるってわけにはいかなくてね。
湊くん以外にも、話しかけてくれる人は何人もいたけど、
――「四つ子ちゃんの、宮美三風ちゃんですか?」
なんて、私をものめずらしがるような人ばっかりで。
そんなとき、やっと仲よくなれた女の子が、ういなちゃんだったんだ。
ういなちゃんってば、のんびり屋さんだから、四月の下旬だっていうのに、
――「えー、三風ちゃんって四つ子だったの? すご~。知らなかった~」
なんて言ってたんだよ。
でも、だからこそ、こうやって友達になれたのかも……。
なんて思いだしてたら、ういなちゃん、一枚の紙を広げて、
「ふむふむ……三組で、三つ編みで、水色の髪飾りなのが、宮美家三女の宮美三風……」
何か真剣につぶやいてる。
「え? ういなちゃん、何読んでるの?」
「いや~あたしも流行ってやつを勉強してみようかと」
ぴらっ、とその紙を見せられて、びっくり!
《四つ子見分け方表》
っていう大きい字のタイトルの下には、私たち四つ子のプロフィールが、ずらっと書いてある。
《宮美一花。宮美家長女。一年一組。髪型はポニーテールで、ピンクの髪飾り》
《宮美二鳥。宮美家次女。一年二組。髪型はツインテールで、赤い髪飾り》
《宮美三風。宮美家三女。一年三組。髪型は三つ編みで、水色の髪飾り》
《宮美四月。宮美家四女。一年四組。髪型はハーフアップで、紫色の髪飾り》
しかも、すっごくじょうずで、すっごくかわいい、四人の似顔絵までついてるよ!
「えええっ、これ、何? だれが作ったの?」
「え? これは、新聞部の号外だよ」
「し、新聞部? しかも号外、ってことは……」
「今週入ってすぐくらいだったかな。たくさん印刷されて、学校じゅうに配られたっぽいねー」
「ひえぇ……」
体じゅうが、むずむずする~っ。
こんな似顔絵つきの見分け方表が、全校に配られちゃったなんて。
どうりでみんな、私たち四人の髪型のちがいを覚えてくれていたわけだよ……。
赤くなる私の横で、ういなちゃんは面白そうに笑った。
「いいな~、なんか三風ちゃんたちが、ちょっとうらやましいかも」
「えぇ? 注目されても、いいことばっかりじゃないよ……?」
今朝だって、大勢の人にかこまれて、ちこくしそうになっちゃったし。
でも、ういなちゃんはまじめな顔をしてる。
「そうじゃなくて、なんか特別な感じがうらやましいの~。たとえば、名前とか」
彼女はもう一度、四つ子見分け方表を見た。
「一花、二鳥、三風、四月で、花鳥風月(かちょうふうげつ)になるでしょ。すごいよねえ。四人でひとつの言葉を分けあってるなんて、まさに四つ子って感じで、あこがれちゃうよ。ステキ」
「あ、あはは……そうかな」
「そうだよ~。あたしの『ういな』って名前なんてね、お母さんがテキトーに決めちゃったんだよ。『音のひびきがかわいい』とか言って。ねえ、どうして、一花、二鳥、三風、四月って名前になったの? 三風ちゃんのお母さんとお父さん、花鳥風月って言葉が好きなの?」
うっ……。
この質問は、答えづらい。
だって、私、お母さんにも、お父さんにも、会ったことないんだもん……。
私たち四姉妹は、赤ちゃんのころ、バラバラに施設(しせつ)に預けられ、ちがう場所で育てられた。
この春まで、自分に姉妹がいるってことすら知らなかったんだ。
今は、国が始めた中学生自立練習計画に参加して、自立の練習をするため、子ども四人だけで、ひとつの家でくらしてる。
それだけでも複雑なのに……。
さらにやっかいなことに、私たちのお母さんを名乗る、四ツ橋(よつばし)麗(うらら)さんっていう人まで現れて。
なんと、彼女は大企業・クワトロフォリアの社長夫人だってことが、この前、判明したんだ。
麗さんって、本当に私たちのお母さんなのかな?
私たちだってナゾなんだ。
そんなわけだから、私たちの事情は、友達にはナイショにしてる。
長いし重いしややこしいし……なんとなく、話しづらいもんね。
「えっと……さあ……お母さんとお父さん……どうなんだろ……」
結局、ごまかすみたいな言い方になっちゃった。
そしたら、ういなちゃん、「ふうん……」ってつぶやいて。
「前から思ってたけど……三風ちゃんって、自分たちのこと、あんまり教えてくれない気がするな~。ナゾだからこそ、余計気になっちゃうよ~」
ううっ……いえてるかも。ごめんね……。
にがーい気持ちになりながらも、私は話題が長引かないよう、
「あはははー……そ、そうかも~……」
なんて、せいいっぱい笑ってごまかした。
だれがどんな気持ちで私たちの名前をつけたのか、知る方法なんてないもの……。
――「あたしの『ういな』って名前なんてね、お母さんがテキトーに決めちゃったんだよ」
さっきの、ういなちゃんの何げない言葉を思いだす。
たとえテキトーに決まった名前でも、『テキトーに決まった』ってことがわかってること自体、私にとっては、ちょっとうらやましいや。
「さて、教室もどろっか~……あ、あたし、購買寄らなきゃだから、三風ちゃん先帰っててー」
「うん、わかった」
お手洗いでういなちゃんと別れて、私はひとり、自分の教室へと向かう。
そのとちゅうにあるのは、六組の教室、五組の教室、四組の教室だ。
教室って、同じ形、同じ広さなのに、クラスによって、ふんいきがけっこうちがう。
掲示物が、シンプルなクラスもあれば、ちょっとこだわってるクラスもあって、面白いな。
そんなことを思いながら、ふと、五組の前にさしかかると……。
一人の女の子が、ろうかでうで組みをして、こっちを、じいっ、と見つめているのに気づいた。
大きなつり目に、すっと通った鼻筋。
おしゃれなボブカットに、ピンで器用にとめられた前髪。
この子、どこかで、会ったことがあるような……。
……あっ!
今朝、ろうかを走る私を、ギロッてにらみつけたあの子だ!
そう気づいて、思わず身をすくめると、
「三組の宮美三風ちゃんよね」
サバサバした言い方で、いきなり声をかけられた。
「へっ……わ、わかるん、ですか」
髪型を三つ編みにしたからかな?
だけど、ほとんど初対面なのに、やけに確信を持った言い方だなぁ……。
と思ったら、彼女が取りだしたのは、あの、四つ子見分け方表。
「わかるに決まってるじゃない。これの文章を書いたの私だもの」
「えっ、そうなの?」
この子が四つ子見分け方表の文章を書いたんだ!
ってことは、新聞部なのかな?
彼女が指さした『四つ子見分け方表』というタイトルの下には、小さい字で、
《文・大河内杏 イラスト・nao》
って書いてある。
この名前、えっと……。
「おお、かわ……」
「おおこうち、あん、よ」
彼女――大河内(おおこうち)さんは、そう言って、くちびるの両はしをきゅっと上げ、私を見た。
「突然だけど、お願いがあるの」
「へっ……な、何ですか?」
「たいしたことじゃないわ。新聞部の取材――私のインタビューを受けてほしいの」
「えぇえーっ」
インタビュー!?
予想外のお願いに、私、思わず変な声をあげちゃった。
「あなたも知ってると思うけど、今、学校じゅうに、四つ子ちゃんのいろんなウワサが流れてるでしょ? その真相もふくめて、四人にインタビューをして、学校新聞の記事にしたいのよ」
え~~~っ!?
「記事……!? それは、ちょっと……」
私たち、人に言えないヒミツがいくつもあるのに、インタビューなんて受けられないよ。
しかも、その内容が、学校新聞の記事になるなんて……!
私、すぐに、『それはちょっとムリかも……』って言おうとした。
だけど、熱心にたのみごとをされたら、ことわるのって、けっこうむずかしい。
「お願い。そう言わずに、応じてくれない? 時間は取らせないわ。三十分くらいですむから」
「えっと……大河内さん」
「杏(あん)でいいわ」
「あ、杏ちゃん……」
「みんなが知りたがってることを調べて、わかりやすく伝えるのは、情報発信の力を持つ新聞部の使命だと私は思うの」
「あのう……」
「もちろん、みんなが知りたがってる情報を持っている人は、よほどの事情がないかぎり、みんなにそれを提供すべきだと思うの」
「そのう……」
やっぱりダメだぁ~……。
杏ちゃん、すごくハキハキ自分の意見を言うから、私、気おくれしちゃって、全然うまく思ってることが言えないよ。
――キーンコーンカーンコーン……
とうとう、授業開始五分前のチャイムが鳴っちゃった。
「ほかの姉妹の子にも伝えておいて。来週の月曜の放課後、この教室の前で待ちあわせしましょ。またね!」
「あぁあ、あの……」
あぁ、もうすぐ先生が来ちゃう。
これ以上ここにいたら、きっと迷惑になっちゃうよね。
私も自分の教室に帰らないといけないし……。
「はぁあ……」
やっぱり、注目されたって、全然いいことばっかりじゃないよ。
私はしかたなく、杏ちゃんと別れて、トボトボと自分の教室にもどったのだった。
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