
三風たち四つ子の四姉妹は、学校でも大注目! テレパシーが使えるとか、毎日こっそり入れ替わってるとか、いろんなウワサが広がって、ついに新聞部に取材されることになっちゃった!?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第3巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
……………………………………
1 学校のアイドル
……………………………………
よく晴れた五月の空がまぶしい、朝の、いつもの通学路。
「♪恋なんてーい~らないよ~かたいー絆(きずな)がーここにあるんだ~――」
見なれた街に、かろやかな歌声がひびいていく。
それは、私とおんなじ声。
「♪四人がーいっしょ~ならーいつどこにだって~行けるものね~――」
でも、私が歌ってるんじゃないんだよ。
歌声の主は、すぐとなりを歩いている、私のお姉ちゃんの、宮美(みやび)二鳥(にとり)ちゃん。
よーく聞いてみると、二鳥ちゃんの声は、私の声より、ちょっとだけ低めかな?
「二鳥、歌ってないでさっさと歩いて。ちこくしちゃう」
注意したのは、同じく私のお姉ちゃんの、宮美一花(いちか)ちゃん。
すっごくよく似た声だけど、私や二鳥ちゃんの声より、少し大人びているかも。
「そんなあせらんでもええやんか。この曲、最近ハマってるねん。スワロウテイルの『四人なら恋なんていらない』」
二鳥ちゃんは歌うのをやめ、そっくりな声で言いかえす。
スワロウテイルっていうのは、二鳥ちゃんの好きな四人組女性アイドルグループのことなんだ。
「このまま早歩きで行けば、おそらく間にあうと思いますよ」
腕時計を見ながら冷静に答えたのは、私の妹の、宮美四月(しづき)ちゃん。
彼女の声も、私たちの声と、ほとんど同じに聞こえるけれど、わずかに高くて細い。
「あら三風(みふ)、何笑ってるの?」
「ううん、なんでもないの。みんな声、そっくりだなって思って」
「そっくりなのは、声だけとちゃうやん?」
私たち四人は、信号が赤になった横断歩道で足を止める。
建物のガラスに映る、制服すがたの自分たちを見て、私・宮美三風は小さく笑った。
四人とも、同じ制服で、同じ長さの髪で、そっくり同じ顔。
だれがだれだか、わからないよね。
一花ちゃん、二鳥ちゃん、私・三風、四月ちゃんの四人は、四つ子の四姉妹なんだ。
「青になったわ」
一花ちゃんが横断歩道をかけだす。
私たちもあとに続いた。
すると、結っていない四人の黒髪が、うしろにさらりとなびいた。
じつは……今日はたまたま四人ともねぼうして、朝から大あわて。
顔は洗って、歯もみがいたけれど、髪を結う時間はなかったんだ。
今朝、布団の中でぼんやり目を覚ましたとき、
(こんがり焼いたフレンチトーストが食べたいなぁ……卵と牛乳に、パンをつけておかなきゃ)
なーんて思いながら、もう一度、うとうとねむっちゃって。
次にハッと目を開いたら、フレンチトーストなんて絶対ムリな時刻!
朝食は、ロールパンと牛乳になっちゃった。
私たち、自立の練習をするために、子ども四人だけでくらしているんだけど、こんなふうに、たまに失敗しちゃうこともあるんだよね。
「これからは、ねむくても、二度寝は厳禁ね」
せかせか足を動かしながら、一花ちゃんが言った。
「すみません……僕、『姉妹のだれかが起こしてくれる』って、甘く考えていたのかも……」
「私も……。ついねむっちゃった。反省だよ~」
四月ちゃんと私が答えると、二鳥ちゃんが歩きながら、おもむろにうでを組む。
「にしてもや。四人とも、同じ日に二度寝してねぼうやなんて」
「「「「さすが四つ子」」」」
四人のそっくりな声が、ぴったりハモった。
「ねぼうまで似やんでもええっちゅーねん」
二鳥ちゃんがつっこむと、私たち、こらえきれなくなって、笑いだしちゃった。
……ま、ねぼうはしちゃったけど。
朝ごはんはちゃんと食べられたし。
私たち四人とも、元気いっぱいだし。
あっ、もう私たちの通う、あやめ中学校の校舎が見えてきたし。
「よかったー、間にあったね」
私がホッとしてそう言うと、一番前を歩いていた一花ちゃんが、ゆっくりふりかえった。
「どうかしら……最後の関門がありそうよ?」
「え?」
私は首をかしげて、何げなく前を見て、
「「「ううっ……」」」
二鳥ちゃん、四月ちゃんと、三人同時にどんより。
校門近くに、ざっと十人くらいの生徒たちが集まって、こっちを見てる。
「ねえ! あれ四つ子ちゃんじゃない?」
「あ、本当だ四つ子ちゃんだ~!」
「今日はみんな同じ髪型なんだな」
「おはよう!」「おはようっ」「おはよーっ」――
「キャー」「こっち向いて~」「かわいい~!」――
男子もいれば、女子もいる。
一年生はもちろん、二年生も、三年生もいる。
校門をくぐり、校庭を歩いていくうちに、人が人をよんじゃって――。
私たちが昇降口にたどりついたときには、もう黒山の人だかり!
一卵性の、そっくりな四つ子なんて、めずらしくて目立つもんね。
入学してしばらくたつのに、私たち、まだ学校で有名人あつかいをされてるんだ。
毎日ってわけじゃないけど、だいたい三日に一回くらいは、こんな感じでかこまれちゃう……。
「まったく、よくあきないわね」
一花ちゃんはあきれてる。
「おはよぉ! みんないつもおおきに! 今日もうちは元気やで!」
二鳥ちゃんは、まるでアイドルみたいにはしゃいでる。
「……………………………………」
四月ちゃんは、一花ちゃんと二鳥ちゃんのうしろにかくれて、かたをすぼめてる。
「あの、えっと……お、おはようございます……どうも……」
私、こういうとき、いつもどう反応していいか困っちゃう。
「おはよう」って言われてるのに、無視するのは悪いし。
かといって、人数が多すぎて、一人ひとりにはあいさつを返せないし。
一花ちゃんみたいに、
「どいてくれる? うわばきが取れないでしょ」
っておこりたい気もしてくるし。
二鳥ちゃんみたいに、
「いつもありがと~」
なーんて、かわいく手をふっておけば、うまくかわせるのかな? なんて気もするし。
いっそのこと、四月ちゃんみたいに、だまって下を向いちゃいたい気分にもなる。
とにかく、注目されるのって、落ちつかないや。
ただ囲まれるだけなら、まだいいかもしれないけど、最近じゃ、
「あの四つ子ちゃん、有名な『四つ子探偵』のモデルになったって本当?」
「えっ、私は四人でこっそり動画投稿やってるって聞いたよ。世界じゅうに何万人もファンがいるんだって!」
「私、あの四人は、毎日だれかとだれかが、こっそり入れかわってるって聞いたー」
なんて、根も葉もないウワサが広がっている始末で。
今日もほら、ささやく声が聞こえてくる。
「新しいウワサを聞いたの」
「えっ、なになに?」「教えてっ」――
「あの子たちね、じつは超能力者で、四人のあいだだけでテレパシーが使えるんだって!」
な……何それ……。
なんだか本当にはずかしいよ……。
――キーンコーンカーンコーン……
「ああっ」
予鈴が鳴った!
あと五分でホームルームが始まっちゃう!
「まずいわ」
「うそやん、もうこんな時間?」
「ち、遅刻しちゃうよ」
「急ぎましょう」
私たちはあわててクツをはきかえて、自分たちの教室へかけだした。
階段をのぼって、一花ちゃんと二鳥ちゃんは三階、私と四月ちゃんは二階へ。
ま、間にあうかなあ?
私のクラスの先生、いつもちょっと早めに教室に来ちゃうんだよ~。
四月ちゃんと二人で、ろうかをバタバタ走ってたら……。
五組の教室の前にいた、知らない女の子と目が合った。
――ギロッ
ひえっ……!?
今、あの子、私をにらまなかった?
足音、うるさかったのかな?
そもそもろうかって走っちゃいけないし……ううっ、ごめんなさい!
ふりかえることもできず、そのままダッシュ。
私は五組を通りすぎ、四組も通りすぎ、自分のクラス・三組へ飛びこんだ。
と同時に、
「きりーつ」
日直の子が号令をかけた!
やっぱり先生、もう教室に来てたんだ。
先週あった席替えで、私の席は、真ん中の列の、うしろから二番目。
なんとか自分の席にたどりついて、カバンを持ったまま、
「礼、着席ー」
ガタガタ、といくつものイスが鳴らされて、私はみんなと同じように席につく。
す……すべりこみ、セーフ……?
だけど……私、やっぱりちょっと、目立っちゃったかな?
不安な気持ちで見回すと、前のほうに座ってる男の子が、くるりとふりかえって私を見た。
「ギリギリセーフっ」
彼――野町(のまち)湊(みなと)くんは、口の形だけでそう言って笑う。
湊くんの笑顔は、いつもどおり、明るくて、あったかくて。
目にしたとたん、不安な気持ちが、シュワッとあわになって消えていった。
「ありがとう。おはようっ」
私も口の形だけでそう言って笑う。
ちこく寸前だったけど、一番に湊くんとあいさつできて、とってもうれしいな。
私、この前、湊くんに、私たち姉妹が子どもだけでくらしてるってことを、やっと打ちあけることができたんだ。
施設で育ったってことや、中学生自立練習計画のことは、言いそびれちゃったけど……。
でも、いつかは全部伝えて、湊くんともっと仲よくなれたらいいな、って思ってるの。
うんっ、元気も出たし、今日も一日、がんばろうっと。
書籍情報
注目シリーズまるごとイッキ読み!
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼