
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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16 私たちは四姉妹
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「できたで、シヅちゃん」
黒髪に、ちょこんとのった紫色の髪飾り。
うん、やっぱり思ったとおり、とっても似合ってる!
私は鏡の中の四月ちゃんを見てにっこりほほえんだ。
髪をハーフアップに結われた四月ちゃんは、ゆっくりまばたきをくりかえしてる。
「これやったら首の後ろはかくれてるし、上品でシュッとしてて、シヅちゃんにぴったりや!」
満足げに、何度もうなずく二鳥ちゃん。
「本当ね、かわいい」
四月ちゃんの肩をだいて、ほおずりする一花ちゃん。
「本当にかわいい!」
私が後ろからだきつくと、四月ちゃんは「ふぇっ」と変な声をあげて、はずかしそうに両手で顔をおおっちゃった。
私たち姉三人は「あははっ」と笑って、かわるがわる四月ちゃんの頭をなでる。
それから、居間へ移動して、四人の写真をとって富士山さんに送った。
今回の自立ミッション「四人でおそろいのものを身につけよう」も達成だ。
座布団にこしを下ろして、ほっと一息ついたころ、
「……にしても本当になんだったのかしらあの女の人。っていうか、四月も四月よ。あの人に会ったことがあるの? 一人で? 一体どこで? 何回?」
一花ちゃんにやつぎばやに質問されて、四月ちゃんは今までにない早口で返事をした。
「げ、下校中に声をかけられて、車で喫茶店に連れていかれて二回くらい話をして……」
「ダメでしょ、知らない人についていっちゃ。誘拐(ゆうかい)されたらどうするの」
「ごめんなさい……。でも、あの女の人、僕らと顔が似てたから……」
しゅん、と肩を落とす四月ちゃん。
私は麗さんの顔を思いだす。
本当に、他人とは思えないくらい、よく似てたよね……。
しかも、ただ単に似てた、ってだけじゃなくて。
──「証拠がほしいなら、DNA鑑定したっていいのよ」
自信満々に言うってことはやっぱり──。
「あの人って……私たちの、本当のお母さんなのかな……?」
だとしたら、追いはらうようなことをして、本当によかったのかな……?
「たとえ……たとえ本当のお母さんだとしても……」
「なんぼほんまのお母さんでも、うちらを離そうとすんのは悪者やわ。ていうか、あんなオバハン、お母さんやとしても、お母さんとちゃうわ!」
言葉を迷う一花ちゃんとは正反対に、二鳥ちゃんはバシッと言いきった。
「うちはあのオバハンほんまに好かん! 何が『都合』や! 『一番かわいそうな子を一人だけ引きとる』や!」
二鳥ちゃん、ぎゅっとこぶしをにぎって、目をつりあげてる。
「どうせあのオバハン、施設の人とか学校の人とかに聞いて、こっそりうちらのこと探ったんやろ。そんで『シヅちゃんだけ髪飾りつけてないからシヅちゃんが一番かわいそう。一番かわいそうな子は簡単に言うこと聞きそう』とか思たんやろうけど、ざーんねんでした! シヅちゃんは全然かわいそうな子ではありません~!」
ころっと表情を変えた二鳥ちゃんは、四月ちゃんにだきついて思いきりほおずりをした。
「ふっ、えぇえ~!?」
四月ちゃん、顔を真っ赤にしてあわててる。
あっ……そういえば、前に湊くんがスマホのメッセージで「三風ちゃんに似てる女の人が、四つ子のことを聞いてきた」って言ってたっけ。
その女の人って、麗さんだったんだ。
「そうね……DNA鑑定の話だって、ハッタリってこともあるものね」
一花ちゃんは口ではそう言うけど、表情はやっぱり不安そう。
「ねえ、四月ちゃんは、どう思う?」
私も不安になってきて、四月ちゃんの意見も聞いてみたいと思った。
四月ちゃんが麗さんと二人で話したとき、何か気づいたことがあるかもしれないから。
「え……あの、えっと……」
四月ちゃんはだまりこんで、じっとうつむいた。
その目には、今までの四月ちゃんにはなかった、キラリと冴えわたる光が宿っている。
数秒ののち、彼女はスッと顔を上げた。
「僕もどうかしてました……やはりあの女性の主張は不合理です。身なりからも推察できるように、あの人は相当裕福な身分のはずなんです。僕と二人で会ったときも、ものすごく大きなリムジンがむかえに来ましたし、喫茶店の支払いだってブラックカードでした。経済的に十分すぎるほどの余裕があるにもかかわらず、実の子どもを一人しか引きとらないなんて……血のつながりはともかく、親としての資質に欠けていると思わざるをえません」
私たち、ぽかんと口を開け固まっちゃった。
無口だった四月ちゃんから、あんまりにもスラスラと言葉が出てきて、本当にびっくりして。
やがて、一花ちゃんが何度もまばたきをしながらつぶやく。
「あんた……探偵なの?」
四月ちゃんは照れたようにうつむいて、
「推理小説とか、好きです……施設にいるのも学校にいるのもイヤで、図書館によく行ってて」
なんて言っている。
そういえば、お母さんからの手紙が来たときも、手紙がじかに郵便受けに入れられたって、真っ先に気づいてたっけ。
四月ちゃんって、実はすっごく頭がいいのかも!
思わぬ一面を発見して、私、なんだかうれしくなった。
「すごいね四月ちゃん! ところで……ブラックカード、って何?」
わからなかったことをたずねると、となりにいた二鳥ちゃんがニヤッと笑って答えてくれた。
「黒いカードや」
「えーっ、そのまんまじゃん」
「ウソウソ。ケタちがいのお金持ちしか持たれへんクレジットカードやと思う。よう知らんけど」
……ケタちがいの、お金持ち。
私も、さっきの四月ちゃんと同じようにじっと考えこんだ。
麗さんって……何者なんだろう?
本当に、本物のお母さんなのかな。
だとしたらどうして、一人しか引きとらない、なんて勝手なことを言うんだろう?
私は、お母さんの残した水色のハート形のペンダントを、服の上からにぎりしめた。
麗さん「またすぐに来る」って言ってたし……。
今度こそ、私たち、バラバラにされちゃうんじゃ──。
「四月、何か他に気づいたことない?」
一花ちゃんはあせったような口調で、四月ちゃんにそう聞いた。
「……そういえば……ちょっと待っててください」
四月ちゃんが自分の部屋から持ってきたのは、白い、大きめのハンカチ。
「これ、あの女の人にもらったものなんです。昨日、雨でカバンがぬれちゃって……でも、僕、たまたまハンカチを学校に忘れて持ってなくて……そしたら『あげるわ』って。でも……こんなハンカチじゃ何の手がかりにもなりませんね……」
肩を落とす四月ちゃん。
「見てみてもいい?」
何げなく、私はそのハンカチを広げてみた。
つやつやした高級そうな生地で、フチにはレースがついていて──。
「ん……?」
ハンカチのはしっこに、かわいいししゅうがされている。
ピンク、赤、水色、紫色。
四色の葉を持つ、四つ葉のクローバーだ。
かわいい! 私たち四人の好きな色と同じだね。
あれ……? でも、このマーク……。
…………どこかで見たような…………?
そう思ったとき。
──ぐきゅるるる~~~…………
「わっ……!」
ふいに私のお腹が、マンガみたいな音を鳴らした。
真っ赤になった私に、みんなが、ふふっ、と笑う。
すると、空気を変えるように、一花ちゃんが、パン! と大きく手をたたいた。
「さあ、朝ごはんにしましょ。家事を片づけたら、お昼からケーキを買いに行くのよ」
「ケーキ!?」
私はパッと顔を上げた。
「な、シヅちゃんは何ケーキがええ?」
「えっ…………」
二鳥ちゃんがたずねると、四月ちゃんは目を見ひらき、だまりこんだ。
「そうそう。今日はね、四月の好きなケーキを買おうかと思うんだけど、どうかしら」
一花ちゃんが、ケーキ屋さんのパンフレットを出してきて、机に広げた。
いちごのケーキ、フルーツケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ。
いろんな種類の、おいしそうなケーキの写真がのっている。
「そんな……いいんですか。みんなの誕生日なのに」
遠慮がちにうつむく四月ちゃんの背を、二鳥ちゃんがぱしぱしたたいた。
「ええのええの。今年はシヅちゃんの好きなケーキ。来年は三風ちゃん。再来年はうち。その次の年は一花の好きなケーキにするから」
「いいね、それ!」
私もうきうきしてきた。
「一周したら、また次の年から、四月ちゃん、私、二鳥ちゃん、一花ちゃんの順番なんだね」
「……僕たち、ずっと家族なんですね」
当たり前のことを、今初めて気づいたというように、四月ちゃんが言った。
「そうよ」「せやで」「ずっと家族だよ」
三人同時に笑いかける。
当たり前のことだけど、これってすごいことだよね。
家族は、離れない。
いつまでたっても、何が起きても、ずっと家族なんだもん。
「僕……」
四月ちゃんはしばらく考えて、
「この、フルーツケーキがいいです」
ちゃんと聞こえる大きさの声で、そう言ってくれた。
──「なんでもいいです」「どっちでもいいです」
遠慮ばかりしていたあの四月ちゃんは、もういないんだ。
あらためてそう感じるとうれしくて、私は四月ちゃんの手をきゅっとにぎった。
二鳥ちゃんも満足そうに笑って、ぴょん、とはねるように立ちあがる。
「よっしゃ! 夕方からはみんなでパーティーや!」
「パーティー!? やったー!」
私が立ちあがりざまに、思いっきりバンザイをすると、
──パーン!
「きゃっ」「わっ」「ひゃっ」「──っ」
爪が当たって、大きな風船がひとつ割れちゃった!
思わずみんな肩をすくめる。
一瞬ののち、ゆっくりと顔を上げると──。
ピンク、赤、水色、紫色。
風船の中に入っていた四人の色の紙吹雪(かみふぶき)が、ひらひらと華やかに舞いおどっていた。
「桜みたい……」
紙吹雪入りの風船には反対だったはずの一花ちゃんが、うっとりとそうつぶやくと、
「結婚式、みたい」
小さな声で四月ちゃんが言い、うれしそうににっこりした。
「十三歳、おめでとう!」
二鳥ちゃんが楽しそうにさけび、私もつられて大きな声で言った。
「家族になれた、お祝いの紙吹雪だね!」
それから、だれからともなく、笑いだした。
四人の髪には、おそろいの髪飾り。
笑い声のひびく中、朝日に輝くそれは……。
雨のあがった空から舞いおりた、虹のかけらみたいに見えた。
最後まで読んでくれてありがとう! 書籍版や電子書籍版では、佐倉おりこさんのステキなさし絵が見られるよ。ぜひ書店さんや電子書籍ストアでチェックしてね!
4月14日(月)には、シリーズ第2巻『四つ子ぐらし② 三つ子探偵、一花ちゃんを追う!』を1冊まるごと公開予定! たのしみにまっていてね。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318404
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