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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし① ひみつの姉妹生活、スタート!』第15回 お母さん、あらわる!


私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話はコチラから

……………………………………

15 お母さん、あらわる!

……………………………………

 ──ピーンポーン

 だれだろ、こんなときに……。

 全員が同時に玄関をふりかえった。

 ──ピンポンピンポーン

 だれも口を開かない中、何度も鳴らされるチャイムの音。

 ……やっと止まった?

 と思ったら、

「ごめんくださーい」

 次に聞こえてきたのは、女の人の高い声。

 すると、その声に吸いよせられるように、四月ちゃんがふらふら玄関の方へ歩きだして……。

「し、四月ちゃん?」

 つられて、私たちも玄関に移動して、四人そろってドアを開けた。

 ドアの前に立っていたのは、高そうなスーツを着た女の人。

 上品なハイヒール。いかにも高級そうなハンドバッグ。

 宝石のついた指輪に、ネックレス、イヤリング……。

 下から上に視線を上げていって──私は言葉を失った。

 似ている。

 顔が、私たちに似ている!

 絶句する私たちをよそに、女の人は、カツン、と一歩こちらにふみだしてきた。

「こんにちは。四月以外の三人に会うのは初めてね。私、あなたたちのお母さんよ」

「「「えっ……!?」」」

 私とお姉ちゃんたち、三人の声が重なる。

 ウソ………………お……お母、さん……!?

 私、頭が真っ白になって、まばたきすらできない。

 胸が苦しくて、呼吸がどんどん乱れていって…………。

 一花ちゃんも二鳥ちゃんも、目をいっぱいに見開いたままこおりついている。

「名前は麗(うらら)。宮美麗っていうの。今までさみしい思いをさせちゃって、ごめんなさいね」

 にこやかな笑み。

 なんだか、ちっとも悪いと思っていないような口調だけど……。

 この人が……この人が、本当にお母さんなの?

「う、ウソや……ウソやっ! 何言うてんねん!」

 二鳥ちゃんがふるえる声でさけんだ。

 一花ちゃんも、ハッとわれに返ったように口を開く。

「あなた……一体、何者なんですか」

 落ち着いた低い声には、大人なみの迫力がある。

 ところが、その人──麗さんは少しもひるまない。

「うふふふ、聞いてなかったの? あなたたちのお母さんだって言ってるじゃない。この顔を見ても、まだうたがってるのね? 証拠がほしいなら、DNA鑑定したっていいのよ」

 そう笑って、自信満々に自分の顔を指さした。

 た、たしかに……顔、似てるし……やっぱり、本当のお母さんなの?

 でも……っ。

 足を床にぬいつけられたように、立ちつくす私たち。

 その様子に満足したのか、麗さんは余裕たっぷりの口調で、こう宣言した。

「約束どおり、むかえに来たわよ」

 むかえに? ……あっ!

 その言葉で、私、お母さんを名乗る人からとどいたあの手紙のことを、急に思いだした。

 ──《近いうちにむかえに行きます》

 たしかにそう書いてあった……!

 ほかには? ほかには、何て書かれてた!?

 頭を必死に動かし、思いだしたとたん……私、くずれおちそうなほどふるえあがった。

 たしか、一番かわいそうな子を、一人だけ引きとるって……!

 同時に、昨日、夢と現実の間で聞いた、四月ちゃんの言葉がよみがえってきた。

 ──「今日だけ……そうします」

「まさか──」

 顔を上げた瞬間、

「行きましょう、四月」

 麗さんがいきなりろうかへ上がって、四月ちゃんのうでを、ぐいっと引っぱった。

「「「や、やめて!!」」」

 お姉ちゃんたちと私は、同時に四月ちゃんに飛びついた。

 三人で思いきり引きはなす力が勝って、四月ちゃんは私たちの方へ倒れこむ。

「ど、どういうことなの、四月ちゃん」

 私が目線を合わせるようにして聞いても、四月ちゃんは無言でふるえるばかり。

 麗さんは、そんな四月ちゃんの顔をのぞきこむようにして、猫なで声を出した。

「どうしたの四月。昨日も約束したでしょう。あなたが姉妹の中で一番かわいそうな子だから、今日この家を出て、これからはお母さんといっしょに暮らすって」

「「「えっ!?」」」

 また同時に上がる、私たち三人の声。

 四月ちゃんだけは、目を見開き、体を硬くしている。

 昨日もって……。

 じゃあ、学校で私が見たのは、やっぱり四月ちゃんだったんだ……!

 車の助手席に乗っていた女の人は、麗さんだったんだ!

 あっ、まさか、前に「夕ごはんは先に食べてください」ってスマホで連絡して遅くなったときも、この人と会っていたの?

 私は四月ちゃんの肩をつかむ手にグッと力をこめる。

 でも……本当に麗さんがお母さんなら、どうしていいかわからないよ。

 夢にまで見たお母さん。

 ずっと前から、ずっとずっと会いたかったお母さん。

 なのに。

 そのお母さんが、私たち家族を引きさこうとするなんて……!

 一体どうして!?

「さ、あなたたち、さっさとそこをどいて。四月をちょうだい」

 麗さんは野良猫でも追いはらうように「シッシッ」と手を動かした。

「……なんでですか?」

 私は思わず立ちあがり、一歩前に出た。

「なんで一人だけなんですか!? なんで四月ちゃんなんですか? 私たち、やっと……やっと家族になれたところだったんです。ずっとひとりぼっちで、つらくて、それでっ……ようやく家族ができたと思ったのに……!」

 私は必死にさけんだ。

「そうよ……! 本当のお母さんなら、こんなひどいことしないわ!」

 一花ちゃんは四月ちゃんをかばうように、大きくうでを広げた。

「せやせや! なんやのあんた、勝手に出てきて。シヅちゃんはうちらの大事な妹や!」

 二鳥ちゃんも負けじとどなる。

 だけど麗さんは、あざ笑うようにこう言った。

「家族……ね。四月がそう言ったの?」

「……それ、は……っ」

 そうだ、まだ四月ちゃんの口からは聞いていない──。

 私が言葉をつまらせたのをいいことに、麗さんはサッと四月ちゃんの手をとった。

「そんなことだろうと思ったわ。一体、勝手なのはどっち? 私は事前に手紙で、むかえに行くって、ちゃーんと伝えてあったでしょう。そもそも……家族? 妹? 本気でそう思っていないんじゃない? 鏡で見てごらんなさいよ」

 麗さんが細い指を立て、真っ赤なマニキュアが光る爪で、スッと玄関の大きな鏡を指さす。

 そこに映るのは、同じ顔をした四姉妹の姿。

「四月だけがパジャマのまま。髪も結っていない。仲間はずれにしてるのね。かわいそうに」

「ちっ、ちがうもん!」

 だまってなんていられない。

 私は四月ちゃんと麗さんの間に割りこみ、ありったけの声でさけんだ。

 だけど、その先の言葉が出てこない……。

 そんな私を見て、麗さんは落ちついた調子で続ける。

「あなたたち、四月の過去を何も知らないんでしょう。それもそうよね。四月から何ひとつ聞かされてないんだもの。私は知ってるわ。ちゃんと調べたからね。いじめにあっていたことも、大切なお友達を巻きこんじゃったことも、そんないじめから逃げるようにここに来たってことも」

 四月ちゃんが、ううん、姉妹全員が息をのんだ。

「辛い過去を知りもしないで、よく家族だなんて言えるわね。四月は私と暮らした方がずっと幸せになれるのよ。四月のことを何も知らないあなたたちは、お姉さん失格よ。四月を引きとめる権利なんて、あなたたちにはないのよ」

「……ち、ちがうもん、私、し、知っ……」

 悔しさと怒りと混乱で、頭の中が赤や白にチカチカと点滅(てんめつ)した。

 ぐちゃぐちゃにからまった気持ちが押しよせて、うまく言葉が出てこない……!

 張りつめた心の糸がプツンと切れそうになったとき。

 私の背中を、二人のお姉ちゃんが、ぐっと支えた。

 強い光を宿したまなざしで、二人は大きく声を張る。

「うちらかて、知ってるわ!」

「四月の過去も、どんな思いでここに来たのかも!」

「「えっ…………!?」」

 私も四月ちゃんも息をのんで、お姉ちゃんたちにバッと顔を向けた。

「ごめんね。昨日、聞いてたの」

「うちはそれを一花から聞いた!」

 二人は、たのもしい声で答えた。

 そっか……!

 私の部屋と、一花ちゃんの部屋を仕切っているのは、ふすま一枚。

 二人の部屋は、音がほとんどつつぬけだったんだ……。

 一花ちゃんも二鳥ちゃんも、四月ちゃんのこと、ちゃんと知ってるんだ!

 そう思ったら、目の前がぱっと明るくなった。

「なあシヅちゃん。うちらみーんなシヅちゃんのことが好きや。シヅちゃんに会えてうれしかった。出ていくやなんて言わんといて!」

 二鳥ちゃんが四月ちゃんの空いている手をぎゅっと握った。

 その目は、まじりっけなしのあたたかい色に満ちていて。

「いじめられて逃げてきたなんて、それがどうしたのよ。うまく逃げきれてよかったわ。私たちみんな、大事な妹が無事で本当によかったって思ってるのよ!」

 玄関じゅうにひびくような声で、一花ちゃんが言った。

 その眉は、どこか怒ったように勇ましく寄せられていて。

 二人を見ているうちに、体の奥から、まばゆく輝くような勇気があふれだしてきた。

「行かないでっ……行かないで四月ちゃん! 私たちは四姉妹なんだよ! 四月ちゃんは私たちの大切な家族なの!!」

 人生で一番大きな声で、私はさけんだ。

 麗さんは、いらだたしげに眉をひくつかせ、ヒステリックにどなる。

「そんなの関係ないわ! 四月は言ったのよ! 私と暮らすって!!」

 そして、こう言った。

「四月が家族だと思ってるのはね、あなたたちじゃない! 私なの!」

 私の心臓から血がふきだしそうになった。

 四月ちゃんが私たちを家族だと思ってないなんて、そんなことあるわけないじゃない……っ!

 四人で過ごしてきた日々が、次々に頭の中をかけめぐる。

 ケンカしたり、辛かったことを思いだしたり、大変なこともあったけど、家族がいる、姉妹がいるって思ったら、うれしくて、楽しくて、幸せで……私たち、いつも笑って……。

 ……笑ってた?

 四月ちゃんは、笑ってたっけ?

 あれ? ──あれっ?

 ひとつも、笑顔を思いだせないよ。

 四月ちゃんは──四月ちゃんだけは、笑ってなかった……。

 私たちが勝手に家族だって思ってただけで、四月ちゃんは、もしかしてずっと──。

「──ちがう!」

 冷えきった空気に、声がひびいた。

 それは、今まで聞いたことのないような、四月ちゃんの大声だった。


「姉さんたちは、僕の家族だ!」


 一瞬、夢を見ているのかと思った。

 姉さん。

 家族。

 今……そう言った?

 胸の中に強い気持ちが押しよせて、目の奥が熱くなる。

 すーっと、涙が私のほおを伝っていく。

「……何言ってるの、四月? あなたはこの家に居場所がなくて、私と家族になりたいから、私のところへ来るって言ったんでしょう?」

 麗さんが、怒りに声をふるわせた。

「ちがう……僕は、……姉さんたちを、いじめとかそういう不幸なことに巻きこみたくなかったから……! やっと出会えた大切な家族だから絶対に傷つけたくなくて、だから離れようと思ったんです。お母さんは……あなたは僕のお母さんだとしても、僕の──僕の家族じゃない!」

 その細い体のどこにそんな力があるのかと思うほど力強く。

 四月ちゃんは麗さんの手を、バッ! とふりほどいた。

 そして、もう一度、大きく息を吸う。

「──姉さんたちは、僕を受けいれてくれた。僕はこばんだのに、それでも離さないって、家族なんだって言ってくれた! だから、だからこそ……、僕は……っ」

 大粒の涙といっしょに、四月ちゃんから言葉がぽろぽろとこぼれでた。

 一花ちゃんと二鳥ちゃんも、笑っているような、泣いているような、どちらともつかない表情で目をうるませている。

「アホ! なんでそうなんねん!」

「そうよ、本当にバカね……そんなことして私たちが喜ぶと思ったの?」

「四月ちゃんといっしょなら、私たち、どんなことでも巻きこまれたいよ!」

 私たちは、妹を全身でだきしめた。

 さびきっていた錠前が外れ、閉ざされていた心の扉が、きしみながらゆっくりと開いていく。

 その音が、私には聞こえた気がした。

「姉さん…………っ……!」

 四月ちゃんのすすりあげる声だけが、辺りをつつむころ。

「あのお……大丈夫…………?」

 少しとまどったような、けれど優しい声がかけられた。

 ハッと目を向けると、門扉の向こうに、おとなりに住んでいる佐藤さんが立っていた。

「いえね、ちょっと大きい声が聞こえたもんだから……あらっ、どうしたの? 泣いてるの?」

 佐藤さんは私たちを見て、びっくりしてる。

 それから「あなた、どちら様?」と言いたげな目で、麗さんをジロジロ見た。

「ちっ」

 麗さんは舌打ちをし、長い髪の毛をかきあげる。そして、

「あなたたちの気持ちはわかったわ。今日のところは帰ります。でも……またすぐに来るからね」

 不敵な笑みを浮かべると、ヒールの音を高く鳴らしながら去っていった。


第16回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318404

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