
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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14 ここが一歩目
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目が覚めて、最初に見えたのは、朝日につつまれた四月ちゃんの寝顔。
私とまったく同じその顔は、まだすやすやと安らかな寝息を立てていた。
柔らかな光の中、重なりあって散らばっている、私の髪と、妹の髪。
チュンチュン、とかすかな小鳥の声。優しい朝の気配。
きっと、外には青空が広がっているんだ。
「おはよう、四月ちゃん」
私は四月ちゃんのほおをそっとなでた。
四月ちゃんは、むずかるようにまゆを寄せて、それから、ゆっくりとまぶたを開ける。
「……おはよう…………ございます……」
起きたばかりのねむそうな顔を見ると、なんだかほっとした。
四月ちゃんの辛い過去は、変えられない。
だけど、未来は、これからいくらでも変えていける。
きっといつか、四月ちゃんが心を開いてくれるときがくるよね。
「うーん……」
私は布団から起きあがり、キラキラした朝日に向かって、思いきりのびをした。
今日は土曜日。学校はない。だけど──。
「ええっ……もう九時!?」
時計を見て、びっくり。
昨日、寝るのが遅かったせいで、思ったより寝過ごしちゃったみたい。
あわてて起きて、四月ちゃんと二人、パジャマのまま食堂に向かう。
いくら休みだからって、お姉ちゃんたち、こんな時間まで起こしてくれないなんて!
なんだか変だな…………と思ったら、
「えっ……!?」
ここ、本当に私の家?
食堂と居間が、様変わりしてる!
食堂の天井には、カラフルな風船がいくつもつるされてるし。
いつもごはんを食べるテーブルには、白いテーブルクロスがしかれてるし。
大皿にどっさり盛られたお菓子は、四人の好きなものばかりで。
席には、かわいい形に折ったナフキンまでそえられてる。
「これって……!?」
四月ちゃんとならんで、あ然としていると、縁側から一花ちゃんと二鳥ちゃんが入ってきた。
「あら起きた?」
「おはよう! お寝坊さん」
おどろいている私たちを見て、一花ちゃんたちは得意満面。
「いっひひひ、びっくりした? 見て!」
二鳥ちゃんの指す方を見ると、
HAPPY BIRTHDAY
ICHIKA NITORI MIFU SHIZUKI
折り紙で作られたアルファベットが、居間の壁いっぱいに飾られてる。
「サプライズ大成功! 今日は誕生日パーティーや!」
二鳥ちゃんが「してやったり!」と言わんばかりに笑って飛びはねた。
すると一花ちゃんまで、二鳥ちゃんとそっくりな笑顔になって、私たちをせかす。
「さあさあ、早く着替えてらっしゃい!」
「う、うん!」
言われるがまま、私は自分の部屋にかけもどって、大急ぎでふだん着に着替えた。
カーディガンをはおりながら階段を下り、再び居間の方へ。
「う、わぁっ……!」
見回すだけで、華やかさに目がくらみそう!
壁や天井を彩る、ペーパーチェーンに、三角形の旗の飾り、カールしたリボン。
居間の天井につるされているのは、紙吹雪の入った、大きい半透明の風船だ。
ペーパーフラワーでびっしりおおわれた「13」の数字のオブジェまである。
私は思わず両手を広げた。
まるで夢の国に来たみたい。
何もかも、キラキラ輝いて見えるよ!
「すごい……本当にすごい! 夢みたい! ……あれ?」
居間のカーテンに、何か変なものが貼りつけられている。
なんだろう、これ……。ストローで作った…………折れた枝?
近くに寄って、まじまじ見ていると、二鳥ちゃんがクスクス笑った。
「それは一花作や」
「私こういう飾りを作るの苦手なのよ……」
一花ちゃんはばつが悪そうに息をつく。
「『ストローにマスキングテープを巻きつけて、星の形に組みあわせると、かわいい壁飾りになります』ってネットに書いてあったんだけど……」
「結局くちゃくちゃになったんやんなー」
からかう口調の二鳥ちゃんにつつかれて、一花ちゃんは不満そう。
「だからその分、あのペーパーフラワーとかペーパーチェーンとか、コツコツ作ったじゃない。あんたが飽きて放りだした分まで」
「うちはあれやん。コンフェッティバルーン。あのコンフェッティバルーンを作るのが忙しかったから。紙吹雪を入れて、ふくらまして……ってするやつ」
「あれ破裂(はれつ)したら絶対片づけるの面倒よ。やめなさいって言ったのに」
「一花は細かいなあ。ええやん。めっちゃオシャレやもん。海外では定番なんやでー」
ああ…………そっか。
二人は今日のために、ずっと準備してくれてたんだ。
苦手なことをおぎないながら──。
「お姉ちゃんたち、ナイショ話をしてるみたいだったけど、このパーティーのことだったの?」
たずねると、一花ちゃんはおだやかな目をして、素直にうなずいた。
「私たち、実はいろいろとなやんでたのよ。四月に『家族になれない』ってこばまれちゃって、それでも、せめて何かできないかな、って。私も二鳥も家族のことが大好きで……でも、それをどうやってわかるように伝えればいいんだろうって」
「そんなとき『もうすぐ誕生日や!』って気づいてん。そんで『これや! お姉ちゃんたちから妹二人にサプライズバースデーパーティーをプレゼントしよう!』って、二人でがんばってん」
二人はにっこりほほえんだ。
胸がぎゅうっと熱いよ。
なやんでたのは、私だけじゃなかったんだ。
やっぱり私、もう一人じゃないんだね。
「今日は特別な一日にしよ! おいで三風ちゃん。髪の毛、したげるわ。サロン二鳥、開店!」
「う、うんっ!」
私は洗面所で二鳥ちゃんに髪を結ってもらった。
いつもの三つ編み。水色の髪飾り。
ていねいに、バランスよくほぐして、スプレーをしゅっとひと吹き。
うれしさが、新鮮な空気のように、心のすみずみまで満ちていく。
「こんなにステキなパーティー、初めて!」
思わず体が上下にゆれちゃった。
かわいい三つ編みも、いっしょにぴょんぴょんはしゃいでる。
「せやろせやろ? 四つ子の四姉妹、四人いっぺんに誕生日で、楽しさ四倍や!」
「本当ね。こんな誕生日会、普通じゃ考えられないわ」
──あっ!
一花ちゃんの何げない一言が、私の中でパチンと弾けた。
そうだよ。『普通』じゃなくても……ううん、『普通』じゃないから。
だから、こんなにステキなんだ。
なやんでたのがウソみたい。
『普通』じゃなくても。
『普通』を知らなくても。
私たちなら大丈夫。きっと家族になれるよ!
いますぐ呼んでみよう。
「四月ちゃーん!」
一階の四月ちゃんの部屋に向かって、私、大声で呼びかけてみた。
でも、なぜか返事はない。
おかしいな……と思ったそのとき、
──キィ
かすかな音がして、食堂のドアがほんの少し開いた。
「シヅちゃん! さ、次はシヅちゃんやで」
二鳥ちゃんは、紫色の髪飾りを片手に、手まねきしたんだけど──。
「えっ?」
部屋に入ってきた四月ちゃんの様子がおかしい。
体をだきしめて、もう立っているのもつらそうに、壁に寄りかかっている。
それに、なぜかまだパジャマのままだ。
「僕……僕は、今日……」
「どないしたん?」
「具合悪いの?」
お姉ちゃんたちは、心配そうに四月ちゃんにかけよった。
だけど、四月ちゃんは、目をぎゅっと閉じて動かない。
髪を結われて、首のうしろの傷が見えるのを気にしているのかな。
ううん。それだけじゃ、ないみたい……。
何か……何か変だよ。
心の奥が、ざわざわする。
とても重大な何かを見落としている……そんな気がして……。
私、とまどいながら、一花ちゃんと二鳥ちゃんを見た。
すると、二人は何か意味ありげに、そっと視線を交わしてうなずいた。
「シヅちゃん」
「実はね──」
二人が何かを言いかけたそのとき、
──ピーンポーン
言葉をさえぎるように、インターホンが鳴った。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318404
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