KADOKAWA Group
ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし① ひみつの姉妹生活、スタート!』第10回 家族って何?


私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話はコチラから

……………………………………

10 家族って何?

……………………………………

 ──「僕は、家族になれない……っ」

 四月ちゃんの言葉が、あの夜からずっと、頭の中をぐるぐる回ってる。

 放課後の教室で、私は一人ぽつんと自分の席に座って、ため息をもらしていた。

 授業中でも、休み時間でも、ここ数日、気がつけばそのことばかり思いだしちゃってる。

 私、初めての家族ができて、本当にうれしかったのに……。

 四月ちゃんは、うれしいとかいう以前に「家族になれない」と思っていたなんて。

 私たち「四月ちゃんが早く心を開けるように」って思って、声をかけてたけど……。

 それが逆に、うっとうしかったのかな。

 一花ちゃんの言っていたことも、すごく気になる。

 ──『友達は作らないって決めてるんです』

 四月ちゃん、どうしてそんなさみしいこと、言うんだろう……。

 ふと、何げなく窓から外を見おろすと、

「あっ……」

 一花ちゃんと二鳥ちゃんが、ならんで下校していくのが見えた。

 二人とも、なぜかちょっぴり早足で校門へ向かっていく。

 これから買いだしなのかな?

 見ていると、ふいに二鳥ちゃんが一花ちゃんにぐっと顔を寄せて、何かをささやいた。

 とたんに、一花ちゃんはクスクス笑いだして、さらに歩みを速めて……行っちゃった。

 なんだか……すっごく楽しそう……。

 私、うっすらさみしい気分になって、ため息をついた。

 最近、お姉ちゃんたちはいつもいっしょ。

 時々、二人だけでナイショの話をしているみたいで……私や四月ちゃんが顔を出すと、パッと話をやめてしまうことさえあるの。

「お姉ちゃんたちは、四月ちゃんのこと、どう思ってるんだろう……」

「家族になれない」って言われたあの夜以来、二人は「四月、四月」って言わなくなった。

 ひょっとして、四月ちゃんのこと、あきらめちゃったのかな。

 そんなのって……悲しい。

 家族って……あったかくて、みんな仲よしで、言いたいことをなんでも言いあえる……。

 ケンカしたって、すぐ仲直りして、前より仲よくなれる……。

 そんな場所だと思ってたのに。

 ないしょ話のこともあるし、私、最近お姉ちゃんたちにまで、距離を感じちゃって──。

「ううん……! 距離なんて、そんなのないよ。私たちは家族だもん」

 一人つぶやいて、ふるふるっ、と頭をふった。

 そのとき、

 ──ポンッ

「わぁっ!」

 だれかに肩をたたかれた!

 飛びあがりそうになるのをこらえてふりむくと、

「み~ふちゃん。えっへへ、びっくりした?」

 そこにいたのは、イタズラっぽい笑みを浮かべた湊くん。

 教室でいつも顔を合わせてるけど、ふいをつかれるとドキッとしちゃう。

「も……もぉっ、びっくりしたぁ……!」

 私、ちょっと怒ったふりをしてみたけど、緊張してるの、ごまかせたかな?

「ふふっ、ごめんねっ。見せたいものがあってさ」

 そう言ってカバンを開け、湊くんが取りだしたのは、正方形の大きな本。

「図書室で借りてきたんだ。この写真集、知ってる? 『ペンギンといっしょに暮らす街』」

「ペンギン……!? わぁっ、かわいい……!」

「でしょ? 三風ちゃん、カバンにペンギンつけてるから、好きかなと思ってさ」

 湊くんは私の通学カバンを指さした。

 そこについているペンギンのマスコットは、昔、施設で水族館へ遠足に行ったとき、どうしてもほしくなって、少ないおこづかいを出して買った、お気に入りのもの。

 ──見ててくれたんだ。

 さりげない気づかいに、うれしさがじんわりと体じゅうをめぐって、心がふわっと軽くなる。

 すすめられるまま、写真集のページをめくると、

『南の国にいる、ケープペンギンは、街で、人間といっしょに暮らしています』

 そんな一文に続いて、現実とは思えないような写真がならんでいた。

 家の庭、垣根の中、自動販売機の裏などに巣を作るペンギンたち。

 この街には、野良猫と同じように、ペンギンが暮らしているんだ。

 私は夢中でページをめくる。

 手が止まったのは、女の子とペンギンが浅瀬で水遊びをしている、見開きのページ。

「かわいい……!」

 思わず、笑みがこぼれたとき。

「やっと笑った」

 耳の真横から、湊くんの声がした。

 顔を上げると、すぐそばに、こちらを見つめる優しい瞳があった。

「三風ちゃんは、笑ってた方がいいよっ」

 ニコッ、と明るい笑顔を向けられた瞬間、ぽっ、とほおが熱を持つ。

 湊くん、いつの間にか自分のイスを移動させてきて、私のすぐとなりに座ってたの。

 だれもいない教室で、二人きり。

 体がほんの少しでもかたむけば、ふれあってしまう近さ。

 どう返事をしていいか、わからないよ。

 何を言っても、変になっちゃいそうだもん。

 そのまま固まっていたら、湊くんが少し眉を下げた。

「三風ちゃんさ、最近ずっと元気なかったでしょ」

「え……そうかな」

「そうさ。授業中もぼんやりしてるみたいだったし、心配してたんだよ。何かあった?」

 湊くん……優しい。

 胸のドキドキが、だんだん、あたたかい気持ちに変わっていく。

「あの……実はね……四月ちゃんと、なかなか、仲よくなれなくて……」

 私、思わず、かかえていたなやみを打ちあけていた。

「……仲よく、なれなくて?」

「そうなの。出会ったときから、四月ちゃん──」

「え? 出会ったとき?」

 コテンと首をかしげられて、ハッとした。

 いけない! 湊くん、私たちの事情を知らないんだった!

「あっ、あの……、えっと、ずーっと、昔から、って意味」

「ああ、なるほどね」

 とっさにウソをついちゃって、胸がズキンと痛む。

 もちろん、ウソなんかつきたくないよ。

 でも……小学生のころ、親がいないというだけで、イヤなことを言われたり、変な目で見られたりしたことが、何度かあったの。

 本当のことを話すのは、辛くて……怖い。

「たしかに、四月さん、内気っていうか……学校でも、いつも一人だよね。おそろいの髪飾りも、四月さんだけはつけてないし」

 そこまで気づいていたなんて。

 湊くん、私だけじゃなくて、私たち姉妹のことも、よく見てくれてるんだ……。

 私たちが四つ子で、めずらしくて目立つから?

 それとも、私の姉妹だから、気にかけてくれてたのかな?

 ……って、ああもう、何考えてるんだろっ。今は四月ちゃんの相談してるのに。

「そ、そうなの。それで『もっと、仲よくしようよ』みたいなことを、言ったんだけど……」

「拒絶されちゃった?」

「そんな感じ……。なんだか気まずくて……どうやったら仲直りできるかな……」

 私、そう言いながらうつむいた。

 ところが、湊くんはなんでもないことのように笑って、イスにもたれ、軽く上を向いた。

「そっかー。よくあるけど、やっぱキツいよね、そういうの。うちも、三つ上の姉ちゃんと、二つ下の妹がいるんだけど、毎日ケンカでさ」

「姉ちゃん」「妹」「ケンカ」、という単語に、私、パッと顔を上げた。

「えっ、お姉さんと妹さんがいるの?」

「言ってなかったっけ。俺、三人きょうだいの真ん中なんだ」

「へぇーっ……!」

 なんだか、うちと少し家族構成が似てるかも。

 むくむく興味がわいてきて、湊くんの横顔をじっと見つめる。

「ケンカって、どんなケンカ?」

 たずねると、湊くんは自分の髪の毛をさわりながら、口をとがらせた。

「うーん、例えば、姉ちゃんは朝、洗面所の鏡の前から全っ然どかないんだ。おかげで俺、いっつも玄関の鏡で寝ぐせ直してて」

 想像したら、ちょっと笑っちゃった。

 うちでも、一花ちゃんと二鳥ちゃんが、おんなじケンカをしてたなぁ。

 ──「もう二鳥! 早くどいて!」

 ──「今はうちが使てんの! ほかにも鏡あるやろ!」

 ひとつしかないものって、しょっちゅう取りあいになるよね。

「妹は妹で反抗期らしくて、ずっとスマホ見ててほとんど口きかないし」

 あっ、妹さんは、ちょっと四月ちゃんっぽいかも……?

 私は思わず「それでそれで」と前のめりになった。

「で、ある日『いい加減にしろ!』って姉ちゃんに怒ったら『うるさい!』とかキレられて、大ゲンカになっちゃって。妹には『姉ちゃんも兄ちゃんも本当ムリ。一生私の部屋に入ってこないで』とか言われるし……」

 ああ、ますます、四月ちゃんっぽい。

「それで、それから?」

「それから、って?」

「どうしたら、仲直りできたの?」

「えぇ……? うーん…………仲直り、っていうか……」

 湊くんはしばらくうなって、急にヘラっと笑った。

「きょうだいゲンカなんて、気がつくと、元通りになってない?」

「へ?」

 真剣に答えを待ってたのに……私、カクン、と拍子ぬけしてしまった。

「そ……そうなの? 本当に、気がつくと元通りになってるの?」

 念を押すように聞くと、湊くんは明るく続ける。

「うん。だって、家族なんだもん。普通そうでしょ」

 ……普通、そうでしょ……?

 その言葉で、私の頭の中は、いっぺんにぐちゃぐちゃになっちゃって。

 足元の床がゆがんで、ぐにゃぐにゃ波を打っているような気さえしてきた。

 ……普通……普通って…………。

 普通って……………………何?


第11回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318404

紙の本を買う

電子書籍を買う

注目シリーズまるごとイッキ読み!









つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼



この記事をシェアする

ページトップへ戻る