
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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10 家族って何?
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──「僕は、家族になれない……っ」
四月ちゃんの言葉が、あの夜からずっと、頭の中をぐるぐる回ってる。
放課後の教室で、私は一人ぽつんと自分の席に座って、ため息をもらしていた。
授業中でも、休み時間でも、ここ数日、気がつけばそのことばかり思いだしちゃってる。
私、初めての家族ができて、本当にうれしかったのに……。
四月ちゃんは、うれしいとかいう以前に「家族になれない」と思っていたなんて。
私たち「四月ちゃんが早く心を開けるように」って思って、声をかけてたけど……。
それが逆に、うっとうしかったのかな。
一花ちゃんの言っていたことも、すごく気になる。
──『友達は作らないって決めてるんです』
四月ちゃん、どうしてそんなさみしいこと、言うんだろう……。
ふと、何げなく窓から外を見おろすと、
「あっ……」
一花ちゃんと二鳥ちゃんが、ならんで下校していくのが見えた。
二人とも、なぜかちょっぴり早足で校門へ向かっていく。
これから買いだしなのかな?
見ていると、ふいに二鳥ちゃんが一花ちゃんにぐっと顔を寄せて、何かをささやいた。
とたんに、一花ちゃんはクスクス笑いだして、さらに歩みを速めて……行っちゃった。
なんだか……すっごく楽しそう……。
私、うっすらさみしい気分になって、ため息をついた。
最近、お姉ちゃんたちはいつもいっしょ。
時々、二人だけでナイショの話をしているみたいで……私や四月ちゃんが顔を出すと、パッと話をやめてしまうことさえあるの。
「お姉ちゃんたちは、四月ちゃんのこと、どう思ってるんだろう……」
「家族になれない」って言われたあの夜以来、二人は「四月、四月」って言わなくなった。
ひょっとして、四月ちゃんのこと、あきらめちゃったのかな。
そんなのって……悲しい。
家族って……あったかくて、みんな仲よしで、言いたいことをなんでも言いあえる……。
ケンカしたって、すぐ仲直りして、前より仲よくなれる……。
そんな場所だと思ってたのに。
ないしょ話のこともあるし、私、最近お姉ちゃんたちにまで、距離を感じちゃって──。
「ううん……! 距離なんて、そんなのないよ。私たちは家族だもん」
一人つぶやいて、ふるふるっ、と頭をふった。
そのとき、
──ポンッ
「わぁっ!」
だれかに肩をたたかれた!
飛びあがりそうになるのをこらえてふりむくと、
「み~ふちゃん。えっへへ、びっくりした?」
そこにいたのは、イタズラっぽい笑みを浮かべた湊くん。
教室でいつも顔を合わせてるけど、ふいをつかれるとドキッとしちゃう。
「も……もぉっ、びっくりしたぁ……!」
私、ちょっと怒ったふりをしてみたけど、緊張してるの、ごまかせたかな?
「ふふっ、ごめんねっ。見せたいものがあってさ」
そう言ってカバンを開け、湊くんが取りだしたのは、正方形の大きな本。
「図書室で借りてきたんだ。この写真集、知ってる? 『ペンギンといっしょに暮らす街』」
「ペンギン……!? わぁっ、かわいい……!」
「でしょ? 三風ちゃん、カバンにペンギンつけてるから、好きかなと思ってさ」
湊くんは私の通学カバンを指さした。
そこについているペンギンのマスコットは、昔、施設で水族館へ遠足に行ったとき、どうしてもほしくなって、少ないおこづかいを出して買った、お気に入りのもの。
──見ててくれたんだ。
さりげない気づかいに、うれしさがじんわりと体じゅうをめぐって、心がふわっと軽くなる。
すすめられるまま、写真集のページをめくると、
『南の国にいる、ケープペンギンは、街で、人間といっしょに暮らしています』
そんな一文に続いて、現実とは思えないような写真がならんでいた。
家の庭、垣根の中、自動販売機の裏などに巣を作るペンギンたち。
この街には、野良猫と同じように、ペンギンが暮らしているんだ。
私は夢中でページをめくる。
手が止まったのは、女の子とペンギンが浅瀬で水遊びをしている、見開きのページ。
「かわいい……!」
思わず、笑みがこぼれたとき。
「やっと笑った」
耳の真横から、湊くんの声がした。
顔を上げると、すぐそばに、こちらを見つめる優しい瞳があった。
「三風ちゃんは、笑ってた方がいいよっ」
ニコッ、と明るい笑顔を向けられた瞬間、ぽっ、とほおが熱を持つ。
湊くん、いつの間にか自分のイスを移動させてきて、私のすぐとなりに座ってたの。
だれもいない教室で、二人きり。
体がほんの少しでもかたむけば、ふれあってしまう近さ。
どう返事をしていいか、わからないよ。
何を言っても、変になっちゃいそうだもん。
そのまま固まっていたら、湊くんが少し眉を下げた。
「三風ちゃんさ、最近ずっと元気なかったでしょ」
「え……そうかな」
「そうさ。授業中もぼんやりしてるみたいだったし、心配してたんだよ。何かあった?」
湊くん……優しい。
胸のドキドキが、だんだん、あたたかい気持ちに変わっていく。
「あの……実はね……四月ちゃんと、なかなか、仲よくなれなくて……」
私、思わず、かかえていたなやみを打ちあけていた。
「……仲よく、なれなくて?」
「そうなの。出会ったときから、四月ちゃん──」
「え? 出会ったとき?」
コテンと首をかしげられて、ハッとした。
いけない! 湊くん、私たちの事情を知らないんだった!
「あっ、あの……、えっと、ずーっと、昔から、って意味」
「ああ、なるほどね」
とっさにウソをついちゃって、胸がズキンと痛む。
もちろん、ウソなんかつきたくないよ。
でも……小学生のころ、親がいないというだけで、イヤなことを言われたり、変な目で見られたりしたことが、何度かあったの。
本当のことを話すのは、辛くて……怖い。
「たしかに、四月さん、内気っていうか……学校でも、いつも一人だよね。おそろいの髪飾りも、四月さんだけはつけてないし」
そこまで気づいていたなんて。
湊くん、私だけじゃなくて、私たち姉妹のことも、よく見てくれてるんだ……。
私たちが四つ子で、めずらしくて目立つから?
それとも、私の姉妹だから、気にかけてくれてたのかな?
……って、ああもう、何考えてるんだろっ。今は四月ちゃんの相談してるのに。
「そ、そうなの。それで『もっと、仲よくしようよ』みたいなことを、言ったんだけど……」
「拒絶されちゃった?」
「そんな感じ……。なんだか気まずくて……どうやったら仲直りできるかな……」
私、そう言いながらうつむいた。
ところが、湊くんはなんでもないことのように笑って、イスにもたれ、軽く上を向いた。
「そっかー。よくあるけど、やっぱキツいよね、そういうの。うちも、三つ上の姉ちゃんと、二つ下の妹がいるんだけど、毎日ケンカでさ」
「姉ちゃん」「妹」「ケンカ」、という単語に、私、パッと顔を上げた。
「えっ、お姉さんと妹さんがいるの?」
「言ってなかったっけ。俺、三人きょうだいの真ん中なんだ」
「へぇーっ……!」
なんだか、うちと少し家族構成が似てるかも。
むくむく興味がわいてきて、湊くんの横顔をじっと見つめる。
「ケンカって、どんなケンカ?」
たずねると、湊くんは自分の髪の毛をさわりながら、口をとがらせた。
「うーん、例えば、姉ちゃんは朝、洗面所の鏡の前から全っ然どかないんだ。おかげで俺、いっつも玄関の鏡で寝ぐせ直してて」
想像したら、ちょっと笑っちゃった。
うちでも、一花ちゃんと二鳥ちゃんが、おんなじケンカをしてたなぁ。
──「もう二鳥! 早くどいて!」
──「今はうちが使てんの! ほかにも鏡あるやろ!」
ひとつしかないものって、しょっちゅう取りあいになるよね。
「妹は妹で反抗期らしくて、ずっとスマホ見ててほとんど口きかないし」
あっ、妹さんは、ちょっと四月ちゃんっぽいかも……?
私は思わず「それでそれで」と前のめりになった。
「で、ある日『いい加減にしろ!』って姉ちゃんに怒ったら『うるさい!』とかキレられて、大ゲンカになっちゃって。妹には『姉ちゃんも兄ちゃんも本当ムリ。一生私の部屋に入ってこないで』とか言われるし……」
ああ、ますます、四月ちゃんっぽい。
「それで、それから?」
「それから、って?」
「どうしたら、仲直りできたの?」
「えぇ……? うーん…………仲直り、っていうか……」
湊くんはしばらくうなって、急にヘラっと笑った。
「きょうだいゲンカなんて、気がつくと、元通りになってない?」
「へ?」
真剣に答えを待ってたのに……私、カクン、と拍子ぬけしてしまった。
「そ……そうなの? 本当に、気がつくと元通りになってるの?」
念を押すように聞くと、湊くんは明るく続ける。
「うん。だって、家族なんだもん。普通そうでしょ」
……普通、そうでしょ……?
その言葉で、私の頭の中は、いっぺんにぐちゃぐちゃになっちゃって。
足元の床がゆがんで、ぐにゃぐにゃ波を打っているような気さえしてきた。
……普通……普通って…………。
普通って……………………何?
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318404
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