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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし① ひみつの姉妹生活、スタート!』第7回 宮美家、家事分担会議


私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話はコチラから

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7 宮美家、家事分担会議

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「どうしたの、このお花!」

 一花ちゃんは玄関の靴箱の上を指さして、怒ったような、困ったような顔をしてる。

 そこには……わ、とってもきれい。

 花瓶(かびん)に生けられた、黄色と白のお花が飾ってある。

 これ、たぶん、フリージアじゃないかな。

 だれが置いたんだろう?

 私が家に帰ったときには、こんなお花なかったと思うけど……。

「あ、それ買うてん。きれいやろ?」

 あっさりそう言いながら、居間から二鳥ちゃんがやってきた。

 すると、一花ちゃんはますますけわしい顔になって……。

「やっぱり二鳥だったのね。買ったって、いくらしたの?」

「安売りしてたんや。たった三百五十円」

「全然安くないじゃない。ムダづかいしないでよっ」

 きつく言われて、二鳥ちゃんはムッとした顔つきになった。

「ムダちゃうよ。玄関には花、置いときたいやんか」

「あのね、花なんか一週間もしたら枯れちゃうんだから──」

「一花のケチ! どこの家でも玄関は飾っとくもんやで。お客さんをおむかえするとこやもん」

「私は現実的なだけよ。里親さんの家はお花なんて飾ってなかったわ!」

 バチバチ、音がしそうなするどさでにらみあう二人。

 たしかに、玄関にお花を飾るときれいだけど、お金がちょっともったいないし……。

 こんなふうにケンカになっちゃうのって、私たちがバラバラに育てられたからだよね。

 一花ちゃんにとって当たり前だったことは、二鳥ちゃんにとって当たり前じゃないんだ。

 反対に、二鳥ちゃんにとって当たり前だったことは、一花ちゃんにとって当たり前じゃない。

 私、どうしたらいいかわからなくて、二人の横でおどおどしてたら、

「ねえどう思う?」「なあどう思う?」

「え、ええっ……」

 お姉ちゃんたちに同時に話をふられて、思わず一歩、あとずさっちゃった。

「わ、私のいた施設の玄関には、お花、飾ってあったけど……」

 と答えたら、二鳥ちゃんは「ふん!」と得意そうな顔。

「で、でもそのお花は、買ったやつじゃなくて、お庭の花壇で育てたものだったの」

 今度は一花ちゃんが「ほら見なさい」と言いたげに二鳥ちゃんに視線を送った。

「……ああもう。わかったって。今度から庭とかに咲いてる花つんで飾っとくからっ」

「花瓶の水かえ、ちゃんとするのよ?」

「するわっ!」

 二鳥ちゃん、「しつこいなあ!」と言わんばかりにぷんぷんしてる。

 だけど、一花ちゃんは冷ややかにこう言ったの。

「どうかしら。この際だから言わせてもらうけど、ゴミ出しも、洗濯も、いつも私じゃない」

「い……いつもちゃうやん」

「たしかに『いつも』じゃないけど、四人で暮らしてるのに、半分以上私がやってるわ」

「う…………」

 一花ちゃんの不満そうな声に、二鳥ちゃんの声からいきおいが消えた。

 私の心も、しゅんとしぼんだ。

 いっしょに暮らしはじめて、そろそろ二週間。

 姉妹だけでの暮らしは「特別なもの」から「いつもの日常」へと変わりはじめている。

 最初のころはお泊まり会みたいで、楽しいことばかりだったけど──。

 毎日となると、だんだん大変さのほうが大きくなってきたんだ。

 特に家事。

 例えば、ゴミ箱のゴミは、ゴミの日に出さない限り、ずっとそこにある。

 洗濯物は、洗濯機を回して、物干し場に干さない限り、いつまでも汚れたまま。

 買い物に行かないと、食材は永遠に手に入らないし、お腹の減りだって満たされない。

 ろうかだって、何もしないと一日でほこりだらけになっている。

 今までどれだけ大人に助けられていたか、思いしることばかりなの。

 だれかがしないといけないって、わかってはいても、やり方がわからないことも多いし……。

 気がつけば、家事に慣れた一花ちゃんに、負担が集まっていたみたい。

「ていうか、二鳥は家事のやり方が雑なのよ。今日食べたハンバーグのお皿だって、そのままたらいにつけたでしょ。一度水で流さないと、あれじゃ、たらいまでぬるぬるになるわ」

「しゃーないやん。この家、食器洗い機、ないねんもん」

「食器洗い機なんてないのが普通でしょ。里親さんのところではみんな手で洗ってたわ」

「今どきあるのが普通やろ。手が荒れるやんか。……だいたい、あんたちょっと細かいわ。お皿をたらいにつけるとき、洗い流そうが流すまいが、そんなんどっちでもええやん!」

「花こそどっちでもいいじゃない!」

 私が考えこんでいる間に、二人はどんどんヒートアップしちゃってる。

 ああっ、このままじゃケンカだ!

 私はとっさに二人の間に飛びこんだ。

「ね、ねえ! 家事は、自分のこだわることを専門にすればいいんじゃないかな!? あっ、それか、学校のそうじ当番みたいにするの!」

 二人は、急に割って入ってきた私に、少しおどろいたみたい。

 でも、すぐに納得したような顔になって、ふ、と笑みを浮かべた。

「そうね……そうよね。何争ってたのかしら。三風の言う通りだわ」

「気になるんやったら自分でやり! っちゅうこっちゃな」

 さっきまでのピリピリした空気は一瞬で消えてしまったみたい。

 お姉ちゃんたちはうなずきあうと、何やらきびきび動きだした。

「ねえ、何か画用紙みたいな大きい紙ないかしら。カレンダーの裏とかでもいいんだけど」

「アイドルのポスターやったら、いらんのが一枚あるわ」

「それちょうだい!」

「ええで!」

 二鳥ちゃんはそう答えると二階にかけあがり、すぐに裏の白いポスターを取ってきた。

「じゃあ三風、四月を呼んできて」

「えっ」

 急な展開についていけず目をパチパチさせていると、

「これから宮美家の家事分担会議をはじめるわよ」

 一花ちゃんがウィンクした。


 宮美家 家事分担表

《一花・台所と食堂》

《二鳥・げんかん! と、ろうかと階段》


 四人で食堂のテーブルを囲むやいなや。

 お姉ちゃんたちが、太いペンで真っ白な紙に、迷うことなく書きこんでいく。

 私と四月ちゃんは、ぽかんと口を開けてその姿を見つめてる。

「三風ちゃんはどこの担当がええ?」

 まるでリレーのバトンみたいに、二鳥ちゃんからペンを渡された。

「えっ、わ、私……えっと」

 少しの間考えて……、私、しゅんと肩を落とした。

「得意なこととか、こだわりとか、特にないかも……」

 なんていうか、私って、なんにもできない、役立たず……?

 自分がちょっとイヤになってしまう。

 だけど、一花ちゃんは気にとめることもなく、ピンと人差し指を立てた。

「なら、とりあえず居間はどうかしら?」

「えっ、あ、う、うん!」

 にこにこ笑顔の一花ちゃんに、私は何度もうなずく。

 私に務まるかな? なんて弱気なことは言ってられない雰囲気だ。

 よ……よおし……!

《三風・居間》

 思いきって白い紙にそう書きこむと、一花ちゃんが満足そうにふくみわらいをした。

「シヅちゃんはどこがええ?」

 二鳥ちゃんは待ちきれないというように、紙とペンを、ずいっ、と四月ちゃんの方に押しやったんだけど……。

「…………あ、の……」

 話についてこれずにいたのかな。

 四月ちゃんは、おびえたような目を向けた。

「そうじとかの担当場所よ。どこがいい?」

「……ぼ、僕は、なんでも……その…………そ、外、に」

 一花ちゃん、紙、二鳥ちゃん、ペン、と、視線をあちこちに迷わせる四月ちゃん。

「外? ベランダとか、庭とかかしら」

「…………」

 四月ちゃん、コクン、とうなずいたけど、なんだかおろおろしてるみたい。

 もしかして……私と同じで、得意なことが何もないから「僕は部屋の外に出ていますので、みなさんだけで決めてください」とか言うつもりだったのかな。

「助かるわ。ベランダ、黄砂まみれだもの」

「せやな。庭の雑草ものびてきてるし」

 少し強引な気もしたけど、一花ちゃんと二鳥ちゃんはもう次の話しあいに移っている。

「戸じまりはどうする?」

「雨戸閉めたり、カギの確認したりってこと? それは二人でせえへん? 一応お姉ちゃん組なんやし。それよりトイレとお風呂が──」

 反発しあうことの多い二人だけど、ひとたび力を合わせれば息ぴったりだ。

 二人だけで、どんどん物事を決めていく。

 私と四月ちゃんは、置いてけぼりで、ただ立ってるだけ。

 でもっ、こんなんじゃダメだよ。私だって、家族の一員なんだもん!

 私は「よしっ」と勇気を出して、四月ちゃんの手をパッと取り、二人に向かってさけぶ。

「ねえ、私たちも交ぜて!」

「「あっ」」

 一花ちゃんと二鳥ちゃんは話しあいを止め、すぐに私たちを輪に入れてくれた。

「もちろんよ。二人だけで先走っちゃってごめんなさい」

「今、ゴミ出しとかはどうするかの話やねんけど」

「そ、それなら、一週間交代がいいよ。ゴミを出さない日もあるけど、出す日は曜日で決まってるから……一週間交代にしたら、平等になると思うの」

 私、少しずつでも自分の意見を言おうとがんばってみた。

「なるほど。せやな。シヅちゃんはどう思う?」

「……それで、いいと思います」

 四月ちゃんは相変わらず、自分から発言することはなさそう。

 でも、ふせられがちな瞳から、おびえたような色はどうにか消えていた。

 しばらく話しあったあと。

「よっしゃ。宮美家のルール、決まったで!」

 二鳥ちゃんがいきおいよくつきだした紙を、私たちはのぞきこんだ。


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宮美家・家事分担表


 一花・台所と食堂

 二鳥・玄関とろうかと階段

 三風・居間

 四月・家の外


 ・自分の部屋は自分でそうじする

 ・トイレそうじとお風呂そうじとゴミ出しは週替わりの当番制

 ・洗濯は、朝、四人で協力し手早くすます

 ・料理と買いだしは、姉組(一花・二鳥)と、妹組(三風・四月)が交互にする

――――――――――――――――――――――


「おおっ……! すごーい!」

 私は思わず声をあげた。

 ルールだとか、当番だとか、普通なら、めんどくさいなとか、イヤだなとか思うものだよね。

 だけど、このルールは大好きって思えたの。

 だって、これは、私たち家族のルールだから。

 だれかに「ああしなさい」「こうしなさい」って言われたわけじゃなくて、私たちが自分から、自分たちだけで決めた、私たちのためのルールなんだもん!

「さっそく明日から始めよか。最初のトイレそうじとかの当番はだれにする?」

「じゃんけんで決めましょ」

 一花ちゃんの提案に、すぐにみんなこぶしを出した。

「じゃんけんぽん」四人ともパーだった。

「あいこでしょ」今度は四人ともチョキ。

「あいこでしょ」今度はグー。

「あいこでしょ」

「あいこでしょ」

「あいこでしょ」

「あいこで──」

 そのあとも延々とあいこが続いて……二十回目くらいで、ようやく私が負けた。

「……呪われてるんか思たわ」

「さすが一卵性の姉妹ね……」

 あきれるお姉ちゃんたち。

 四月ちゃんも「ふ~……」とため息をついてる。

 私も「あはは……」と力なく笑った。

「今度から、じゃんけんじゃなくて、くじ引きにした方がいいかもね……」

 それはさておき。

 今まで、なんとなく、気づいただれかがやったり、やらなかったりしていた家事。

 分担が決まると、責任も生まれる。

 今週の当番は私! 家族の一員として、がんばるぞ!


第8回へつづく

書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046318404

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