
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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6 私に似てる、女の人?
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金曜日の夕方。
中学校が始まってから初めての週末で、私はうきうき。
「今日は~にこみハンバーグと大根のおみそしる~♪」
私は鼻歌を歌いながらおみそしるのナベをかきまわす。
最初はヘタだった料理も、一花ちゃんのアドバイスのおかげで、少しずつうまくなってきた。
大根はにえたし、おだしもとけたよね。あとはおみそを入れるだけ、っと……。
「できるようになると、料理って楽しいかも」
ひとりごとを言うと、二鳥ちゃんが後ろからひょっこり現れて、ナベの中をのぞいてきた。
「ほんまや、おいしそう! 三風ちゃんのおみそしるは料亭の味やもんなー。うちにも教えてほしいわぁ。次どうすんの? なんか手伝うことある?」
「じゃあ……って、えっ……あれっ? 二鳥ちゃん、ポテトのやつ、作ってたんじゃ……」
夕食を作りはじめる前、二鳥ちゃんはネットでポテトのオーブン焼きのレシピを見て、
──「これめっちゃおしゃれやん! 絶対作りたい!」
って意気ごんでたのに、もうできあがったのかな。
と思ったときには、何やらこげくさいにおいが……。
「に、二鳥!」
異変に気づいた一花ちゃんが、サッとオーブンを止めた。
「あああっ!」
二鳥ちゃんもさけんで、オーブンを開けた瞬間。
──モワッ
うわわっ、黒い煙が出てきた!
「げほ、ゲホッ……うわ、真っ黒こげや」
オーブンの中をのぞいて、肩を落とす二鳥ちゃん。
じっとしていられない、飽きっぽい性格だから、料理があまり得意じゃないみたい。
「ふう……火事にならなくてよかったわ」
一花ちゃんはため息をついた。
私も気をつけなくちゃ……。
──カタン
音がしたのでとなりを見ると、四月ちゃんがおみそしるのお椀を用意してくれていた。
「ありがとう、四月ちゃん」
「…………いえ」
四月ちゃんはすぐ後ろを向き、いそいそとお茶碗を出しはじめる。
やっぱりまだ恥ずかしいのかな。
だけど、協力はしてくれるんだし、きっと、もうちょっとで打ちとけられるよね。
「もうお腹ぺこぺこだよ。早く食べよっ」
おみそしるをお椀に注いで、お茶碗にごはんをよそって、お箸(はし)と湯飲みといっしょにならべて──。
席につこうとしたとき。
「あははっ、あせりすぎや三風ちゃん! お箸もお茶碗もバラバラやん」
二鳥ちゃんがテーブルの上を見てふきだした。
「一花のお茶碗は、こっち。赤いのんはうちの。そんで、箸も一花のと三風ちゃんの逆やし、湯飲みはシヅちゃんとうちのが逆や」
「あーっ……ごめーん」
やっちゃった。私はすぐさま、配りなおす。
「施設にいたころは、みんな同じ色のお茶碗だったから、まちがえちゃった」
「わかるわ。施設ってだれがどのお茶碗とか決まってないのよね」
「そうそう。ついクセが出ちゃって」
と一花ちゃんに返事をしながら、ハタと気がついた。
「……あれ? 一花ちゃんは施設にいたこともあるの?」
「あ……」
一花ちゃんは手伝う手を止めて、一度口を閉じ、少し間をおいて続けた。
「……そうなの。最初は施設。それから里親さんのところに移ったのよ」
「そうだったんだー」
私はうなずきながら、自分の席へともどる。
二鳥ちゃんは養子で、家族での生活が当たり前だった。
だから「自分の食器」という感覚が自然と身についていたんだね。
一花ちゃんは……里親さんのお家では、お箸やお茶碗の区別はあったのかな。
私たち、四つ子の四姉妹だけど、バラバラに育てられたから。
見た目はそっくりだけど、中身はそっくりじゃない……仕方ないよね。
楽しいような、さみしいような気持ちが、体をするりと通りぬけていった。
それはさておき、夕食だ。おいしく食べなきゃもったいない!
目の前の料理をじっくりながめてみる。
にこみハンバーグは、とろっとしたデミグラスソースがからんでいて、本当においしそう。
白いごはんと、大根のおみそしるからは、柔らかい湯気がホカホカ立ちのぼっている。
思わず、ごくりとツバをのみこんじゃった。
「いただきます! ……の前に」
──パシャ
スマホで写真をとり、送信。
今週の自立ミッション「四人で夕食を作っていっしょに食べる」は達成だ。
得意な気持ちになって、ふふん、と笑ったそのとき、
──ピロン
スマートフォンがメッセージを受信した。
「あ……!」
湊くんからだ。
連絡先は交換してあったけど、メッセージがくるのは初めてだから、ドキドキするなぁ……。
《突然ごめん。三風ちゃんに伝えた方がいいかなーと思ってさ。今日、少し遅くまで学校に残ってたんだけど、帰り道で知らない女の人に「四つ子を知ってる?」って話しかけられたんだ。一応わからないって答えたけど、その人、なんとなく三風ちゃんに似てた気がするんだよね……》
「え?」
私に似てる、女の人?
夕立の直前に吹くような不穏な風が、ざわっ、と心の中を吹きぬけた。
脈が、とくとくとくとくとくとく……と、どんどん速くなっていく。
知らない間に、スマートフォンをにぎる手の指には、ぎゅっと力が入っていた。
「どうしたの三風」
「冷めるでー?」
「うっ、うん……」
お姉ちゃん二人にせかされて、私はごまかすように、スマホをテーブルのすみに置いた。
ハンバーグも、おみそしるも、おいしかった。
お姉ちゃんたちも、私も、いつも小食な四月ちゃんでさえ、ごはんをおかわりしたくらい。
けど「おいしいね」と笑顔で食べてる間も、湊くんからのメッセージがずっと気になっていた。
夕飯を食べおわると、私はスマホを手に、早足で自分の部屋へもどった。
すぐさまメッセージアプリを開く。
《湊くん、その話、くわしく教えてくれる?》
それだけの短い文章なのに、文字の入力を何度もまちがえてしまった。
私、相当あせっているんだ、と、そこでようやく気がつく。
やっとのことで、「送信」を押した。
まさか……ね。
ドキン、ドキン……心臓の音がすごく大きく聞こえる。
全身が、ずっしり重い熱を持ちはじめてる。
──ピロン
すぐに返信が来た。
通知のベルとほとんど同時にメッセージを開く。
《なんか、黒塗りの大きな車に乗ってきて、派手で高そうな服を着てて……庶民っぽくないっていうか、ちょっと目立つ感じの人だったよ。不安にさせてごめん。少し気になったから》
目を通して、ふーっ、と、大きく息をついた。
大きな車に、派手な服……。……やっぱり、ちがうよね。
壁に寄りかかると、手からも足からも力がぬけていく。
ちがうちがう。私たちのお母さんじゃないよ。
お母さんはきっと、四人も子どもを育てるお金がなくて、私たちを施設に預けたんだもん。
似ている人、と聞いただけで、あんなにドキドキしちゃった自分が、なんだか情けないや。
「似てる人なんて、きっといっぱいいるよ……。……お母さんじゃないって」
自分を落ちつかせるようにひとりごとをつぶやいて、畳に倒れこんだ、そのとき。
「ちょっと……! 何これっ」
一階で声が上がった。
この声は一花ちゃんかな。なんだろう?
私は気になって、部屋を出て階段を下りていった。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318404
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