
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
……………………………………
4 みんな同じでみんなちがう
……………………………………
──二時間後。
「ふう……」
ようやく、荷物整理が一段落ついた。
私は自分の部屋にばったり倒れて、木目の天井を見あげる。
それにしても、不思議だなぁ……。
荷物の量が、姉妹で全然ちがったの。
一花ちゃんは四箱。私・三風も四箱。
四月ちゃんはたった一箱。
そして二鳥ちゃんは、なんと十二箱!
どうしてこんなにちがうんだろ。
まだ出会ってほんの少しなのに、もう、それぞれのちがいが見えはじめてる。
思えば、同じ遺伝子を持つ、同じ顔の四姉妹なのに、性格だって全然ちがうよね。
「……みんな同じで、みんなちがう、かあ」
時間がたつほど、姉妹に興味がわいてくるなぁ。
ほかには、どんなちがいがあるのかなっ?
むくっと起きあがって、私は一階に下りた。
「あー……、お腹すいたわ」
居間をのぞくと、二鳥ちゃんが畳の上に大の字になっていた。
十二箱も片づけたから、さすがに疲れちゃったんだね。
二鳥ちゃんは私に気づくと、うーんとのびをして、ごろんと寝がえりを打った。
「せや! 出前でも取ろか。三風ちゃん何がええ? うち、天ぷら蕎麦(そば)」
「ええっ?」
私、びっくりして声が出た。
出前のお蕎麦って、今まで一度も取ったことないけど、けっこう高いんじゃ……?
目をパチパチさせていると、台所の片づけをしていた一花ちゃんがこっちにやってきて、あきれたようにうでを組んだ。
「冗談? 出前なんてとんでもないわ。自炊しなくちゃ。スーパーで食材を買って、作るのよ」
「えぇっ!? 作るん?」
その言葉に、今度は二鳥ちゃんが目をパチパチさせた。
四月ちゃんにも声をかけて、私たち四人は家を出た。行き先は、近所のスーパー。
「なあなあ、作るって、何作んの?」
「そうね、お米を炊いてたら時間がかかるし……きつねうどんはどう? あと、だし巻き卵」
「一花ちゃん、作れるの!?」
思わずさけんじゃった。
私が料理をしたのは、学校の調理実習のときくらい。
包丁をあつかうのがむずかしくて、ちっとも手際よくできなかった覚えがある。
「里親さんに習ったのよ。私、里親さんのところで育ったの」
里親さん……! ってことは、施設じゃなくて、普通の家で暮らしてたんだ!
おどろく私をよそに、二鳥ちゃんは「へえ」と自然に会話を続ける。
「里親さんのとこかあ~。どんな感じやったん?」
「うーん……二、三人の子が、里親さんご夫婦とひとつの家で暮らしてて、家事は当番制で……」
「へぇ、すごいねっ」
私、てっきり自分と同じように、みんなも施設で育ったんだと思いこんでいた。
里親さんのところで育って、家事もこなしていたなんて。
一花ちゃんが、ますますたのもしく思えてくるよ。
「ごはん、期待してるわ」
二鳥ちゃんが一花ちゃんにうでをからませて、いひひっ、と笑った。
「簡単なのしか作れないわよ」
一花ちゃんは、ちょっと照れたようにほほえんでる。
「二鳥は施設だったの?」
一花ちゃんがたずねると、二鳥ちゃんは「いいや、ちゃうよ」と、軽く首をふった。
「うちは、最初は関東の施設におって、四歳のとき、大阪の、池谷家の養子になってん」
「養子?」
「せやで。うち、ついこないだまで『宮美二鳥』やのうて『池谷二鳥』やってん。書類の上ではお父ちゃんとお母ちゃんのほんまの子ども、ってことになってた。今はもう、ちゃうけどな」
ほ、本当の子ども、ってことになってたの!?
私とはちがって……家族がいたんだ。
血はつながってないけど、いっしょに暮らす「お父ちゃん」と「お母ちゃん」が……!
私、さっきよりももっとおどろいて、言葉を失った。
でも、二鳥ちゃんはいかにも能天気に、
「今回また関東にもどってきたけど、もう関西弁ようぬけへんやろなぁ。三つ子の魂ゆうやっちゃな。や、四歳やから四つ子かな。どっちやろ? うちらも四つ子やし」
なんて冗談を言っている。
片づけのとき、十二箱もあった二鳥ちゃんの荷物。
あの箱にはきっと、養子のお家で買ってもらった、服やおもちゃやマンガが入っていたんだ。
二鳥ちゃん、とっても大事にされてたんだろうな……本当の娘みたいに。
……なのに……。
おそるおそる、聞いてみた。
「せっかく、養子になったのに……お父さんと、お母さんがいたのに、私たちと暮らすことになっちゃって、よかったの?」
その瞬間、二鳥ちゃんはけわしい表情を浮かべた。
くちびるは結ばれ、眉間にはぎゅっとしわが寄っている。
あれっ? 二鳥ちゃん、怒ってるの……?
でも、二鳥ちゃんはすぐ、ニマーっと冗談っぽい感じにもどって、ひときわ元気に、
「ええに決まってるやん! 四つ子の四姉妹やで? 絶対おもろいことが起こるわ。『お父ちゃんお母ちゃん今までおおきに。これからは姉妹と暮らします』て、さっきもメール出してん!」
「本当? ……実はさみしいんじゃないの?」
一花ちゃんは心配そう。
「さみしくなんかあーりーまーせーんー」
二鳥ちゃんは一花ちゃんとつないでいた手をブンブンふりまわした。
と思ったら、急にピタッと止め、からかうような口調で言った。
「一花、あーんたこそ、さみしいんとちゃうの? 急に里親さんから離れてしもて」
「わ、私は別にさみしくなんてないわ」
それからちょっと言葉を切って、一花ちゃんは、キリッと前を向いた。
「私、あこがれてる人がいるの。その人もこの春から一人暮らしを始めて、立派に自立したの。だから、私もがんばらなくちゃって思って、この計画に参加を決めたのよ」
一花ちゃんのあこがれの人って、どんな人なんだろう?
あ、ひょっとして……。
「ええっ、あこがれの人ってだれなん? だれだれ? 彼氏!?」
「うるさいわね。ちがうわ。あんたには関係ないでしょ」
二人は足を止めて、おたがいに探るような目を向ける。
でも、にらむ相手は、自分とおんなじ顔。
「「ふふっ」」
「ぜーんぜん迫力がない」と思ったのか、「鏡をにらんでいるみたい」と思ったのか。
お姉ちゃんたちは同時にふきだして、また仲よく歩きはじめた。
ケンカにならなくてよかったぁ……。顔がそっくりなおかげだね。
ホッと胸をなでおろすと同時に、なんだか面白くなって、クスッと笑っちゃった。
「せや、ほんで、三風ちゃんは? ここに来る前はどこでどうしてたん?」
「あ、えっと、私はずっと施設で……」
「施設かあ。三風ちゃんこそ、さみしかったりせえへんの?」
首をかしげる二鳥ちゃんから、私は目をそらした。
本音を言えば……まだ、ちょっとだけさみしいよ。
あんまり急に、ずっと育ってきた町や、施設を離れることになって。
学校の友達や、優しい先生たちとも別れちゃって。
でも……。
「私……施設は好きだったよ。けど、一人だとさみしくて、なんていうか不安で……だけど、自分に血のつながった姉妹が──家族がいるなんて知ったらもう、本当にうれしくて……!」
三人に出会ったときのことを思いだしたら、胸が弾けそうなくらい、ぎゅうっとなった。
あのとき感じた喜びが、胸の中から体じゅうに、ぶわっとあふれだしていくみたい。
「だから今、すっごく幸せなの!」
私は顔いっぱいで笑って、一花ちゃんの手をきゅっとにぎった。
「すっごく幸せ、ね」
「せやな、うちも!」
二人も笑いかえしてくれた。
ああっ、家族がいるって、本当に幸せだなぁ。
「ねえ、四月は? 今まで、施設だったの?」
一花ちゃんがふりかえり、一メートルほど後ろを歩いている四月ちゃんにたずねた。
四月ちゃんは、手をつなぎあう私たちを、なんだかさみしそうな瞳でしばらく見つめて、
「…………。……僕もずっと施設です」
風にさらわれそうなほど小さな声で、つぶやいた。
そこから先は、沈黙。
「わ……私と同じだねっ」
取りなすようにそう言ってみたけど、返事はなくて。
まだ冷たい春の風が、私たち四人の間をヒュウッと吹きぬけていく。
四月ちゃん、やっぱりまだ緊張してるのかな……?
会話がとぎれたところで、
「さて、とうちゃーく」
大型スーパーに着いた。
自動ドアが開き、お店の中から陽気なBGMがもれてくる。
「ムダづかいはダメよ? 使えるお金は、毎月決まってるんだから」
一花ちゃんが生活費の入った長財布をカバンからちらりと出してみせると、
「わかってるってー」
二鳥ちゃんはピースサインを作って、真っ先にお菓子売り場へかけていく。
「もう……」
一花ちゃんは買い物に慣れた様子で、当たり前みたいに買い物カゴを持った。
カゴ! そっか、買い物するときは、カゴを持たなきゃ。
私もマネしてカゴを持ってみた。それだけで、なんだか大人になった気分。
四月ちゃんはスーパーにとまどっているのか、ひかえめにきょろきょろしてる。
ふふふ、スーパーがこんなに楽しい場所だなんて知らなかったな。
さあ、買い物開始だ!
◆ ◆ ◆ ◆
「う……卵のカラが入ってたわ」
「ごめんごめん」
「……ネギがつながってる」
「ごめんなさーい……」
買い物のあと、私たちは家に帰って、四人でお昼ごはんを作った。
きつねうどんも、だし巻き卵も、味はすっごくおいしかった。
だけど……案の定、味つけ担当の一花ちゃん以外は失敗だらけ。
けど、みんなでいっしょに食べると、そんなの全然気にならないや。
四人のどんぶりが空になり、一息ついたころ、
「じゃじゃーん!」
突然、二鳥ちゃんが、四つの小さな紙のつつみを取りだした。
きれいな包装紙と細いリボンで、それぞれかわいらしくラッピングされている。
「「何これ!?」」
一花ちゃんと私は同時に声を上げた。
一花ちゃんはぎょっとした感じの声。
私はもちろん、わくわくした声。
四月ちゃんも、ほんの少し目を見開いたみたい。
「開けてみてや!」
渡されたつつみをそっと開けると……出てきたのは、水色の髪飾り。
一花ちゃんのは、ピンクの髪飾り。
二鳥ちゃんのは、赤い髪飾り。
四月ちゃんのは、紫色の髪飾り。
「みんなおそろい! すごい。すっごくかわいい!」
思いがけないプレゼントに、私は大喜びではしゃいだ。
「こっそりスーパーで買ったのね? もういつの間に……いくらしたの?」
一花ちゃんは困り顔で、やつぎばやに聞くけど、
「ええやん。うちの元々持ってたおこづかいから出したし」
「そういう問題じゃないの~! 正しい金銭感覚を身につけることも自立には必要なのよ?」
「ムダづかいや~って言うんやろ? これは全然、ムダづかいとちゃうよ」
二鳥ちゃんはヒラリとかわす。
そして、ふと目をふせて、ほほえんだ。
「うち、姉妹ができて、ほんまにうれしかってんもん。やから……これはその気持ちや!」
水色は、私の一番好きな色。
自己紹介で言ったこと、覚えていてくれたんだ……。
私の好きな色だけじゃない。
一花ちゃんの好きな色だって、二鳥ちゃんはしっかり覚えてた。
四月ちゃんだけは、自己紹介のとき、好きな色を言っていない。
でも、二鳥ちゃんの選んだ紫色の髪飾りは、ひかえめな性格の四月ちゃんにぴったりだ。
それぞれちがう色をした、私たち四人の、おそろいの髪飾り……!
これって、きっと、家族になれた喜びのつまった、姉妹の証(あかし)みたいなものだよね。
胸の奥から、きゅーんとうれしさがこみあげてくる。
「ありがとう二鳥ちゃん。私もうれしい。本当にうれしいっ!」
私、二鳥ちゃんの背中にぎゅっとだきついた。
すると、一花ちゃんも怒るのをやめて、
「私だって……。……私だって、うれしいわ」
髪飾りを、大切そうに両手でにぎって、ふっと表情をゆるめてくれた。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046318404
注目シリーズまるごとイッキ読み!
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼