
私、宮美三風。家族のいない、ひとりぼっちの12歳…と思ってたら、四つ子だったことが発覚!? それぞれ別の場所で育った姉妹四人、一緒にくらすことになり…?
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
※これまでのお話はコチラから
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3 四姉妹生活、始まる
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部屋の中は、しーんと静まりかえっている。
──「君たちは四つ子だったんだ!」
富士山さんからそう言われてしばらく、私たち、石のように固まってた。
突然、子ども四人だけで住むことになって。
突然、まったく知らない町のまったく知らない家に来て。
そしたら……。
自分が四つ子だったって言われて……。
こんなこと。
こんなこと、あるわけ……、
「こんなことあるわけない!」
「えっ!?」
一瞬、自分の心の声がもれてしまったのかと思った。
でも、声の主は、私と同じ顔の、私じゃない女の子だ。
その子は立ちあがると、富士山さんに向かってほえた。
「そんなん急に言われたかて信じられへん! 証拠ないやん!!」
関西弁だけど、声はまったく私といっしょ。
「君は……宮美二鳥さんだね? 証拠ならあるぞ。これを見てごらん!」
そう言って、富士山さんがテーブルの上に四通の書類をならべた。
おそるおそるのぞきこむと、そこには四人のプロフィールがのっていた。
宮美一花、
宮美二鳥、
宮美三風、
宮美四月。
それぞれの名前の下にある四枚の顔写真は、私にすら見分けがつかない。
誕生日は、四人とも四月二十五日。
血液型も、四人ともA型。
備考欄には……「DNA型一致」「姉妹である確率100%」……!
ウソ……! こんなことって……!
だって、双子ならともかく、四つ子なんてウソみたい。
とてもじゃないけど、現実に起こっている本当のこととは思えないよ。
でも、顔や、苗字や、誕生日や血液型が同じ……しかもDNAまで同じとなると……。
本当に……本当に私たち、血のつながった、四つ子の四姉妹なんだ!
ものも言えず、私たちは顔を見あわせた。
一花ちゃん……二鳥ちゃん……四月ちゃん……。
さっき、関西弁の子が二鳥さんって呼ばれてた。
じゃあ、ほかの二人はどっちがどっちなんだろう?
目が回りそうな私たちに、富士山さんは告げた。
「実はね、この中学生自立練習計画の候補者をリストアップしていたら、たまたま同じ苗字で、同じ顔の子が四人も見つかったんだよ。まさか、四つ子の姉妹が、みんな別々の施設に預けられているなんて、だれも思わなくてね。ずっと会わせてあげられなくて……本当に申し訳ない」
明るかった富士山さんが、少しつらそうな表情をみせた。
「僕だけじゃなく、国の職員たちも、本当におどろいていた。君たち四人を絶対にいっしょに暮らさせてあげたい……家族にもどしてあげたいっていう声が、何人もの職員から挙がってね──聞いたかもしれないけれど、大きな企業もお金を出すと言ってくれた。おかげで、計画開始まで一年はかかるって言われていたのに、たった三か月で、この中学生自立練習計画を始められることになったんだよ」
必死に内容を整理しようと、くらくらする頭をかかえ、思わず目をつむる。
「血のつながった姉妹で、いっしょに暮らせるんだよ」
ハッと目を開くと、瞳をキラキラさせた富士山さんがこちらを熱っぽく見つめていて。
私は、ごくっ、とのどを鳴らした。
ほかの三人の女の子も、まったく同じ表情で、まったく同じタイミングでのどを鳴らした。
富士山さんはその様子を見て面白そうにクスクス笑い、手を、パン! とたたいてみせた。
「じゃあ、そういうことで! これからは四人暮らしだ。助けてあげたいのは山々だけど、自立の練習だからね、僕はよっぽどのことがない限り、もうここへは来ない」
「「「「え……あの……」」」」
またしても同時に声をあげた私たちを見て、富士山さんは目を細める。
「くわしいことは、あらかじめ配った資料に書いてある。何か問題が起こっても、四人で協力して乗りこえてほしい。大丈夫だよ、君たちはもう──」
──一人じゃないんだから。
富士山さんはそう言いのこして、去っていった。
◆ ◆ ◆ ◆
部屋に残された私たち四人は、そろそろと立ちあがり、輪になっておたがいを見つめあった。
ならんでいるのは、やっぱり自分と同じ顔たち。
私の……私の、初めての、家族!
パチパチするようなうれしさと、その倍くらいの緊張が、どっと押しよせてきた。
だって、だって、私に……私に家族がいるなんて!
私、ずっと今まで、自分は天涯孤独(てんがいこどく)なんだ、ひとりぼっちなんだって思ってたんだよ?
たよれる人がだれもいないんだって思ったら、押しつぶされそうなほどさみしかった。
なのに、まさか姉妹がいるなんて。
しかも、それが自分とそっくりな四つ子の姉妹だなんて、想像したこともなかったよ!
指の先がふるえて、呼吸がうまくできない。
私は興奮を押しかくすように口を閉じて、手のひらをきゅっとにぎった。
「これから、よろしくね」
声をかけられ、ハッと顔を上げると、正面にいる、私と同じ顔の女の子がほほえんでいた。
よく見ると、背が少し私より高い。
淡いピンクで、長めの大人っぽいスカートがよく似合っている。
「は、はい! よっ、ヨロ、よろしくお願いししシマ」
「あはは! 緊張しすぎちゃう? うちとそっくりやのに」
気さくに肩をたたいてきたのは、左どなりの、私と同じ顔の女の子。
関西弁の……二鳥ちゃんだ。
真っ赤なパーカーに、ミニ丈のジャンパースカートが、とってもおしゃれ。
「……………………」
私をちらりと見て、すぐに目をそらしたのは、右どなりの、私と同じ顔の女の子。
彼女は黒いフレームのメガネをかけている。紫色の服はちょっとぶかぶかだ。
「よ……よろしくね」
私がそっと声をかけると、彼女はすぐに下を向いちゃった。
「あ、そうだ……さっそくだけど、はいこれ。一人ひとつずつあるの。私、一番先にここに着いてたから、富士山さんから預かってたのよ」
背の高い子が私たちに配ってくれたのは……あっ、す、すごい、家のカギだ……!
ずっと施設で暮らしてきた私は、普通の一軒家に住むのも、カギを持つのも初めて。
施設では、先生たちが戸じまりをしていたから、カギといえば大人だけのものだったの。
感動をかみしめながら、銀色にきらめくカギをじっと見つめたあと、顔を上げる。
「ありがとうございますっ。……え、えっと……」
お礼を言いたいのに、カギをくれた背の高い子の名前がわからない。
もじもじしていたら、彼女は髪を耳にかけながらクスッと笑った。
「まさか、四つ子だなんてね。ふふっ。本当にびっくりよ。みんなそっくりだし、だれがだれかわかんないわよね。自己紹介しましょうか」
すると、背中に冷や汗が伝った。
じ、自己紹介……!? 何を言うか、決めてないよ……!
「せやなっ。ほんなら、とりあえず、好きな食べ物と、好きな色、言おか」
二鳥ちゃんの提案に、みんなはうなずく。
最初は、背の高い子。
「宮美一花です。好きな食べ物は、アップルパイ。好きな色はピンクよ」
聞き取りやすい、はきはきした声。
背すじもピンとのびていて、私と同い年にしては、しっかりしている印象だ。
二番目は、関西弁の二鳥ちゃん。
「うち、宮美二鳥。好きな食べ物はお好み焼きとチョコアイス。好きな色は赤!」
少し早口で、ピンッと手を上げる姿は、頭の先からつま先まで元気いっぱい、といった感じ。
次は、二鳥ちゃんのとなりに立っている……わ、私だぁ……!
「わわ、私、宮美三風です! 好きな食べ物はカレーといちごです、す、好きな色は……」
とっさに思い浮かばず、一瞬口が止まってしまった。
そのとき頭をよぎったのは、お母さんのペンダントの、美しい水色。
「み、水色です!」
一花ちゃんは優しくうなずき、二鳥ちゃんはニパッと笑ってくれた。
う、うまく言えた……!
なんとか自己紹介を終えて、小さく息をつく。
最後は、メガネの子。
「…………宮美四月です……」
初めて聞いた四月ちゃんの声は、小さく、消えてしまいそうなくらいだった。
そして、それきりだまってしまう。
「あなたが四月ね。好きな食べ物と、好きな色は?」
一花ちゃんが笑顔でうながしてあげたけど、
「……好きな食べ物も、好きな色も……特にありません」
四月ちゃんはさっきよりも小さい声で言って、下を向いちゃった。
横目でそっとうかがうと、彼女は体の前で両手を組み、小さくふるえている。
自己紹介って、ドキドキしちゃうもんね……。
私もあがり症だから、その気持ちはとてもよくわかるな。
なんとなくだけど、私、四月ちゃんとも仲よくなれそうな気がするよ。
「そういえば、みんな名前に数字が入っているのよね」
緊張してる四月ちゃんを気づかってくれたのかな。
一花ちゃんは話題を変えるようにそう言って、みんなを見回した。
「そうそう! うちな、拾われたときバスケットに入れられてたらしいんやけど、そのタグにこの名前が書いてあったんやって」
「本当? 私もよ」
「わ、私も!」
「……僕も」
四月ちゃんは自分のことを「僕」って呼ぶみたい。
「みんなも、そうなんですね……。じゃあ、やっぱりお母さんがつけてくれた名前なのかな?」
私がつぶやくと、一花ちゃんはうなずいた。
「きっと、そうでしょうね……あっ、もしかして、生まれた順なんじゃない?」
「生まれた順?」
「そう。一花は一、だから、長女は私。同じように、次女は二鳥、三女は三風、四女は四月」
「それめっちゃええやん! 決まりやー!」
二鳥ちゃんが飛びはねた。私の心にも、パッと明るい光が射しこんだ。
私、宮美家の三女だったんだ……! 三女だから「三風」なんだ!
小さいころから、どうして「三風」なんて名前なんだろう? って疑問に感じてたの。
特に「三」。「実」や「未」ならともかく、数字の「三」? って。
一花ちゃんと二鳥ちゃんは私のお姉ちゃん。四月ちゃんは私の妹。だから私、三風なんだね。
今まで引っかかっていた名前なのに、理由がわかるとあっという間に大好きになれた。
「これから、うちらは家族や。一花、三風ちゃん、シヅちゃん、よろしくっ」
「よろしくね。二鳥、三風、四月」
二鳥ちゃんと一花ちゃん──二人のお姉ちゃんに名前を呼ばれて、実感した。
本当に私たち、家族になるんだ!
それを思うと、またピリッと華やかな緊張が走る。
「よっ、よろしくお願いします!」
「……………………………………」
私はまだ敬語がぬけない。
四月ちゃんはだまったままだ。
ぎくしゃくしているけれど、できたてほやほやの家族だから、仕方がないのかも。
「よっしゃ! そしたらさっそく家ん中の探検や!」
あいさつが終わると、二鳥ちゃんが楽しそうな声をあげて、ダッ、と部屋を飛びだした。
「えっ、ちょっと……!」
私たちが部屋から出ると同時に聞こえてきたのは、
──トントントントントン!
部屋のすぐとなりにある階段をかけあがる音。
「わーすごいっ、ベランダや! あっベランダこっちにもある!! すごーい!!」
──ドドドドッ、トトトッ、ドドドドドッ
二階をかけぬける二鳥ちゃんの足音が家じゅうにひびく。
な、なんて元気なんだろ!
私たち、階段の下に集まって、二階を見上げながらあっけにとられちゃった。
「私たちも行きましょ。自分の部屋を決めなくちゃ」
と一花ちゃんに言われて、はっと思いだした。
そうだ。一人にひとつ部屋が用意されているって、資料に書いてあった!
資料を読んだとき「ひとり部屋なんて、なんて豪華なんだろう」っておどろいたんだ。
かんろ児院では、小学生以下の子はみんな四人部屋の二段ベッドで寝起きしていたの。
中学生以上になっても、二人部屋で、やっぱり二段ベッドと決まっていたから。
「うち、ここの洋室がいい!」
二鳥ちゃんの大きな声が階段の下までひびいてきた。
「走らないで! 下にすっごくひびくんだから!」
同じくらい大きな声で返しながら、一花ちゃんは二階へ上がっていく。私もあとに続いた。
階段はちょっと急。家が古いせいかな。ちょっとだけ危ないかも。
手すりをにぎって階段を上って……やっと二階についた。
「わぁ……!」
施設育ちの私には「一戸建ての家の二階」だってめずらしい。
階段を上がった正面に和室がひとつ。
ろうかのつきあたりにも和室がひとつあって、ろうかを左に曲がると洋室がひとつあるみたい。
どれかが自分の部屋になるんだって思ったら、うれしくて、思わずため息をもらしちゃった。
私は明るい光に誘われるように、正面の和室へと入ってみた。
広さは六畳。部屋の右側が押し入れで、左側はふすま。
部屋の奥には掃(は)きだし窓があって、ベランダもついている。
あ、小さい床の間みたいなのもある!
うきうきと部屋を見回していると、
「私、ここにしようかしら。いい日当たり……すぐ布団が干せるわ」
この和室は、となりの和室とつながっているみたい。
ふすまの向こうから、一花ちゃんのひとりごとが聞こえた。
あ、そっか、布団とか、干さなきゃいけないんだよね……。
この家には、私たち四人だけが住む──つまり、大人がいないから。
自立の練習のために、家事は自分たちだけでしなくちゃいけないんだ。
布団って、どうやって干せばいいんだろう……。
わからないことがあっても、近くにしっかり者の一花ちゃんがいれば、安心な気がするなぁ。
「あ、あ、あのっ……!」
私は勇気を出して、部屋を仕切るふすまを、ほんの少し開けた。
「なあに?」
ひょこん、とのぞいてきたのは、私とまったく同じ顔。
「わ、私…………私も、となりのこの和室にしようかな……。いいですか?」
どきどきしながら視線を合わせると、一花ちゃんは、にっこりと笑ってくれた。
「もちろんよ。よろしくね、三風」
「よろしくね、一花ちゃん……!」
緊張で重たかった心が、一花ちゃんのおかげで、ふわっと温かくほぐれて。
気がつけば、自然と敬語がぬけていた。
やった、やったぁ……! お姉ちゃんと、普通に話せたっ。
優しくて、たのもしいお姉ちゃんの、となりの部屋になれた!
さみしくなったとき「お姉ちゃん、いる?」と話しかければ「なあに?」と、ふすまの向こうから優しい声が返ってくるんじゃないかな。
ねむれない夜は、小さな声でおしゃべりをしたり、いっしょに本を読んだり、絵を描いたり。
「二人だけのヒミツだよ」と、こっそりお菓子を食べたりするのもいいかもしれない。
一花ちゃんとだけじゃなく、二鳥ちゃん、四月ちゃんとも、そういうことをしてみたいなぁ。
この先の暮らしを想像すると、ワクワクで、胸がおどるようだよ。
決して、ピカピカの真新しい部屋じゃない。
畳は少し焼けてるし、壁には小さなヒビもあるし、音はほとんどとなりの部屋につつぬけ。
だけど、そんなこと全然気にならないや。
「あ、でも、よかったのかしら。二鳥はともかく、四月は」
「そっか……! 四月ちゃんは……?」
部屋を出て、二人で階段の下をのぞくと、四月ちゃんはまだ一階のろうかにぽつんと立っていた。
「四月ー、どの部屋がいいのー? 一階の部屋でいいのー?」
「…………」
四月ちゃんはちらりとこちらを見上げて、一度だけうなずいた。
一階にも、洋室がひとつある。最初にみんなが集まった、あの部屋だ。
だけど……。
「四月ちゃん、本当によかったのかな……?」
気になったけど、結局、二階の和室に一花ちゃんと私。二階の洋室に二鳥ちゃん。
そして、一階の洋室に四月ちゃん、と決まった。
「次は……荷物整理ね」
「うっ……わぁ…………」
一階の食堂と、すぐとなりの、和室の居間。
私たちの前にあるのは、大量の段ボール箱。
これは手ごわそう……。
うずたかく積まれた荷物を見て、四人で思わずため息をもらしちゃった。
「ま、なんちゅーても、四人もおるんやし。協力すれば、あっという間ちゃう?」
二鳥ちゃんがガッツポーズで笑う。
すると、片づけなんて面倒なことのはずなのに、私もつられて、ちょっとうきうきしてきた。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
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- 9784046318404
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