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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『世界一クラブ 最強の小学生、あつまる!』第5回 クリスの大変身


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14 絶対にマネできないマネ

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 人がいないことを確認してから、すみれが廊下へと飛びだす。その後ろに、光一は息を殺して続いた。


 教室を出てすぐの階段を、四人それぞれが周囲に気を配りながら上る。


 タンタンタン


 小さな足音も、人気のない学校の中にはいやに響いた。


「夜の学校って不気味かと思ってたけど、電気が点いてるからヘンなカンジ」


「すみれ、あんまりしゃべるなよ。見つかるぞ」


 光一の注意に、すみれは肩をすくめる。軽やかに階段を三階まで、息も切らさず上りきった。


 階段のかげから、渡り廊下を確認する。明かりの点いた廊下に飛びだせば、隠れられる場所はどこにもない。


「……声が聞こえる」


 和馬が口に手を当てて、注意をうながす。四人はごくりと息をのんで、耳をそばだてた。


 教室棟の廊下から、足音に混じって、ぼそぼそと男の声が聞こえる。


「こっちは、三階の青木です。ええ、特に異常はないです……え、外ですか? 静かなもんですよ。さっきの騒ぎも、黒田さんの威嚇射撃で落ちついたみたいで……」


「あそこにいるの、青木? 見張りの連絡かな」


「多分な。学校にあったトランシーバーを利用してるんだろ」


 それはこっちにも都合がいいな。


 光一は、和馬とすみれに向かってうなずいた。


「青木が連絡を切った瞬間に、行くぞ」


「えっ、ぼくは?」


「健太は、ここで待機」


「だね」


「そそそ、そんな! 一人にしないでよお」


「だれだ! いるなら出てこい!」


 廊下の先から、ばたばたと走る音が聞こえてくる。


 あーもう、健太! 声がでかいって。


「しょうがない。すみれは正面から。風早は背後から、いけるか?」


 光一の言葉に二人はうなずくと、渡り廊下の先に向かって走りだす。ちょうど、曲がり角ではちあわせするタイミングだ。


 やや小太りな青木が、廊下の角を曲がる。


 その瞬間、猛スピードで突っこむすみれの横で、和馬はぐっとかがみこむと、壁に向かって跳躍した。なんでもないことみたいに、トントンと壁と天井を飛びかって、青木の背後に回りこむ。


 いや、背後からって言ったけど、普通は横から回りこまないか!?


 動きがすばやすぎたせいか、青木は和馬にみじんも気づかない。ただ、目の前に現れた少女に目を丸くした。


「うおっ。な、なんでこんなところに、子どもがっ!?」


「そりゃ、当たり前でしょ。だって、ここは学校だもん。えいやっ」


 青木がトランシーバーをつかむ前に、すみれは恐るべき反射神経で、その手を叩きおとす。


 動揺した青木に、背後からばさりとカーテンが巻きついた。


「なっ、なんだこれは!?」


 カーテンの上から、しゅるしゅるとなわとびがからみついて、青木がバランスを崩して倒れる。その奥に涼しい顔をした和馬が立っていた。


「こんなところでいいか?」


 文句のつけようがない。


 光一は、和馬に向かってぎこちなくうなずいた。その横で、すみれがくちびるをとがらせる。


「なんだ、せっかくあたしが投げとばそうと思ったのに」


「それにしても、すごい手際だったね……」


 光一の背後からひょっこり姿を現した健太は、ぐるぐる巻きにされた青木を、びくびくしながら見おろした。


「でも、なんでカーテンとなわとびなの? 和馬くん」


「その場にあるものを使った方が、あとで足がつきにくい」


「おい、おまえらなんだ! だれのさしがねだ!? 警察……ってうわああ」


「おじさん、ちょっと黙ってて」


 カーテンの下でもがく青木を、すみれがごろごろと廊下の奥へと転がしていく。


「ちょっと待て、すみれ。聞きたいことがある。人質は、職員室に捕まってるのか? けがは、ないんだよな?」


「はあ? そんなこと聞かれたって、教えるわけ──」


「えいっ!」


 すみれがぐっと力をこめると、青木の体はものすごい速度で転がって、廊下のつきあたりにぶち当たった。仰向けに伸びた青木の腕を、すみれがむんずとつかむ。


「おじさん知ってる? 柔道には腕ひしぎ十字固めっていう関節技があってね」


「わああ、ああっ、いたたた! 折れる! 言う! 言うからやめろおっ!」


 すみれがぱっと手を放すと、半泣きの青木の声がカーテンの下からぼそぼそと聞こえた。


「拘束はしてるが、人質に……いたたっ、けがはない! 多分、職員室で他のやつらが、見張ってるよっ」


「そうか」


 すみれにこれだけ痛めつけられてるんだから、おそらく?の情報じゃないだろう。


 ……よかった。


「主な武器は、拳銃一丁だけか? 他のやつらは今、どこにいる?」


「黒田さんはっ、職員室だ。赤星は校内の見回りをしてて、白井は……倉庫」


 倉庫?


「バリケードでも築くつもりか?」


「……いたたたっ!」


「おじさん、話しちゃったほうがいいと思うけど?」


「ああもう! わかった! おれたちは、この学校の中庭に一億円が埋まってるって聞いて、やってきたんだよ! その大金を掘りだす準備をしてんだ!」


「一億!?」


 四人は思わず、そろって声を上げる。


 学校の中庭に、一億円が!?


「いいい一億円って、ものすごい大金だよね!?」


「大金すぎて、どれくらいかぱっと想像もできないんだけど」


 すみれは、腕を組みながら首をかしげた。


「例えばすみれの好きな駄菓子のまいう~棒なら、一本10円だから1000万本買える。すみれが毎日100本食べたとしても、274年は食べつづけられるぞ」


「いくらあたしでも、一日100本は食べないってば! って、にひゃくななじゅうよねん!?」


「今からさかのぼると、江戸時代の真っただ中だな。でも、一億円が埋まってるっていうのは?なんじゃないか?」


「?!?」


 光一の言葉に、今度は青木がすっとんきょうな声を上げた。


「なんでだ!?」


「うちの学校は、三年前に大がかりな改修工事をしたんだ。中庭も整備しなおしたから、もし本当に埋まっていたら、工事業者が発見してるはずだ。でも、そんなニュースは聞いてない」


「運よく見つからなかったとか?」


「一億円が札束で保管されてるとしたら、小さなスーツケースくらいの大きさになる。見つからないことはないと思う」


「そん、そんな……」


 廊下に転がされたままカーテンの中であがいていた青木は、弱々しい声を出しながら、ぱったりと手足の力を抜いた。


「おれは、何のために……ここまで……」


「あっ、気を失っちゃった」


「気を失いたくもなるだろ。一億円のために、わざわざ脱獄してこんなところまでやってきたんだからな」


 でも、なんのためにそんな?を。一体だれが?


 ありうるのは、脱獄犯の中のだれかが、脱獄を手伝わせるためのエサにしたってことだけど。


 順当に考えれば、?をついたのはリーダーである黒田……。


 いや、なんか頭がもやもやする。


 まだなにか──。


 ガガッ、ザザザ……


 背後から砂嵐のような音がして、光一はばっと振りかえる。


 廊下に落ちた青木のトランシーバーから、とぎれとぎれに声が聞こえた。


『おい、青木……今、何か音がしてたぞ。……だい……じょうぶか?』


「この声、だれ? なんか、ものすごく野太い声だけど」


「赤星だろうな」


 光一はトランシーバーを拾うと、健太を手招きする。


「それじゃ、ここは健太の出番だな。青木の声は、さっき聞いてたよな?」


「う、うん」


『おい、青木。返事をしてくれ。様子を見にいった方がいいか?』


 健太は、ふーっとひとつ、息をはく。光一は、トランシーバーのスイッチを入れた。


「あ、ああ。悪いな赤星さん。ちょっとトランシーバーを床に落としてよ。拾うのに時間がかかっちまった」


「……この声、本当に健太か!?」


 ぎょっとした顔の和馬が、声をひそめてすみれに耳打ちする。


 ものまねに関しては、健太の右に出るものはいない。


〈世界一のエンターテイナー小学生〉らしい、だれにも絶対マネできない特技ってわけだ。


 これで、もう少しおっちょこちょいじゃなきゃいいんだけど。


 トランシーバーの向こうの赤星も、すっかり健太の声にだまされたらしい。ほっとしたような笑い声が聞こえた。


 そうだ。これを使えば──赤星も単独で倒せるかもしれない。


『ははっ、ドジすんなよ。もしかしたら、そろそろ警察が動くかもしれんからな』


「そうだな……んんん?」


 光一は、学校の図面を開くと、ある部屋を指さす。健太がにっこり笑って、両手で丸を作った。


「そういや、赤星さんはどこを巡回してるんだっけな」


『今は体育館にいる。ほら、二階とつながってるあそこだ。さっきも言っただろ』


「ああ、そうだった。じつはな、さっき一階に人影が見えて、驚いてトランシーバーを落としちまったんだ」


『ばかやろう、それを早く言え! で、警察か? 何人だ?』


「それが、警察じゃない。子どもだったんだ」


『子ども? そんなわけがないだろ。見まちがいじゃないか?』


「そうかもしれないが、一回見に行ってみてくれないか? おれはここから警察の様子を見張らないといけないからさ」


『……一階のどこだ?』


 かかった。


 健太は光一が指さした部屋を、ゆっくりと読みあげた。


「給食室だ。渡り廊下の前にある」


第6回へつづく(5月15日公開予定)
 

書籍情報


作: 大空 なつき 絵: 明菜

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046317407

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