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注目シリーズまるごとイッキ読み!『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第6回

第16章 急接近は大ピンチ!


 ドアノブを回すと、ドアは抵抗もなく開いた。

 ……やっぱり、カギはかかってない。

 おれは、物音を立てないように静かに、ドアを押す。

 キイィと響く音とともに、少し開いたすきまの向こうにうす暗い玄関が見えてくる。

 玄関には、段ボールなどが、あちこちに積んである。工場の玄関にしては、少し散らかりすぎ。先にスキルで中を視たまひるから、聞いていたとおりだ。

 でも、イメージできていなかったこともある。

 シーン──

 ……静かだ。物音を立てたら、すぐ響きそうなくらい。

(やけに静かだ)

(ああ)

 星夜が、心の中で同意した。

(近所にあやしまれないために、工場にいるメンバーを少なくしているんだろう。オレたちが見つかる確率が下がる点ではいいが、この静かさは想定外だな)

(……うん)

 せっかくバレずに入ったのに、ここで見つかったら、無意味になる。

 ここから、どう進もう?

 玄関からのびる通路のわきにも、インクの缶や段ボールが積んである。

 その荷物と荷物のあいだに、部屋のドアが見える。左右に二つずつ、バラバラの位置にある。

 通路は途中で右に折れていて、さらに奥がある──のか。

 見つからないように動かないと。

『朝陽、星夜』

「なに?」

 おれは、まひるの高い声が外にもれないように、ヘッドセットを手で押さえた。

『工場にある、十五の部屋すべてをチェックしたよ。裏口の風間はまだ外で見張りをしてるから、今、工場の中にいる犯人は三人』

「三人か……」

 ふつうの大人なら倒せる人数だけど、危険な相手なら別だ。

『夕花梨ちゃんがいる部屋に二人と、あと朝陽がコーヒーで追いはらった土屋で、三人ね。夕花梨ちゃんたちの部屋にいるのは、水原と火村。土屋は今、キッチンで服を洗ってて──』

「えっ、火村ってだれ? はじめて聞いたんだけど」

『事務所を調べた時にいた、ダークスーツのオジサン。犯人たちの話し合いでもリーダーっぽくみんなをまとめてたから、名刺をこっそりのぞいておいたの。偽名かもしれないけど』

 さすがまひる、ぬけめない。

『とにかく、夕花梨ちゃんたちの部屋には二人だけ。土屋もそのうち見張りに戻ると思う。コーヒーがかかって気も抜けてるだろうから、今がチャンスだよ』

「わかった」

 おれは手で口元をかくしながら、まひるに聞こえるギリギリの声で返事する。

 倒す相手は少ないほうがいい。

 あいつらに見つからないように、この通路を通りぬけて、二人のもとへたどりつく!

『夕花梨ちゃんたちの部屋まで行く最短ルートを案内するね。途中で廊下からそれて、ドアでつながっている作業室を抜けていったほうが早いよ』

「でも、見つからないように集中しながらだろ? ルートを覚えられるかな」

『だいじょうぶ。さっきは朝陽にアイディア負けしたけど、ここからはわたしの本領発揮。夕花梨ちゃんとお父さんがいる部屋まで二人をカンペキに案内──ナビゲートするから』

「りょーか」

『返事はうなずくだけでいいよ。それも視てる』

 ……こくり

 星夜といっしょにうなずくと、すうっと、息を吸う音が聞こえた。まひるの呼吸。

 おれは正面にのびる通路を見る。

『──まひるナビ、スタート』

 ここからは、まひるのナビでつっきる!

『まず、正面の通路をまっすぐ十メートル、そこを右に曲がって三メートル進んで』

 こくり

 サササッ

 かすかに腰をかがめた姿勢で、足音を立てないように通路を進む。

 天井にある蛍光灯に、上からはっきりと照らされて、まるで丸裸にされたみたいでぜんぜん落ちつかない。

 しかも、通路は工場の内部にあるから窓がない。見つかったら、外へ逃げることも不可能だ。

『次に左に曲がって、通路をまっすぐ進んで、ドア二つぶん』

 こくり

 サササササ

 これってもしかして、目撃された瞬間にゲームオーバー?

 ──でも、電気を消すわけにもいかない。

『そのまま、五メートル進んで右に曲がって。つきあたりの左にあるドアから、目的の部屋に』

 ササ

『待って!』

 カツン──

 今の、くつ音? 前から……じゃない。背後、今、通ってきたほうからだ!

『さっきの土屋! キッチンから出て、後ろの通路に出てくる!』

 ヤバい!

 おれは星夜を振りむいた。

(かくれよう! ええと、そこの部屋とか!)

(待て。適当に選んでカギがかかった部屋だったら、時間がムダになる。間に合わない!)

 カツン、カツン──

 背後の通路から足音が近づいてくる。

 これじゃ、見つかる! ゲームオーバー!

『左っ、左のドア! カギは開いてる!』

 ひだり!

 ばっと左側の壁に飛びつく。ドア。音をさせないようにノブを回す。

 開いた、はやく!

 電気がついていない部屋へ、星夜と飛びこむ。

 セーフ──と思ったとき、背後でバタンとドアが閉まる音がした。

 まずい、急いで部屋に入ったときに強く閉めすぎた!

「何の音だ!?」

 カツカツカツカツ! 通路から聞こえる足音が強く、大きくなる。

 こっちへ、走ってきてる!

 おれは、あわてて部屋の中を見まわす。

 うす暗い。ほこりっぽい部屋だ。真ん中には大きな机。印刷物を確認するためのものか。

 壁ぎわには、段ボールの山──。

 って、これだけ!? 部屋には、まともにかくれられる場所がない!

『だいじょうぶ! 二人とも、真ん中の机の奥にしゃがんでかくれて! 早く!』

 バッ!

 星夜と、机の奥にスライディングする。

 おれたちがぴたりと止まった瞬間、ドアが開き、パチリと音がして部屋の電気がついた。

 ひっ──と、上げそうになった悲鳴を、手で押さえてのみこむ。

 天井の照明で、おれと星夜の姿もすっかり照らしだされている。土屋に見られたら、ごまかす方法なんてない。

 でも見つかってない──うまく机のかげにかくれられてるんだ。

「変だな。たしかにこの部屋から音がしたような……」

 部屋の入り口のほうから、土屋の声がする。

 ああ、でも、土屋の姿が見えない。どう動くのかも、こっちからはぜんぜんわからない!

 まひる、どうする!?

『だいじょうぶ。わたしの指示を、よく聞いて。今から、ホラーゲームのかくれんぼだよ』

 ヘッドセットから、まひるのささやき声が聞こえた。

『二人は、部屋の中心にある机にかくれながら、土屋と正反対の位置をたもって物音を立てずに移動して。それなら、土屋の身長と机の高さから考えて、見つからない。いい? わたしの指示したとおりに動いて。まず……左に、一歩移動』



 一歩。じりっ

 ──カツン 土屋の足音。

『土屋が一歩入ってきた、左にもう一歩移動』

 じりっ ──さらに一歩。

 カツン

『ストップ。土屋が耳をすませてる。音を立てないで』

 ぐっと、息を止める。

 おれたち、本当に土屋からは見えてないよな?

(……おそらくは。土屋の心の動きにも変化はない。それに見つけたら大騒ぎするはずだ)

 星夜が、心の中で答える。

 はあっ、緊張でドクンドクンと鳴る自分の心臓の音が聞こえる。

 体が震えないのが不思議なくらいだ。

「……ふん、さっきのは空耳だったのか? 部屋の中も、何も変わってねえよなあ」

『左に、一歩、二歩、三歩、ストップ、今度は右に一歩。十センチ頭下げる。次は左に──』

 ただ、まひるの指示にだけ集中する。足音をさせないように、机のまわりを移動する。

『ストップ』

 ──ぴたり、と足を止める。

 気づくと、おれと星夜はいつの間にか、最初にかくれた位置に戻っていた。

「……気のせいだったか」

 土屋はそう言うと、キイィ──バタンと、ドアを閉めて、遠ざかっていった。

((はああぁ~~~、助かった……))

 おれは星夜と、ぐったりと床に座りこんだ。

『うん。土屋は通路を表口に戻ってる。大きな音を立てなければ、だいじょうぶそう。朝陽、星夜、お疲れさま。指示どおりに物音を立てずに動いてくれたから、見つからずにすんだよ』

「こっちこそ、サンキュ。もうダメかと思った」

「オレも、こんなにヒヤヒヤしたのは人生で初めてかも……」

 疲れた顔の星夜が、ささやく。

 土屋の心の声を聞くために、星夜はずっとスキルを使ってたのかな。

 星夜とはくらべものにならないけど、おれも疲れた……あ、そうだ。

 まひるからわたされたチョコを取りだして、ひょいと口に入れる。

 ん、おいしい。あまさが体にしみる。

(朝陽は切り替えが早いな。オレも見習って食べておくか)

(それがいいんじゃない。あ、おれのチョコもあげようか)

(──朝陽、後ろ!)

 ドンッ

 立ちあがった瞬間、高く積まれていた段ボールに背中が当たる。

 うわっ、こんなところにも段ボールが!

 段ボールの山がくずれる。大きな音をさせたら、今度こそ見つかる!

「くっ!」

 星夜が、くずれた段ボールの一つを右手で押さえ、二つ目を左手で押さえる。

 けれど、上からあと三つ、さらに段ボールが落ちてくる。

 ──おれがキャッチするしかない!

「んっ!」

 両手と胸で、三つ重ねて受けとめる。

 耳をすませる──通路から音はしない。さっきの男は気づいてないな。

「よかっ……」

 ぐらっ

 バランスがくずれて、一番上の段ボールが床へ真っ逆さまに落下した。

 あー!

(朝陽、スキル!)

 そうだ!

 目を見ひらいて、段ボールをにらむように力を送る。

 もうギリギリッ、止まれ!

 ──ぴたり

 逆さまになった段ボールが空中で止まる。フタが開いた段ボールから飛びだした業務用の大きなカッターやガムテープも、床から一センチのところの宙に浮いていた。

『「「……ふう」」』

 三人のため息が、きれいに重なる。

 おれは、宙に浮かせたカッターを段ボールに静かに入れた。


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