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注目シリーズまるごとイッキ読み!『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第6回

第15章 アジトに潜入!


 足音を立てないように、気をつけながら進む。

 今からやるのは〈潜入〉──見つからないことが一番重要だ。

 おれは工場を囲む壁に背中をつけて、ぴたりとはりついた。

 壁ぞいの道を見まわす。あたりには他にも工場が立ちならんでいるけれど、日曜日で休みなのか、近くに人の気配はない。

 工場の外は警戒しなくてよさそう。それなら、問題は……。

「この壁を越えて、中に入るところからか」

 二メートル以上はありそうな壁を見あげる。ここからじゃ壁の中は見えない。

『ザザ、ザザザッ……ハイハーイ、二人とも、元気~?』

 突然、ヘッドセットからまひるの大声が聞こえた。

「うっ」

 うるさい。そんなに大声じゃなくても聞こえるって。

(まひるも緊張してるんだろう。オレたちと違って、一人だから)

 と、星夜が心に語りかけてくる。

 ……それはそうか。はー、これくらいはがまんしよう。

「こちら朝陽。まひるの声、よく聞こえてる」

「こちら星夜、オーケー」

『了解。待たせてごめんね。だれかにジャマされると困るから、人に見つからなそうな場所に移動してたの。今は二人のこともはっきり視えてるよ。朝陽がポケットからチョコを落としそうになってるとことか』

「え!?」

 おれは、はみでていたポーチをポケットにつっこむと、きょろきょろあたりを見る。

 どこから視てるんだろ? あいかわらず、すごいスキルだな。

『今二人がいるのは、工場の真横で、中に入るには見つかりにくくて、いいポジションかな。朝陽、そこから壁を越えて入って』

「わかった。じゃあ星夜、問題なかったらヘッドセットで連絡するから。後から来て」

「了解」

 まず、おれから!

 おれはすばやくジャンプして、壁のてっぺんに手をかけた。

 ひらり

 横とびで壁をとびこえると、静かに着地して木のかげにかくれる。

 よし。敷地への潜入、成功。

『はー、その運動神経、わけてほしい』

 はいはい。

 木のかげから、敷地の様子を、さっと確認する。近くに人は見えない。入るなら今だ。

「星夜、行けるよ。壁、越えられる? 必要なら手を貸すけど」

 ヘッドセットに小声で話しかける。

『だいじょうぶだ』

 声がした次の瞬間には、壁の上にすぐ星夜が姿を見せる。壁へ器用に乗りあがった星夜は、木のかげにかくれたおれを見つけると、そばへ、さっと着地した。

 星夜も、けっこう運動神経いいよな。

 よし、二人そろったし、さっそく工場へ──。

『二人とも、ふせて!』

「!?」

 ヘッドセットから聞こえた声に、星夜と同時に姿勢を低くして、植え込みのかげにかくれる。

 もしかして……見つかった?

 じっと身動きせずに、耳をすます。しんっ──とした中に、ドクドクと音がする。

 自分の心臓の音だ。激しい運動をしたわけでもないのに、ウソみたいにはっきり聞こえる。

『……もういいよ』

 まひるの声が聞こえた瞬間、おれと星夜は深々と息をはいた。

『裏口で見張りをしている男が、ちょうどこっちを見そうになったの。でももう、だいじょうぶみたい』

「助かった。けど、あんまりびっくりさせるなよ」

『ごめんごめん。あ、今、工場の表と裏口の見張り二人がスマホを見てる。朝陽たちも、今のうちにあたりを見てみて』

 よし。

 植え込みから顔を出して、あたりの様子をうかがう。自分の目での確認も大事だ。

 手前に駐車場。その奥に工場が見える。

 駐車場に停まった黒い車は、久遠さんを連れさろうとしたものと同じ車だ。

 工場は思っていたより大きい。うす汚れた壁が、なんとも不気味だ。

 やなかんじ。

 久遠さんとお父さんは、だいじょうぶかな。

「まひる、久遠さんたちは?」

『今確認したところだと、お父さんが夕花梨ちゃんのいる部屋に入ったばかりみたい。水原と何か話をしてる。とりあえず話し合いから……なのかな。もう少し時間がありそうだよ』

 それは少しありがたい知らせだ。

『しばらくは朝陽たちのナビに集中するから、夕花梨ちゃんたちのことは優先度を下げるね。心配だろうけど、朝陽たちが部屋にたどりつけなかったら、どうしようもないから』

「わかった」

『じゃあ、ナビ再開! 朝陽たちから見て、向かって左奥に表口、右奥に裏口があるよ。出入り口は、その二か所だけ。どちらにも見張りがいる』

 おれは、まひるの言葉に合わせて工場を観察する。星夜は、工場の側面を見て言った。

「窓は? 他に侵入できそうなところはないのか」

『窓は、ぜんぶカギがかけてあるし、金属の柵がついてるからダメだね』

「柵? おれと星夜の握力と、おれのスキルを合わせれば外せないかな」

『だーめ! しっかり固定してあるし、音がして見つかっちゃう』

 あー、潜入って大変すぎ!

「じゃあやっぱり、工場に潜入するには、どちらかの出入り口からしかないか」

『そうだね。ちなみに、夕花梨ちゃんたちがいる部屋に近いのは、だんぜん裏口かな。しかも、表口の見張りよりも、裏口の見張りの男のほうが弱そうだから、ねらいやすいかも』

 なるほど。

「他に裏口の情報ある? 見張りの持ち物とか、動きとか」

『財布の中のポイントカードによると、名前は風間! 武器は右ポケットにスタンガン。茶色の短髪で、今風の髪型。あ、おしゃれなブレスレットしてる!』

「まひる、ファッションチェックしてる場合!?」

 でも、かくし持っている武器がどこにあるのか、わかるのはありがたい。

『表口の見張りは、土屋。ビルのアジトにいた中でも、特に体の大きかった人だよ。首も腕も太いし、筋肉のかたまりって見た目。武器は──左ポケットにナイフがある』

 ……ナイフか。やっぱりそういうものも持ってるんだな。

「表口は、より危険か」

 そう星夜がつぶやくと、まひるも同調した。

『うん。表口は、やめたほうがいいんじゃない? 見張りの土屋、強そうだもん。筋肉質で肉体がもう武器ってかんじ。手に持ってる缶コーヒーだって、一瞬でつぶせそうな腕で──』

 ん?

「まひる、今なんて言った?」

『え? 手に持ってる缶コーヒーをつぶせそうな腕だって……』

「じゃあ、表口。ねらうのは土屋だ」

『オーケー。表口──ええっ、裏口じゃないの?』

「星夜は、ここで待ってて。準備ができたら呼ぶ!」

 サッ!

 おれは植え込みのかげにかくれながら、表口へ小走りで向かう。

 そして、あと十メートルくらいのところまでくると、植え込みの横からそっと顔を出した。

 ……よし、気づかれてない。

 表口が見える。見張りの男、土屋の姿も、はっきり見えた。工場のドアの前に立って、道路へと続く正面の門を見張っている。

 まひるが言ってたとおり、大きな体だ。けれど、手に持っている缶コーヒーを見て、思わずニヤリとした。

 これなら、ねらえる!

『朝陽、なんでそっちに行っちゃうの~? リスクが高すぎ!』

「いいや、こっちのほうが倒しやすいから!」

 耳元で騒ぐまひるに、小声で答える。

 ──集中。

 ひゅっと息を吸って、土屋を目でとらえる。

 その太い肩、腕──大きな手。

 リンゴを軽くつぶせそうな指が、缶コーヒーのタブにかかる。

 チャンスは一瞬。

 缶に集中するように目を大きく見ひらくと、ぞわり、と、スキルを使うくすぐったいような感覚が背中を走る。

 おれのスキルは、物を動かすこと。

 それを活用する方法は、いろいろある!

 缶のタブが立ちあがる。フタが開く。

 ──今だ!

 ブシャアアアアアアッ!



 缶が開いた瞬間、コーヒーが飲み口から噴水みたいに噴きあがった。

「うわあっ!」

 噴きだしたコーヒーが、ようしゃなく土屋の顔や服にふりかかる。

 まるで爆発した炭酸ジュースだ。

「なっ、なんだ、これ! 止まらねえ!」

 缶がすっかり空になると、土屋は地面に缶をたたきつける。

 そのころには、上着とズボンはコーヒーの染みだらけで、無残な姿になっていた。

「なんだ、これ!? 服がぐちゃぐちゃで気持ちわりい! 着替えるしかねえか。でも、なんで缶コーヒーが? 炭酸じゃないのに……」

 土屋がドアを開けて、工場の中に入っていく。ドアが閉まる──けど、カギの音はしない。

 よし。

(星夜、準備できた)

 心の中で呼びかけると、すぐに星夜がやってくる。

 おれたちは目を合わせて、静かにうなずいた。

((今なら、表口から入れる!))


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