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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第1回

第3章 朝陽はクラスの救世主?

 
 おれはバッグを手に、玄関で待つまひると星夜のもとに走った。

「まひる、星夜、お待たせ」

「朝陽、おっそーい。あと一分遅かったら、おいてくとこだった……ああっ、髪の、右の結び目のほうが二ミリ高くなってるっ! 星夜、今から結びなおしてもいい? お願い~!」

「残念、もう時間切れ。じゃあハル兄、行ってきます」

「気をつけてね。行ってらっしゃい」

 見おくりに来たハル兄に手を振って、おれたち三人は外に出る。

 通学路まで行くと、小学生から中学生まで同じ学校の生徒たちがあちこちに見えた。

 おれたちの通う日野原(ひのはら)学園は、小学校と中学校がいっしょになった私立の小中一貫校(いっかんこう)だ。

きょうだい全員、小一のときからここに通っている。

 今日は、新学期が始まってまだ二日目。みんな、落ちつかないのか、少しそわそわしてる。

 一方でまひるは、スカートのすそを見せびらかすように、横にくるりと回転した。

「はー、記念すべき中学生の登校二日目! 朝陽、中学の制服、どう? ジャケットとスカートの組み合わせがかわいいでしょ。中学の制服、あこがれるでしょ!」

「べつに。おれは私服も好きだし」

 でも、たしかに中学の制服はまひるに似合ってる。『おしゃれが趣味(しゅみ)』といつも言っているだけあって、リボンの高さまで、カタログの写真みたいにカンペキだ。

「そういえば、春休みにも、家で何回も着てみてたよな。髪型も何十通りも試してさ」

「だって制服はこれから何度も着るものだからね。事前にバッチリ準備しておきたかったの! 星夜もあいかわらずクールなジャケットとネクタイが、すっごく似合ってるよ」

「……そうか? でも、おしゃれなまひるに言われると悪い気はしないな」

 星夜が照れくさそうに笑う。

 たしかに、すらっとした星夜に、上品な色のジャケットはよく似合う。ますます落ちついて見えるし、大人っぽい。

「あ、あれ、まひる先輩(せんぱい)じゃない?」「朝から星夜さん見ちゃった! ラッキー」

 こっちをチラチラ見る生徒の会話が聞こえてくる。

 まひるはおしゃれで、しかも、勉強が大の得意。小学校の入学試験からずっと学年一位だから、おれの学年にも、あこがれてる子がけっこういる。

 星夜も、クールでかっこいいって、かくれファンがいるらしい。

 でも、まひるはお気楽な性格だし、星夜はみんなが思ってる以上に思慮深い。

 おれからすると、みんなの評価と二人の実態は、ちょっとズレてるけど……。

 それでも、まあまあ自慢のきょうだいだ。

 星夜が、あっと口を開けた。

「そうだ。朝陽、まひる、さっきハル兄(にい)から言われたんだけど、今日の放課後、学校の正門前で待ち合わせしようって。二人とも予定はない?」

「わたしは何もないけど」

「おれも、特にないよ」

 でも、正門前で待ち合わせ? なんだろ。

 くわしく聞く前に、もう正門前の急な坂を上りきっていた。星夜とまひるが立ちどまる。

「じゃあ二人とも、放課後に」「朝陽は授業中にいねむりして、スキルを使わないようにね~」

「はいはい、了解」

 てきとうに返事をすると、小学校の校舎に入り、くつをはきかえて階段を上る。

 めざすは六年二組。三階の教室だ。

 中に入ると、ほとんどの席にはもうクラスメイトが座ってる。

「朝陽、おっはよ!」

「うわ!」

 後ろから聞こえた大声に、思わずびくっとする。

 このテンションの高い声。まちがいなく、良介(りょうすけ)だ。

「良介、おはよ。朝からテンション全開だな」

「まあな。おれの名前の良介の『良』はノリが良いの『良』だから!」

 良介はそう言って、ニカッと笑う。

 友だちの内海(うつみ)良介は、小一のときからずっと同じクラスという、いわゆるくされ縁だ。

 ゲーム好きっていう共通点もあって、なんだかんだとよく遊んでる。

 明るくて友だちも多い。そして、本人が言うとおり、ノリの良さは一級品だ。

「で、それにしてもテンション高いけど、どうしたの?」

「へっへーん。じつは、今日の昼休み、新しいクラスのみんな遊ぼうと思ってるんだ。朝陽も来るだろ? バスケやろうぜ」

「いいな。行く行く」

「よっしゃ、今から楽しみ! やっぱり何でも、楽しみがなくっちゃな」

 そのとき、担任の森永(もりなが)先生が教室に入ってきた。低い声が教室に響く。

「みんな、席について。今から朝のホームルームをはじめます」

「じゃあ、昼休みな!」

 良介がぶんぶんと手を振りながら、二つ前の席につく。

 おれもあわててイスに座ると、となりの席の女子と目があった。

「あ」

 たしか……久遠夕花梨(くおんゆかり)さん、だっけ。はじめて同じクラスになった子だ。

 肩くらいまでの髪がさらりと揺れている。昨日も思ったけど、おとなしそうな子だな。

 そうだ。話しかけやすいように、こっちからあいさつしよう。

 目立たないように、小声で――。

「おはよう……久遠さん、だよね」

「うん。おはよう、神木(かみき)くん」

「神木……そうだ、よかったら、おれのことは朝陽って呼んで」

「えっ。名前でいいの?」

「うん。きょうだいが二人いるから、名字じゃ、だれのことかわからなくなるんだ」

「……わかった。朝陽くん、よろしくね」

 久遠さんが、花が咲いたみたいに笑って言った。

 やさしそうな子だな。

 うん、新しい友だちもできそうだし、新学期も悪くないかも。

 そう思った瞬間、森永先生が名簿を閉じて言った。

「はい、全員出席ですね。それじゃあこのあと、六年生で最初の実力テストをします。みんな、春休みに復習してきましたか?」

「ええーっ!」

 やっぱりウソ。春休みのダラダラした生活がよかった!

 おれは、脱力して机にだらりとうつぶせになった。


 テストを受けて給食を食べたら、あっという間に、昼休みだ。

「おーい、良介。バスケするぞ」

 声をかけると、席に座っていた良介は、むにゃむにゃと答えた。

「え~と、おれ、テストぼろぼろだったから、ちょっとパスとか……」

「何言ってるんだよ、良介が企画したんだろ? ほら、体を動かせば気分も変わるって」

 良介を引っぱって教室を出ようとしたとき、ドアの前で久遠さんと入れちがう。友だちと話しこんで、楽しそうに笑っている。

 せっかくだからバスケに誘ってみるかな?

「学校なら、夕花梨とたくさん話せるね!」「春休み、会えなくてさみしかった~」

 ……なるほど。

「朝陽、どうかした?」

「いや、何でもない」

 良介に首を横に振って返事して、外へ向かう。

 久遠さんは友だちと楽しそうに話してるから、ジャマしないほうがいいかも。

「あ、もうみんな集まってる。グラウンドの真ん中に……あれ、変だな」

 外に出ると、おれはグラウンドの異変に気づいて立ちどまった。

 小・中学校共通のグラウンドは、大勢で使えるように、かなり広い。

 遊具があるエリアや、ボール遊び専用のエリアなど、いくつかに分かれている中で、バスケができるコートは、グラウンドの奥だ。

 なのに、待ちあわせしていたクラスメイトたちは、少しはなれた場所に集まっている。バスケットコートの中心を陣取っているのは、地べたに座った五、六人の中学生だ。

 おれは良介と、クラスメイトのもとへ走った。

「ごめん、遅れた。みんな、どうかした?」

「朝陽くん! それが、この先輩たちが移動してくれなくて……」

 クラスメイトの女子がそう言うと、コートに座っていた中学生の一人が、目をつりあげた。

「なんでおれたちが移動しないといけないんだ。グラウンドはみんなのものだろ」

「そうですけど……でも、この場所はわたしたちが先にとっていたじゃないですか。先輩たちは後から来て、座りこんだんですよ。おしゃべりなら、そこじゃなくてもできるのに」

「どこでしゃべったっていいだろ。おれたちのほうが年上なんだから、後輩が文句つけるな」

 別の中学生も言った。

「悔しかったら、おれたちをどかしたら? 無理だろうけど」「だよなー」「あはは!」

 中学生のばかにした態度に、クラスメイトの女子は、先輩たちから目をそむけた。

「良介くん、どうする? 他の遊びにしてもいいけど……」

「そうだな。あの人たちを気にしながらやるのも、楽しくないかあ」

 良介が残念そうにうなずく。

 だけど、グラウンドは、ほとんど使われている。今から他の場所はとれないよな。

 おれは、頭の後ろで手を組みながら、中学生の様子をうかがう。

 みんな背が高い。小六のおれと二十センチは差がある。たぶん全員三年生だ。

 でも、年下のジャマをして笑ってるなんて、おれたちより子どもだな。

 ――こういうのは、許せないかも。

「先輩。じゃあ……おれと勝負してくれませんか?」

 みんなの前に出てそう言うと、中学生の一人が目を丸くした。

「は? 勝負?」

「そうです。おれと勝負して負けたら移動してください。ま、おれがお願いしなくても、恥ずかしくて、いられなくなるだろうけど」

「は……はあ!?」「ばかにするな!」

 中学生たちが、ざわつく。すると、その中で、一番背の高い先輩が笑いながら立ちあがった。

「いいぜ。時間つぶしにやってやる。3オン3のバスケだ。そこのボール貸せ」

 はー、ムカつく言い方。

「ごめん。ボール、借りてもいい?」

 おれはそう聞いて、近くの男子からバスケットボールを一つ借りる。

 うん。ボールは空気もちゃんと入ってて、問題なさそう。

「あ、先輩、3オン3じゃなくて、3オン1――先輩三人、対、おれ一人でもいいですか?」

 おれだけで十分だと思うし、いっしょにやってくれた子が、巻きこまれたらいやだから。

「はあ!? ふざけるな。三対一で小学生が勝てるわけないだろ!」

 中学生がどなる。良介も、あわてておれに耳打ちした。

「朝陽、ホントに一人でいいのか? あの背の高い先輩、たしかバスケ部の人だぞ。パスを出すくらいなら手伝うけど」

「ありがとう。でも、だいじょうぶ。まぁ、まかせといて」

 ジャンプボールをする位置につくと、クラスのみんなが、大きな声をかけてくれる。

「朝陽、がんばれー!」「ファイト、朝陽くん!」

 その瞬間、審判役の中学生が、ジャンプボールを高く投げた。

 ――ヒュッ

 ふつう、ジャンプボールはジャンプする二人の、ちょうど間に上げるルールだ。

 でも、ボールは、ななめに上がっている。おれとは反対側――中学生のほうに投げられた。

 あきらかな、ズルだ。

 相手の先輩がジャンプする。笑ってる。もう絶対にボールを取れるって顔だ。

 もちろん、神スキルでボールを引きよせることはできるけど、それじゃあつまらない。

 こういうのは、スキルなしで倒さないと!

 ワクワクする。やる気がみなぎって、体が軽くなる。

 おれはひざを折って限界まで力をためると、勢いよく飛びあがった。

 先輩より頭一つ高くジャンプすると、腕を伸ばしてボールを奪う。

先輩が、ぽかんと口を開ける。

 ――驚いてる。でも、ここからが本番!

 軽やかに着地すると、低くドリブルを始め、先輩の横をするりと抜ける。

 すぐ目の前に、もう一人の先輩。でも、反応が遅い!

 シュートをうつと見せかけるフェイントを入れ、すばやいドリブルで一瞬のうちに抜きさる。バスケットゴールに向かうと、その前に中学生チームの最後の一人が立ちふさがった。

例のバスケ部の先輩だ。大きく両手を上げて、シュートをジャマしている。

 と、思った瞬間、ドリブルするおれの右手を目がけて、先輩が大きな手を振りおろした。

手を叩いてボールを奪う気だ。

「ああっ」「朝陽くん!」

 ふうん。ファールしてでも、無理矢理、ボールを奪おうってこと?

 でも、痛いのはカンベン。

 ダダン

 ――まずは低いドリブル。

 そこから、器用にボールをバウンドさせて、先輩のまたの下にボールを通す。その間に、おれはすばやく先輩のわきをかけぬけ、バウンドしてきたボールをキャッチし――、

 流れるようにドリブルしてレイアップシュート!

「よっ」

 ――スパッ



シュート成功。ボールがきれいにゴールネットの中に落ちた。

 わあああっ!

「朝陽、すごい!」「一人で勝っちゃった!」

 クラスのみんなが歓声を上げる。

 おれはすぐにバスケットボールを拾うと、ピンと立てた人差し指の上でくるくると回してみせた。

「この勝負、おれの勝ち。じゃあ先輩、友だちとバスケするから移動してもらえますか?」

「……チッ。行こう」

 中学生たちが顔を見あわせて、校舎のほうへ去っていく。

 ふう、これで解決?

 中学生の姿がすっかり見えなくなると、良介が元気よくジャンプした。

「よっしゃー! 朝陽、さっすが! やっぱり運動神経の神!」

「べつに。オーバーすぎ」

「ううん、朝陽くん。すごかったよ!」

「朝陽、スゲー!」

 うー、ここまでほめられると、ちょっと照れる。

 でも――みんな、もう困った顔はしてない。笑ってる。

 よかった。

 おれも、みんなが楽しそうなほうが、やっぱりうれしい。

「じゃあ、チーム分けして、早くバスケはじめよう。今日は、三十点はとるから!」

「げ〜っ! 朝陽、敵チームになったら、手を抜いてくれ〜!」



この続きは、4月18日に公開予定!
まひる、星夜も学校でスキルをつかうことに!?
さらに、朝陽のクラスメイト・久遠さんの様子がおかしくて……。
たのしみに待っていてね!


書籍情報


作: 大空 なつき 絵: アルセチカ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321930

紙の本を買う

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★最新刊『神スキル!!! 絶叫! 暴走!? ねらわれたテーマパーク』は、5月9日発売予定!


作: 大空 なつき 絵: アルセチカ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323637

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