KADOKAWA Group
ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第1回

第2章 おかしなきょうだい


「あーあ、朝から大変だった!」

 バタン!

 パジャマから服に着替えたおれは廊下(ろうか)に出ると、自分の部屋のドアを閉めた。

 部屋の中には、あちこちに散らばった物を集めたせいで、一つの山ができている。

 Tシャツの下にマンガ。さらにその下に文房具、ゲーム機、出しわすれのプリントなどなど。

「はあ~学校から帰ってきたら、片づけかあ」

 ぐるるる……

 切なく鳴いたおなかに、手を当てる。

 おなか空いた。スキルを使うと、どうしてか、すごくおなかが空くんだよな。

「朝陽。朝ごはん、できてるぞー」

 あ、星夜が呼んでる。

 おれは一段とばしで階段を下り、一階のリビングに入る。

 まひるはソファで忘れ物がないか、持ち物の確認中。星夜は、朝食のお皿を並べている。

 ……もう一回、あやまっとく?

 迷っている間に、まひるが、さっと目を閉じた。

 げっ、あれって、もしかして!

「はー。朝陽、部屋の片づけ適当すぎ。それに、わたしが貸したマンガまで、荷物の山にうもれてるし」

 ぎくっ。やっぱり!

 ひとつ上の姉、中学一年生の長女・神木まひる。

 まひるの神スキルは、『はなれた場所を視るスキル』。

 目を閉じて集中すると、半径一キロぐらいなら、どんなところでも〈視る〉ことができる。

 驚きの便利スキルだ――おれもときどき、今みたいに被害にあうけど。

「まひる。また、おれの部屋を勝手にスキルで視ただろ。見られたくないものもあるのに」

 出しわすれたプリントとか。

「朝陽、プリント出しわすれてるのか? 心の声が聞こえたんだけど」

 うっ!

 振りむくと、星夜が首をかしげて、おれを見ている。

 ――二つ上の兄、中学二年生の長男・神木星夜。

 星夜の神スキルは、『人の心を読むスキル』。

 ひとたびスキルを使うと、近くにいる人の心を読むことができる。

 それだけでなく、さらに集中すれば、人の心に直接、話しかけて会話することもできる。

 でも、星夜が言うには、心の中での会話は、おれたちきょうだい以外とできたことはないらしい。

 とにかく、この二人にかかると、おれの秘密はだいたい、いつもつつぬけだ。

「……はー、ほんと、二人とも、めちゃくちゃなんだから」

 とはいえ、おれも人のことは言えない。

 小学六年生のおれ、朝陽の『ふれずに物を動かすスキル』も、どう考えてもふつうじゃない。

『物を動かす』。それだけ聞くと、すごく便利っぽい。

 でも、動かせるのは、手で持てるのと同じくらいの重さまで。せいぜい十キロ。

 それ以上重くなればなるほど短い時間しか動かせないし、大人一人くらいの重さになると、もうピクリともしない。

 しかも動かそうと思うものが重ければ重いだけ、集中力もエネルギーも使う――簡単に言えば、スキルをたくさん使うと、おなかが空くってこと。

 中二の星夜、中一のまひる。そして、小六のおれ、神木朝陽。

 おれたち三きょうだいは、小さいころから特別なスキルを持っていた。

 信じられないくらい、めちゃくちゃすごいスキル――その名も〈神スキル〉だ。

 でも、人に知られると絶対めんどうなことになる。

 それで、いつもは神スキルをかくして暮らしてるけど――。

「あっ!」

 まひるがスマホを落として悲鳴を上げた瞬間、おれはとっさに目を大きく開けた。

 すぐに集中して見つめると――スマホが床すれすれで宙に浮いて止まる。

 こういうふうに家の中だと、けっこう気軽に使ってしまう。

 ま、ここなら家族以外に見られる心配もないし。

 まひるは、おれがスキルで浮かせたスマホを、ほっとした顔で拾った。

「は~、スマホが壊れるかと思った! 朝陽、キャッチしてくれてありがと」

「どういたしまして。でも、まひる、何で見ていたスマホを落としたの」

「くうっ! それはね……わたしの推しアイドルのデート写真がスクープされてたの! ま、まあ、もちろんニセモノだって信じてるけど!」

「えー? まひる、少しは現実を見たほうが――」

(朝陽。それ、たぶん言わないほうがいいと思う)

 突然、星夜の声が心に響く。

星夜は、スキルを使って、こうやって心の中に直接、話しかけられるんだ。

(……りょーかい)

 おれは、心の中で返事した。

「でも、まひる。そのアイドルって、まさか、前にライブをのぞくか迷ってた、あの、うわっ! 首つかむな、首!」

「あ~、迷うくらいはいいじゃない! ズルしないために泣く泣くがまんしたんだから~」

「三人とも、朝からにぎやかだね」

 明るい声を上げながら、いとこのハル兄が、キッチンから顔をのぞかせる。

 若月春斗(わかつきはると)――おれたちはハル兄(にい)と呼んでいる。

 ハル兄は、おれたち三人の今の保護者だ。

 去年の春、父さんと母さんが海外で働くことになったとき、学校のため、日本に残ることになったおれたちの保護者として、親戚の中から選ばれたのがハル兄だ。

 ハル兄は二十三歳。ちょうど、アメリカで飛び級して大学院を修了(しゅうりょう)し、日本の大学で働きはじめるところだった。

 しっかり者だし、おれたちとも小さいときから仲がいい。しかも、神スキルのことも知っているから、おれたちも気楽で、保護者にはうってつけだ。

 すらっとした長身で、今のエプロン姿ですら雑誌のモデルみたいに決まってる。

「ハル兄、おはよ」

「おはよう、朝陽。今日も朝から大変だったみたいだね。じゃあ、みんなで朝ごはんにしようか。今日は目玉焼きだよ」

「あ、わたしも食べる~。半熟の目玉焼き、あるかな?」

 まひるがソファから飛んでくるのにつられて、おれも、お皿をのぞきこんだ。

 四つのうち半熟は二つかあ……いつもはよく焼いたのが好きだけど、今日は半熟もいいかも。

 そう思った瞬間、星夜が半熟の目玉焼きの皿を、おれの席に置いた。

「えっ、どうしたの、星夜。何も言ってないのに。もしかして、心を読んだ?」

「まさか。それくらい読まなくてもわかるよ。じっとこの皿を見てただろ」

 うっ、はずかしい。星夜って、心を読まなくても察しがいいんだよな。

 でも、今日はありがたくもらおうっと。

「いただきまーす!」

 イスに座って、できたての目玉焼きをはしで割ると、まひるがあきれて目を回した。



「はー。ハル兄も星夜も、末っ子だからって朝陽をあまやかしてない? さっきもいろんなものを飛ばして、大変なことになったのに」

「まあまあ、朝陽も寝ぼけてやったんだし、ケガもなかったんだからいいじゃない。ね、星夜」

「そうだね。だいたい、まひるも、朝陽の寝起きが悪いのをわかったうえで、起こしに行ってるだろ? それに、スキルの使い方で言うなら、オレはまひるが一番、心配だけど……」

「おれも、星夜の意見に賛成」

「えー? こんなに、けなげな乙女なのに」

 まひるが、すました顔でポテトスープを飲むと、ハル兄が、くすくすと笑った。

「使い方は、みんなにまかせるよ。でも朝陽、まひる、星夜。三人とも、神スキルを使うときは、前にした約束だけは守ってね」

「わかってる、ハル兄」

 おれが、そう返事すると、まひると星夜も真剣な顔でうなずく。


 一、犯罪や悪いことには使わないこと         

 二、危険な使い方をしないこと                   


 これが、おれたち三きょうだいとハル兄との約束。

 神スキルは、使い方によっては危険なことにもなりかねない。だからこそ、おれたちとまわりの人を守るための、大事なルールだ。

 でも……おれは、本当はもっとこのスキルを活かしたいと思ってるけど。

 ちらりと視線を送ると、ハル兄がにっこり笑った。

「もし困ったことがあったらなんでも相談してね。ぼくでよければ力になるよ」

「サンキュ、ハル兄」

「あ、じゃあ、わたしは、おやつにプリンが食べたいなあ。作るのが大変なら、ゼリーでもいいよ」

「ずるっ。それ、どっちもまひるの好物じゃん!」

 おれとまひるが言いあいをはじめると、星夜が時計を指さした。

「二人とも、けっこう時間たってるぞ。新学期二日目で遅刻する気か?」

「「まずい!」」

 おれはまひると先を争うように、ごはんを食べはじめる。

 星夜はていねいにごちそうさまを言い、ハル兄はそんなおれたちを、やさしく見ている。

 おれと、まひると、星夜とハル兄。

 ちょっと変わってるけど、けっこういい家族かも。

 ――何より、ハル兄のご飯がおいしいし。

 おれはスープの最後の一口を、味わいながら飲みほした。

次のページへ▶


この記事をシェアする

ページトップへ戻る