水沢若葉(みずさわわかば)ちゃん。
わたしの幼なじみ、その二。
「若葉ちゃん! あのね、向こうに大きなヘビがいたんだよ!」
「ヘビ⁉ こわ……どんなヘビ?」
「緑色だった」
「じゃあアオダイショウかな……日本の本州ではマムシとヤマカガシ以外は無毒だっていうから、キケンはなさそう。でも、こわいよね」
「くわしいね⁉ さすが若葉ちゃん」
「『いきものの森』で見たの。全図かんコンプしたしね」
ふふっと少し得意げにほほ笑む若葉ちゃん。
『いきものの森』はプレイヤーがいろんな生き物の暮らす村に住んで遊ぶゲーム。
若葉ちゃんはゲーマーなんだよね。
勉強もスポーツもできる優等生でもあるから、もともと物知りなんだけど。
「あとは行成だな~。どこかくれてるんだ、あいつ」
頭をガシガシとかきながら、尊が言った瞬間。
「ここでした」
「「「うわっ」」」
ガサッと上から色白の男子が逆さまに現れて、わたしたち三人はとびあがった。
木の枝にひざでぶらさがって、ビックリするこっちを見て無表情でVサインしている彼は。
今鷹行成(いまたかゆきなり)。
幼なじみ、その三。
基本無口でクールであまり感情を顔に出さないけど、けっこう自由でマイペース。
でもって親は茶道の家元というおぼっちゃま。
まさか真上にかくれてたなんて……。
「おまえはニンジャか!」
尊のツッコミに「どろん」と答えながら、地面に下りてくる行成。
そして、すらりとした長身でわたしたちを見まわしながら、淡々と言った。
「そろそろ、あきてきたな」
「そうだね。かくれんぼはもういいかも」
「次は何する?」
うーん、と考えていたら、不意に。
『こっちだよ』
呼ばれた気がして、振りかえる。
……だれもいない。気のせいかな?
「どうした、まなみ?」
「なんでもない。そうだ、あそこの中に入ってみるのはどう?」
振りかえった先に見えた、かわら屋根の蔵を指さした。
「あー、あの物置? いいじゃん。変わったものがいっぱいあったよな」
「前は時間がなくて、さっとしか見られなかったしね」
「賛成」
尊がパチンと指を鳴らし、若葉ちゃんと行成もうなずきあう。
みんな、五年前にも遊びにきたことがあるんだよね。
その時にいっしょにあちこち探検して、あの蔵もちょっとだけ見に行ったっけ。
「カギはかかってなかったはずだよ」
「よっしゃ」
「いざ行かん、がらくたの楽園へ」
目を輝かせて、蔵へと向かって歩きだす、幼なじみたち。
三人の後を追いながら、わたしの足どりもはずんでいた。
みんな同い年で、幼稚園から小・中学校もずっと同じ。
気づけば四人でいることがあたりまえ……だったんだけど、中学校に入ってからはわたしと若葉ちゃん、尊と行成でクラスが分かれちゃって。
尊はバスケ部の練習、行成は家の用事でいそがしかったり、若葉ちゃんは体調不良だったり。
わたしも新しい環境でバタバタして、今回おばあちゃんが、久しぶりにみんなで泊まりにおいでって呼んでくれるまで、ずっと集まれてなかったんだ。
特に尊と行成とは、こんなに長いことゆっくり会えてないのは初めてだった。
いっしょにいると、ケンカはしても、テンション上がるし。
しっくりくるっていうか、ホッとする。
クラスの友だちも好きだけど、やっぱりこの三人はトクベツなんだ。
みんなで集まると、なんでもできちゃいそうな、無敵のパワーがわいてくる。
でも……ゴールデンウィークは明日で終わりだし、今日の夕方にはもう、家に帰るんだよね。
そう気づいた瞬間、ずーん、と気分が沈んできた。
やだな、帰りたくないよー。
また、あのヘーボンな毎日にもどるのかぁ……。
第2回へつづく(3月6日公開予定)
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