
わたし心葉(ここは)! あこがれだったサッカー部のマネージャーに、ようやくなれた! …でも、まだ慣れないことも多くて、失敗ばかり……。キラキラかがやく部員たちの役に立ちたいけど、わたしにできるのかな…?
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#6 海沿いの帰り道
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「咲結(さゆ)はどんな感じ? チア部!」
「先輩たちがみんな優しくて、楽しいよ。まだ、わからないことだらけだけどね」
咲結とのお弁当タイム。
チア部に入った咲結も、毎日楽しそう。なんだか、わたしまでやる気がもらえる!
咲結は、タコさんウインナーをつまみながら、つぶやく。
「早くサッカー部の応援に行けたらいいな」
「それ、最高だよっ! 咲結の応援、まってる!」
マネデビューから数日が過ぎたけど、新鮮でワクワクして、がんばろうって気持ちであふれてるんだ。
「でも、五月の中旬に大会、ってチア部のスケジュールには書いてあったけど……。ココは、それまでマネージャーつづけられてるよね?」
ちょっと心配そうな表情に変わった咲結。
だってわたしは、一ヶ月限定のマネージャー。
速水くんが一ヶ月でやめるなら、わたしだって……。
「……大丈夫! 大会はぎりぎり一ヶ月くらいだし、それまでは絶対つづけてもらうよ!」
わたしは明るく言い放った。
「それに、速水くんに絶対、サッカー部つづけたいって思ってもらえるようにする!」
大会まではあと一ヶ月くらい。それまでに速水くんに、サッカー部の一員になってもらいたい!
こぶしを作ったわたしを見て、咲結はくすりと笑った。
「ココがそう言うなら、安心ね」
「うんっ!」
残りひとくちの卵焼きを食べて、思わずほおがゆるむ。
ママの卵焼きって、ほんのり甘くて超おいしい!
色どりがよくって、栄養バランスもととのっていて、なによりすごく味がおいしい! 毎日お弁当の時間が楽しみなんだ。
キーンコーンカーンコ―ン。
昼休みおわりの十分前のチャイムが鳴った。
「さっ、午後の授業もがんばろー」
咲結はそう言って、紙パックのオレンジジュースをすすった。
中学の授業は、小学校のときとはちがって、理解するのに時間がかかる。
授業はむずかしくて、ついていくのに必死だけど……。
あと二時間がんばったら、部活が待ってるから、しっかり集中しなきゃね!
マネになってからは、放課後が待ち遠しい。
あーっ、早く放課後にならないかなー!
「速水!」
佐伯くんの呼びかけよりも早く、速水くんはゴール前に走っている。
佐伯くんが蹴ったボールは、ちょうどよく速水くんの足元にわたって……。
──ザンッ。
そして、見とれてしまうような、きれいなシュートを決めた。
「速水ナイシュー!」
先輩たち、同級生たちから、大きな声が飛ぶ。
ほんっとに、速水くんって、サッカーうまい。
ここ数日見てて、速水くんが世界トップレベルなのが、わたしでもわかった。
ほかの部員たちが圧倒されるくらいの、高い技術。
なにより、エースストライカー、って言葉がぴったり。シュートが格段に上手だ。
それに……。
「佐伯、ナイスアシスト!」
速水くんは、佐伯くんに向かって、グーサインを出した。
佐伯くん、速水くんと息ピッタリなんだよね。
今のところ、速水くんについていけているのが、佐伯くんと桐生先輩。
そのほか、先輩たち数人もどうにか、って感じ。
「次も決めるぞ!」
シュート練をする速水くんは、いきいきして見える。
ボールを追いかける横顔が、かがやいてるんだ。
そんな表情を見るたび、わたしは気になることが浮かぶ。
サッカーをやめちゃったのは、なんでだろう……。
速水くん……わたし、不思議でたまらないよ。
こんなに上手で、楽しそうなのに。どうしてサッカーから離れちゃったのかな。
そんなことをぼんやりと考えていると。
「マネージャー! ボール足りない!」
「はいっ! すみません!」
桐生先輩に指摘され、わたしは急ぎ足でボールを追いかける。
肝心のわたしは、マネ初心者から抜け出せない!
速水くんのことを気にしてるヒマはなかった!
部活がおわるころには、いつも茜色の空。
ちょっと空色ものこっているけど、だいたいは夕暮れ色にそまっている。
着替えをすませ、部室から出て、わたしは空を見上げる。
この夕焼けをながめると、一日がおわった、って感じがするんだ。
大好きないちごミルクを買って、ストローをさすと。
「あ」
部室の玄関で鉢合わせたのは、速水くんだった。
汗でちょっと濡れた髪。クラスの女子なら、かっこいいって騒いでるだろうな。
「速水くん、おつかれ!」
「……おつかれ」
一応あいさつはしてくれるけど、やっぱりなんか、つめたい気がする!
もう気にしてないけど!
……けど、これは、一緒に帰る流れ、だよね?
今までは一人で帰るか、同級生数人で帰ってたけど……。
速水くんとふたり、なんて。
どうしてか、少し気まずい。ちょっとだけ緊張する。
まぎらわすように、ストローでいちごミルクをすする。
速水くんは、部室の近くに停めていた自転車を手で押した。
「速水くんって、自転車通学なんだね」
「ああ。立花は、徒歩? 電車?」
「徒歩だよ。家、けっこう近いの!」
「前に、佐伯とふたりで歩いて帰ってたよな」
「そうだったね! 佐伯くんは電車通学だけどね」
他愛ない話をしながら、校門を出て、坂道を下る。
夕日が沈む海が見えて、思わず目を細めた。
この景色、いつ見てもきれいなんだよね……。
きらきら水面がオレンジにかがやいている。
……って、景色に見とれてる場合じゃなかった。
速水くんは、自転車を押して、隣を歩いてくれている。
わたしを置いて、ひとりで帰ったりしないんだ、とか、失礼なことを一瞬考えちゃったけど。
……なんか、話題、話題。
せっかくふたりだから、今しか話せないようなことを話そう。
「サッカー部、入ってくれてありがとう」
わたしは速水くんの顔を見上げ、にこっと笑った。
……ずっと、お礼を言いたかった。いつか必ず、ありがとうだけは伝えなきゃ、って。
「ケガさせたおわび、ってだけだからな」
やっぱり、まだちょっとそっけない速水くん。
相変わらずだなあ。
「あんなにうまいし、大活躍じゃん!」
そこで、わたしの頭には、気になっていた疑問が浮かんできた。
きっと今が、聞くチャンス……だよね?
ためらう気持ちはあるけど、ずっと気になっていたこと……知りたい。
「そういえば……。どうしてサッカー、やめちゃったの……?」
ふいに、ざあっと風に海がさざめいた。
どんな答えが返ってくるんだろう……。
やっぱり触れられたくないことなのかな、と思って、おそるおそる顔を見上げると。
「……直接聞いてきたの、おまえがはじめてだよ」
わたしの問いかけに、速水くんはびっくりしたのか目を見張っていた。
「だって、気になるじゃん!」
「ほんと、おまえはいつも直球だよな」
速水くんはそう言って、少しだけふっと笑ってから、目を伏せる。
なに、その表情は……?
そしてひと呼吸おいてから、静かに口を開いた。
「……嫌いに、なったから」
嫌いに……?
わたしはあぜんとした。
そんな、信じられない、けど……。
夕日に照らされているはずの速水くんの顔つきは、なんだか暗い気がする。
「あんなに楽しそうなのに、なんで……?」
「……もうやりたくねえんだよ。サッカーなんて」
「どうして? なにがあったの、速水くん」
「……おまえには関係ねえ」
突き放す態度の速水くん。
「関係あるっ! わたし、マネージャーだもん」
わたしは、思わずむきになって言い返した。
サッカー部での速水くんは、サッカーをやりたくなさそうになんて、全然見えない。
どうしてなの? 速水くん……。
「サッカーしてる姿、すごく楽しそうで、速水くんはサッカーが好きなんだって思ったよ。それなのに……」
「立花には関係ねえ、って言ってるだろ」
ぴしゃりと壁をつくられて、わたしは口をつぐむ。
速水くんのほうをちらりと見ると、かなしそうな表情をしていた。
速水くん、つらそう……。
こんな横顔を見たら、なにも聞けないよ……。
どうすることもできず、沈黙していると。
「マネージャーとして、みんなに認められたら、関係あるかもしれねえけどな」
「なっ!」
意表をつかれて言葉を失っている間に、速水くんは自転車にまたがる。
「じゃあな、立花。帰り、気をつけろよ」
速水くんはそう言い残して、ペダルを踏みこんだ。
あっというまに小さくなる背中。
わたしは、その場に立ち尽くした。
感情がぐちゃぐちゃで、よくわかんない。
だけど今、わたしの頭にいちばん強く残っているのは、速水くんの切ない横顔だった。
焼きついて離れない、かなしそうな目。
あの態度……、サッカーをやめたわけを、言いたくなさそうだった。
どうしても言えないなにかが、あるのかな。
速水くんに、なにがあったのか……。
そのとき、気づいちゃった。わたし、速水くんのこと知りたいんだ、って。
速水くんのことが、ちょっと気になる心葉。
でも速水くん、あれだけサッカーが上手なのに、好きそうなのに、やめちゃったのは一体どうして……?
切なさもときめきも、どんなキモチも、キミの心でキラキラかがやく!
いつでも全力!な心葉と、ちょっとクールでかっこいい速水くん、咲結や大和くん、桐生先輩の「これから」を、ぜひ応援してね!
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