ある日、結乃(ゆの)が出会ったのは、鏡でも見ているぐらいにそっくりな顔した女の子・芽衣(めい)。もしかして、生き別れのふたご!?と思ったけれど、学年が違うからふたごじゃないし、姉妹でもない。…わたしたち、いったい何者!?
超気になるこのお話は、2025年12月10日発売の『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』(夜野せせり・作 駒形・絵)! 性格はぜんぜん違うけど、ヒミツの親友になったふたりの、超ドキドキでワクワクな毎日を、先行ためし読みで楽しんじゃおう!
きょうは、結乃(ゆの)ちゃんがこっそり芽衣(めい)ちゃんの家に遊びに行く日!
はたして結乃ちゃんは、だれにも見つからずに、芽衣ちゃんの家まで行くことができるのか……!?
★5★ とつぜんの「助っ人」依頼
「つぎの日曜日」は、すぐにやってきた。
電車に揺られ、若葉市へ。
頼まれていた『ブツ』も、ちゃんとバッグに入れて持ってきた。
人に見せるのはちょっとはずかしいけど、わたしと芽衣ちゃんの「ヒミツ」を解き明かすヒントになるかもしれない。
これを見せるとなると、やっぱり『すずらん図書室』よりも、芽衣ちゃんの家のほうがいいな。
すずらん図書室も、あんまりひと目につかない穴場らしいんだけどね。
あのスペースは、「小さい子どもと、その親」が午前中利用することがほとんどで、午後はだれも来ない。だから、「ひみつの待ち合わせ」には、うってつけ……らしい。
同じ顔した芽衣ちゃんとわたしがふたりでいるとこ、だれかに見られたら、大さわぎになっちゃうもんね。
芽衣ちゃんとは、「ふたご」ではなさそうだけど、そっくりなのには、きっとワケがある。
もしかしたら、わたしの「本当の両親」と関係があるのかもしれない。
だから、さわぎになったら、わたしだって困る。
そっくりな芽衣ちゃんと会ってることが、お父さんとお母さんの耳に入ったら。
わたしがこっそり、生き別れのふたごに会ってて、本当の両親にも会ってるんだって、誤解しちゃうと思うんだ。
ほんとはふたごじゃないんだけど、そんなこと説明できないし……。きっと傷つくよね。
そもそもわたし、今の家に引き取られた子だってこと、さわっちにすら話してない。
仲良しだし、さわっちはすごくいい子だけど、「重い」話かもしれないなって思うと、わざわざ話すのは気が引けちゃうっていうか。
電車を降りたあと、駅前の、大きな噴水のある公園を横切って、大通りへ向かった。
そこから横断歩道を渡り、裏道へ入り、しばらく歩くと、すずらん通り。
……だったと、思うんだけど。
地図アプリを見つめて、首をひねる。
けっこう歩いたのに、たどり着けない。
なんで? この前は迷わずに行けたのに。なんで二回目で迷うの!?
約束の時間は午後1時半。スマホを見ると、もう25分。
歩道脇、バス停のそばにあるベンチに腰を下ろして、メッセージアプリを開く。
『ごめんね、遅れる』
と打ち込んで、送信。
「芽衣」
ふうっと、息をつく。もう一度、駅に戻ってみようか。たぶん、ちがう道に入っちゃったんだ。
「おい。芽衣。無視すんなよ」
頭上で声がして、顔をあげた。
男の子がいる。毛先にわずかにくせのついた、茶色
がかった短い髪。意志の強そうな、大きな瞳。くちび
るは、不機嫌そうに引き結ばれている。
「なに、ぽかんとしてんだよ」
え? もしかして、わたしに話しかけてる? ゆっくりと自分の顔を自分で指さすと、
「当たり前だろ。なんでそんなにきょとんとしてんだよ。記憶喪失にでもなったか?」
男の子は、自分の前髪を、くしゃっと乱暴にかきあげた。
「芽衣、今からバスでどっか行くの?」
聞かれて、ぶんぶんと、首を横に振る。
そうか、この子、わたしを芽衣ちゃんだと思ってるんだ。
バッグにスマホを仕舞って、立ち上がる。となりにならぶと男の子はけっこう背が高くて、見上げなくちゃいけなかった。
「……ん?」
男の子は、わずかに眉をよせた。けど、それは一瞬で。
「ひまならちょうどいい。今から来てくれ」
わたしのうでを、がしっとつかんだ!
「えっ!? ど、どこに!?」
っていうか、「ひま」だなんてひとことも言ってないんですけど!!
男の子は、わたしを引っぱって、知らない道(当たり前だけど)を進んでいく。
ど、ど、どうしよう。緊急事態発生だよ。芽衣ちゃんに知らせないと。
でも、この子のスピードが速すぎて、スマホを取り出す余裕もない!
っていうか、ここ、どこ!?
連れてこられたのは、大きな川沿いにある、しばふの広場。
「2時から試合なんだよ。ここに向かってる途中で、ひとり来られなくなったって連絡入ってさ。ちょうど芽衣に助っ人頼もうって思ってたとこだったんだ」
「試合……。なんの?」
男の子は、Tシャツとジャージの、ラフなかっこう。
「草野球だよ。部活の公式戦とかじゃない、たんなる遊びだよ」
「は、はあ……」
たんなる遊びとはいえ、わたし、今から芽衣ちゃんのかわりに野球をするの?
ムリ。ムリムリムリムリ!
男の子は、しばふ広場のベンチに集まった仲間たちに声をかけた。
「おーい! 芽衣連れて来たぞ!」
とたんに、歓声があがる。
「さっすが陸斗(りくと)! これで試合できる」
「つーか赤西いるなら無敵じゃん」
会話から推測するに、この男の子の名前は「陸斗」で、芽衣ちゃんは「無敵」なんだ。
「よろしくな! 春蘭の生徒会長サマ!」
草野球メンバーのひとりに、バシッと背中をたたかれた。
う、うそ。逃げられない感じになっちゃってる。
おろおろしていると、何かがわたしのほうに飛んできた。あわててキャッチする。
「グローブ。使えよ。おれのお古で悪ぃけど」
陸斗くんが、にっと笑った。
「は、はあ……」
っていうかこれ、どうやって使うの? 手袋みたいにはめればいいんだよね?
しきりに首をひねるわたしに、陸斗くんが声をかけた。
「なんだ? 芽衣、野球やるのひさしぶりすぎて、忘れたか?」
「う、うん」
そういうことにしておこう。
そ、そうだ。芽衣ちゃんに連絡……!
『トラブル発生! 芽衣ちゃんに間違われて、野球することになった。どうしたらいい!?』
メッセージを送ると、すぐに既読がついて、返信がきた。
『えーっ!? うちの出身小学校の同級生のチームかも、それ。野球やったこと、ある?』
ないに決まってるよ! スポーツ全部、苦手だもん!
『こうなったらがんばるしかないね。健闘をいのる!』
め、芽衣ちゃ~ん!
「おーい、芽衣。試合はじめるぞー」
「は、はあい!」
あわててスマホを仕舞った。荷物は……。みんな、ひとつの大きなカゴに、無造作に入れている。
不用心だなあと思いつつも、わたしもそのカゴにバッグを入れた。
そして、試合開始。さっそくうちのチーム(レインボーズという名前みたい)は、守備につく。
「芽衣はライトな」
言われて、うなずいた。……のはいいけど、ライトってどこだっけ。
「あそこだよ、あそこ」
「う、うん」
急いで、陸斗くんが指さすほうへ走った。
野球は、テレビで試合を見たことがあるレベル。一生懸命、ルールを思い出す。
とりあえず、飛んできたボールを受け止めて、ランナーが走る塁に投げればいいんだよね?
ピッチャーは陸斗くん。シュッと足をあげて、ズバッとボールを投げる。
「ストライク!」
審判役の子が叫んだ。すごーい!
その後も、陸斗くんは連続でストライクをとった。
やった。このまま相手チームがだれも打てなかったら、ボールが飛んでくることもない!
なんとかやりすごせるかも! ……と、思った瞬間。
陸斗くんは打たれた。といっても、ホームランとか、そういうんじゃない。
ボールは低く飛んで、途中で勢いを失って、わたしのところにころころと転がってくる!
お、落ち着こう。転がってるボールだし、運動ポンコツなわたしでもきっと拾える。
自分に言い聞かせて、グローブをかまえてボールをとろうとしたけど。
「あれ?」
ボールは、わたしの足の間をすり抜けて転がっていった。
グローブでボールを取るのって、む、むずかしい……!
そのあいだに、相手チームのバッターは、一塁、二塁、と走り抜けていく。
わたしが取り損ねたボールは、ほかのポジションの子がすばやく拾って、ホームに投げた。
ランナーは三塁で止まった。
ランナーがホームにかえったら、一点とられるんだよね? わたしのせいでピンチだよ。
小学生の時は、こういう時、かならず責められた。
マウンドにいる陸斗くんが、さっと後ろを振り返る。
今からわたし、責められる。思わず、ぎゅっと肩をすくめたけど。
目が合った瞬間、陸斗くんは、にっと笑って、
「ドンマイドンマイ! 切り替えてこ!」
と、明るい声をあげたんだ。
えっ。責めるどころか、はげまされてる……?
ほかのチームメイトも、「ドンマーイ!」と、笑顔だ。
みんな、怒ってないんだ。そう思うとほっとして、こわばっていた体が、ふわっとほぐれた。
やっぱり、見つからずに芽衣ちゃんの家にたどりつくのはムリだった~~~!!!!
スポーツが苦手なのに、野球をすることになっちゃって大ピンチだったけど、陸斗くんのおかげで、なんとか……なりそう……?
でも、ほんとになんとかなるの!? 次回先行れんさい第5回が公開される12月11日は、つばさ文庫『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』の発売日!!
つばさ文庫の発売も、先行れんさい第5回『わたしにも打てる……のかな?』の公開も、どっちもおたのしみに!
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