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ものがたり

第6章『わたしにも打てる……のかな?』


ある日、結乃(ゆの)が出会ったのは、鏡でも見ているぐらいにそっくりな顔した女の子・芽衣(めい)。もしかして、生き別れのふたご!?と思ったけれど、学年が違うからふたごじゃないし、姉妹でもない。…わたしたち、いったい何者!?
超気になるこのお話は、2025年12月10日発売の『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』(夜野せせり・作 駒形・絵)! 性格はぜんぜん違うけど、ヒミツの親友になったふたりの、超ドキドキでワクワクな毎日を、先行ためし読みで楽しんじゃおう!


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芽衣(めい)ちゃんにまちがわれて、野球をすることになってしまった結乃(ゆの)ちゃん。芽衣ちゃんの幼なじみ・陸斗(りくと)くんが助けてくれたおかげで、なんとかなりそう……だけど、こんどはバットを持って、バッターボックスに立たなきゃいけなくて!?


★6★ わたしにも打てる……のかな?

 スリーアウトになり、攻守交替。今度は打つ番だ。

 わたしの打順は7番。

「芽衣は、野球、ひさしぶりでカンがにぶってんじゃないかな。打順来るまで、ちょっとこっちでバッティングの練習しようぜ」

 陸斗くんがわたしに声をかけた。

 みんなが打順を待つ間に座っているベンチの裏で、バットの持ち方や振り方を、教えてくれた。

「うん。さすが芽衣。すぐにでも打てそうだな」

 陸斗くんはしきりにうなずいている。

「ほ、ほんとに……!?」

 ぜんっぜん、打てる気、しないんですけど。

 そうこうしているあいだに、ふたたび攻守交替。

 ピッチャー陸斗くんの活躍で、あっというまに、またもや攻守が入れ替わる。

 つぎは5番の打者からスタート。わたし、絶対回ってくるじゃん!

 5番の子、ヒットで塁に出た。6番の子も打って、ランナーは一塁、二塁。

 そしてつぎは、いよいよわたし。

「ここで赤西が打てば、点が入るな」

 チームの子に言われて、足がすくんだ。プ、プレッシャーかけないで!

 相手ピッチャーがふりかぶる。ボールが向かってくる。ひえええっ、こわい!

 バットをがむしゃらに振るけど、かすりもしない。

 あっという間にツーストライク。あとひとつ、ストライクをとられたらアウトだ。

「ちょっとタイム」

 陸斗くんの声がひびいた。陸斗くんは、わたしのそばに駆け寄ると、

「ボールをよく見て」

 と、ささやいた。

 ボールを、見る……? 

 そういえば、わたしはただバットをやみくもに振るだけで、飛んでくるボールをぜんぜん見てなかった。だって、速くてこわいんだもん。

「だいじょうぶ、できる」

 陸斗くんは、わたしの目を見て、ゆっくりとうなずいた。

 吸い込まれそうに強い力をもった、陸斗くんのまなざし。

 とくん、と心臓が鳴る。

 えっ……。これ、なに?

「かましてこいよ」

 陸斗くんがいたずらっぽく笑う。わたしは、こくりと首をたてに振った。

 ピッチャーがふりかぶる。ボールが向かってくる。

 こわいけど、最初よりちょっと慣れた。目をしっかりと見開いて、ボールを見る。

 曲がったりしないで、まっすぐに飛んでくる。

 よし、今だ。考えるより先に、体が動いた。

 思いっきり振ったバットが、ボールをとらえる。

 カーン、という気持ちいい音といっしょに、ボールが飛んでいく。

 高く上がって、どこまでも遠くへ。

「ホームランだ!」

 陸斗くんが叫んだ。

「えっ! ホームラン!?」

 わたしが打ったの?

「赤西、はやく回れ!」

 言われて、われに返る。そうだ、打ったら、塁に出なきゃいけない。

 一塁、二塁、三塁とまわって、わたしはホームにかえってきた。

「スリーランホームラン。すげえよ! 最強助っ人だな!」

 チームの子たちにもみくちゃにされた。

 信じられない。わたし、ホームラン打っちゃったよ!


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 そのあとも、さくさくと試合は進み、5回まで終わった。

 グローブにも慣れて、転がるボールぐらいは拾えるようになってきた頃。

「やば。雨、降りそう」

 レインボーズの仲間が、空を見上げた。

 つられて見上げると、真っ黒い雲が、川のむこうから近づいてきてる。遠くで、ごろごろと雷鳴も聞こえる。

 きゅうきょ、両チームで話し合う。試合はやめて、雨が降りはじめる前に帰ることになった。

「こんなだだっぴろいところで、雷が落ちたらあぶないからな」

 帰り支度をしながら、陸斗くんがつぶやく。

「そうだね」

 芽衣ちゃんに間違われて、やったこともない野球の試合に出ることになっちゃって、困ってたのに。はやくこの場を抜け出したかったのに。

 わたし、ちょっとだけ……。試合がハンパになって、くやしい。

「傘、持ってるか?」

 陸斗くんに、ふいに聞かれて、首を横にふった。

「そっか。じゃ、おれ、折りたたみ傘持ってるから、降り出したら入れてやるよ」

「えっ!! それって、送ってくれるってこと!? い、いいよっ、そんな」

「遠慮すんなよ、らしくねーな」

 陸斗くんは苦笑する。

「っつーか、家、となりなんだし、送るも何も、どうせいっしょに帰ることになるだろ」

 い、家がとなりなの!?

 しかも、となりって言っても、わたしと海里くんとはちがって、めちゃくちゃ仲いいよね? 名前だって呼び捨てにしてるし。

 ひょっとして陸斗くんって、芽衣ちゃんの、いわゆる「幼なじみ」ってやつなのでは?

 憧れの、「幼なじみ」……!!

 遠くで鳴っていた雷鳴が、少しずつ近づいてくる。

 チームのみんなに手を振って、わたしは広場をあとにした。

 あとにした、っていうか、陸斗くんの後ろをついていってるだけなんだけど。

 よく考えたらわたし、芽衣ちゃんの家がどこなのかわかんないし、すずらん通りにだって戻れる自信、ない。ついていくしかないんだ。

 行きは、パニックになって気づかなかったけど、広場のある大きな川と、わたしが陸斗くんに声をかけられたバス停そばのベンチは、案外近かった。

 そして、そこからさらに少し歩いて。

 洋風の、おしゃれで大きな一軒家の前で、陸斗くんは立ち止まった。

「雨が降り出す前に家に着いて、よかったよ」

 着いたの? ってことは、ひょっとして、ここが芽衣ちゃんち……?

 門柱に「AKANISHI」ってプレートがあるから、ここで間違いなさそう。

 それにしても大きな家。庭も広いし、きれいなお花がたくさん咲いてるし……。

「どうかしたか?」

 陸斗くんが首をかしげる。

 はっ! わたしは今「芽衣ちゃん」なんだった!

 自分の家を見て、ものめずらしそうにしてるなんて、おかしいよね。

「べ、べつになにも……。ちょっと、おなかが痛くて」

 あわててごまかす。

「ハラ痛いの? そっか、それで野球の時も様子がおかしかったんだな」

「ははっ、実は」

 そういうことにしておこう。

「気づかなくて、ゴメンな」

 陸斗くんは、申し訳なさそうに小さくほほえんだ。

「家でゆっくり休めよ」

「うん」

 ちょっと強引なとこもあるけど、優しいんだな、陸斗くんって。

「じゃ、また明日。学校で」

 陸斗くんは、小さく手を振って、となりの2階建ての建物に入っていった。

 家がとなりって、本当だったんだ。それに、「また明日、学校で」って言ってた。学校も同じ、春蘭なんだ。

 ……いいなあ、芽衣ちゃん。

 思ってしまったあとで、はっとした。こ、これは、漫画みたいな「幼なじみ」がいることへのうらやましさであって、べつにトクベツな意味は……っ。

 って、わたし、だれに何を言い訳してるの?

 っていうか、今、それどころじゃないよね!? わたし、芽衣ちゃんの家に来ちゃったんだよ。

「と、とりあえずホンモノの芽衣ちゃんに連絡を……」

 スマホをバッグから取り出そうと、ごそごそしていると。

 ぽつん、と、冷たいものがほおに落ちた。あ、雨、降ってきちゃった!

 やばい。どこか、雨風をしのげる場所はないかな。

 きょろきょろしていると、

「芽衣! 何してるの?」

 門扉のむこうから、声が飛んできた。

 おそるおそる、声のするほうを見やると、きれいな女の人が、お庭に立っていた。

 ゆるくカールのかかった、長い髪。薄手のニットに、細身のパンツ。シンプルなかっこうだけど、すごく品がある。

 もしかしてこの人が、芽衣ちゃんの「お母さん」……?

 ぽーっとしていると、女の人は、門扉をあけて、わたしの手をとった。

「早く中に入りなさい! 雨降ってきたわよ」

 えっ。考える間もなく、わたしは、家の中に引き込まれた!

 ど、どうしよう! わたし、「芽衣ちゃん」じゃないのに!

 っていうか、間違われてるってことは、芽衣ちゃん本人は家にいないの?

 うわーん、またしてもピンチだよ!



さまざまなピンチをのりこえて、ようやく芽衣ちゃんの家にたどりついたけれど……なんといきなり、芽衣ちゃんのお母さん登場!?
こ、これは……バレてしまうかもしれない!!!?
このあと結乃ちゃんがどうなってしまうのか、無事に芽衣ちゃんと会うことができるのかは、発売中のつばさ文庫『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』でたしかめてね!


書籍情報


作: 夜野 せせり 絵: 駒形

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323880

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