ある日、結乃(ゆの)が出会ったのは、鏡でも見ているぐらいにそっくりな顔した女の子・芽衣(めい)。もしかして、生き別れのふたご!?と思ったけれど、学年が違うからふたごじゃないし、姉妹でもない。…わたしたち、いったい何者!?
超気になるこのお話は、2025年12月10日発売の『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』(夜野せせり・作 駒形・絵)! 性格はぜんぜん違うけど、ヒミツの親友になったふたりの、超ドキドキでワクワクな毎日を、先行ためし読みで楽しんじゃおう!
おんなじ顔をしているけれど、ふたごじゃないことが分かった結乃(ゆの)ちゃんと芽衣(めい)ちゃん。
今回は、二人がどんな子なのか、学校やお家の話が明らかになっちゃいます!
★3★ わたしの『両親』
つぎの日の、朝。
ベッドから身を起こすと、わたしはすぐに、スマホを手に取った。
きのうの、あれ。やっぱ夢だったってこと、ないよね……?
メッセージアプリを開くと、「友だち」の一覧に、「赤西芽衣」の名前があった。
しかも、芽衣ちゃんのアイコンは、「くらげさん」っていうゆるキャラで、わたしのと同じ。
好きなキャラクターが同じだなんて、これもちょっとしたキセキ?
にんまりとほおがゆるむ。
うーん、とのびをして、ベッドからすべり降りた。
リビングに行くと、お味噌汁のいいにおいがする。ぐうっと、おなかが鳴った。
「おはよう結乃」
キッチンから、エプロンすがたのお父さんがわたしに声をかける。
「おはようお父さん」
「はやく顔洗って、着替えておいで。いっしょにごはんを食べよう」
「うん」
「おはよう、結乃」
お母さんは、洗濯物を干している。
「おはよう」
お父さんとお母さん、ふたりとも会社員で、いつも忙しい。でも、わたしの学校行事や授業参観のときは、かならず休んで来てくれる。基本やさしいけど、怒るとこわい。
一見、どこにでもいる、ふつうの家族だと思う。
でもね。実はそうじゃないんだ。
わたし、お父さんとお母さんの、本当の子どもじゃないの。
赤ちゃんの頃、施設から引き取られたんだって。
そのことを知ったのは、小学校の卒業式の日。
お父さんとお母さんが、「話がある」って言って、真剣に説明してくれた。
7月28日が本当の誕生日じゃないって知ったのも、この時。
ショックだった。そして、つぎつぎに疑問がうかんだ。
「じゃあ、わたしの本当の両親は? 今、どこでどう過ごしてるの?」とか。
「どうしてわたしは施設にあずけられたの?」とか。
でもね。そんなこと聞けない。
だって、ふたりとも、わたしのこと、すごく大切に思ってくれてるもん。
わたしが、ほんとの両親のことを知りたがったら、きっと悲しむよね。
だから、知りたいって気持ちは、心の中に押し込めた。
だけど、ある時、ふっと思いついたんだ。
もしかして、どこかにわたしの「きょうだい」がいるんじゃない? って。
本当の両親のことは気になるけど、知るのも、会うのも、こわい。
でも、きょうだいはちがう。きっとわかりあえるはず。
それから、こっそり、想像するようになった。
生き別れのきょうだいは、どんな子?
できれば女の子がいいな。お姉ちゃん? 妹?
いっそ、ふたごだったら、最高じゃない?
大好きな漫画やアニメに出てくる「ふたご」たちは、みんな、トクベツなきずながあって。ふたりでひとつ、「ニコイチ」の「親友」みたいなんだ。
なんでもわかりあえる、信じあえる、かけがえのない「親友」。
わたしにも友だちはいるし、大好きだけど、「ニコイチ」って感じじゃないもんなあ。
洗面所で顔を洗ったあと、部屋に戻って制服に着替える。
晴海第三中学校、略して三中の制服は、女子がセーラー服、男子が学ラン。
9月なかばの今は、夏服と中間服、どっちか好きなほうを着ていい。
日焼けしたくないから、長そでの中間服にそでを通した。紺色のえりのセーラー服、リボンは赤。
この制服も悪くないんだけど、芽衣ちゃんのかよう春蘭学園中は……。
白いブラウスにブレザー、ボトムスはグレーベースのタータンチェック。ネクタイとリボン、好きなほうをつけていいし、色も、えんじ、青、緑から選べる。
ニットやカーディガン、パーカーとか、手持ちのものを自由に合わせていいし、ボトムスは、男女ともに、スカートとスラックス、両方から選べる。
なんでこんなに詳しいかというと、あこがれて、いっぱい画像を見ていたからなんだよね。
わたしと同じ顔の芽衣ちゃんは、いつも、あの制服を着ているんだ。
そう思うと、なんだかふしぎな気持ちになる。
まさか、本当にあらわれるなんて思わなかった。
わたしの、ドッペルゲンガー。
家族3人で朝ごはんを食べたあと、身支度をしてから、わたしは家を出た。
うちは、6階建てのマンションの3階。エレベーターで1階に降りる。体といっしょに、気持ちも
落ちていくみたい。
学校が楽しくないわけじゃないけど……。めちゃくちゃ楽しいってわけでもないから。
ため息をつきながらエントランスを出ると、
「あ」
海里(かいり)くんと目が合った。
となりの部屋に住んでいる、島崎海里くん。クラスも
いっしょ。
海里くんも、ちょうど、家を出たばかりだったみたい。
「お、……はよ」
ぺこっと頭を下げる。
「はよ」
海里くんも、ぼそっと、そっけないあいさつを返した。
さらさらの黒髪に、黒ぶちめがね。いかにも「秀才」って感じの見た目で、一部の女子のあいだでは「クール」って言われて人気がある。
わたしたちは、となり同士だけど、「幼なじみ」じゃない。海里くんが、5年生の時に引っ越してきたんだ。
わたしは人見知りだし、海里くんは「クール」だから、おとなりさんっていっても、ドラマチックにキョリが縮まることもなくて。せいぜい、ちょっと世間話をするぐらいの関係。
漫画だと、となりに住む同い年の子は、めちゃくちゃ仲がいい「幼なじみ」じゃない?
おたがいの家を行き来したり、いっしょに登校したり、ピンチの時は助けあったりするの。
いいなあ。ほしかったな、幼なじみ。
っていうか、わたしって、「生き別れのふたご」とか、「ニコイチの親友」とか、「幼なじみ」とか、そういうのに、憧れすぎかも。
だって……。あまりにも、現実がぱっとしないんだもん。