★
「あかねー、こっちにコーナーがあったよ!」
手をふるかえでの前には、『バレンタインデー♡』というポップのついた棚があった。
「へえ! ラッピングって、こんなに種類があるんだね……!」
そう。うちらは100円ショップへ、ラッピングを買いにきたのだ!
たしかに、チョコと同じくらい、大事なものだよね。
キレイにラッピングしてあったら、もらったとき、もっともっとうれしいもん!
「ねーっ。キラキラしてて、見てるだけで楽しいなあ……」
うっとりと売り場をながめている、かえで。
うちは一通り、ぐるっと棚をまわってみる。
うーん、なるほど。
「バレンタインチョコのラッピング用」と言っても。
袋に入れて口をしばるタイプとか、箱に入れるタイプとか。
持ち手がついてるやつとか、いろいろあるんだなあ。
…………けど。
なんだか、うちが「これ!」って感じるものが、ぜんぜんない。
見てるだけなら楽しいけど、この中から、うちのチョコを入れるラッピングを選ぶのかあ……。
ならんでいるのは、ファンシーでかわいらしい柄ばかり。
クリアで、とくに柄がない袋もあるけど……それはそれでシンプルすぎて、そっけない。
なんかこう、もうちょっと「中間」みたいなのはないのかなあ。
「超シンプル」と「かわいい」の間くらいのやつがいいんだけど。
ここにくるまでの間に、かえでから「生チョコは、石畳チョコみたいにしたら?」ってアドバイスをもらった。
レシピ本にのっていたのは、モールドを使って、かわいい形にしたのだったけど。
生チョコをバットに流しいれて冷やし、包丁でまっすぐカットする。
そうすると、石畳みたいな、ブロック状の生チョコができる!
カンタンだし、シンプルゆえの高級感が出るんだって!
石畳の形を活かすなら、箱タイプのラッピングがいいよね。
……でも。
箱タイプのラッピングも、中のチョコを見せるための透明フィルム部分が、ハート形だったり、真四角だったり。
う――――ん。
やっぱり、「ザ・かわいい」か、「ザ・シンプル」っていうデザインが多いなあ……。
気に入るものがなくて、あせりながら、めげずにさがしてみる。
お。この木みたいな色の箱なら、シンプルだけど、オシャレでいい気がする。
透明のところも星形だし。
こういうの、もっとあったらいいのに!
でも、いいや。友チョコのラッピングは、これに決めよう!
いくついるかな?
鈴華ちゃんと凜ちゃん、莉々乃ちゃんで、3つ。それから――。
そこまで考えて、うちの頭がストップしてしまう。
…………太陽のぶんは、どうしよう。
ちょっと前までは、太陽には久遠ちゃんっていう「カノジョ」がいた。
カノジョのいる太陽にバレンタインチョコをあげるのは、なんだか「ルール違反」って感じがするけど。
久遠ちゃんは「お友だち」になったんだから……たぶん、今の太陽には、チョコをあげてもいいんだよ、ね?
太陽にあげるなら、どんなラッピングになるんだろう。
ほかのみんなとまったく同じっていうのは、ちょっとちがう……かな。
なにか、変えたい、でも……。
この売り場にあるのは、トクベツな「好き」を表すものばかり。
明らかに「本命チョコ」って感じだし。
なにより、すっごく「女の子」っぽい……。
うちが、これにチョコを包んでわたしたら、似合わなくてビックリされるよね……。
いや、太陽は笑ったりはしないだろうけどさ。
おどろくとは思う。それに。
本当にうちが、そういうチョコを、わたしてもいいのかなって思っちゃう。
だって、太陽にとって、うちは「親友」なのに……。
自分の弱みも見せられるような「友だち認定」をしてもらえるようになったのに。
こまらせちゃったら、どうしよう?
もし太陽がそんな顔をしたら、「友チョコだよ」ってごまかせばいいのかな。
でもそれって、なんだかズルいような……。
ラッピングをながめながら、もんもんと考えこんでいると。
「あかね、どうかしたの?」
かえでが話しかけてきた。
「あ、えっと。もし太陽にあげるとしたら、どれがいいのかなって。やっぱり、こういうかわいいラッピングのほうが、『トクベツ』って感じがして、いいんだよね?」
目に留まったハート柄の箱を手にとって、かえでに見せる。
うちの好みや気持ちをよく知ってるかえでは、考える顔をした。
「うーん。たとえばだけど。今、あかねが反対の手に持ってる無地の箱でも、上にリボンをつけたりすれば、じゅうぶんトクベツ感が出るんじゃないかな?」
あっ。
「そっか。そうだよね……!」
箱の上にデコレーションするって発想、うち、ぜんぜん思いついてなかった!
うちはハッとして、ハート柄の箱を、あわてて棚にもどす。
こ、こんなの、うちは絶対使わないよ。
よし。やっぱり、太陽のもこっち!
うちは、友チョコ用と同じ無地の箱を、買い物かごに入れた。
「かえでは、もう決まった?」
「うん。すっごく迷ったけど、小さいハートの絵が描いてあるラッピング袋にしたよ。かわいいし、チョコが絵柄でかくれずにすむから」
さっすがかえで、ちゃんと考えてるなあ。
たくさんのラッピングの中から、ベストなものを見つけられたって顔をしてる。
「藤司のチョコも、その袋に入れてわたすの?」
うちがきくと、かえではちょっとはずかしそうな顔になった。
「あっ、ううん。藤司くんは、べつだよ。藤司くんには、みんなとはちがうチョコを作るつもりだから……」
えっ、そうなんだ!
身じろぎするかえでは、ふわふわ揺れるスカートもあいまって、乙女って感じ……!
かわいいなあ。
「え――――っ、なになにどういうの!?」
「こ、これには、ちゃんと理由があってね!」
興味しんしんにうちが食いつくと、かえでは顔を赤くする。
ひゃー。藤司だけ、みんなとは別のチョコだなんて!
藤司が喜ぶところ、うちも早く見たいや!
8 心に落ちる、冷たい水
●
100円ショップからおうちに帰ってきた、ぼく――かえでは。
自分の部屋で、ハート柄のラッピング袋を手にとって、ながめていた。
頭の中に思いえがいていたような柄が見つかって、よかったなあ。
それに、前からあこがれていたアイデアも、実現できそう!
ぼくは、カバンの中から、4色のキラキラなリボンセットをとりだす。
チョコをラッピングした袋を、わたす相手をイメージした色のリボンでとじたら、もっとかわいくなるって思わないっ?
お店でこのリボンを見つけたとき、「これだ!」って心にビリッときて、おどりだしそうなくらいうれしくなった。
ぼくにとっての「かわいい」を準備して、それを友だちにプレゼントできるなんて。
なんてステキなんだろう。
この中の色だと、鈴華ちゃんがうす紫で、凜ちゃんがやさしいグリーンかな。
大切な友だち2人の顔が、ぱっと頭にうかんで、ますます楽しい気持ちになってきた。
このリボンがさらに映えるように、オシャレな結び方を練習しなくちゃ。
喜んでもらえるといいなっ。
そして――ほかにも、だいじなものがある。
泉先輩用と、藤司くん用のチョコレートだ。
どちらも、「お礼」のつもり。
泉先輩は、いろいろお世話になったことへの。
藤司くんには、ショッピングモールで、プレゼントをもらったことへの。
それと。
藤司くんは、クリスマスの遊園地で、ぼくに――「特別に好き」だって、伝えてくれた。
あのときは、どんな顔をしていいのか、わからなかったけど。
やっぱり、すっごくうれしかったなあ……。
思いだすと、何度でも、胸がパッとあったかくなる。
あの気持ちをおかえししたいって、ずっと思ってた。
その形の1つとして、チョコをわたしたら、きっと喜んでくれるよね。
藤司くんの笑顔を思いうかべると、また胸があったかくなる。
……だけど。
「…………」
おひさまみたいな、やさしい光が差す心に、ぽちゃんと水が落ちる。
一瞬で夢からさめて、せなかが凍るような、冷たくて、にごった水だ。
――これがもし、ドラマだったら。
ほおをあからめた女の子と、うれしそうな男の子の顔のアップが映って。
きっと、男の子がてれくさそうに、手を伸ばして、女の子の手をにぎったりして……。
と、そこで、ぼくの頭の中の映像が、ストップしてしまう。
これは、『ハナコイ』っていう、お気に入りの少女マンガでも見た、「よくある」光景。
でも。
ぼくが、藤司くんに、手をにぎられてもいいのかな……?
だって、ぼくは、ドラマやマンガの中の女の子とは、ちがう。
それにもし……ぼくと藤司くんのことを、ほかの子たちが知ったら?
その子たちは、どう思うんだろう、って。
たぶん、「いいね!」って言ってくれる子ばかりじゃない。
「えっ、そんなのアリなの? だってかえでちゃんって、本当は……」
と考える人も、きっといる。
ぼく自身だって、「本当にぼくでいいの?」って思っているんだもの。
「好きになった女子が、じつは……」なんて。
物語の世界なら「コメディ」ってことになりそうだな、なんて思うんだから……。
――そうやって、1滴、また1滴と、冷たくて、にごった水が、心にしたたり、広がって。
ぼくの本当の気持ちをかくして、わからなくさせるんだ……。
ぼくにとっては、初めてのバレンタイン。
あこがれていたイベントのはずなのに……実際にチョコをわたすとなったら、こんなに悩むことになるなんて思いもしなかった。
最近あかねも、ときどきむずかしい顔をしてるんだよね。
ぼくとおなじように、いろいろ考えちゃってるのかも。
やっぱりぼくら、ふたごだね……。
★
その日の夜。
もやもやと、考えごとをしながら眠ったせいなのかな?
ふと、夜中に目が覚めたんだ。
うーん。
目がさえちゃって、目をとじても、すぐには眠れなそう。
のどもかわいてるし、一度、布団から起きあがろうか。
のそりと上半身を起こして、立ちあがる。
あれ。
となりの布団に、あかねの姿がない……?
あかねも、ぼくと同じように、目がさめちゃったのかな……?
足もとに気をつけながら、リビングへむかう道中。
玄関で、ゆらゆらしている影が、視界に入った。
真夜中ということもあって、ぼくの心臓が、ビクッとはねる。
えっ、なに……!?
ぼく、落ちついて! 部屋に姿がなかったんだから、きっとあかねだ。
……うん、背丈からして、まちがいない。
でも、姿見の前で、なにをしているんだろう?
そう思って、そっと近づくと。
「……!」
立てかけてある姿見を、じっと見つめるあかね。
あかねが自らの体に当てているのは――ぼくのスカートだった。
不安げな表情で、鏡に映る自分を見ているあかねの姿は、まるで、あの夜の……。
転校前の、ぼくみたいだった。
真夜中、鏡の前に立っているあかねを見つけた、かえで。
そのすがたは、転校前、
かえでがドレスを体に当てて鏡を見ていたときに、そっくりだった…。
どうしてあかねは、そんな行動を!?
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