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ものがたり

【先行ためし読み!】『ふたごチャレンジ!』7巻 第3回 吉良くん、走る

     ★
「あかねー、こっちにコーナーがあったよ!」
 手をふるかえでの前には、『バレンタインデー♡』というポップのついた棚があった。
「へえ! ラッピングって、こんなに種類があるんだね……!」
 そう。うちらは100円ショップへ、ラッピングを買いにきたのだ!
 たしかに、チョコと同じくらい、大事なものだよね。
 キレイにラッピングしてあったら、もらったとき、もっともっとうれしいもん!
「ねーっ。キラキラしてて、見てるだけで楽しいなあ……」
 うっとりと売り場をながめている、かえで。
 うちは一通り、ぐるっと棚をまわってみる。
 うーん、なるほど。
「バレンタインチョコのラッピング用」と言っても。
 袋に入れて口をしばるタイプとか、箱に入れるタイプとか。
 持ち手がついてるやつとか、いろいろあるんだなあ。
 …………けど。
 なんだか、うちが「これ!」って感じるものが、ぜんぜんない。
 見てるだけなら楽しいけど、この中から、うちのチョコを入れるラッピングを選ぶのかあ……。
 ならんでいるのは、ファンシーでかわいらしい柄ばかり。
 クリアで、とくに柄がない袋もあるけど……それはそれでシンプルすぎて、そっけない。
 なんかこう、もうちょっと「中間」みたいなのはないのかなあ。
「超シンプル」と「かわいい」の間くらいのやつがいいんだけど。
 ここにくるまでの間に、かえでから「生チョコは、石畳チョコみたいにしたら?」ってアドバイスをもらった。
 レシピ本にのっていたのは、モールドを使って、かわいい形にしたのだったけど。
 生チョコをバットに流しいれて冷やし、包丁でまっすぐカットする。
 そうすると、石畳みたいな、ブロック状の生チョコができる!
 カンタンだし、シンプルゆえの高級感が出るんだって!
 石畳の形を活かすなら、箱タイプのラッピングがいいよね。
 ……でも。
 箱タイプのラッピングも、中のチョコを見せるための透明フィルム部分が、ハート形だったり、真四角だったり。
 う――――ん。
 やっぱり、「ザ・かわいい」か、「ザ・シンプル」っていうデザインが多いなあ……。
 気に入るものがなくて、あせりながら、めげずにさがしてみる。
 お。この木みたいな色の箱なら、シンプルだけど、オシャレでいい気がする。
 透明のところも星形だし。
 こういうの、もっとあったらいいのに!
 でも、いいや。友チョコのラッピングは、これに決めよう!
 いくついるかな?
 鈴華ちゃんと凜ちゃん、莉々乃ちゃんで、3つ。それから――。
 そこまで考えて、うちの頭がストップしてしまう。
 …………太陽のぶんは、どうしよう。
 ちょっと前までは、太陽には久遠ちゃんっていう「カノジョ」がいた。
 カノジョのいる太陽にバレンタインチョコをあげるのは、なんだか「ルール違反」って感じがするけど。
 久遠ちゃんは「お友だち」になったんだから……たぶん、今の太陽には、チョコをあげてもいいんだよ、ね?
 太陽にあげるなら、どんなラッピングになるんだろう。
 ほかのみんなとまったく同じっていうのは、ちょっとちがう……かな。
 なにか、変えたい、でも……。
 この売り場にあるのは、トクベツな「好き」を表すものばかり。
 明らかに「本命チョコ」って感じだし。
 なにより、すっごく「女の子」っぽい……。
 うちが、これにチョコを包んでわたしたら、似合わなくてビックリされるよね……。
 いや、太陽は笑ったりはしないだろうけどさ。
 おどろくとは思う。それに。
 本当にうちが、そういうチョコを、わたしてもいいのかなって思っちゃう。
 だって、太陽にとって、うちは「親友」なのに……。
 自分の弱みも見せられるような「友だち認定」をしてもらえるようになったのに。
 こまらせちゃったら、どうしよう?
 もし太陽がそんな顔をしたら、「友チョコだよ」ってごまかせばいいのかな。
 でもそれって、なんだかズルいような……。
 ラッピングをながめながら、もんもんと考えこんでいると。
「あかね、どうかしたの?」
 かえでが話しかけてきた。
「あ、えっと。もし太陽にあげるとしたら、どれがいいのかなって。やっぱり、こういうかわいいラッピングのほうが、『トクベツ』って感じがして、いいんだよね?」
 目に留まったハート柄の箱を手にとって、かえでに見せる。
 うちの好みや気持ちをよく知ってるかえでは、考える顔をした。
「うーん。たとえばだけど。今、あかねが反対の手に持ってる無地の箱でも、上にリボンをつけたりすれば、じゅうぶんトクベツ感が出るんじゃないかな?」
 あっ。
「そっか。そうだよね……!」
 箱の上にデコレーションするって発想、うち、ぜんぜん思いついてなかった!
 うちはハッとして、ハート柄の箱を、あわてて棚にもどす。
 こ、こんなの、うちは絶対使わないよ。
 よし。やっぱり、太陽のもこっち!
 うちは、友チョコ用と同じ無地の箱を、買い物かごに入れた。
「かえでは、もう決まった?」
「うん。すっごく迷ったけど、小さいハートの絵が描いてあるラッピング袋にしたよ。かわいいし、チョコが絵柄でかくれずにすむから」
 さっすがかえで、ちゃんと考えてるなあ。
 たくさんのラッピングの中から、ベストなものを見つけられたって顔をしてる。
「藤司のチョコも、その袋に入れてわたすの?」
 うちがきくと、かえではちょっとはずかしそうな顔になった。
「あっ、ううん。藤司くんは、べつだよ。藤司くんには、みんなとはちがうチョコを作るつもりだから……」
 えっ、そうなんだ!
 身じろぎするかえでは、ふわふわ揺れるスカートもあいまって、乙女って感じ……!
 かわいいなあ。
「え――――っ、なになにどういうの!?」
「こ、これには、ちゃんと理由があってね!」
 興味しんしんにうちが食いつくと、かえでは顔を赤くする。
 ひゃー。藤司だけ、みんなとは別のチョコだなんて!
 藤司が喜ぶところ、うちも早く見たいや!

8  心に落ちる、冷たい水

 ●

 100円ショップからおうちに帰ってきた、ぼく――かえでは。
 自分の部屋で、ハート柄のラッピング袋を手にとって、ながめていた。
 頭の中に思いえがいていたような柄が見つかって、よかったなあ。
 それに、前からあこがれていたアイデアも、実現できそう!
 ぼくは、カバンの中から、4色のキラキラなリボンセットをとりだす。
 チョコをラッピングした袋を、わたす相手をイメージした色のリボンでとじたら、もっとかわいくなるって思わないっ?
 お店でこのリボンを見つけたとき、「これだ!」って心にビリッときて、おどりだしそうなくらいうれしくなった。
 ぼくにとっての「かわいい」を準備して、それを友だちにプレゼントできるなんて。
 なんてステキなんだろう。
 この中の色だと、鈴華ちゃんがうす紫で、凜ちゃんがやさしいグリーンかな。
 大切な友だち2人の顔が、ぱっと頭にうかんで、ますます楽しい気持ちになってきた。
 このリボンがさらに映えるように、オシャレな結び方を練習しなくちゃ。
 喜んでもらえるといいなっ。
 そして――ほかにも、だいじなものがある。
 泉先輩用と、藤司くん用のチョコレートだ。
 どちらも、「お礼」のつもり。
 泉先輩は、いろいろお世話になったことへの。
 藤司くんには、ショッピングモールで、プレゼントをもらったことへの。
 それと。
 藤司くんは、クリスマスの遊園地で、ぼくに――「特別に好き」だって、伝えてくれた。
 あのときは、どんな顔をしていいのか、わからなかったけど。
 やっぱり、すっごくうれしかったなあ……。
 思いだすと、何度でも、胸がパッとあったかくなる。
 あの気持ちをおかえししたいって、ずっと思ってた。
 その形の1つとして、チョコをわたしたら、きっと喜んでくれるよね。
 藤司くんの笑顔を思いうかべると、また胸があったかくなる。
 ……だけど。
「…………」
 おひさまみたいな、やさしい光が差す心に、ぽちゃんと水が落ちる。
 一瞬で夢からさめて、せなかが凍るような、冷たくて、にごった水だ。
 ――これがもし、ドラマだったら。
 ほおをあからめた女の子と、うれしそうな男の子の顔のアップが映って。
 きっと、男の子がてれくさそうに、手を伸ばして、女の子の手をにぎったりして……。
 と、そこで、ぼくの頭の中の映像が、ストップしてしまう。
 これは、『ハナコイ』っていう、お気に入りの少女マンガでも見た、「よくある」光景。
 でも。
 ぼくが、藤司くんに、手をにぎられてもいいのかな……?
 だって、ぼくは、ドラマやマンガの中の女の子とは、ちがう。
 それにもし……ぼくと藤司くんのことを、ほかの子たちが知ったら?
 その子たちは、どう思うんだろう、って。
 たぶん、「いいね!」って言ってくれる子ばかりじゃない。
「えっ、そんなのアリなの? だってかえでちゃんって、本当は……」
 と考える人も、きっといる。
 ぼく自身だって、「本当にぼくでいいの?」って思っているんだもの。
「好きになった女子が、じつは……」なんて。
 物語の世界なら「コメディ」ってことになりそうだな、なんて思うんだから……。
 ――そうやって、1滴、また1滴と、冷たくて、にごった水が、心にしたたり、広がって。
 ぼくの本当の気持ちをかくして、わからなくさせるんだ……。
 ぼくにとっては、初めてのバレンタイン。
 あこがれていたイベントのはずなのに……実際にチョコをわたすとなったら、こんなに悩むことになるなんて思いもしなかった。
 最近あかねも、ときどきむずかしい顔をしてるんだよね。
 ぼくとおなじように、いろいろ考えちゃってるのかも。
 やっぱりぼくら、ふたごだね……。

     ★

 その日の夜。
 もやもやと、考えごとをしながら眠ったせいなのかな?
 ふと、夜中に目が覚めたんだ。
 うーん。
 目がさえちゃって、目をとじても、すぐには眠れなそう。
 のどもかわいてるし、一度、布団から起きあがろうか。
 のそりと上半身を起こして、立ちあがる。
 あれ。
 となりの布団に、あかねの姿がない……?
 あかねも、ぼくと同じように、目がさめちゃったのかな……?
 足もとに気をつけながら、リビングへむかう道中。
 玄関で、ゆらゆらしている影が、視界に入った。
 真夜中ということもあって、ぼくの心臓が、ビクッとはねる。
 えっ、なに……!?
 ぼく、落ちついて! 部屋に姿がなかったんだから、きっとあかねだ。
 ……うん、背丈からして、まちがいない。
 でも、姿見の前で、なにをしているんだろう?
 そう思って、そっと近づくと。
「……!」
 立てかけてある姿見を、じっと見つめるあかね。
 あかねが自らの体に当てているのは――ぼくのスカートだった。
 不安げな表情で、鏡に映る自分を見ているあかねの姿は、まるで、あの夜の……。

 転校前の、ぼくみたいだった。

真夜中、鏡の前に立っているあかねを見つけた、かえで。
そのすがたは、転校前、
かえでがドレスを体に当てて鏡を見ていたときに、そっくりだった…。
どうしてあかねは、そんな行動を!?
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『ふたごチャレンジ!』最新7巻 3月13日発売予定!


作:七都 にい 絵:しめ子

定価
792円(本体720円+税)
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新書判
ISBN
9784046322838

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作:七都 にい 絵:しめ子

定価
792円(本体720円+税)
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9784046322494

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