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ものがたり

【先行ためし読み!】『ふたごチャレンジ!』7巻 第3回 吉良くん、走る


【「女の子らしい」や「男の子らしい」をぶっ飛ばす、ふたごの挑戦(チャレンジ)ストーリー!】

「おとなのルール」と戦うふたご、あかねとかえでの物語は、ハラハラドキドキがいっぱい! 今回はバレンタインデー…ウキウキ&ドキドキのイベントって思われてるけれど、ふたごの場合はそんなにカンタンじゃなくて…!? 最新刊を、どこよりも早くためし読みしてね!(毎週木曜日更新・全3回)
 

【このお話は…】
辻堂先生が、学校に帰ってきた――!
左野先生から知らされたあかねとかえでは、
中休みになったとたんに、まっしぐらに保健室を目指す…。

 

6  吉良くん、走る

「かえで!」「うん、あかねっ」
 中休みになると、うちらは声をかけあって、立ちあがった。
 一目散に教室のとびらへむかう。
 でも、一歩ぶん、うちらより先をいった子がいた。
 ――吉良くんだ。
 うちらと同じ場所にむかうつもりだってことが、まとっているふんいきから、すぐにわかった。
 うちとかえでは、吉良くんに声をかけることはなく、ただそのうしろをついていった。
 だって、1秒でも早く、保健室にいきたいだもん。
 吉良くんも、うちらと同じ気持ちのはず。
 ああ。本当は、全力でろうかを駆けぬけたい。
 そんなもどかしさを胸に、はやる気持ちをおさえながら歩く。
 階段を、ついかけ足で下ってしまうのは、目をつむってほしい。
 1階につくと、うちらはろうかのはじを目指す。
 ……そういえば、保健室にいくのは、ひさしぶりだな。
 吉良くんも、辻堂先生がいなくなってからは、保健室に寄りついていなかった。
 かえでは、「だれでもトイレ」を使うために利用しているけれど、以前よりは回数が減った。
 それに、こんなにかるい足どりでむかえるのは、辻堂先生がいたとき以来だ。
 やっぱり、辻堂先生の存在ってすごい。
 うちら3人の足に、羽を生やしてくれている――。
「……っ」
 ぐんぐんと前を進む吉良くん。
 吉良くんののどから、かすかに、声をのみこむような音がした。
 あ。「保健室」って書かれたプレートが見えてきた。
 もっと近づくと、白いとびらが視界に入る。
 やっと、やっと、会うことができる。
   コンコン
 とびらの前にたどりつくと、吉良くんがノックする。
 ここ数ヶ月、保健室を使うためには、その前に、職員室へおねがいにいかなくちゃいけなかったけど……。
 ノックのあと、吉良くんは、アルミ製の持ち手をつかむ。
 力をこめると、少しずつ、とびらの先があらわになる。
「いらっしゃい――あら? めずらしい組み合わせね?」
 ――ひとつ結びの黒髪に、つややかな顔立ち。
 うちらを見つめる、やさしいひとみ。
 身にまとった白衣。
「「「辻堂先生……!!」」」
 おもわず、うちらの声がそろう。
「いつも」みたいに、先生がいる……!
 それ以前は「あたりまえ」だった光景のはずなのに、胸がカッと熱くなって。
 どんどん上に、こみあげてくる。
 熱を逃がすように、ふと横を見ると。
 あっ……!
 吉良くんの目から、ぽろっと涙がこぼれおちたんだ。
「……!」
 おもわず、目を見はってしまう。
 秋からずっと、吉良くんといっしょに、いろいろやってきたけど。
 涙を見たのは、初めて……。
 ……いや、おどろくことじゃないかも。
 だってさ。
 うちとかえでは、初詣で、ぐうぜん辻堂先生の顔を見られたけど。
 吉良くんは、11月の終わりから、一度も辻堂先生と会えてなかったんだ。
 涙が出ちゃっても、当然だよね……。
 つい、じっと見つめてしまったせいで、吉良くんに、横目でにらまれた。
「見んなよ」って言うみたいに。
 辻堂先生も、吉良くんの涙に、心が揺れるところがあったみたい。
 少しうるんだ目で、順番にうちらの顔を見まわす。
「吉良くん……あかねちゃん、かえでくん。心配かけたわね。――ただいま」
「おかえりなさい、辻堂先生……!」
 辻堂先生が笑みをうかべると、うちらも、自然と笑顔になっていた。
「話したいこと、いっぱいあるわよね。これから思いきりきかせてね。私がいないあいだ、どんなことがあった?」
 辻堂先生が、やさしく問いかけてくれる。
 クラスであったことや。
 家族のこと。太陽のこと……。
 辻堂先生に気持ちをきいてもらいたかったことは、たくさん、たくさんある。
 けど。
 その中でも、また先生が学校にきてくれることになった今だからこそ、一番にききたいことがある……!
 うちは、先生にむかって一歩前に進みでた。
「うち、辻堂先生が学校に帰ってきてくれて、本当にうれしいです。でも……うちらの『もどってきてほしい』っていう気持ちが、先生の負担になったんじゃないかって……」
 ずっと気になっていたこと。
 先生は、11月のおわりごろからこられなくなって。
 それから、季節も年もめぐって……初詣でばったり会ったとき。
 うちらにむかって「学校にもどりたい」って言ってくれて、すごくうれしかった。
 だけど。うちらのために、ムリさせちゃうんじゃないかって、ふと不安にもなったんだ。
「ありがとう。早く治って学校に帰らなきゃってあせる気持ちも、たしかにあったけど……それよりも、みんなが待っててくれる気持ちがうれしかったわ。みんなが私を呼んでくれる声がきこえたから、力がわいて、こうして『緑田小に復帰したい』っていう私のねがいをかなえることができたのよ」
 そっか……!
 ふりむくと、かえでや吉良くんも、安心したように、ほほえんでいた。
 よかった!
 辻堂先生は、やっぱり前と比べるとやせていて、まだまだ元通りではないのかもしれない。
 でもその表情は、初詣のときよりも、みずみずしくて、パワーを感じる。
 うちら生徒の気持ちが、辻堂先生の元気のエネルギーになっていたなら、うれしいな。
「保健室にもどってこられて、あなたたちの顔がまた見られて。本当によかったわ」
「辻堂先生、これからまた、よろしくおねがいします!」
「ええ、こちらこそ」
 顔を見あわせて、笑みがこぼれる中。
「つじどーせんせー!!」
 とびらのほうから、はずむような声がひびいてきた。
 ほかの子たちも、辻堂先生に会いにやってきたみたい。
 そうだよね。みんな、早く辻堂先生の顔が見たいよね!
「うちらは、また今度。ゆっくり話をきいてください!」
「もちろん。3人とも、またいつでも保健室へきてね」
 その言葉に、あらためて実感がわく。
 これからはまた、ふと悩んだりしたら、保健室へいけばいいんだ! って。
 辻堂先生がお休みしている、この数か月のあいだにも。
 うちらは、友だちともっとなかよくなって、家族の話や、過去の話なんかも、打ち明けられるようになった。
 だけど時には、おとなにじっくり話をきいてもらいたいときもある。
 ほかの子から離れて、ゆっくり心を落ちつけたいときもある。
 だから、辻堂先生のいる保健室は、安心できる、うちらにとって大切な居場所なんだ――。

7  うちの「好み」はどこにある?

 バレンタインまで、あと1週間ちょっとになった。
 今日はお休みで、時間がたっぷりとれる。
 このあいだ失敗しちゃったカップチョコに再挑戦してみよう!
「おばあちゃん、うち、ちょっとお買いものに出かけてくるねっ!」
「もしかして、チョコレートを買いにいくの?」
「うんっ。おいしいチョコを作れるようになるまで、チャレンジしたいんだ」
 この前は、ぼそぼそチョコレートを誕生させてしまって、がっくりだったけど。
 次こそ、上手に作ってみせるぞ!
「じゃあ、よかったらこれ、使って?」
 おばあちゃんが差しだしたのは――何枚もの板チョコ!
「えっ……もしかして買っておいてくれたの!?」
「孫のチャレンジを、あたしも応援したいのよ」
 わわわ……おばあちゃんは、いつもうちの味方でいてくれるんだ……!
「おばあちゃん、ありがとうっ!」
 ほほえむおばあちゃんから、うちはそっとチョコレートを受けとる。
 ますます燃えてきた……!
 キッチンに立ったうちは、まずはていねいにチョコをくだく。
 小さいボウルに入れて、1分チンしてみると、まだ上のほうが溶けのこって見える。
 あともう少し加熱……じゃ、なくて!
 ボウルを取りだして、ヘラで混ぜてみると――
 おっ、だんだん固まりがなくなって、キレイに溶けきった!!
 チョコがやわらかいうちに、今度はすばやく、小さなスプーンでアルミカップに流しいれていく。
 かえでに教わったとおりに、チョコを入れたカップのフチをそっとつまんで……キッチン台の上で、かるくトントンとして、表面をならす。
 仕上げに、チョコの表面にアラザンをふりかけて……よしっ!
 そーっとそーっと、小さいトレイにカップをならべ、冷蔵庫に入れる。
 1時間後。
 ドキドキしながらとりだすと――
 やった、表面がつやピカなカップチョコができた!!
 見た目は、かえでが作ったときのほうがキレイだったけど、味は……うん!
 舌ざわりがよくて、あまーい味が口いっぱいに広がって――
「おいしいっ!!」
「あかね、うまくいったの?」
 うちの歓声をききつけて、かえでが部屋からとんできた。
「うんっ、かえでのアドバイスのおかげ!」
「そっか、よかったあ。この調子で、バレンタイン本番もバッチリだねっ」
「あのね。うち、レシピ本を見たとき、これを作りたいって思ったチョコがあったんだ」
 うちはパラパラッとレシピ本をめくって、あるページをビシッと指す。
「カップチョコができて、自信を持てたから、バレンタインにはこっちを作れるように、これから特訓するよ!」
「わあ、生チョコかあ。いいね、おいしいよねっ」
 生チョコは、濃厚で、なめらかで、おとなっぽい気がするけど。
 レシピ本を見ていたら、作り方はかなりシンプルで、チョコのほかには、生クリームとココアパウダーを用意するくらいだったんだ。
 生クリームを入れるぶん、いたみやすいから、必ず冷蔵庫で保管するとか、衛生面には気をつけなきゃいけないけど。
 それさえ注意すれば、初心者でも作れる難易度だって、レシピに書いてある!
「かえでも、カップチョコとはちがうのを作るんだよね?」
「うんっ、そのつもり。――ねえ、あかねも作るものが決まったことだし、いっしょに買いにいかない?」
 買いにいくって?
「板チョコは、おばあちゃんが買ってきてくれたよ? あ、追加の材料?」
「それもいるけど。だれかにプレゼントをするときには、ほかに必要なものがあるでしょ?」
 かえでが、ニッコリほほえんだ。

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