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【先行ためし読み!】『ふたごチャレンジ!』10巻 第3回 「なかま」、見つけちゃった!?

5 うちらが、もっと成長できるところ?

 会議の次の日。

 鈴華ちゃんとうちは、あざみ小との話し合いについて、校長室に報告しにいった。

 御園校長先生は、校長室のドアをいつも開けている。

 だから、中に人がいて、なにか話しているようだ。

 出直したほうがいいかな……と思っていると。

 ん? 校長室にいるのは、学校の人じゃないおとなが2人。

 ソファのところにいて、校長先生にむかって身を乗りだしている。

「―――――だから、この歴史ある緑田小がなくなることが、われわれは無念なのですよ……」

「子どもたちがかわいそうだ……!」

 そんな声がきこえてくる。

 校長先生よりも年上の男の人たちが、大きな声で力説しているのは、なんだか迫力がある。

 その力強さに、うちと鈴華ちゃんは、思わず目を見合わせる。

「校長先生は、最近きた人だから、わからないかもしれないけどねえ……」

「いえいえ、お気持ちよく伝わります。わざわざ足を運んでご意見いただいて感謝しております」

「ええ、…………それじゃあ、またきますよ」

 ソファから立ちあがって、校長室を出てきたおとなたちは、うちらに目をとめた。

「本当に、かわいそうにねえ。自分の学校が、なくなっちゃうなんて」

「じいちゃんたちに任せておきなさい」

「「………………?」」

 うちらに一方的に声をかけて、2人は満足したようにさっさと歩き去っていった。

 な、なんだなんだ、今のは???

 校長先生は、ふうとひと息ついたあと、

「あら、あかねさんと北大路さん」

 と、うちらに目を向けて、明るい顔をする。

「あ、あの……今の人たちって?」

「あの人たちはね、歴代のPTA会長の方と、緑田地区の町内会長さんよ。ご本人たちも、50年前と60年前の卒業生らしいわ」

 ひえーっ!

「60年前! そんな大先輩が、どうして学校に?」

「毎年、運動会の『来賓』として、足を運んでいただいててね。その打ち合わせをかねて、いらっしゃったの」

 来賓っていうのは、学校にお客さんとしてくる人のこと。だけど……。

「なんか、めちゃくちゃ怒ってませんでした……!?」

 立ちぎきしたって思われるかもしれないけど、耳に入っちゃったんだからしかたないよね!?

 すると、校長先生はほほえんだ。

「――――学校の統廃合は、昔の卒業生やPTAにとっても、さみしいものなのね」

「なるほど……?」

 もう何十年も前のことなのに? ……なんて思っちゃったけど。

 ふと、6年生を送る会でアズマ先輩が見せてくれた、たくさんの卒業写真が思いうかぶ。

 誇らしげな表情の子が、たくさんいたな。

 何十年経ったって、ここは、いろんな人の「思い出の場所」なんだ……!

 鈴華ちゃんも、過去の卒業生の方たちの思いに、納得したみたい。

 いつものように、キリッと一歩、前に出る。

「だったら! 今度の運動会に、地域のみなさんのそんな気持ちも、のせられたらいいですね!」

 意気ごんだように言う鈴華ちゃん。

「ほー。というと、どんな感じに?」

 うちが、思わずたずねると。

 鈴華ちゃんは、そこまでは考えてなかったみたいで、ちょっと視線をうろうろさせる。

「うーん、そうね…………みんなの、さみしい気持ちを上まわるような、新しい運動会にする……っていうことかしらね」

 うーん、わかるような、わからないような……?

 鈴華ちゃん自身も、なんだかあやふやな表情をしてる。

「――――いつも、たのもしいわね、北大路さん」

 校長先生が、鈴華ちゃんをまっすぐ見ながら言葉をつづける。

「でもね、今の児童会は、あざみ小の子たちと力を合わせて運動会を作りあげるってことだけで、じゅうぶんに重要な仕事をしているんじゃない?」

「あ、もちろんそれは……そうなんですけど。でも、卒業生の方々の声をきいてしまうと、みなさんのことも考えたいなって……」

 鈴華ちゃんは、そう言いつつも、こころもとなさそうに目を動かしている。

 すると、御園校長が、くちびるのはしをやさしく持ちあげる。

「目標を高く持つことは、とっても大事。やる気があるのはもちろん、とってもステキなことよ。でも、あまりなんでも『自分がやらなくちゃ』って、背負いこみすぎなくていいのよ。……そこが、北大路さんがこれからもっと成長できるところかもしれないわね」

「「――――!」」

 い、言われてみると……たしかに!?

 鈴華ちゃんは、いつも、率先していろんなことをひっぱってくれる子だ。

 でも、近くにいると、ちょっとムリしちゃってない? と心配になることもある。

 え――――っ、御園校長先生って、すごいかも。

 まだ緑田小にきたばっかりだし、担任の先生でもないのに。

 鈴華ちゃんのこと、すっごくわかってる!?

 鈴華ちゃんは、目を丸くして、少しだまったあとで。

「……校長先生の、言う通りだと思います。まずは私、あざみ小との話し合いや準備を、しっかりつとめられるように、がんばります……!」

「そうね。来賓のことは、私たちに任せて。学校として、地域の方に納得してもらえるように、ていねいに説明していくから。でも、あなたの申し出は、とってもうれしかった。本当よ。これからも、たよりにしているわね」

「……はいっ!」

 それからうちらは、予定していた、昨日のあざみ小との話し合いについて報告してから、校長室を出た。

 ろうかを歩いていると、鈴華ちゃんが、ぽつりと言う。

「……私ね。今までおとなには、がんばっていることをほめられるばっかりだったから。あんなこと言われたの、初めてだったわ」

「そうだね。うちも、ビックリしたなあ」

 さっきの御園校長からは、ほかのおとなとは、ちがうふんいきを感じたんだ。

「校長先生に言われて、ハッとしたわ。自分が今やるべきことと、背伸びしてがんばろうとしていることを、ちゃんと分けて考えないとね……。そうしないと、どっちも中途半端になっちゃうかもしれない、って」

 鈴華ちゃんの表情は、あらたな決意がみなぎっている。

「でも、鈴華ちゃんのいろんな人のことを考えてるところとか、目標がでっかいところ、いつもうち、すごいって思ってるよ! うちも、鈴華ちゃんといっしょにがんばりたいって!」

「……ありがとう、あかねちゃん」

 鈴華ちゃんは、いつもしっかりしてて、まとめ上手で。

 うちとはベツの種類の人だあって感じちゃうこともあるけど。

 うちにはうちの、クリアすべき課題があって。

 鈴華ちゃんには、鈴華ちゃんの取り組んでる課題があるんだ。

 その中身がちがうだけで、同じ5年生なんだなって思える。

「よーし! 気持ちを切りかえて、今は、全校生徒の思い出に残るような運動会を作ることに注力するわ!」

 鈴華ちゃんは、ショックを受けるどころか、むしろ、どこかほっとしているように見えた。

 教室にランドセルをとりにいってから、下校しようと校舎の外へ出ると。

 放課後の校庭で遊んでいる、真壁や沢渡さん――――さわを中心とした5年生ズを見かけた。

「おー、あかね!」

「鈴華ちゃーん!」

 むこうもうちらに気づいてくれて、大きく手をふってくる。

「やっほーみんな!」

「御園校長と話してきたんだっけ?」

「運動会の準備、順調?」

「うん、今のとこいい感じに進んでるよ!」

 うちは、こくんとうなずく。

「そっかー楽しみだなあ!」

「でっ!? どんな運動会なんだっ!? あざみ小と戦えるんだよな!?」

「え? ……ああ、うん。あざみ小側が強く希望して、緑田小対あざみ小で紅白戦になったよ」

「よっしゃあ、絶対勝つぜえー!」

 ガッツポーズする真壁。

「あざみとの対決か。じゃあ、応援合戦はますます盛りあがりそうだな!」

「俺、応援団長に立候補してみようかな~!」

 なんて言ってる子もいる。

 おー、みんな、喜んでくれてる!

 やっぱバトルって燃えるんだね。

 運動会が待ちどおしい! っていうふんいきは、準備を進めるうちらにとっても、やりがいがあるものだ。

「へへへっ、楽しみにしててねー!」

「ええ。絶対、盛りあがる運動会にするから!」

 うちと鈴華ちゃんのテンションも、自然と高くなる。

 わいわい話していると、

「私も楽しみだよー!」「俺も俺も!」

 いつの間にか、同じく校庭で遊んでいた、ほかの学年の子たちも集まってくる。

 おっ、いいねいいね。

 ついでに、みんなの意見もきいちゃおう!

「ね、みんなはどんな運動会に出たい?」

 うちがそうたずねると、みんな口々に

「リレーやりたい!」

「カッコいい応援団ユニフォーム着たい!」

「玉入れ!」

「騎馬戦!」

「優勝したらアイスもらえるとか!?」

「お、アイスいいなー賛成!」

「アイス入れとく場所ないよー!」

「家庭科室の冷凍庫があるだろ!」

「いや、あれに百個以上も入んないからっ!!」

 なんて、大盛りあがり。

 わははっ!

 こんなにみんなが期待してる、おっきなイベントを、うちらは仕込んでるんだなあ!

「みんな、楽しみにしててねっ!」

「「「うん(おーっ)!!」」」

 うちと鈴華ちゃんは、目を見合わせて、満面の笑み。

 がぜん、やる気が出てきたぞ~~~~!


   ●▲●▲


「たっだいま~!」

 いつものあいさつも、おもわず声がはずんじゃうなあ。

「おかえり、あかね」

 家に着いて、うちらの部屋にいくと、かえではローテーブルで算数ドリルを広げている。

「あ、かえで宿題してる! うちもいっしょにやるー!」

 うちもいそいでランドセルからドリルを取りだして、宿題のページを開く。

「ぼくもさっき始めたばかりだから、大丈夫だよ」

「そうなんだ。うち、けっこう帰るのおそくなっちゃったのに」

「ぼく、藤司くんのトランペットの練習につきあってたんだ。少しでも早く演奏に参加できるようになりたい! って。すごくがんばってるんだよ」

 そんなふうに、いきいきと話すかえで。

 藤司のこと、すごく応援してるんだなあっていうのが伝わってくる。

「へえー。藤司、うちらの前ではカッコつけて、個人練習してること、あんまり言わないんだなあ。うちも応援してるよって、コソッと伝えようっと!」

「きっと喜ぶよ。あかねも、体育委員として運動会の企画をがんばってるんだよね」

「うん! さっきも、校庭で遊んでた子たちと運動会のことですご―――く盛りあがってさ。みんながめちゃくちゃ楽しみにしてるのが伝わって、うちも鈴華ちゃんも、さらに気合い入っちゃったよ!」

 うちは、ウキウキと報告する。

「……そっかあ。みんな運動会が楽しみなんだねえ」

「って、ごめん。かえでは、運動会苦手だったよね……」

「ん、そうだね……ぼく、運動はそんなに得意じゃないから。あかねほどじゃ、ないかなあ……」

 って、かえでは、ひかえめに伝えてくれる。

「そっか。たしかに、みんながみんな、100%楽しみにしてるっていうのも、ヘンな話か」

 食べ物だって、音楽だって、行事だって。

 人それぞれ、好きなものはちがうもんね。

 運動会が楽しみじゃない子……。

 運動会が近づくとゆううつになる子だって、いるよね……。

「それでも――――さ。できるだけ多くの子が、楽しめる運動会に。できたらいいのになあ……!」

 うちは、あらためて、考えこむ。

「そうだね……! ――――ねえあかね、次のあざみ小との話し合いって、いつ?」

「ん、来週だよ!」

「わかった。あかね、少しだけぼくに時間をくれない?」

 えっ、なになに?

 とつぜんのおねがいに、うちはきょとん。

 でも、かえでのことだから、きっとなにか考えがあるんだろう。

「もちろん!」

 とうちは大きくうなずいた。


『ふたごチャレンジ!10 わらって泣いて!?うちらの誕生会』は、8月6日(水)発売!

本には、しめ子さんのキラッキラ✨のさし絵がいっぱいで、見あきないよ!(とくに誕生パーティーのシーンは必見です!)
しかもなんと!10巻は「ふろく」つき!!!


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なくなり次第終了だから、早めにゲットしてね☆




書誌情報


作: 七都 にい 絵: しめ子

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323620

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