【チャレンジしようよ。好きなものを「好き」って言うために。】
「毎日読んでます。はげまされます」「心がふるえる」「この先どうなるのか、ぜんぜん予想できない!」と話題そうぜん。毎日セカイにたちむかってるみんなへの応援ストーリー「ふたごチャレンジ!」1巻が、期間限定で全文無料ためし読み中。
ぜひ、この機会に追いついてね!(公開期限:2026年2月28日(土)23:59まで)
【このお話は…】
転校をきっかけに、性別を「とりかえ」した、うち・双葉あかねと、ふたごのきょうだいの、かえで。
ねらいどおりに「運動神経ばつぐんで積極的な、あかねくん」&「つつましくてかわいいものが好きな、かえでちゃん」としての生活が始まった…
はずだったのに!
保健室の辻堂先生から疑われて、とうとう放課後に呼び出し! ヤバいヤバいヤバい、どうするどうなる!?
※これまでのお話はコチラから
8 このままでいたいよ
放課後、うちとかえでは保健室をおとずれた。
気は進まないけど、完全にヒミツがバレてしまった以上、もう逃げることもできない。
2人同時に、ごくっとつばをのみこんでから、
「失礼します……」
うちは中の様子をうかがうように、ゆっくりと引き戸をあける。
「いらっしゃい、2人とも」
辻堂先生は顔をあげると、右手でふたつならべた丸イスを示す。
「立ち話もなんだから、よかったらすわって」
「は、はい……」
うちらがおずおずと、そろって腰をおろすと、辻堂先生はほほえんだ。
「ずいぶん緊張してるわね」
そりゃあそうだよ。
ようやく、『あかねくん』と『かえでちゃん』の生活がはじまったところなのに。
いきなり先生にバレちゃうなんて、絶望的だもの。
ぜったい、お母さんたちに報告される。
ぜったい、しかられて……今度こそムリやりにでも……。
辻堂先生は、ひとつに結んだ髪をほどきながら、口を開いた。
「ムリやり呼びつけて、ごめんなさい。でも……よかったら私に、あなたたちが、性別を偽っている理由を教えてもらえないかしら」
まっすぐに、うちとかえでの目を見つめて、きいてくる。
「はい……」
うちも、目をそらすことはしなかった。
もう、ここまできたら、はらをくくるしかないもの。
うちは、これまでの経緯を、正直に話した。
誕生日に、お父さんやお母さんから、「女の子らしく」「男の子らしく」するよう言われたこと。
それを、うちらはどうしても受け入れられなかったこと。
本当のうちらがしたいことや、ふるまいを、だれも認めてくれないこと……。
話しているうちに、あの日の記憶がよみがえって、涙があふれてきそうになった。
「――そういうわけで、うちとかえでは、この転校から、性別をとりかえることにしたんです」
「…………なるほどね」
ずっと静かにきいていた辻堂先生は、ゆっくりとひとつ、うなずいた。
……どうせ、辻堂先生だって、うちらをしかるんだ。
お母さんたちの言っていることが正しい、あなたたちはなんてことをしているんだ、ってね。
かえでは顔を青くして、うつむいている。
うちらのヒミツが、みんなにバレることはもちろん、次に辻堂先生から投げられる言葉が、こわいんだ。
うちは手を伸ばして、かえでの手を、ぎゅっとにぎった。
大丈夫だよ、かえで。
なにを言われようが、なにをされようが、うちが守るから――。
やがて、辻堂先生のうすいくちびるが動いた。
「……2人とも」
かえでをかばうように、うちはにぎった手に力をこめる。
「――――がんばったわね」
「「……え?」」
予想外の反応に、うちらはそろって目をまたたかせる。
辻堂先生は、やさしい表情で、うちらの心をのぞきこむみたいに語りかけてくる。
「あなたたちの年齢で『自分らしいってどういうことだろう?』って考えているなんて、すごいことだって、先生は思うわ。『自分らしくいたい』というあなたたちの想いは、絶対にまちがってない」
ええっ……!?
キッパリと言いきる先生の言葉に、うちとかえでは、そろって目を見はる。
「おとなやまわりの期待にさからうのは、苦しいし、大変なことよ。なのに……それにさからって挑戦してみるなんて……本当におどろいた。あなたたちの勇気と行動力は、すごいよ」
「「…………!」」
まさか、そんなふうに言われるなんて思わなくて、うちとかえでは言葉が出ない。
先生は、うちらの顔を見くらべながら、きいた。
「それで……あなたたちのチャレンジは、まだはじまったばかりなのよね。これからも『チャレンジ』をつづけたいと考えているの?」
思いがけない問いかけに、うちとかえでは、目を見あわせる。そして、
「「は、はい!」」
「そう」
うちらが同時に大きくうなずくと、辻堂先生は短くそう答えた。
「それなら、これからこまったことがあれば、いつでも保健室にきなさい。ここの奥には、バリアフリートイレもあるから」
…………ん?
うちとかえでは、もう一度顔を見あわせる。
えっ、つまり先生は……うちらの『チャレンジ』をナイショにしてくれるっていうこと!?
それなら、これまでどおり、『あかねくん』と『かえでちゃん』としてすごすことができる。
ねがったりかなったりだけど……どうして?
性別を入れかえて生活してる生徒に気づいたのに、ほうっておくだなんて、先生としては大問題だよね?
「あ、あの……先生はどうして、ぼくたちに協力してくれるんですか?」
かえでも、うちと同じことが気になったみたいだ。
かえでの質問に、辻堂先生はあごに指をそえる。
「そうねえ。……私の個人的な理由もあるんだけど……そもそも、なにかにチャレンジしてる人って、応援したくなるじゃない? それで、なにか事情がありそうなあなたたちのことが、気になってしかたなかったの」
「じゃあ、ひょっとして、うちらのことを追いかけまわしてたのは……」
「ええ、学校の中で、なにかトラブルがおきる前に、私に手伝えることがないか、話をききたかったの」
なぁんだ、そうだったんだ……!
それなら早く、そう言ってくれればいいのに……って、きかなかったのはうちのほうか。
「辻堂先生、ありがとうございます! びびって逃げまわってごめんなさい!」
「いえいえ。こちらこそ、こわがらせちゃって、ごめんなさいね」
辻堂先生は髪を結びなおしながら、ほほえんだ。
一瞬、あらわになった首もとで、シルバーのチェーンがキラリと光る。
ひとまず、先生はうちらの『初めての味方』だって思って、いいんだよね!?
「やった! うちらの『チャレンジ』、続行だ――――っ!」
「ちょっと、あかね、声が大きいって」
かえでは、あわてて人さし指を口に当てながらも、明るい顔でくすくすと笑った。
9 オレの学校生活
転校してから、ずっと楽しみにしていた、体育の時間がやってきた。
しかも種目は、うちが大好きな、サッカーだった!
ひさしぶりの、サッカー!?
逆サイドをドリブルであがっていく藤司を感じながら、うちはそのままゴール前に走りこむ。
「あかね!」
声と同時に、ジャストで足もとにボールが入ってきた。
そのままゴールの左すみに、かるく転がす。
キーパーはまったく反応できずに、そのままゴールが決まった。
「あかね、ナイシュー!」
「藤司、ナイスアシストッ!」
流れるように、ハイタッチする。
「すげえ、あかねのやつ、これで3点目だぞ!」
「藤司とあかねがそろうと、だれもとめられねーよ!」
敵味方問わず、コート内の男子が、うちらのもとへかけよってきた。
「あれ。あかね、腕のそこんとこ、どうした?」
指された右腕を見ると、たしかに青っぽくなっていた。
「あっ、たしかさっき、試合中に俺のひじとぶつかったよな。わるい、大丈夫か?」
「おう、ぜんぜんヘーキ! 気にすんなって」
それをきいていた左野先生が、ひとこと、
「あかねくん、もしあとではれたり痛みがでてきたりしたら、保健室にいってね」
それだけで、この話は終わった。
ほっとして、うちはそっと、ひたいにうっすらと残っている、傷をなでる。
あのときとは、大ちがいだなって思いながら。
――――あのとき、もし、うちが男子だったら、なにか変わっていたのかな?
……なんて、ね。
うちはつい去年まで、前の学校のサッカーチームに入っていた。
自分で言うのもなんだけど、チームのだれよりドリブルの突破力があった。
「ほんと、あかねってサッカーうまいよな」
「うちのチームの絶対的エースだよ!」
ほめられて、試合にも毎回出してもらえて、すごく楽しかったな。
でも、ある試合中、ころんだ拍子にうちは、ひたいを切ってしまった。
グラウンドのしばふに、ビンのかけらが落ちていたんだ。
手の甲でかるく血をぬぐいながら、うちが立ちあがると、コーチが真っ青な顔をしてかけよってきたのを覚えている。
試合の途中なのに、問答無用で病院につれていかれて、手当てをしてもらった。
運よく傷口は小さかったけど、少し痕が残った。
でも、前髪でかくれる位置だし、うちはまったく気にならなかったけど……。
「このチームはいったい、どういう指導をしているんですか!? 女の子の顔に、傷をつけるなんて!」
お父さんやお母さんにとっては、大ごとだったらしい。
コーチやグラウンドを管理している人、うちがころぶ原因を作った男子の親と、もめにもめた。
騒動がおさまって、やっとチームに顔を出せるようになると、コーチに言われた。
「ポジション替えがあって、双葉はディフェンダーになったから」
フォワードとは正反対のポジションで、ぜんぜんかってがちがう。
おまけに、試合には、ほとんど出してもらえなくなった。
チームのメンバーは、うちがボールをもつと、とたんに動きがわるくなるし。
ケガの前とは、ぜんぜんちがう。
みんながうちのことを「女の子あつかい」するって、決めたみたいに……。
お父さんやお母さんも、「まだつづけるの?」って、サッカーにいくたびきいてきた。
プツリと、うちの中で、なにかが途切れて。
うちは、あっさりとチームをやめた。
それが、今年の初春のこと――。
本当は、サッカーが大好きだった。
やめたくなかった。
でも、あのままチームにいても、もううちの大好きなサッカーはできないんだって思ったら、耐えられなかったんだ。
今、考えてみると、お母さんやお父さんは、日焼けして、泥だらけになってサッカーをするうちを見て、ずっといい顔はしてなかったな。
気づいていなかっただけで、『悪夢のバースデー』の前から、うちは女の子らしくすることを求められていたんだ……。
でもまあ、昔のことは、いいや。
だって、今は――。
「あかねくん、カッコよかったよ!」
「サッカーしてるとこ、もっと見たかった~!」
「へへ、サンキュ!」
だれも、うちがサッカーをしていても不思議がらないし、やめさせようともしない。
「あかね、さっそくモテモテだな」
藤司がからかうように、うちをひじでかるくつつく。
「オレ、恋愛とか、キョーミないから」
「うわ、女子かわいそー」
「ちょっとモテるからって、あかね、生意気だぞ!」
「ぎゃーっ」
追いかけてきた男子から逃げたり、じゃれあったり。
「こらこら、まだ授業中だぞ」
さわいでいると、先生に笑いながらおこられてしまった。
男子がコートから出ると、次は女子の試合がはじまった。
かえではコートのすみっこで、びくびくしながらボールを目で追っている。
見ているこっちが心配になってくるくらいだ。
「かえでって、ちょっとどんくさいんだよなあ……」
「ふたごなのに運動神経がちがうんだな。まあでも、かわいくていいじゃん? 女子なんだし」
藤司も女子の試合をながめながら、なにげなくつぶやく。
……ん?
「そ、そうだな」
女子なんだし――か。
うちは心のどこかでひっかかりながらも、うなずいた。
左野先生が、うちら男子がたむろしているほうへ近づいてくる。
「女子の試合が終わっても、少しだけ時間があまりそうなんだけど、もう1試合したい?」
「おっ、したい!」
「おれも! あかねもやるよな?」
「トーゼン!」
藤司にきかれて、うちは大きく返事した。
「よっしゃ、次こそあかねと藤司に勝ってやる!」
「へへ、やれるもんならやってみろ!」
うちと藤司は、ニカッと不敵に笑ってみせる。
――思うぞんぶんサッカーができて、いち目おかれて。
やっぱり、『あかねくん』生活はサイコーだ!