KADOKAWA Group
ものがたり

『ふしぎアイテム博物館』先行ためし読み連載 第4回 変身手紙②


『ふしぎアイテム博物館』に迷い込み、「変身手紙」を借りることになった春馬くん。
「万能アスリート」に変身して、球技大会でかつやくするつもりみたい。
はたして、どうなるかな……?

 

.。゚+..。゚+.  .。゚+..。゚+

第2話 変身手紙②

.。゚+..。゚+.  .。゚+..。゚+

 次の日。

 球技大会の本番。

 ぼくは体育館の中にいた。ドッジボールの試合がはじまるのをまちながら、今朝のことを思い返した。

 目を覚ましたぼくは、すぐにベッドから起き上がって、封筒から変身手紙を取り出したんだ。

 変身手紙には『なにに、なりたい?』という質問文だけが記されていた。

 心臓のドキドキを感じながら、ぼくはその質問文の下に『万能アスリート』と書いたんだ。

 変身手紙が本物なら、いまのぼくは万能アスリートに変身している。

 見た目も、気持ちも、なんの変化もないけれど、変身している……はず。たぶん、きっと。

 ……それにしても。

 メイさんの言っていた〝きみはきみ〟ってなんだろう。

 ぼくはぼくって、そんなの当たり前なのに――なんてことを考えていると、試合開始を告げるホイッスルの音が響いた。

 ジャンプボールで弾かれたボールが、偶然ぼくの前に転がる。

「おい冬馬、パス!」

 同じ内野のチームメイトが、ボールをよこせとアピールした。

 こいつは、ぼくが逃げる専門なのを知ってるんだ。

 ふだんのぼくなら、迷わずボールをパスしていたはず。

 投げ方を笑われたこと、キャッチできずに怒られたこと、結局逃げられずにボールを当てられたこと。

 苦い記憶が、よみがえる。

 でも、いまの、ぼくは……!

 クラスメイトを無視して、一つ深呼吸をする。

 ……よし。

 相手選手の一人に狙いを定め、ぼくは思い切りボールを投げる。

 その瞬間、相手選手はアウトになった。

 いや、アウトどころか、ボールの衝撃を受け止めきれず、うしろに倒れこんだんだ。

 一瞬、コート内は静まり返った。

 ぼくの投げたボールが、あまりにも速すぎたからだろう。

 うれしさのあまり、ぼくはこぶしをギュッと握った。

 ああ! やっぱり! 変身手紙は本物だった!

 その後、ぼくたちのチームは圧勝した。もちろん、ぼくの活躍によって。

 相手の投げるボールは遅すぎて止まって見えたし、ぼくの投げるボールは速すぎてだれも取れなかったんだ。

 活躍は、ドッジボールだけじゃない。

 バスケをすれば、ドリブルもパスも、シュートだって決めまくり。

 バレーをすれば、アタックもサーブもブロックも完璧にこなした。

 こうしてぼくは、チームを勝利に導いたんだ。

 球技大会の一日目が終わるころには、ぼくはクラスの英雄になっていた。

 みんなが、口々にぼくをほめてくれる。

「スゲーじゃん!」「勉強だけじゃないんだ!?」「見直したっ」「明日も期待してるよ!」

 明日。

 そうだ、明日も球技大会はある。

 明日の朝もう一度、変身手紙に『万能スポーツ選手』と書く。そうすれば、ぼくは明日も『万能スポーツ選手』になれる。

 でも、そのあとは、どうする?

 球技大会が終われば、変身手紙は館長さんに返さなきゃいけない。

 返したら、ぼくは二度と、万能スポーツ選手になれない。

 ぼくをほめてくれたクラスメイトたちは、きっと怪しむだろう。

「最近どうしたん?」「球技大会のときは、あんなにすごかったのに」「やる気出せよ」「ねえ、なんか変じゃない?」「もしかして、あの時なにかズルしてたとか?」「そうだ、なんかオカシイと思ったんだ」

 どうすれば、変身手紙を返さずにすむ?

 帰りのホームルーム中も、下校中も、家に着いてからも、寝る前も、ぼくはずっとそのことを考えていた。


* * * * * * *


 次の日。

 つまり球技大会二日目の朝になっても、ぼくはまだ、それを考えていた。

 いまは朝のホームルーム中で、先生がなにか話しているけど、まったく耳に入らない。

 それぐらい、ぼくはこの神アイテムを、ぜったい手放したくなかった……ん?

 神?

 あぁっ! そうだ!!!

 ここが教室じゃなければ、叫んでいたかもしれない。

 それほど、グッドなアイデアをひらめいた!

 そうだ、『神』だ。変身手紙に、『神』と書くのはどうだろう?

 スポーツどころか、なんでもできる、全知全能の神。

 館長さんもメイさんも、神には逆らえないだろう?

 そうなれば、変身手紙を返さなくてすむ。少なくとも、やってみる価値はある。

 ぼくはカバンの中から、変身手紙を取り出した。

 館長さんが「使うときは家で」と言っていたけど、はやく試してみたかった。

 大丈夫、どうせだれも見てないさ。

 すでにエンピツで書かれていた『万能スポーツ選手』をケシゴムで消し、『神』と書いて、ぼくは変身手紙を封筒にもどした。

 これで十分後、ぼくは神になれる……はず。

 やがて、ホームルームが終わり、クラスの男子たちは更衣室へ向かった。

 とりあえず、時間になるまでは、一人になれる空き教室で待機していよう。

 そうだな……うん、念のため、変身手紙も持っていくか。

 そう思って廊下に出る。そのとたん、だれかと肩がぶつかった。

「あっごめん」

 と、あやまったのは藤林(ふじばやし)だった。

 同じクラスの藤林学(がく)。ろくに話したことはないけれど、ぼくはこいつが好きじゃない。

 いつもオドオドしているし、勉強もできない。そのうえ、授業中はいつもボーッとしていてやる気がないんだ。

「やめろよ」

「あっ、その、ごめん」

「そうじゃなくて、踏んでるんだよ!」

 藤林はぶつかった拍子に、ぼくのうわばきをず~っと踏んでいた。

「あっ! ごめんっ、その……ごめん、ほんとごめん」

 あわてて飛びのいた藤林を無視して、ぼくは廊下を進んだ。

 ぶつかったのは、ぼくも悪い。それは、わかっていた。

 でも、それ以上に、足を踏まれたイラつきのほうが勝っていた。

「ごめんしか言えないのかよ」

 つい、そんな言葉が口からもれた。藤林に聞かれたかもしれない。

 でも、まあ、いっか。

 だって、ぼくはこれから神になるんだぞ?

 そんなぼくの足を踏むようなヤツは、なにを言われてもしかたないだろう。むしろ、罰を与えないだけ感謝してほしいくらいだ。

 それから、空き教室で一人、ぼくは時間になるのをじっとまった。

 神になったら、なにをしよう。そんな妄想を楽しみながら。

 きっと、神ってなんでもできる。

 音楽とか、美術とか、演技とか。運動以外でも、ぼくは才能を発揮できるんだ! 

 やがて、そのときが来た。

 変身手紙を書いてから、ちょうど十分。

 その、瞬間。

 体が、グニャリ、と曲がった、そんな気がした。

 …………え? なんだ? これ?

 気づけば、目の前に、巨大な机があった。

 教室にある、見慣れたデザインの、その何倍も大きな机が。

 どうして――と言おうとしたぼくの口から「にゃあにゃあー」という声が出た。

 にゃ、にゃあ? なんで、こんなネコみたいな声を――と言おうとして、やっぱり「にゃあーにゃあーにゃあ」なんて声が出る。

 まさか。

 ゆっくり、下を向く。ネコの足が見えた。

 まさか、そんな。

 後ろを向けば、ぼくが着ていたはずの服が床におちていた。

 まさか、そんな、でも……。

 ズボンのポケットから、スマホを引っぱり出してのぞきこむ。

 黒い液晶に反射するのは、まぎれもなくネコの顔。

 ぼくは……ネコになっていた!



 机が巨大なんじゃない。ぼくが小さくなっていたんだ!

 どうして? どうして? どうして?

 頭の中はパニックで、苦しくいくらいに心臓が鳴る。

 どうして? ぼくは神になるはずだろう?

 ちゃんと、変身手紙にそう書いた。

 なんでもできる神になって、好きなことを、好きなだけして。

 だれも、ぼくに逆らえない、そんな存在になるはずじゃ!

 今日だって、ぼくは、球技大会でヒーローになるはずだった!

「マジだ、ネコじゃん!」

「な? 鳴き声がすると思ったんだよ」

「てか、なんで服おちてんの?」

 気づけば、空き教室の扉が開かれていた。何人もの生徒が、ぼくを見てはしゃいでいる。

 あっ。

 その生徒たちの中に、藤林がいた。

 藤林はネコ姿のぼくを見て、信じられないとでも言うように目を丸くした。

 よく見れば、藤林の手には、変身手紙が握られている。

 ……そうか、あのとき! 藤林とぶつかったとき!

 ぼくはたぶん、変身手紙を床におとしたんだ!

 そしてそれを、藤林が拾ったにちがいない!

 藤林、おまえだな? おまえが、手紙に細工したんだな?

 …………あれ? まてよ?

 ぼくは大事なことに気づく。館長さんの、あの言葉を思い出したんだ。

 ……藤林、おまえいったい、どうやったんだ?




ためし読みはここまで。
続きは、本で読んでね♪




『ふしぎアイテム博物館』は好評発売中!


作: 星奈 さき 絵: Lyon

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323019

紙の本を買う

電子書籍を買う


つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼



この記事をシェアする

ページトップへ戻る