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『ダンサー!!! キセキのダンスチーム【ヨルマチ】始動!』ためし読み連載 第3回


プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」も推薦(すいせん)!

全5回で80ページ分もためし読みできちゃう!
元気がもらえるダンス小説、ぜひたのしんでね!



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★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?




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第3話 雪解(ゆきど)けのバレエダンサー(前半)

 リヒトにメンバー探しを頼まれて。わたしは、すごく困っていた。

 どうしよう。誘(さそ)える子なんていないよ!

 そのまま、数日が経ってしまった。ダンスの練習は順調。アイソレーションはだいぶできるようになった気がするけど、勧誘(かんゆう)はちっともできていない。

 休み時間の、学校の教室。わたしは机の上で、ため息をついた。

(メンバー探し、できなかった、って言ったら、きっとリヒトは落ち込むよね……)

 このままじゃだめだ。せめて一人だけでもいいから、がんばって声をかけてみよう。

 でも、どんな子ならチームに入ってくれるだろう?

(わたしと同じくらいダンスが好きな子、とか?)

 そんな子 、簡単(かんたん)に見つかるかなぁ……。

 ふと、前の方の席がざわざわしていることに気づく。クラスメイトが、一人の女の子の周りに集まっていた。


 渡辺氷愛(ワタナベ ヒオ)。長い髪がお嬢様っぽくてきれいな子。クラスで一番背が小さいけど、なんだか存在感があって、つい目で追っちゃうんだよね。

 転校してきたばかりだから、わたしと同じで友達がいないはずだけど。

(でも、いつも堂々としててかっこいいんだよね……)

 そういえば。渡辺さんはすごく姿勢がいい。存在感があるのは、そのおかげだ。

 なにか習い事とか、してるのかな?


「ね、ね。渡辺さん、次のお休み、私たちと一緒に遊びに行かない?」

 そわそわと、クラスメイトの女子たちが、友達になりたそうに誘う。

 だけど、渡辺さんは冷たくばっさり断った。

「むり。その日はコンテンポラリーダンスのレッスンがあるから」

 わたしは、ハッとした。今の話……渡辺さん、ダンス習ってるんだ!

 コンテンポラリーっていうのは初て聞いたけど、きっとハウスダンスみたいにダンスの一種だ。

 ダンスレッスンのために、あんなにばっさり遊びの誘いを断るなんて……。もしかして、わたしと同じくらい……ううん、わたしよりもダンスが好きかもしれない!

 わたしはガタッと立ち上がって、廊下(ろうか)に出て行った渡辺さんを追いかける。

「なに? あなたも遊びのお誘い?」

 じとり。渡辺さんのクールな目が、わたしを見つめる。

 うっ。ひるんで、目をそらしてしまった。

 けど、ここで引くわけにはいかない。せっかく見つけたんだ。わたしと同じくらい、ダンスを好きかもしれない子。


「わたたべさん!」

 名前を呼ぼうとして……思いっきり、噛(か)んだ。あわてて言い直す。

「わたたたべさん……!」

 き、緊張(きんちょう)して舌(した)がもつれる〜〜!

「……ヒオでいいわ」

 あきれたように渡辺さんあらため、ヒオは言った。そのまま、立ち止まってわたしの言葉を待ってくれている。冷たそうに見えたけど、意外と優しい……。

 深呼吸、落ち着いて、今度こそ。

「ヒオ。わたしと一緒に、ダンス……」

「むり」

 ぴくっ。肩が跳ねる。ヒオの声は、吹雪(ふぶき)みたいに冷ややかだった。

「どうせ遊びでしょ。あたし、きらいなの。ダンスを遊びだと思ってる子」

「え……?」

「だから、断る。あたし、レッスンで忙(いそが)しいの。遊んでるヒマないから」

「ま、待って!」

 反論、しなくちゃと思った。たしかに、わたしは遊びでダンスを始めた。アイドルが好きで、ダンス動画にハマって、自分でも踊ってみたくなった。それだけだ。

 でも。

「遊びだけど、真剣だから!」

 叫んだ。冷たい目で見つめられて、なにも言えなくなっちゃわないように、ぎゅっと目をつぶって。

「話だけでも聞いて、ほしい……」

 ヒオは軽くため息をついた。

「話を聞いて、あたしになにかいいことあるなら、聞いてあげてもいいけど」

 あとひと押しってこと? だめもとで、考える。なにかヒオにいいこと……。

「えーと、えーと……駅前のシュークリーム! おごるから!」

 ……むりかなぁ。おそるおそる、目を開ける。

「いいわ」

 いいの!?


   * * *


 放課後、駅前の広場 。ベンチで、ヒオと一緒にシュークリームをほおばる。

 ヒオは、シュークリームをひとくち食べたとたん、「はあ〜」と、大きな息を吐いた。わたしは隣(となり)でびくっとする。

 ヒオって、普段(ふだん)つんとすましてるのに、こんなにしあわせそうに笑うんだ……。

「そんなに、シュークリーム好きなの?」

「大好き。甘くておいしいんだもの」

「そういえばヒオ、よく給食残してるけど、デザートは食べてるもんね」

「……どうでもいいでしょ。そんなこと」

 ぷい、とヒオは顔を背(そむ)けた。わ、わたし、余計なこと言った?

「ヤコ!」

 向こうから、制服姿のリヒトがやってくる。

 そのまま、すごい勢いでわたしに近づいて、ガシッと手をつかんだ。

「本当にメンバー候補を見つけてくれるなんて! おれの知り合いのダンサーは、みんな予定合わなくてさ。誘えなくて困ってたんだ。助かったよ! ありがとう!」

「あ、わわ。どういたしまして、です」

 急に手を握(にぎ)られてびっくりした。リヒトって距離感近いよね。

 でもそんなに、よろこんでくれるなら、がんばってヒオに声かけてよかった。

 リヒトはわたしの手を放して、ヒオの方ほうを向いた。

「ヤコから話は聞いたよ。きみが、ヒオちゃんだね」

「ちゃんづけはいや。子どもっぽいから」

「了解、ヒオ」

 そして、リヒトはヒオに質問を続けた。


「きみはバレエダンサーだろう?」

「そうよ」

「え? でも習ってるのはコンテンポラリーダンスって……」

「コンテンポラリーはバレエから進化したダンスだね。バレエダンサーも習うんだよ。クラシックバレエとの違いは、振り付けの自由度が高くて……って、説明はいいか」

 リヒトはスマホで、わたしに動画を見せてくる。

「ほら。ここに来る前にいろいろ調べたんだ。ヒオのこと」

 それは、二年前まえのクラシックバレエ・コンクールの動画だった。

「コンクールで金賞だってさ」

 舞台に、ひらひらしたきれいなドレス……チュチュを着たヒオが立っている。

『四一番 渡辺氷愛』

 アナウンスの後、曲がかかる。バイオリンの音色に合わせて、ヒオのトゥシューズを履(は)いた足が軽やかに跳ねる。

「見て。パの繋ぎ方がすごくきれいだ」

「パ?」

「バレエの動きのことだよ」

「バレエは、パッて足を広げるから?」

「はは。たしかフランス語で、ステップって意味だったかな」

 じっと動画を見る。わたしは、バレエのことは何も知らない。でも。

「……すごくうまい、ね」

 見るだけで、それが伝わる踊りだった。

 画面の中で、踊り終えたヒオは、優雅(ゆうが)におじぎをした。会場は拍手がなくて、しんと静まり返っていた。きっと拍手禁止なんだ、と思った。だってそうじゃなかったら、ヒオのダンスにみんな拍手をしているに決まってる。

 そのくらい、上手だったんだ。

「本当に、すごい子を誘ったね」

 リヒトも、ヒオの実力にうなっていた。

 でも、なんだか、ヒオのダンスには違和感があるような……。

(あ、わかった。笑顔だ)

 ヒオは踊おどってる時、うっすらと笑っている。でもその笑顔は、とっても冷たいんだ。

(なんだか、演技みたい……)

 たしかバレエって劇みたいなダンスだから、演技で合ってるのかもしれないけど。

 でも、わたしはさっき、ヒオの本当の笑顔を見たんだ。シュークリームをほおばっていた時の、すごくしあわせそうな笑顔。

 なのに、踊っている時の笑みは、凍りついてる……。

 わたしは、聞いてみる。

「……ヒオって、踊るの、好き?」

 ヒオは、シュークリームを食べる手を止める。


「きらいよ」

 ばっさり。不機嫌(ふきげん)そうに、そう答えた。

 わたしは、とまどう。ヒオを誘ったのは、わたしと同じかそれ以上に、ダンスを好きな子だと思ったから。

 ……でも、ちがったの?

 ヒオはシュークリームの最後のひと口を食べ切って、言った。

「好きとか関係ない。大事なのはあたしが一番うまいってこと。言っておくけど……」

「ヒオ、口にクリームついてるよ」

 途中で、リヒトにそう言われて、ヒオは口元をぬぐう。

「言っておくけど」

 もう一回言い直した……。

「あたし、ダンスの世界でプロを目指してるから」

 小さな体で、堂々と、ヒオは宣言する。

「あなたたち、コンテストに出るためにチームメンバーを探してるって聞いたけど。ストリートダンスのコンテストでしょ? そういうダンスってプロになれるの?」

 ぴくり、とリヒトの肩が動いた。

「プロになれない遊びのダンスなんて、するヒマないわ」

 ヒオは、腕(うで)組みをして、鼻で笑った。

(な、な、なんか……やな感じ!)

 ヒオのえらそうな言い方にむかむかして、わたしは、ついぼそっと言ってしまう。

「そんなだから、転校してから友達できてないんじゃん……」

「友達いないのは、ヤコもでしょ。教室でいつもひとりぼっちじゃない」

「い、いるもん!」

 隣にいたリヒトの腕をぐい、とひっぱる。

「お」

「友達……だよね!?」

「たしかに。一緒に踊ったら、もう友達だよなー」

 リヒトはにっこり笑った。やさしい……! ありがとう!


「じゃあ、おれがヒオの質問に答えようか」

『ストリートダンスでプロになれるのか』

 それが、ヒオの質問だった。

「なれるよ、プロに。ストリートダンスの中なかでもブレイキンってジャンルは、オリンピック種目になったし、ダンスのプロリーグだってできたんだから」

 リーグって、野球やサッカーでよく聞くやつだ。たしかリーグ戦とかいって、毎年大会が開かれてるよね。……ダンスにもそのくらい大きな大会があるってこと!?

「それに。おれも、プロのダンサーを目指してるんだ」

「え、そうだったの……?」

「まあ一応、ね。コンテストは、プロを目指すための第一歩、って感じかな」

 リヒトは照れくさそうにはにかんだ。

 わたしは、プロとか全然わからないけど……目指すのは、すごいと思う。二人とも。

「プロのダンサーには、バレエ出身の人もいるし、コンテストでは、コンテンポラリーも含めて、いろんな種類のダンスをやれる。ヒオもきっと、たのしめると思う。……もちろん、ヒオがバレエを好きだっていうなら、むりに誘う気はないけど」

 リヒトは眼鏡を押し上げて、続ける。

「でも『プロのバレエダンサー』を目指してる、じゃなくて、『ダンスの世界でプロを目指す』って言ったのは、バレエ以外にも興味あるからじゃないか?」

 ヒオは、図星を突かれた、って感じで、一瞬ん黙(だま)った。

「そうね、それでコンテンポラリーも始めたとこ。そっちのダンスも悪くないかも。コンテスト、ヒマつぶしに出 てあげてもいいかなって思った」

 あれ。なんだかチームに入ってくれそうな、雰囲気……?


「でも。あたし、うまい子としか踊る気ないから。うまいの? あなたたち」

 むか。とする。さっきから言い方っ、なんでそんなに、いじわるかなぁ!?

「そうだ。ストリートには、ダンスバトルっていうのがあるんでしょう? あたしをチームに入れたいなら、バトルして、勝ってみせてよ」

 ヒオは、ふふん。と腕を組んで、そう言った。

 わたしは、ぷつん、と、我慢(がまん)の糸が切れた。

 よくないと思った。そんな、自分が一番えらい、みたいな言い方。友達減るし、炎上するし、なにより言われた方が傷つく。わたしはいいけど、友達に、優しいリヒトにそんな態度をとってほしくなかった。

「わかった、おれが……」

「ううん、リヒト。わたしがやる。わたしが誘ったんだから、誘ったわたしがバトルするべきだよ」


<第4回につづく>

ヒオとのダンスバトル開始!?
続きは次回をお楽しみに!


プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」も推薦(すいせん)!
小説『ダンサー!!! キセキのダンスチーム【ヨルマチ】始動!』は2025年4月23日(水)発売!


著者: さちはら 一紗 イラスト: tanakamtam

定価
1,375円(本体1,250円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784046844606

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