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★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?

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第3話 雪解(ゆきど)けのバレエダンサー(前半)
リヒトにメンバー探しを頼まれて。わたしは、すごく困っていた。
どうしよう。誘(さそ)える子なんていないよ!
そのまま、数日が経ってしまった。ダンスの練習は順調。アイソレーションはだいぶできるようになった気がするけど、勧誘(かんゆう)はちっともできていない。
休み時間の、学校の教室。わたしは机の上で、ため息をついた。
(メンバー探し、できなかった、って言ったら、きっとリヒトは落ち込むよね……)
このままじゃだめだ。せめて一人だけでもいいから、がんばって声をかけてみよう。
でも、どんな子ならチームに入ってくれるだろう?
(わたしと同じくらいダンスが好きな子、とか?)
そんな子 、簡単(かんたん)に見つかるかなぁ……。
ふと、前の方の席がざわざわしていることに気づく。クラスメイトが、一人の女の子の周りに集まっていた。
渡辺氷愛(ワタナベ ヒオ)。長い髪がお嬢様っぽくてきれいな子。クラスで一番背が小さいけど、なんだか存在感があって、つい目で追っちゃうんだよね。
転校してきたばかりだから、わたしと同じで友達がいないはずだけど。
(でも、いつも堂々としててかっこいいんだよね……)
そういえば。渡辺さんはすごく姿勢がいい。存在感があるのは、そのおかげだ。
なにか習い事とか、してるのかな?
「ね、ね。渡辺さん、次のお休み、私たちと一緒に遊びに行かない?」
そわそわと、クラスメイトの女子たちが、友達になりたそうに誘う。
だけど、渡辺さんは冷たくばっさり断った。
「むり。その日はコンテンポラリーダンスのレッスンがあるから」
わたしは、ハッとした。今の話……渡辺さん、ダンス習ってるんだ!
コンテンポラリーっていうのは初て聞いたけど、きっとハウスダンスみたいにダンスの一種だ。
ダンスレッスンのために、あんなにばっさり遊びの誘いを断るなんて……。もしかして、わたしと同じくらい……ううん、わたしよりもダンスが好きかもしれない!
わたしはガタッと立ち上がって、廊下(ろうか)に出て行った渡辺さんを追いかける。
「なに? あなたも遊びのお誘い?」
じとり。渡辺さんのクールな目が、わたしを見つめる。
うっ。ひるんで、目をそらしてしまった。
けど、ここで引くわけにはいかない。せっかく見つけたんだ。わたしと同じくらい、ダンスを好きかもしれない子。
「わたたべさん!」
名前を呼ぼうとして……思いっきり、噛(か)んだ。あわてて言い直す。
「わたたたべさん……!」
き、緊張(きんちょう)して舌(した)がもつれる〜〜!
「……ヒオでいいわ」
あきれたように渡辺さんあらため、ヒオは言った。そのまま、立ち止まってわたしの言葉を待ってくれている。冷たそうに見えたけど、意外と優しい……。
深呼吸、落ち着いて、今度こそ。
「ヒオ。わたしと一緒に、ダンス……」
「むり」
ぴくっ。肩が跳ねる。ヒオの声は、吹雪(ふぶき)みたいに冷ややかだった。
「どうせ遊びでしょ。あたし、きらいなの。ダンスを遊びだと思ってる子」
「え……?」
「だから、断る。あたし、レッスンで忙(いそが)しいの。遊んでるヒマないから」
「ま、待って!」
反論、しなくちゃと思った。たしかに、わたしは遊びでダンスを始めた。アイドルが好きで、ダンス動画にハマって、自分でも踊ってみたくなった。それだけだ。
でも。
「遊びだけど、真剣だから!」
叫んだ。冷たい目で見つめられて、なにも言えなくなっちゃわないように、ぎゅっと目をつぶって。
「話だけでも聞いて、ほしい……」
ヒオは軽くため息をついた。
「話を聞いて、あたしになにかいいことあるなら、聞いてあげてもいいけど」
あとひと押しってこと? だめもとで、考える。なにかヒオにいいこと……。
「えーと、えーと……駅前のシュークリーム! おごるから!」
……むりかなぁ。おそるおそる、目を開ける。
「いいわ」
いいの!?
* * *
放課後、駅前の広場 。ベンチで、ヒオと一緒にシュークリームをほおばる。
ヒオは、シュークリームをひとくち食べたとたん、「はあ〜」と、大きな息を吐いた。わたしは隣(となり)でびくっとする。
ヒオって、普段(ふだん)つんとすましてるのに、こんなにしあわせそうに笑うんだ……。
「そんなに、シュークリーム好きなの?」
「大好き。甘くておいしいんだもの」
「そういえばヒオ、よく給食残してるけど、デザートは食べてるもんね」
「……どうでもいいでしょ。そんなこと」
ぷい、とヒオは顔を背(そむ)けた。わ、わたし、余計なこと言った?
「ヤコ!」
向こうから、制服姿のリヒトがやってくる。
そのまま、すごい勢いでわたしに近づいて、ガシッと手をつかんだ。
「本当にメンバー候補を見つけてくれるなんて! おれの知り合いのダンサーは、みんな予定合わなくてさ。誘えなくて困ってたんだ。助かったよ! ありがとう!」
「あ、わわ。どういたしまして、です」
急に手を握(にぎ)られてびっくりした。リヒトって距離感近いよね。
でもそんなに、よろこんでくれるなら、がんばってヒオに声かけてよかった。
リヒトはわたしの手を放して、ヒオの方ほうを向いた。
「ヤコから話は聞いたよ。きみが、ヒオちゃんだね」
「ちゃんづけはいや。子どもっぽいから」
「了解、ヒオ」
そして、リヒトはヒオに質問を続けた。
「きみはバレエダンサーだろう?」
「そうよ」
「え? でも習ってるのはコンテンポラリーダンスって……」
「コンテンポラリーはバレエから進化したダンスだね。バレエダンサーも習うんだよ。クラシックバレエとの違いは、振り付けの自由度が高くて……って、説明はいいか」
リヒトはスマホで、わたしに動画を見せてくる。
「ほら。ここに来る前にいろいろ調べたんだ。ヒオのこと」
それは、二年前まえのクラシックバレエ・コンクールの動画だった。
「コンクールで金賞だってさ」
舞台に、ひらひらしたきれいなドレス……チュチュを着たヒオが立っている。
『四一番 渡辺氷愛』
アナウンスの後、曲がかかる。バイオリンの音色に合わせて、ヒオのトゥシューズを履(は)いた足が軽やかに跳ねる。
「見て。パの繋ぎ方がすごくきれいだ」
「パ?」
「バレエの動きのことだよ」
「バレエは、パッて足を広げるから?」
「はは。たしかフランス語で、ステップって意味だったかな」
じっと動画を見る。わたしは、バレエのことは何も知らない。でも。
「……すごくうまい、ね」
見るだけで、それが伝わる踊りだった。
画面の中で、踊り終えたヒオは、優雅(ゆうが)におじぎをした。会場は拍手がなくて、しんと静まり返っていた。きっと拍手禁止なんだ、と思った。だってそうじゃなかったら、ヒオのダンスにみんな拍手をしているに決まってる。
そのくらい、上手だったんだ。
「本当に、すごい子を誘ったね」
リヒトも、ヒオの実力にうなっていた。
でも、なんだか、ヒオのダンスには違和感があるような……。
(あ、わかった。笑顔だ)
ヒオは踊おどってる時、うっすらと笑っている。でもその笑顔は、とっても冷たいんだ。
(なんだか、演技みたい……)
たしかバレエって劇みたいなダンスだから、演技で合ってるのかもしれないけど。
でも、わたしはさっき、ヒオの本当の笑顔を見たんだ。シュークリームをほおばっていた時の、すごくしあわせそうな笑顔。
なのに、踊っている時の笑みは、凍りついてる……。
わたしは、聞いてみる。
「……ヒオって、踊るの、好き?」
ヒオは、シュークリームを食べる手を止める。
「きらいよ」
ばっさり。不機嫌(ふきげん)そうに、そう答えた。
わたしは、とまどう。ヒオを誘ったのは、わたしと同じかそれ以上に、ダンスを好きな子だと思ったから。
……でも、ちがったの?
ヒオはシュークリームの最後のひと口を食べ切って、言った。
「好きとか関係ない。大事なのはあたしが一番うまいってこと。言っておくけど……」
「ヒオ、口にクリームついてるよ」
途中で、リヒトにそう言われて、ヒオは口元をぬぐう。
「言っておくけど」
もう一回言い直した……。
「あたし、ダンスの世界でプロを目指してるから」
小さな体で、堂々と、ヒオは宣言する。
「あなたたち、コンテストに出るためにチームメンバーを探してるって聞いたけど。ストリートダンスのコンテストでしょ? そういうダンスってプロになれるの?」
ぴくり、とリヒトの肩が動いた。
「プロになれない遊びのダンスなんて、するヒマないわ」
ヒオは、腕(うで)組みをして、鼻で笑った。
(な、な、なんか……やな感じ!)
ヒオのえらそうな言い方にむかむかして、わたしは、ついぼそっと言ってしまう。
「そんなだから、転校してから友達できてないんじゃん……」
「友達いないのは、ヤコもでしょ。教室でいつもひとりぼっちじゃない」
「い、いるもん!」
隣にいたリヒトの腕をぐい、とひっぱる。
「お」
「友達……だよね!?」
「たしかに。一緒に踊ったら、もう友達だよなー」
リヒトはにっこり笑った。やさしい……! ありがとう!
「じゃあ、おれがヒオの質問に答えようか」
『ストリートダンスでプロになれるのか』
それが、ヒオの質問だった。
「なれるよ、プロに。ストリートダンスの中なかでもブレイキンってジャンルは、オリンピック種目になったし、ダンスのプロリーグだってできたんだから」
リーグって、野球やサッカーでよく聞くやつだ。たしかリーグ戦とかいって、毎年大会が開かれてるよね。……ダンスにもそのくらい大きな大会があるってこと!?
「それに。おれも、プロのダンサーを目指してるんだ」
「え、そうだったの……?」
「まあ一応、ね。コンテストは、プロを目指すための第一歩、って感じかな」
リヒトは照れくさそうにはにかんだ。
わたしは、プロとか全然わからないけど……目指すのは、すごいと思う。二人とも。
「プロのダンサーには、バレエ出身の人もいるし、コンテストでは、コンテンポラリーも含めて、いろんな種類のダンスをやれる。ヒオもきっと、たのしめると思う。……もちろん、ヒオがバレエを好きだっていうなら、むりに誘う気はないけど」
リヒトは眼鏡を押し上げて、続ける。
「でも『プロのバレエダンサー』を目指してる、じゃなくて、『ダンスの世界でプロを目指す』って言ったのは、バレエ以外にも興味あるからじゃないか?」
ヒオは、図星を突かれた、って感じで、一瞬ん黙(だま)った。
「そうね、それでコンテンポラリーも始めたとこ。そっちのダンスも悪くないかも。コンテスト、ヒマつぶしに出 てあげてもいいかなって思った」
あれ。なんだかチームに入ってくれそうな、雰囲気……?
「でも。あたし、うまい子としか踊る気ないから。うまいの? あなたたち」
むか。とする。さっきから言い方っ、なんでそんなに、いじわるかなぁ!?
「そうだ。ストリートには、ダンスバトルっていうのがあるんでしょう? あたしをチームに入れたいなら、バトルして、勝ってみせてよ」
ヒオは、ふふん。と腕を組んで、そう言った。
わたしは、ぷつん、と、我慢(がまん)の糸が切れた。
よくないと思った。そんな、自分が一番えらい、みたいな言い方。友達減るし、炎上するし、なにより言われた方が傷つく。わたしはいいけど、友達に、優しいリヒトにそんな態度をとってほしくなかった。
「わかった、おれが……」
「ううん、リヒト。わたしがやる。わたしが誘ったんだから、誘ったわたしがバトルするべきだよ」
<第4回につづく>
ヒオとのダンスバトル開始!?
続きは次回をお楽しみに!
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