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★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?

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第2話 ひとりで踊(おど)るよりも
「ヤコ、おれとダンスチームを組まない?」
「え……」
わたしを、誘(さそ)ってくれてる? ……もっと一緒に踊ろうってこと?
「え、えと、あっ」
おどろいて、言葉が出ない。だって、ひとりで踊るのが当たり前だったから。誰かと一緒に、チームで踊るなんて考えたこともない。
どうしよう? なんて返事すればいい?
あたふたと周りを見回して。ふと、広場の時計が、目に入った。
「あ〜〜っ! バスの時間……! ごめん、わたしっ、帰らなきゃ」
あわてて、荷物(にもつ)を持って、バス停に向かって走り出す。
リヒトが後ろで「待って」と言った気がしたけど……いっぱいいっぱいのわたしに、振り返る余裕(よゆう)はなかったんだ。
(あ、リヒトの連絡先とか…… 聞けばよかった)
気づいたのは、ぎりぎりでバスに乗り込んでから。
(ダンスチームの返事、どうしよう……)
* * *
次の放課後。わたしはまた、広場にやってきた。
昨日リヒトに、チームを組もうと誘われたけど。わたしはまだ、どうするか決められてない。でも、返事はちゃんとしたかった。
『一緒に踊ろう』って、誘ってもらえたことは……初めてで、嬉しかったから。
だから、今度こそ連絡先もらわなきゃ! 広場に行ったら会えるかな?
と思って来てみたけど……そう簡単(かんたん)には会えないか、昨日とは時間もちがうもんね。
夕方前の広場には、ぽつぽつと人がいる。犬と一緒に遊んでいる女の人、日向ぼっこをしているおじいちゃん、ベンチで本を読んでいる眼鏡の男の子……。
(せっかく来たし、踊ってみようかな)
まだ明るいし、周りに人もいるけど……みんな、こっちを見てなさそうだし。
スマホをセットして、録画(ろくが)準備。音楽は昨日と同じ、アマネの『午前零(れい)時』。
だけど、お面はつけない。昨日、リヒトに『いい笑顔だったよ』って言われたから……どんな顔して踊ってたのか、自分でも知りたかった。
再生するのは、人気がありそうなサビパートじゃなくて、わたしの好きなラップパート。振り付けはお手本通りじゃなくて、アレンジで。
自由に、好きなように、踊る!
(ああ、やっぱり……たのしい)
それに、お面を外して踊って気づいた。表情も、大事なフリの一部だったんだって。
顔の角度や目線の方向で、ダンスの雰囲気が変わる気がする。どんな顔して踊ろう、って考える。ダンスを表現する方法が、増えるんだ。
それが、たのしい!
(わたし、もしかして……)
新しいことを覚えたり、自分で考えたりするのが、好きなのかも?
不思議だ。学校の勉強は、苦手なのに……ダンスのことなら、もっとたくさん、知りたいと思う。
(でも、なんだか……物足りない気がする)
――なんでだろう?
踊り終わって、スマホをひろう。撮(と)った動画を確認してみよう……そう思った時。
後ろから、ぱちぱちと拍手(はくしゅ)が聞こえた。
「すごくよかったよ、ヤコ」
後ろにいたのは、ブレザーの制服を着た、眼鏡の男の子だ。さっきまでベンチで本を読んでたから、見られてないと思ったのに……。というか、また名前バレてる!?
「ど、どちらさまですか」
「あ、この格好(かっこう)じゃわからないか」
男の子は眼鏡を外して、前髪をかき上げた。
「あっ、リヒト!?」
初めて会った時とは、全然違う印象だから、わからなかった。
昨日のストリート系ファッションの時は、明るい印象。でも制服で眼鏡をかけていると、落ち着いた優等生って感じ。ギャップがある……。
「あらためて、おれは浅間理人(アサマ リヒト)。隣町の中学に通ってるんだ。ほらこれ、学生証」
学生証を見れば、リヒトが一歳年上の中学一年だってことがわかった。
「中学生だったんだ……。背が高いから、もっと年上かと思ってた」
「あはは……よく言われる」
リヒトはなんだか、困ったように苦笑いした。
……もしかして、「背が高い」って言われるの、好きじゃない?
わたしも高い方だからわかる。褒(ほ)められても、自分では、目立つのやだな〜って感じなんだよね〜……。
じゃなくて。リヒトに会えたら、聞こうと思っていたことがあったんだ。
「ねえ、リヒト。どうしてわたしを、ダンスチームに誘ってくれたの?」
「実は、今度やるダンスコンテストに参加したくて、チームメンバーを探してるんだ」
ダンスコンテスト……そんなのあるんだ!
「それで、TkTokで見た、YAKOのことを思い出した」
リヒトの目が、真っ直ぐ、わたしを見る。どきっとした。
「ずっと気になってたんだ、ヤコのこと。
流行(はや)りのダンスを踊っていても、みんなより頭ひとつ抜けてうまいから。時々、アレンジやオリジナルのダンスもあげてるのを見て、きっと、バトルやコンテストでも踊れる子だって思ってた。いつも踊ってる場所が、隣駅の広場だって気づいて……いてもたってもいられなくて、会いに来たんだ。
実際に会えて…… 間違いないって確信した。メンバーに誘うならヤコだって」
胸がどきどきしている。リヒトと目を合わせたせいで緊張(きんちょう)している……だけじゃない。わたしのダンスを褒めてくれたのが、とても、うれしかったから。
「でも、いきなり場所とか特定して会いに来るなんて怖かっただろうし、説明なしにチームに誘ったりしておどろいたよな」
リヒトは申し訳なさそうに、ぱん、と手を合わせた。
「ごめん!」
わたしはぶんぶんと首を横に振る。あやまらなくていいと思った。
「おどろいたけど、一緒に踊れてたのしかったし、誘ってくれてうれしかった……」
わたしは目を合わせると喋(しゃべ)れないけど、リヒトの目じゃなくて、形のいい眉(まゆ)を見ることにした。がんばって喋りたい時の、裏技だ。
「わ、わたしもね、リヒトのダンスがいいなって思った……!」
勇気を出して、言ってみる。
「ここに来る前に昨日の動画を見返したの。リヒトのダンス……すっごくかっこよかった! ひとつひとつの動きがとっても丁寧(ていねい)で、どこで録画を一時停止してもシルエットがきれいで。それに、手足が長くて、ダイナミックに動いたら画面の端まで届きそうで……いいなぁ! って」
リヒトの眉が、上にあがって。目を丸くしたのが、わかった。
……あ。ティックトッカーだからつい、動画にした時のことばかり話しちゃった。
そう、わたしが知っているのは、ダンス動画のことで、ダンスのこと自体は、実はよく知らなかったりする。
でもきっとリヒトはダンサーだ。わたしよりずっと、ダンスについてくわしい人だ。
「あっあのね、わたし、知りたいことがあるの! 昨日のリヒトのダンスって、なんていうダンスなの? リヒトがやってた技も気になる! 地面すれすれで回ったりするやつ……あれなんていうの!? あ、それと、リヒトの連絡先も教えてほしい!」
勢いまかせに言い切って、はっと気づいた。
一気にわーっと話しちゃった……。普段はうまく話せないのに、好きなことだとつい、話しすぎちゃう。それでみんなに引かれないように、ダンスが好きだってことは秘密(ひみつ)にしてたのに……。
「あ、ははは!」
リヒトはお腹を抱えて、目をこすった。
……笑わらわれた!? ガンッとショックを受ける。
「ヤコって、アツいやつだね。ありがとう。褒められるの、久々で……うれしいな」
そう言って、優しくほほえんでくれたから、わかった。
あ、引かれたわけじゃなかったんだ……って。
そっか、そうだよね。だってリヒトもダンスが好きなんだもんね。わたしが、ダンスが好きだって話しても。リヒトはおかしいって思わない。
――だって、同じだから。
(……うれしい)
そして、リヒトはわたしがさっきした質問に答える。
「『昨日のはなんていうダンスか』だっけ。おれは普段、種類(ジャンル)とかあまり気にしないで、フリースタイルで踊るタイプなんだけど。昨日のは、ハウスダンスっぽく踊ったかな」
「ハウス? それって……〝家〟って意味だっけ。ストリートダンスじゃないの?」
ストリートってたしか〝道〟って意味だったよね? 外で踊るダンスじゃないの?
「ハウスは、ストリートダンスの種類のひとつだよ。元はクラブ……部活じゃなくて、ダンスホールの方ね。その、クラブで流れるハウスミュージックに合わせて踊るから、ハウスダンスっていうんだ」
クラブ……行ったことないけど、なんとなくイメージしてみる。DJが音楽を流しながら、黒くて丸いターンテーブルをキュッキュッと回していて、天井ではミラーボールがキラキラと光っていて、フロアではみんなが踊ってる……って感じ?
「ストリートダンスって、外だけで踊るわけじゃないんだね」
「そうそう、だからおれは、単に『ダンス』って呼んでるかな。今はコンテストとかも室内ステージだし。全部、路上(ストリート)って呼ぶのはなんか違う気がして」
『ダンス』……たしかにそう呼ぶと、いろんな種類を自由に踊っていいんだよ、って感じがして、いいかもって思った。
TikTokで流行(はや)りの曲を踊ってるわたしの、種類も名前もわからないダンスも、仲間に入れてもらえるかな。
そのままリヒトは、実際にハウスダンスのステップを見せてくれた。
「ハウスダンスは、テンポ速めの曲に合わせた、すばやいステップが特徴なんだ」
ステップは速くて、足が忙しそう、と思うくらい。だけどこれを、細かい音にぴったり合わせて踊れたら、とても気持ちよさそう!
「ヤコが『気になる』って言ってた技は、フロアムーブのことだね。ハウスでよくやる動き(ムーブメント)なんだ」
そしてリヒトは、床に手をついて、地面すれすれを回ってみせる。
低い位置で体を動かすダンスは、縦長のダンス動画ではあまり見ない気がする。
けど実際に見ると、大胆(だいたん)に地面を使って自由自在に動くのは、リヒトの長い手足が映はえて、すっごく迫力があった。
「あ、今日は制服なの忘れてた。ちょっと汚(よご)れちゃったかな」
立ち上がったリヒトは、照れくさそうに土埃(ぼこ)りを払う。ずれた眼鏡を押し上げた。
「フロアムーブは派手でカッコいいから、おれは好き」
たしかに派手さもある。見ていて、わくわくした。
(けど……一番は、『気持ちいい』って感じ)
ステップもフロアムーブも、リヒトの動きは、すばやいけどなめらかだ。ひとつひとつの動きを丁寧に、冷静に繋(つな)げていくリヒトのダンスには、ずっと見ていられる気持ちよさがある。
まるで、流れる水みたい。
(もしかして、ダンスって、その人のイメージが表れるものなのかも)
水、というのは、年上で落ち着いてるリヒトにぴったりのイメージだ。
……わたしのダンスは、どんなイメージなんだろう?
自分の動画を見返してもわからない。もっとうまくなったら、わかるのかな?
うまくなりたいと思った。リヒトみたいに。
「ね、リヒト。わたしに、ダンス教えてくれないかな。わたし、ひとりで動画の真似とかして踊ってたから、ダンスの技術? とか、よく知らなくて……」
「え、独学ってことか。すご」
うーん、とリヒトは考え込む。
「ヤコは、よく踊れてると思う。けど、習ったことないなら、教えるのは基礎の技術(スキル)かな。たとえば、アイソレーションとか」
「アイソレ……?」
「見てて」
リヒトは首を左右に、ぐねぐねと動かしてみせた。体はピタッと止まってるのに、首だけが動いている。そこだけ別の生き物みたいだ。
「体の決まった部位(パーツ)だけを動かす技術で、だいたいのダンスで役に立つんだ。これができたら、ダンスのキレがすごくよくなるよ」
そのまま、リヒトは首だけじゃなくて、肩、胸、腰、といろんなところを動してみせる。体の一カ所だけ動くなんて、不思議な感じだけど……わたしにもできそう。
「元々、ヤコは肩のアイソレとか、無意識でも結構できてるけど。意識しながら踊れたら、もっとよくなると思う」
真似して、わたしもぐねぐねと首を動かしてみるけど……あれ? これ、思ったより、むずかしい! 首を動かそうとすると、一緒に肩まで動いてしまいそうになる。
「あはは。地味にキツいよな」
「うん。でも……これができたら、もっとダンスがよくなるんだよね?」
そしたら、きっともっとたのしくなる。練習は大変そうだけど……たのしいことの前には、がんばらないといけないことがある、ってことだよね。
やるぞ……! とこぶしを握(にぎ)る。
「練習、いつでも付き合うよ。ダンスチームの返事はゆっくりでいいし……」
「ううん」
首を振る。返事は迷ってたけど、今、決まった。
「やる。やりたい」
真直ぐ、リヒトの目を見る。不思議と、声は詰まらなかった。
「気づいたんだ。今日、ひとりでもう一回踊ってみて…… 好きに踊れるのは、たのしいって。でも昨日、リヒトと一緒に踊った時は、もっとたのしかった」
ひとりじゃ、物足りなくなってしまったんだ。二人で、息を合わせて踊るのが、たのしいって知っちゃったから。
「だから、チーム組むよ。リヒトと一緒に踊りたいから」
リヒトの表情が、ぱっと明るくなる。さっきまでの大人っぽい雰囲気(ふんいき)が消えて、子どもっぽいやんちゃな笑顔だ。
「ありがとう!」
リヒトは、昨日と同じように、手を差し出す。今日のわたしは、握り返す。
「うん、よろしく……ね」
握手(あくしゅ)は緊張したけど、仲間(なかま)ができたうれしい気持ちと、これからがたのしみな気持ちの方が、ずっと大きかった。
でも。……たのしいことの前には、がんばらないといけないことがある。それは、練習だけの話じゃなかったんだ。
リヒトは笑顔のまま、続けて言った。
「コンテストに参加するには、チームメンバーがもう一人必要なんだ。おれの方でも探してみるから、ヤコも心当たりあったら、よろしく!」
「えっ」
……もう一人、誘わないといけないの? わたしが!?
<第3回につづく>
リヒトに頼まれてチームメンバーを探すことに!?
これからどうする!? 続きは次回をお楽しみに!
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