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★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?

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第1話 ストリートダンスとの出会い
「へえ意外。鈴木さんってダンス動画とか見るんだ」
塾(じゅく)が終わったあとの教室で、スマホで動画を見ていたら、同じ塾の子たちに声をかけられた。
「好きなの? ダンス」
わたしはカチコチに固まる。
「……ひっ」
「ひ?」
「秘密!」
わたしは、あわててリュックを背負って、塾の教室を出た。
わたし、鈴木夜子(ヤコ)。小学六年。背の順は女子で一番後ろ。性格は、とても人見知り。
そんなわたしには、秘密がある。それは、ダンスが好きだってこと。
(動画……見てたの、『意外』って言われちゃった)
たしかにダンスって、明るくてキラキラした女の子たちが好きなイメージかも。
わたしは明るくないし、人の目を見ると、うまく話せなくなっちゃうし、だから、全然、友達いないし……。
(似合わないよね、ダンスとか)
わかってるから。
(言えないや、誰にも)
――実は、わたしがダンス動画を見てるだけじゃなくて、自分でも踊(おど)って、動画を撮(と)ってる、なんてこと。
その動画は、いとこのお姉ちゃんの夕香(ユカ)姉に頼んで、代わりに動画投稿(とうこう)アプリのTikTok に投稿してもらっている。
ユカ姉は、ファッションデザイナーを目指している十九歳の大学生。SNSにも詳(くわ)しくて、わたしのことをずっと応援(おうえん)してくれてる、頼れる大人なお姉ちゃんだ。
塾を出て、駅前の広場に向かう途中(とちゅう)で、メッセージが届いた。ユカ姉からだ。
『ヤコちゃん! おめでとう! 動画 、また百万再生達成だよ』
『見て見て! ヤコちゃんについてのブログ記事までできてる……「年齢も性別も不詳(ふしょう)。顔を隠して踊る、謎(なぞ)の覆面(ふくめん)ダンサーYAKOの正体は?」だって!』
『きゃ〜〜! 有名人みたい!』
うう、ユカ姉、はしゃぎすぎだよ……。なんか、恥ずかしい。
わたしは、動画では顔を隠して踊ってる。それは、その方がかっこいいから……とかじゃなくて、学校とか塾のみんなにバレたくないから。
あと、インターネットで顔出しするのは、ちょっと怖いから。炎上とか危ないってよく聞くし……たくさんの人に顔見られるなんて、緊張(きんちょう)するし……。
わたしは、ネットでも人見知りだ。
けど。
『すてきなコメント、たくさんもらったよ』
ユカ姉が、わたしの動画についたコメントを、スクリーンショットで送ってくれた。
『新作も安定でかっこよ!』
『ステップキレキレで最高』
『このダンス、いろんな人が踊ってたけど、今まで見た中で一番好きかも』
それから、たくさんのいいねも。
(……うれしい)
少し、にやけてしまう。
ネットでも人見知りだけど、みんなからコメントをもらえるのは、好き。
半年くらい前、初めてコメントをもらった時は、本当にうれしくて。動画投稿、始めてよかったって思ったんだ。
動画投稿を始めた理由は、みんなに、わたしのダンスを見てもらいたかったから。
ずっとひとりで踊ってきたけど、もしわたしのダンスで、誰かをたのしませることができたら、いいなって思ったんだ。
たとえば、わたしの大好きなアーティスト・天音(アマネ)みたいに。
アマネはわたしの推(お)しだ。金色に輝(かがや)くキラキラの一等星! って感じのアイドルで、とても美人で歌もうまいけど、なにより、ダンスがすごくかっこいい!
わたしは、アマネに憧(あこが)れて、ダンスを始めようと思ったんだ。
その、アマネの新曲の、ダンス振り付け動画が今日アップされたから。いてもたってもいられない!
駅前の広場まで走った。十月の薄暗くなったこの時間は、わたし以外誰もいない。
バスが来る時間まで、わたしはいつもここで、ダンス動画を撮っている。
スマホを地面にセット。音楽をスピーカーモードで流す。迷惑(めいわく)にならないよう、音量は小さめ、すぐ近くじゃないと聞こえないくらいに。
アマネの新曲『午前零(れい)時』は、真夜中の街で一緒に踊ろうと誘(さそ)う、ちょっぴり悪い子の歌だ。まだ夕飯前の時間だけど、聞いてると夜更(よふ)かししてる気分になる。
かっこいい系のアイドル曲で、BPM(音楽の速度のこと!)一二〇。ちょっと速いけど、リズムは取りやすい。
「タン、タン、タン、タン……」
曲の始め(イントロ)のリズムを口ずさみながら、踊りやすいように、髪を二つに結ぶ。服のフードを被って、結んだ髪を隠す。ユカ姉におみやげでもらった狐(きつね)のお面で顔を隠して、準備を終えたら、曲はちょうど、一番盛り上がるサビのパート!
明るいメロディに合わせて、勢いよく前へ。
タン、タン、タン、とステップを踏む。夜の街を走り出すみたいに。軽やかに腕(うで)をしならせる。走り抜ける時の風みたいに。
たのしげなリズムに合わせて、ひら、ひら、と『こっちへおいでよ』と手を振って。
最後は体を捻(ひね)って、ピースサイン。アイドルらしいポーズでキメッ。
……うん、踊りやすい!
振り付けはシンプルだけど、音楽にぴったりタイミングを合わせれば、見映えはばっちり。かわいくて踊りやすいから、このパートのダンス動画は人気出るだろうな。
でも、わたしが本当に踊りたいのは……。
(あ〜、やっぱかっこいいな。サビの後のラップパート)
早口な歌声の裏(うら)で、ドラムの音がはげしく鳴っている。一番、かっこよく踊れそうなパートだ。だけど、公式のアマネのダンスは、あんまり派手じゃない。
(ラップ歌いながらじゃ、はげしく踊れないもんね)
うーん……。このパートも踊って、動画に撮ってみようかな。
お手本通りに踊るのは、簡単(かんたん)。わたしは勉強は苦手だけど、振り付けを覚えるのは得意だ。一度、動画を見たら、だいたいは覚えられるから。
でも、お手本通りに踊るだけじゃ、なんだか……。
(物足りない…………)
だってこの曲、本当はもっと、かっこよく踊れる気がする。
踊るだけで歌わないなら、息切れするくらい動いたっていいはずだし。
歌詞の裏で、ズン、タタタタッと鳴っているドラムの音――この、はげしい音に合わせて、思いっきり全力で踊れたら?
(きっとたのしい!)
うずうずする。フリのアレンジ、思いついちゃった。
そのまま踊り出そうとして、はっと気づく。
……だめだ、こんなダンス投稿しちゃ。
(だって、これ、ウケない)
前にも、振り付けをアレンジしたダンスを投稿したことがある。その時は、再生回数も、コメントも、すごく少なかった。
なんでだろう? ってユカ姉に相談したら、こう言 ってた。
『うーん。ヤコちゃんのダンスがウケたのは、人気の、みんなが知ってるダンスを踊ったからだと思うの。「これいいな!」って、わかる人がたくさんいたんだよ』
『フリをアレンジしたら、知らないダンスになっちゃうでしょ? 「いいな!」って、わかる人が、少なくなっちゃったんじゃないかな』
多分。わからないものは、たのしくない。塾で習う算数の文章題みたいに。
(それはだめ。わたしは、みんなに、たのしんでもらうために……)
……もう一回ダンスを撮ろう。
人気が出そうな、サビのパートで。お手本通りに、わかりやすく踊ろう。それが、きっと、みんなの見たいものだから。
曲を、サビの手前まで巻き戻した。その、すぐ後だった。後ろから、足音が聞こえたのは。
ううん、違う、聞こえたのは足音じゃなかった。タン、タン、タン、タン……、リズムに合わせて、足でステップを踏(ふ)む音だ。
振り返る。後ろにいたのは、キャップを深く被った男の子だ。クラスの女子で一番背の高いわたしより、ずっとずっと背が高い。
そして男の子は、踊り出した。公式とは、全然ちがう振り付けで。
手はキャップを押さえて、足は、つう、と地面を滑(すべ)る。広場の地面はコンクリートで、靴(くつ)はスニーカーなのに、氷の上でスケートをしてるみたいに、なめらかできれい。
そのまま深く腰(こし)を落として、地面すれすれを、流れるような足さばきで回ったら。
跳ね起きて、駆け出すようにすばやいステップ、地面を蹴(け)って跳び上がる! 一回転、キレキレのジャンプターン。
こういうダンスって、なんていうんだっけ? ……思い出した。〝ストリートダンス〟だ。
ダイナミックに全身を使ったダンスに、見てるだけで、わくわくした。
(今のどうやったの? その技はなんていうの!? どうしてそんなに踊おどれるの!?)
わかんない、わかんない、わかんない、でもたのしい!
(……なんだ。知らなくても、わからなくても、たのしいじゃん)
うずうずと、わたしの足が、動きたがっている。
男の子はターンの後、ポーズをキメながら、こっちに手を差し伸べた。お面ごしに目が合う。
『きみも、来なよ』
そう言われた気がした。
(……いいの?)
わたしは、人と目を合わすと喋(しゃべ)れなくなる。だけど、声が出なくても困らなかった。
だって今いまは……ダンスで、気持ちを伝えられる気がしたから!
明るいサビの次、激しいラップパートが始まった瞬間。わたしは全力で飛び出した。
男の子と向かいあって、一緒に踊る。
試してみたかったアレンジを、やってみる。もっと体のパーツを小刻みに動かして、もっと手を速くしならせて。
わたしはダンスの技とか、全然知らないけど、ばっちり音に動きを合わせれば、かっこよく踊れるってことは知っている。男の子の動きを、真似してみることだって、できる。
お手本通りに踊らなきゃとか、こんなダンスじゃみんなに喜んでもらえないとか、こんなに動いたらカメラの映る範囲からはみ出ちゃうとか、もうどうだってよかった。
だってこの曲は『午前零時』、夜更かしをする、悪い子のための曲。悪い子は、きっと、お手本通りに踊ったり、みんなのためにって、我慢(がまん)して踊ったりしないから。
(わたしが、たのしいから踊るんだ!)
踊っているうちに、いつのまにか、お面が地面に落ちていた。
顔を見られちゃう……恥ずかしい。けど体は止められない。だって踊るのが、たのしいから!

そして曲が、終わる。踊りきった時には、体力が全部なくなっていた。
「はあ、はあ……」
短い曲だから、サビからだと一分半しかなかったのに。全力のダンスってこんなに疲れるものなんだ。知 らなかった……全力で踊るのが、こんなにたのしいってことも。
男の子は、地面に落ちたお面を拾って、わたしに渡した。
「ヤコ。ありがとう、おれと一緒にダンスしてくれて」
「え。どうして、わたしの名前……」
「きみ、YAKOだろ。ティックトッカーの」
「あ……」
そうだ、ユカ姉に任せているアカウントの名前もヤコだった。このお面を見たら、わたしがあのダンス動画で踊っている本人だってこと、わかっちゃうよね。
ってことは……この男の子に、わたしの動画、見られてた?
わたしの動画を見てる人にリアルで初めて会った。しかも素顔まで見られたなんて。
(………… 恥ずかしい!)
ぼっと顔が熱くなる。あわてて、拾ってもらったお面で顔を隠す。
「隠すなんてもったいない。いい笑顔だったよ。本当にダンスが好きだって、伝わってくるような」
そう言って、男の子はにっこり笑った。
(……そっちの方が、いい笑顔だと思う)
「普段の動画も、顔出して踊ったらいいのに」
(それはむり……)
男の子を、まじまじと見る。とても背が高くて、服もストリート系でおしゃれ。ダンスの後、帽子(ぼうし)を外して前髪を上げているから、かっこいい顔がよく見えた。
明るくてはつらつとした、友達が多そうな感じの……わたしとは、正反対の男の子。
「おれのことは、リヒトって呼んで」
リヒトは人懐っこい笑顔でそう言って、わたしに手を差し出した。
(握手(あくしゅ)……!?)
と、おどろくわたしに、リヒトはもっとおどろくことを言ったんだ。
「ヤコ、おれとダンスチームを組まない?」
<第2回につづく>
イケメン男子のリヒトからダンスにさそわれたヤコ。
これからどうする!? 続きは次回をお楽しみに!
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