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ものがたり

『ダンサー!!! キセキのダンスチーム【ヨルマチ】始動!』ためし読み連載 第1回


プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」も推薦(すいせん)!

全5回で80ページ分もためし読みできちゃう!
元気がもらえるダンス小説、ぜひたのしんでね!



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★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?




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第1話 ストリートダンスとの出会い

「へえ意外。鈴木さんってダンス動画とか見るんだ」

 塾(じゅく)が終わったあとの教室で、スマホで動画を見ていたら、同じ塾の子たちに声をかけられた。

「好きなの? ダンス」

 わたしはカチコチに固まる。

「……ひっ」

「ひ?」

「秘密!」

 わたしは、あわててリュックを背負って、塾の教室を出た。


 わたし、鈴木夜子(ヤコ)。小学六年。背の順は女子で一番後ろ。性格は、とても人見知り。

 そんなわたしには、秘密がある。それは、ダンスが好きだってこと。


(動画……見てたの、『意外』って言われちゃった)

 たしかにダンスって、明るくてキラキラした女の子たちが好きなイメージかも。

 わたしは明るくないし、人の目を見ると、うまく話せなくなっちゃうし、だから、全然、友達いないし……。

(似合わないよね、ダンスとか)

 わかってるから。

(言えないや、誰にも)

――実は、わたしがダンス動画を見てるだけじゃなくて、自分でも踊(おど)って、動画を撮(と)ってる、なんてこと。

 その動画は、いとこのお姉ちゃんの夕香(ユカ)姉に頼んで、代わりに動画投稿(とうこう)アプリのTikTok に投稿してもらっている。


 ユカ姉は、ファッションデザイナーを目指している十九歳の大学生。SNSにも詳(くわ)しくて、わたしのことをずっと応援(おうえん)してくれてる、頼れる大人なお姉ちゃんだ。

 塾を出て、駅前の広場に向かう途中(とちゅう)で、メッセージが届いた。ユカ姉からだ。

『ヤコちゃん! おめでとう! 動画 、また百万再生達成だよ』

『見て見て! ヤコちゃんについてのブログ記事までできてる……「年齢も性別も不詳(ふしょう)。顔を隠して踊る、謎(なぞ)の覆面(ふくめん)ダンサーYAKOの正体は?」だって!』

『きゃ〜〜! 有名人みたい!』

 うう、ユカ姉、はしゃぎすぎだよ……。なんか、恥ずかしい。

 わたしは、動画では顔を隠して踊ってる。それは、その方がかっこいいから……とかじゃなくて、学校とか塾のみんなにバレたくないから。

 あと、インターネットで顔出しするのは、ちょっと怖いから。炎上とか危ないってよく聞くし……たくさんの人に顔見られるなんて、緊張(きんちょう)するし……。

 わたしは、ネットでも人見知りだ。


 けど。

『すてきなコメント、たくさんもらったよ』

 ユカ姉が、わたしの動画についたコメントを、スクリーンショットで送ってくれた。

『新作も安定でかっこよ!』

『ステップキレキレで最高』

『このダンス、いろんな人が踊ってたけど、今まで見た中で一番好きかも』

それから、たくさんのいいねも。

(……うれしい)

 少し、にやけてしまう。

 ネットでも人見知りだけど、みんなからコメントをもらえるのは、好き。

 半年くらい前、初めてコメントをもらった時は、本当にうれしくて。動画投稿、始めてよかったって思ったんだ。


 動画投稿を始めた理由は、みんなに、わたしのダンスを見てもらいたかったから。

 ずっとひとりで踊ってきたけど、もしわたしのダンスで、誰かをたのしませることができたら、いいなって思ったんだ。

 たとえば、わたしの大好きなアーティスト・天音(アマネ)みたいに。

 アマネはわたしの推(お)しだ。金色に輝(かがや)くキラキラの一等星! って感じのアイドルで、とても美人で歌もうまいけど、なにより、ダンスがすごくかっこいい!

 わたしは、アマネに憧(あこが)れて、ダンスを始めようと思ったんだ。


 その、アマネの新曲の、ダンス振り付け動画が今日アップされたから。いてもたってもいられない!

 駅前の広場まで走った。十月の薄暗くなったこの時間は、わたし以外誰もいない。

 バスが来る時間まで、わたしはいつもここで、ダンス動画を撮っている。

 スマホを地面にセット。音楽をスピーカーモードで流す。迷惑(めいわく)にならないよう、音量は小さめ、すぐ近くじゃないと聞こえないくらいに。

 アマネの新曲『午前零(れい)時』は、真夜中の街で一緒に踊ろうと誘(さそ)う、ちょっぴり悪い子の歌だ。まだ夕飯前の時間だけど、聞いてると夜更(よふ)かししてる気分になる。

 かっこいい系のアイドル曲で、BPM(音楽の速度のこと!)一二〇。ちょっと速いけど、リズムは取りやすい。

「タン、タン、タン、タン……」

 曲の始め(イントロ)‌のリズムを口ずさみながら、踊りやすいように、髪を二つに結ぶ。服のフードを被って、結んだ髪を隠す。ユカ姉におみやげでもらった狐(きつね)のお面で顔を隠して、準備を終えたら、曲はちょうど、一番盛り上がるサビのパート!

 明るいメロディに合わせて、勢いよく前へ。

 タン、タン、タン、とステップを踏む。夜の街を走り出すみたいに。軽やかに腕(うで)をしならせる。走り抜ける時の風みたいに。

 たのしげなリズムに合わせて、ひら、ひら、と『こっちへおいでよ』と手を振って。

 最後は体を捻(ひね)って、ピースサイン。アイドルらしいポーズでキメッ。

 ……うん、踊りやすい!

 振り付けはシンプルだけど、音楽にぴったりタイミングを合わせれば、見映えはばっちり。かわいくて踊りやすいから、このパートのダンス動画は人気出るだろうな。


 でも、わたしが本当に踊りたいのは……。

(あ〜、やっぱかっこいいな。サビの後のラップパート)

 早口な歌声の裏(うら)で、ドラムの音がはげしく鳴っている。一番、かっこよく踊れそうなパートだ。だけど、公式のアマネのダンスは、あんまり派手じゃない。

(ラップ歌いながらじゃ、はげしく踊れないもんね)

 うーん……。このパートも踊って、動画に撮ってみようかな。

 お手本通りに踊るのは、簡単(かんたん)。わたしは勉強は苦手だけど、振り付けを覚えるのは得意だ。一度、動画を見たら、だいたいは覚えられるから。

 でも、お手本通りに踊るだけじゃ、なんだか……。

(物足りない…………)

 だってこの曲、本当はもっと、かっこよく踊れる気がする。

 踊るだけで歌わないなら、息切れするくらい動いたっていいはずだし。

 歌詞の裏で、ズン、タタタタッと鳴っているドラムの音――この、はげしい音に合わせて、思いっきり全力で踊れたら?

(きっとたのしい!)

 うずうずする。フリのアレンジ、思いついちゃった。

 そのまま踊り出そうとして、はっと気づく。

 ……だめだ、こんなダンス投稿しちゃ。

(だって、これ、ウケない)


 前にも、振り付けをアレンジしたダンスを投稿したことがある。その時は、再生回数も、コメントも、すごく少なかった。

 なんでだろう? ってユカ姉に相談したら、こう言 ってた。

『うーん。ヤコちゃんのダンスがウケたのは、人気の、みんなが知ってるダンスを踊ったからだと思うの。「これいいな!」って、わかる人がたくさんいたんだよ』

『フリをアレンジしたら、知らないダンスになっちゃうでしょ? 「いいな!」って、わかる人が、少なくなっちゃったんじゃないかな』

 多分。わからないものは、たのしくない。塾で習う算数の文章題みたいに。

(それはだめ。わたしは、みんなに、たのしんでもらうために……)


 ……もう一回ダンスを撮ろう。

 人気が出そうな、サビのパートで。お手本通りに、わかりやすく踊ろう。それが、きっと、みんなの見たいものだから。

 曲を、サビの手前まで巻き戻した。その、すぐ後だった。後ろから、足音が聞こえたのは。

 ううん、違う、聞こえたのは足音じゃなかった。タン、タン、タン、タン……、リズムに合わせて、足でステップを踏(ふ)む音だ。

 振り返る。後ろにいたのは、キャップを深く被った男の子だ。クラスの女子で一番背の高いわたしより、ずっとずっと背が高い。

 そして男の子は、踊り出した。公式とは、全然ちがう振り付けで。

 手はキャップを押さえて、足は、つう、と地面を滑(すべ)る。広場の地面はコンクリートで、靴(くつ)はスニーカーなのに、氷の上でスケートをしてるみたいに、なめらかできれい。

 そのまま深く腰(こし)を落として、地面すれすれを、流れるような足さばきで回ったら。

 跳ね起きて、駆け出すようにすばやいステップ、地面を蹴(け)って跳び上がる! 一回転、キレキレのジャンプターン。

 こういうダンスって、なんていうんだっけ? ……思い出した。〝ストリートダンス〟だ。

 ダイナミックに全身を使ったダンスに、見てるだけで、わくわくした。

(今のどうやったの? その技はなんていうの!? どうしてそんなに踊おどれるの!?)

 わかんない、わかんない、わかんない、でもたのしい!

(……なんだ。知らなくても、わからなくても、たのしいじゃん)

 うずうずと、わたしの足が、動きたがっている。

 男の子はターンの後、ポーズをキメながら、こっちに手を差し伸べた。お面ごしに目が合う。

『きみも、来なよ』

 そう言われた気がした。


(……いいの?)

 わたしは、人と目を合わすと喋(しゃべ)れなくなる。だけど、声が出なくても困らなかった。

 だって今いまは……ダンスで、気持ちを伝えられる気がしたから!

 明るいサビの次、激しいラップパートが始まった瞬間。わたしは全力で飛び出した。

 男の子と向かいあって、一緒に踊る。

 試してみたかったアレンジを、やってみる。もっと体のパーツを小刻みに動かして、もっと手を速くしならせて。

 わたしはダンスの技とか、全然知らないけど、ばっちり音に動きを合わせれば、かっこよく踊れるってことは知っている。男の子の動きを、真似してみることだって、できる。

 お手本通りに踊らなきゃとか、こんなダンスじゃみんなに喜んでもらえないとか、こんなに動いたらカメラの映る範囲からはみ出ちゃうとか、もうどうだってよかった。

 だってこの曲は『午前零時』、夜更かしをする、悪い子のための曲。悪い子は、きっと、お手本通りに踊ったり、みんなのためにって、我慢(がまん)して踊ったりしないから。

(わたしが、たのしいから踊るんだ!)

 踊っているうちに、いつのまにか、お面が地面に落ちていた。

 顔を見られちゃう……恥ずかしい。けど体は止められない。だって踊るのが、たのしいから!



 そして曲が、終わる。踊りきった時には、体力が全部なくなっていた。

「はあ、はあ……」

 短い曲だから、サビからだと一分半しかなかったのに。全力のダンスってこんなに疲れるものなんだ。知 らなかった……全力で踊るのが、こんなにたのしいってことも。

 男の子は、地面に落ちたお面を拾って、わたしに渡した。

「ヤコ。ありがとう、おれと一緒にダンスしてくれて」

「え。どうして、わたしの名前……」

「きみ、YAKOだろ。ティックトッカーの」

「あ……」

 そうだ、ユカ姉に任せているアカウントの名前もヤコだった。このお面を見たら、わたしがあのダンス動画で踊っている本人だってこと、わかっちゃうよね。


 ってことは……この男の子に、わたしの動画、見られてた?

 わたしの動画を見てる人にリアルで初めて会った。しかも素顔まで見られたなんて。

(………… 恥ずかしい!)

 ぼっと顔が熱くなる。あわてて、拾ってもらったお面で顔を隠す。

「隠すなんてもったいない。いい笑顔だったよ。本当にダンスが好きだって、伝わってくるような」

 そう言って、男の子はにっこり笑った。

(……そっちの方が、いい笑顔だと思う)

「普段の動画も、顔出して踊ったらいいのに」

(それはむり……)

 男の子を、まじまじと見る。とても背が高くて、服もストリート系でおしゃれ。ダンスの後、帽子(ぼうし)を外して前髪を上げているから、かっこいい顔がよく見えた。

 明るくてはつらつとした、友達が多そうな感じの……わたしとは、正反対の男の子。

「おれのことは、リヒトって呼んで」

 リヒトは人懐っこい笑顔でそう言って、わたしに手を差し出した。

(握手(あくしゅ)……!?)

 と、おどろくわたしに、リヒトはもっとおどろくことを言ったんだ。

「ヤコ、おれとダンスチームを組まない?」


<第2回につづく>

イケメン男子のリヒトからダンスにさそわれたヤコ。
これからどうする!? 続きは次回をお楽しみに!


プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」も推薦(すいせん)!
小説『ダンサー!!! キセキのダンスチーム【ヨルマチ】始動!』は2025年4月23日(水)発売!


著者: さちはら 一紗 イラスト: tanakamtam

定価
1,375円(本体1,250円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784046844606

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