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ものがたり

新刊発売記念!「サバイバー!!③ 大バクハツ! とらわれの博物館」第6回 光をめざして


この授業、恋も授業も命がけ! ぜったいおもしろい&最高にキュンとする「サバイバー!!」シリーズ。サバイバルな学校で、成績サイアクでも夢かなえます! 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻~第3巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!(公開期限:2025年6月6日(金)23:59まで)



16  光をめざして


 真っ暗な石の世界。

 はずむ息は、ますます荒い。

 床にたまった地下水をハネあげながら、ひたすらに進む。

 博物館方面に近づくにつれ、焦げたようなにおいが漂ってくる。

 行くさきには、かすかな光の柱が浮かんで見えてる。

 あれはたぶん、上の岩盤に大穴が空いてて、そこから日光が射しこんでるんだよね?

 ならきっと、坑道から地上への出入り口だ。

 重たい足を速めて向かうと――、そこは、ふしぎな空間だった。

 掘りのこされた石カベにかこまれて、学校の教室と同じくらいの部屋になってる。

 ゴロゴロと転がる、砕けた石のかたまり。

 黒くススけたカベや床には、白いパウダーがふりまかれてる。

「爆発のあとだな。白いのは消火剤だ」

「ってことは、ここに消防隊が来てたっ?」

「ああ。でも、ずいぶん前に撤収してるかんじだな」

 見上げて、さらにビックリしてしまった。

 何十メートルあるんだろう、吸いこまれそうな高さの大穴だ!

 はるかかなたに、四角く切りとられた出口の明かりがのぞいてる。

 カベぞいにすえつけられたハシゴは、上からず~~っと伸びて、あたしたちの立つ底まで続いてる。

「これをのぼりきったらゴール……だといいね」

「ほんとな」

 彼は手の甲で温度を確かめてから、ハシゴを引っぱって体重をかけてみる。

「ハシゴの強度は大丈夫そうだな。のぼれるか、マメ?」

 あたしは一応、左手をグーパーしてみてからうなずいた。

「うん。テーピングをがっちりしてもらったから。涼馬くんは?」

「あー……」

 彼も自分の右手を開いてみる。

 ガーゼの赤黒い色に、あたしのほうが、首の後ろがザワッとしちゃうよ。

「出口が見えて、気がゆるんだかな。今さら痛くなってきた」

「そりゃそうだよ……」

 うなずきながら、あの涼馬くんがあたしの前で「痛い」なんて言葉を口にするなんてって、おどろいてしまった。

 なんだかすごく、「仲間」な言葉に聞こえる。

「あ、そうだ。待って」

 あたしはヘアゴムの緑のリボンをはずす。

 三つ編みだったせいで、くせっ毛がぼわっとふくらんじゃって恥ずかしいけど。

 広げたリボンの布にハンカチをはさみ、ガーゼの上からぐるぐる巻きつけてあげた。

「このクッションで、少しはマシじゃないかな。『サバイバルの五か条』の『バ』。場にあるモノを工夫して使え、だよね」

 あたしは口の両はしを引きあげて、にぱっと笑顔。

 涼馬くんって、完全無欠の超人みたいなリーダーだけど、ちゃんと同じ人間なんだなーって、今回知っちゃったからさ。

 あたしの笑顔ででも、ちょっとは気分がラクになるといいな。

 ――って思ったのに。

 彼はあたしを見つめ、肩の力がぬけるどころか、顔面にグッと力が入ったみたい。

 しかもソワッと、めずらしく居心地悪そうに目をそらす。

「わかってますよ。あたしにはまだリーダーの笑顔なんて、早すぎましたよネー」

 口をとがらせ、髪をゴムだけで結びなおすと、今度はホッとしたように肩を下げた。

「……いや。だいぶ頼もしくなったんじゃないのか? ……ありがとな」

「どういたしまして。――さてと、だね」

 あたしたちはハシゴを前に、大きく深呼吸で気持ちを切りかえる。

「行くか。なにがなんでも落ちんなよ。落っこちても、フォローのしようがない」

「ラ、了解です!」

 あたしたちは気合いを入れなおし、最後の最後の難関に向きなおった。


   ***


 一段一段、しっかり手でつかみ、足をふみしめる。

 下を見たら、たぶん怖すぎて、そこから動けなくなる。

 涼馬くんのくつ底を見上げ、吹きおろしてくる風に顔をしかめた。

 先を行く彼も、ハシゴの安全を確かめながらで、時間がかかる。

 ハシゴの段に、ぬれた赤い色が残ってる。

 涼馬くんの右手がまた出血しちゃったみたいだ。

 あたしもいいかげんに筋肉がちぎれそうだ。

 一段三十センチの高さも、エイッと気力をこめないと足が持ちあがらない。

 だけど出口は着実に近づいてきてる。

 四角い出口には、鉄ごうしがハマってるみたいだ。

 その幅はやたら広くて、よゆうで体を通せそうに見える。

 転落防止のためだったら、あれじゃ役に立たないよな?

 顔を前にもどし、もう一段。もう一段。

 消火剤とススで隠れてパッと見わからなかったけど、カベに何本もキレツが走ってる。

 これ、自然に入ったヒビじゃないよね?

 一、二、三、四……、少し段を上がって、同じ方向に、五つめ。

 たぶん大きなツメで引っかいたあとだ。

「涼馬くん。モグラもここを通ったみたいだね」

「そうだな。それに、ススの下にツメあとってことは、爆発前からここにいたってことか」

 爆発の前から……。

 七夕祭りの商店街からG地区まで逃げてきて、ずっとここに隠れてた?

 もしかしてだけど、実はモグラがここで飼われてた――って可能性は?

 学園都市で捕まえられて、研究のためにここで飼われてとかは、ありえないかな。

 上の鉄ごうしも、人間は通れても、巨大生物ならつっかえる幅だ。

 ここの地下坑をモグラの檻がわりに使ってて、鉄ごうしは逃走防止用だとか。

 なのに爆発事故で、地下坑の底のカベがくずれて、モグラが逃げていっちゃった。

 そんなストーリーだったら、つじつまが合いそうな気がしてきた。

 涼馬くんに聞こうとしたら、シッと指を立てられた。

「もうすぐ上に着く。どこに出るか分からないからな」

「う、うん」

 言葉をのみこんだものの、そのぶんお腹の中で、研究所への不審がぐるぐると渦を巻く。

 ノドカ兄をゆくえ不明にした「黒幕」も、研究所に関係がありそうだった。

「黒幕」と、三匹の危険生物と、研究所。

 そろいもそろって怪しすぎる。

 ぜんぶがノドカ兄につながっていそうで、怖くなってくるよ。


 ――と、そんなことを考えてる間に、着いた。

 着いたよ、ハシゴの果ての、てっぺん!

 涼馬くんが鉄ごうしのスキマから頭を出し、周囲をきょろきょろ確認する。

「残念、まだ地下だ」

「うええ、ウソォォ……」

 彼は先に上へあがり、あたしに手を貸してくれる。

 首を突きだしたフロアは、見学コース近くの、立ち入り禁止区域かな?

 真上の天井には、岩盤をくりぬいた奥に、ドーム型の窓がついてる。

 見学コースのと同じ、地上への非常口だ!

 下からぼんやり見えてた光は、この窓から射してたんだ。

 引きおろし式のハシゴも、ちゃんと設置されてる。

 もう、今すぐにでも地上に出られるよっ。

「でもっ。ちょ、ちょっと待って、涼馬くん」

 あたしは息もたえだえで、その場にひっくり返っちゃった。

 いったん手足を投げだしたら、重力に負けて、指一本動かせる気がしない。

「おれも、休けい」

 涼馬くんだってめずらしく、どさりと腰を落としたまま動けないでいる。

 天窓から降りそそぐ陽の光に、よけいに脱力だ。

 久しぶりの太陽に、こんなにホ~ッとするなんてなぁ……。

「アタッカー訓練、しばらくハシゴのぼりはカンベンです」

「ばか。こういう時のために、ますます訓練しとくんだよ」

 あたしはもう、ぐええとしか声が出てこない。

 でもやっと、ほっぺたの筋肉がちゃんとゆるんで笑いあえた。

 うてなたちも綾たちもリリコちゃんも、きっとすごく心配してるよね。

 あたしたちはまちがいなく、避難ビリッけつだ。

 はやく避難場所まで行かないと――。

 現在地の目じるしになるもの、なにかないかな?

 ひっくり返ったまま、ライトで照らしてみる。

「「……えっ」」

 暗闇に浮かびあがった景色に、あたしたちはゆっくりと上半身を起こす。

 すぐそこに、石カベと石カベにはさまれた、細い道がある。

 その奥に、ビルの非常口みたいな、金属の扉がのぞいてるんだ。

「位置的に、研究所の地下階か」

「そっか。となりの博物館だって、地下の石切り場につながってたもんね。――ねぇ、ここから研究所に忍びこめないかな」

「なに言ってんだ。こんな体力を削られてる状態で、なんでそんなこと」

「だってさ。涼馬くんも、今のぼってきた坑道は変だと思ったでしょ? まるで、モグラの檻になってたみたいだ」

 あたしは考えながら、ヨロヨロと立ちあがる。

「ノドカ兄につながるかは分かんないけど、危険生物たちの情報は、この研究所にきっとあるはずだよ。もしだれかに見つかっちゃったら、モグラにおそわれて迷子になったので、保護してくださーいとか言えばいいよ。逆に、言いわけできるのって、今しかなくない?」

 説得するけど、涼馬くんの瞳には迷う色が浮かんでる。

 たぶん、あたしを関わらせたくないって気持ちと、せっかくのチャンスを逃したくない気持ちのあいだで、ゆれてるんだ。

「いや。そもそも研究所に侵入なんて無理だ。研究員のIDカードなしにセキュリティを突破して忍びこんだら、怪しさ百パーセントだろ」

 涼馬くんはそう言いながら扉を凝視して、急に目をしばたたいた。

「どしたの?」

「――セキュリティが、落ちてる? マメも見えるか。ロックシステムのランプが、ぜんぶ消えてる」

 たしかに、扉のわきのカード読みとり機は、電気がついてないみたいだ。

 この前おじゃました学園都市研究所の部屋は、緑のLEDランプが光ってたよね。

 あたしたちは顔を見合わせた。

 確かめるために、ふらつく足で通路の奥へ入っていく。

 突きあたりのスチール扉には、やっぱり「G Area Research Institute」って表札が飾ってあった。

 きっと「G地区研究所」って書いてあるんだよね。

 カード読みとり機は、涼馬くんが言ってたとおりに電気が消えてて、機能してないみたいだ。

 じゃあ、入り口のセキュリティも停止中?

 そうっとドアノブを引いたら――、ほんとに扉が、ギィッと音をたてて開いた!

「やった……! ねぇ、入れるよっ」

「ウソだろ、なんでだ。火災でセキュリティが落ちたのか? でも非常電源だって働くだろ。だれかがわざと、セキュリティを落としたとしか――、」

「とにかく、チャンスは今しかないよ。行こう、涼馬くん」

「…………わかった」

 涼馬くんは考えこんで、けっきょく、めちゃくちゃイヤそうな顔でうなずいてくれた。


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