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■舞台:日本
■主人公:”ちょっと変わった”中学生たち
「トップ・シークレット」あんのまるさん最新作は、世界が注目する海上のカジノシティ【トコヨノクニ】を舞台に、命がけで極上な《バトル×アクション×だましあい》!!
むかう敵は極悪非道な武器商人たち。
その目的は、4年前の「ある因縁」にさかのぼる――
「お前たちは逃げられない。絶対にだ」
こんな物語、見たことない!!
さぁ、極上のゲームの、はじまりです!
5.セカンドゲームの獲物
ぼくにはいくつか特技がある。
1つ目は、物の価値を見分けること。
2つ目は、そっくりな物を作ること。
3つ目は、人の年齢をあてること。ぼくらのもとにやってきたのは、35か、36歳の男性。
その手にはスペードの印のついた黒い銃がにぎられてる。
「千手楼さん、こんにちは」
ぼくは両手を上げながら、その名前を呼んだ。
「ぅげ」
モネは思いっきり顔をしかめて、ぼくの後ろに隠れる。
ここが、危険が迫ったときのモネの定位置だ。
あざみも楓も表情を消して、両手を上げた。
千手楼――伝説の武器商人である本郷武蔵の、一番の部下。
そして、4年前に、ぼくらに首輪をはめた男だ。
ぼくは、エナメルバッグに入れていたチラシを思い出す。
千手楼こそ、今回の【100億円求人】の雇用主だ。
「あれ? あのいかつい本郷のおっさんは?」
楓は両手を上げたまま、千手楼の後ろをきょろきょろと見る。
「本郷は死んだ」
「「え!」」
楓と一緒に、ぼくは声を上げた。
4年前に千手楼のとなりにいた、あのラスボスみたいな本郷武蔵が、死んだの?
なにしても死ななそうな人だったのに。
今回の求人に、本郷武蔵も関わってると思っていたぼくは、少しおどろいた。
「1年前くらいに、ちょっとヤバめの界隈で、けっこう話題になってたよ」
「う、うん、僕も知ってた」
あざみとモネは平然としてる。2人の情報収集能力は、ぼくや楓とはレベルがちがう。
「本郷の死んだいま、この俺が、本郷グループの最高責任者だ」
本郷グループは、世界一大きな武器の貿易会社だ。武器を生産している世界中の企業と、武器を欲しがっているお客さんを、つなぐ仕事をしているらしい。
千手楼が、その本郷グループのトップだなんて大出世だ。
「本郷のことはいい」
千手楼の表情は変わらない。異常なくらい。
「いまからお前らに、【100億円求人】の説明をはじめる」
ぼくらは、互いに視線を交わした。
「これを見ろ」
千手楼が、あごで示した先の壁から、大型のスクリーンが現れた。
「いまから話すことは、極秘情報だ」
襖の向こうから、4人の黒スーツの男たちがやってきて、ぼくらを囲んだ。
そのうちの1人は、バスでぼくを迎えにきた人だ。
「この情報を漏えいしたら、殺す。その覚悟で聞け」
4人の男たちが、銃を構えた。
ぼくらは大人しく、イスに座る。
まさか、こんな危険な状況で説明を聞くことになるとは思ってなかった。
厳重すぎる態勢に、これからはじまる仕事 が、本当にヤバいものなんだってわかった。
口のはしが勝手に上がる。
こんな状況なのに、ぼくはいま、すごくワクワクしてる。
そういえば、最初にゲームをしたときも、こんな気持ちだった。
スクリーンをながめながら、ぼくは4年前のことを思い出した。
〇
4年前の夏休み。
ぼくら『スパギャラ』は、この本郷の別荘地へやってきて。
ゲームをしたんだ。
それは、世界一の武器商人、本郷武蔵の屋敷に隠された“宝”を盗むこと。
ダークウェブでは、だれがそのゲームをやり遂げるか、という話題であふれていた。
たくさんの事前準備をした小学4年生のぼくらは。
屋敷に忍びこんだり、暴れまわったりして、見事に宝をゲットしたんだ。
それが、ぼくらの最初(ファースト)ゲーム。
でも、その後が問題だった。
ぼくらは屋敷から出たあとに、ある2人組に宝を奪われたんだ。
しかも、その後にぼくらは千手楼に捕まって。
首輪をつけられて、バラバラに帰らされたんだ。
それ以来、ぼくらは100メートル以上近づくことも、互いに連絡を取り合うこともできなくなった。
つまり、ぼくらは、宝を盗むゲームには成功しかけたけれど。
宝は知らない2人組に奪われて。
最後は、失敗したんだ。
そんな昔のことを思い出しながら。
ぼくは、千手楼が説明をつづけるスクリーンを見上げた。
「今回、お前たちにはここに行ってもらう」
そこは、ここから40キロメートル先の海に浮かぶ人工島。
【トコヨノクニ】という海上のカジノシティだった。
「あ、これ、今度オープンするってニュースでやってたな」
ぼくは、家の流しっぱなしだったテレビを思い出した。
「カジノシティ? 金を賭けたりする場所なんか?」
「こ、この島は、選ばれた人しか入れないんだ。表向きはただの会員制の高級カジノ。でも、その会員になれるのは、裏社会とつながりのある人だけ。つまり、悪の巣窟みたいな場所なんだ!」
モネはこの数秒間で、【トコヨノクニ】の裏情報をつかんでいた。さすがだ。
スクリーンには、カジノシティの全貌が映っている。
丸い満月島と、その半分を囲むように位置する三日月型の三日月島が、3つの通路でつながっていた。
「子どもは入れないのが一般的だけどね」
あざみはスクリーンに書かれた『未成年の立ち入り禁止』って赤文字を指さした。
「だまれ、クソガキども。話をつづけるぞ。この人工島は、本郷武蔵が主体となってつくりあげた」
「へぇ、あの本郷さんが?」
ぼくは、4年前にこの屋敷に忍び込んだときに、本郷を見たことがある。
60代とは思えないがっしりした体格をしてて、まったく隙がないのに、悪ガキが遊びを探してるような眼で豪快に笑ってたのが印象的だったんだ。
― 「本当の価値っていうのは、人がつまらんと思ったものにこそ、あったりするんだ」 ―
ふいに、4年前の本郷の言葉が、頭に浮かんだ。
「ここで、約1ヶ月後の8月30日に、オープニングセレモニーが行われる」
くわしい内容の書かれたスライドが、次々と流される。
「重要なのが、ここからだ。この【トコヨノクニ】には、2つの組織が関わっている」
千手楼は、スライドをあごで指した。
1つ目の組織は、『スペード印』。
2つ目の組織は、バロイア国。
「へぇー?」
楓は口を開けている。もう話についてこれていないみたいだ。
「楓、『スペード印』とバロイア国って知ってるか?」
ぼくの質問に、楓は首をななめにしながら、うなずこうとして、やめた。
「知らへん」
「しょうがないなぁ、おれが教えてあげる。2つとも、武器をつくってるんだ」
右手を上げたあざみの指には、スペードのAのトランプがはさまれてる。
「『スペード印』っていうのは、世界を支える四大グループ企業の1つで、世界で1番、多くの武器をつくってる。小型ナイフから、大型戦闘機まであらゆる武器をね。AIを使ったセキュリティシステムの開発も得意としてる。昔からあるから、世界中の軍事機関が、『スペード印』の武器を使ってるくらいだ」
「世界中……それは、すごいな」
左手で、金色のコインをはじくあざみ。
「で、バロイア国っていうのは、最近、力をつけてきた自称独立国だ。こっちは、最先端技術を活用して、新素材を開発しながら特殊兵器をつくってるんだ。最近は、宇宙開発にも力を入れてるって聞いたよ」
スライドには、金色で〈Baroia〉と書かれた、ロゴマークが映ってる。
「ほぼ同じことしてるんか。じゃあ、仲ええんか?」
「その逆。新参者のバロイア国が、『スペード印』のお客さんにも武器を売ったりするから、『スペード印』はムカついてるんだよね。つまり、商売敵だから、仲が超悪いってわけ」
「あ、それはあかんな」
モネが、パソコンに映った円グラフを、ぼくたちに向けた。
「こ、これは世界の武器の輸出の割合だよ。規模的にはさ、『スペード印』が世界の70%の武器を生産してる。最強の存在なんだよ」
モネは少し前のめりになって話す。
「そ、それでもここ数年で、バロイア国は20%ものシェアをのばしてるんだよ。これはすごいことなんだ」
「へぇ、武器の生産の割合なんて、気にしたこともなかったな」
「でも、何かきっかけがあれば、まだ規模の小さいバロイア国は、か、簡単に『スペード印』に潰されちゃうだろうね」
モネがニヤニヤ笑って見上げたスクリーンには、こう書かれている。
『スペード印とバロイア国の同盟式典』
「そ、そんな2つの組織が、【トコヨノクニ】で同盟を結ぶなんてさ、すごい陰謀がありそうだよね! しかも、同盟の目的は、月に軍事施設をつくること! これから激化していく宇宙開発競争で1歩リードする一大計画だ! ふへへっ」
そういえば、モネは陰謀論が好きだった。
「だまれ、ガキども。説明中だ」
カチャッ 千手楼はイライラすると、すぐに銃口を向ける癖があるみたいだ。セーフティーレバーまで下ろしている。
それにならって、周りの4人の男も同時に構えたから。
ぼくたちは大人しく口を閉じて、スライドに向き直った。
「今回のオープニングセレモニーで、バロイア国と『スペード印』の同盟の式典と、それを記念した特別展示が行われる」
千手楼がスライドを切りかえる。
「そこでバロイア国が展示するのが、『玉枝(じゅえ)』だ」
「「「「え!」」」」
次に映ったスライドに、ぼくらはバッと立ち上がった。
「なんでバロイア国が、『玉枝』を持ってるの?」
バロイア国の特別展示に飾られる『玉枝』。
それは、金と銀が交わる枝に、4つの真珠がついた、美しい装飾品だ。
15センチほどの『玉枝』の実寸の写真が、スライドにのっている。
座れ、とまた銃を向けられるけど、ぼくらは突っ立ったまま。スライドから目がはなせない。
だって――
「わたしたちのファーストゲームのお宝や!」
この『玉枝』こそ。
4年前に、一度、ぼくらが盗みだした宝だった。
「つまり、4年前におれたちから『玉枝』を奪ったのは、バロイア国だったんだね」
あざみの言葉に、ぼくらは静かに視線を交わした。
敵が明確になってきた。
「お前らのじゃねえ、俺の上司だった本郷武蔵のもんだ」
千手楼はそう言って、立ち上がったぼくらを見下ろした。
「本郷のものは全て俺が引き継いだ。つまり、『玉枝』も、俺のものだ。俺は、『玉枝』を取り返したい。4年前に本郷から盗めたお前たちなら、今回も盗めるだろ」
そう語る、依頼主の千手楼。
「千手楼のもんなら、バロイア国に盗まれた! って言えばええやん」
たしかに。楓の言うとおりだ。
「む、難しいんだろうね。バロイア国はいま、力を持ってるからさ。さっきも言ったように、世界の武器生産のシェアを20%も占める実力をもってる」
「この業界は、実績と信頼で成り立ってるから、どれだけ大きな企業の最高責任者でも、新参者で両方をもっていない人間は、相手にされないんだ」
モネの説明につづいて、あざみが首を横に振る。
「つまり、本郷グループのトップとはいえ、まだ実績も信頼もない千手楼が声を上げても、もみ消される可能性が高いってわけ」
「わははっ なるほど、かわいそうやな」
パァンッ
あざみと楓の間を、銃弾が横切った。
「だまれ」
楓は千手楼をにらむ。
あざみが、その背中をぽんっとたたいて、落ちつけ、って小声で言った。
それにしても、ぼくは不思議だった。
「でも、千手楼さん。なんでぼくらに頼むんですか? ぼくらはただの中学2年生ですよ?」
裏社会の千手楼の周りには、ぼくらよりもずっとヤバい人たちがいると思う。
だって本郷グループは世界一大きな武器の貿易会社で、莫大な資産だって持ってるはずだ。
だから、映画に出てくるような大人のスパイとか、殺し屋なんかを雇えると思う。
なのに、なんでぼくらを呼んだんだろう。
千手楼はぼくを見て、ハッと鼻で笑った。
「ただの、だって? この世のどこに、この屋敷のシステムをハッキングして、書類を偽造して、変装して忍び込んで、大人どもを蹴散らす小学4年がいる?」
たしかに、あんまりいないかも。
「あれから4年間、お前らをずっと見張っていた。そしてわかった。やっぱりお前らは、絶対に野ばなしにしちゃあならねえくらい、ヤバいクソガキどもだってな」
この4年間は、ぼくは大人しく生活してたけどな。
「4年前。お前たちを殺さず、首輪をつけて生かしておいたのは、お前たちに利用価値があると思ったからだ。俺の勘はあたってた」
なるほど。ぼくらの価値を確かめるために、わざわざ軍事用デバイスの首輪をつけて、24時間、位置や音声、ネットワークまで全てを監視してたんだ。
「お前らを生かした、用意周到で用心深いこの俺に感謝するんだな」
千手楼の言葉に、ぼくの後ろにいるモネは、バレないようにくすっと笑ってた。
たしかに、4年前、あれだけのことをしたら、その場で葬られていてもおかしくなかった。
「つまり、どういうことや?」
簡単に結論を言ってくれ、と楓が顔をしかめてる。
「千手楼さんは、4年前におれたちのすごさに感動して、いつかおれたちが必要になったときのために首輪をつけて見張ってたんだ。で、今日、千手楼さんはおれたちに頼みごとをするために、100億円を用意したってわけ」
あざみの説明に、見る目あるやん! と楓は笑った。
「お前たちの業務は、『玉枝』を盗んで、俺のところに持ってくること」
ぼくらを見下ろしながら、千手楼はつづける。
「この業務が達成できたら、100億円の報酬をわたす」
その言葉に、ぼくは目を細めた。
うすい膜のような緊張が、部屋に満ちる。
「質問してもいいですか?」
あざみが手を上げた。
「あ?」
「報酬は、4人で100億円? それとも、1人ひとりに、100億円?」
千手楼は、あざみを見てニヤッと笑った。
「4人で100億円って言ったら、お前ら殴り合いだけじゃすまないだろ」
ぼくは、ただにこりと笑う。
言っておくけど、ぼくは平和主義だ。
「1人ひとりに、100億円だ」
「よかった」
ぼくらの緊張がふわりとゆるむ。
もしここで、4人で100億円って言われてたら――この先は、言わないでおこう。
もう一度言うけど、ぼくは平和主義だから。
でも、ぼくには、あざみがにぎってたスタンガンをポケットに入れるのも。
楓が近くの壺に手をのばすのをやめたのも。
モネがキーボードから手を離したのも、しっかり見えた。
ほんと、油断も隙もないやつらだ。
ぼくも、鈍器になりそうな重たいエナメルバッグから手を離した。
「その100億円で首輪を外すなり何なり、すきにしろ」
千手楼の言葉に、あざみがくちびるをとがらせた。
「でもさぁ、100億円の報酬で、首輪を外すなんてまどろっこしいことしないで、業務を成功したら外してくれればいいのに」
たしかにそうだ。
「うるせえ、がたがた言うな」
千手楼が部下にあごで指せば。
黒スーツの男が、ぼくらのテーブルに4枚の紙を置く。
「これが、今回の【100億円求人】の契約書だ」
契約書を読んでサインをしたぼくらに。
千手楼は、胸ポケットから取り出したリモコンをかかげた。
「忘れるなよ、クソガキども。お前たちの命は、この俺がにぎってるってことをな」
そこには『開始』と『一時停止』の他に、『爆破』のボタンもある。
つまり、ぼくらが100メートル以上離れていたとしても、千手楼は、いつでも首輪を爆発させることができるんだ。
「せいぜい、死ぬ気で働くんだな」
ぼくらは互いに目を合わせた。
3人とも、最高に悪い表情をしてる。
きっと、それはぼくも同じ。
こうして、ぼくらの【100億円求人】がはじまった。
<第3回へ続く>
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【書誌情報】
前代未聞、大胆不敵。最高にスリリングであざやかな頭脳戦!
舞台:海上に浮かぶ不夜のカジノシティ【トコヨノクニ】。主人公:中学2年生4人組。住む場所も学校も異なる彼らは【報酬:100億円】の求人に呼び集められ、世界が注目する宝をめぐるコンゲームに巻き込まれる。