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ものがたり

『100億円求人』先行連載 第1回

4.スパギャラ再び

 8月1日 午前9:00

「ついたぞ、起きろ」

 ぼくは目隠しを外しながら、バスを降りた。

 まぶしい陽に、ぐぅーっとのびをする。

「あははっ また来ちゃったな」

 ここは、伝説の武器商人と呼ばれる本郷武蔵の、別荘地だ。

「なつかしいなぁ」

 古レンガに囲まれた迷路みたいな道の先には、巨大な日本家屋がそびえたっている。

 その2階に案内されながら、ぼくは屋敷を観察した。

 監視用のカメラが無数に設置されているここは、4年前に忍び込んだときより、セキュリティが数倍強化されている。

「いまからボスが、リモコンでお前の首輪の爆破機能を一時的に停止させる」

 黒いスーツの男がそう言ったとき。

 カチッ 首輪から、音がした。

 この男のボスが、遠隔で首輪の機能を変更したんだ。

 爆破機能を停止したということは、同じ首輪をしている人と100メートル以内に近づけるということ。

 それは、つまり、あの3人と会えるということ。

「楽しみだなぁ」

 この4年間。

 ぼくは毎朝、鏡で外せない首輪を見て、死んでるみたいに生きてた。

 でも、ぼくの心はいま、ちゃんと動いている。

「ここだ」

 男が開けた襖の先にいたのは――

「しししっ 9時14分。おれの勝ちだ」

 室内の時計と、ぼくを見比べて笑った赤髪の少年――心念 あざみ

「チッ 負けた。なんでわかったんや?」

 テーブルに置いてある1000円札を、あざみに乱暴にスライドさせる、桜色の髪の少年――椋露路楓

「イ、イカサマしたからに、決まってるさ」

 屋敷内のカメラの映像が映ったパソコンの画面を楓に向ける、青みがかった髪の少年――阿音モネ

 そのモネに、500円玉をほうり投げるあざみ。

「うわ、あんたらグルやったんか! ふざけんな!」

 イスを倒した楓は、あざみにつめよった。

「おれとモネが先にこの部屋についてる時点で、組んでるって疑わないかなぁ? しかも、1番ノリ気だったのは楓じゃん」

 煽れるだけ煽ったあざみはべぇっと舌をだす。

「あっははは!」

 その3人を見て、ぼくは、破顔した。

 顔が破裂したわけじゃない、最高の笑顔になったって意味だ。

「3人とも4年ぶりだね」

「久しぶり。待ってたよ」

 楓に胸ぐらをつかまれたまま、あざみはニコッと笑ってくれた。

 笑顔なのは、ぼくに会えたから、というよりは賭けに勝ったからだろうな。

「ぼくが来る時間を賭けてたの?」

「う、うん。僕は不参加だったけどね」

 でも取り分はもらっていたモネは、素早くぼくのそばに来てくれる。

 これは、ぼくのことが大好きだからというよりは、楓とあざみのケンカに巻き込まれないように避難するためだ。

「高橋、つくんやったら9時ぴったりに来てほしかったわ」

 あざみから手を離した楓は、不満気に目を細める。

 あははって笑いながら、ぼくはバッグを床に置いて、室内をながめた。

 木製のテーブルに4脚のイス。壁際の棚には1000万円以上の高級な壺や置物が並んでる。

 いま見ただけでも、監視カメラを4つは見つけられた。

「『スーパーウルトラギャランティックソニックパーティー』のみんなで、また集まれて嬉しいよ」

「高橋、お願いやから、そのチーム名を呼ばんといて!」

 楓が、手で顔をおおう。

「略して『スパギャラ』だもんね。4年前、楓が知っている1番かっこいい言葉を選んで、頑張って考えた名前、おれは気に入ってるよ?」

 楓の肩にひじをおいて、その顔を面白がってのぞきこむあざみ。

「離れろ、アホ」

「いやだ」

 楓には潔癖なところがある。それをわかってるあざみは、本人の許容範囲を見極めて距離を守ってる。だから、楓もあざみを本気で嫌がらない。

「あざみはさ、楓をいじるのやめなよ」

 モネが、あきれ顔で言う。

 それでも絶対に、2人の間に入るようなことはしないのがモネだ。

『スーパーウルトラギャランティックソニックパーティー』のメンバーは4人。

 力が強い、腕力担当の、楓。

 手先と口先が器用な、計画立案担当の、あざみ。

 情報収集が得意な、ハッキング担当の、モネ。

 そして、そっくりな物を作るのが得意な、偽造師担当の、ぼく。

『スパギャラ』のメンバーを、ぼくは気に入ってる。

 3人に出会う前、ぼくは自分が世界で1番の変わり者だと思ってた。

 でも、この世にはまだまだ自分を超える、変わったやつらがいるって気づいたんだ。

 世界の広さを感じたとき、ちょっと悲しかったけど、その何倍も嬉しかった。

 ぼくは、“ちょっと変わってる”だけだって、わかったからね。

「みんなとまた会えるまで、4年もかかるとは想像してなかったなぁ」

 黒い首輪をなぞりながら、ぼくは3人をながめた。

「これをつけられてからずっと監視されてたから、あの人からいつかは接触があるとは予想してたけど」

「おれはわかってたよ。4年前からはじまってた “ある事業”がもうすぐスタートするからね」

 そう言ったあざみの手には、いつの間にか、楓の財布と、モネのパソコン用のUSBメモリがにぎられていた。その足元には、ぼくのエナメルバッグまである。

「まじか、わたしは一生会えへんと思っとった!」

 目を丸くする楓は、あざみを引きはがしながらも、モネとぼくとの間合いをしっかり把握してる。

「ぼ、僕も会えるとしても、ネット上だと思ってた」

 小刻みにうなずくモネのパソコンの画面には、あざみと楓、そして、ぼくのスマホの画面が映ってた。

 いつの間にか、ハッキングされてる。

 ぼくの口角は、自然に上がる。

 ほんと、この3人は、油断も隙もない。

 スパンッ

 突然、勢いよく襖が開いて。

「よお、クソガキども、久しぶりだな」

 鳳凰が刺繡された黒いスーツを身にまとった男が、部屋に入ってきた。

第2回へ続く>

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【書誌情報】

前代未聞、大胆不敵。最高にスリリングであざやかな頭脳戦!
舞台:海上に浮かぶ不夜のカジノシティ【トコヨノクニ】。主人公:中学2年生4人組。住む場所も学校も異なる彼らは【報酬:100億円】の求人に呼び集められ、世界が注目する宝をめぐるコンゲームに巻き込まれる。


作:あんのまる  絵:moto

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041142257

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