秋が訪れ、夏の昆虫たちが見られなくなる季節になってきました。
カブトムシやクワガタなど、夏に昆虫採集をして大切に飼育していた方も多いのではないでしょうか。しかし、種類によってはどれだけ大切に育てても、9〜10月頃には死んでしまう種類が多いです。
そんな昆虫たちを標本として残したいと考えている方のために、今回は初心者向けにカブトムシやクワガタを対象とした昆虫の標本の作り方をご紹介します。
※昆虫標本の制作は奥が深く、種類ごとに異なる点が多いものです。今回は初心者向けに、カブトムシやクワガタの標本の作り方を解説します。
昆虫標本って何?
 昆虫標本とは、昆虫の死骸を適切に処理し、鑑賞や研究のために保存したものです。標本には主に「乾燥標本」と「液浸標本」の2種類があります。乾燥標本は、昆虫の死骸を乾燥させ、防腐処理を施して作られます。一方、液浸標本は、ホルマリンやエタノールなどの液体に浸して保管するものです。
 標本の魅力は、生きている昆虫ではじっくり観察できない細部を詳しく見られる点にあります。また、地域や年代ごとに整理することで、貴重な研究資料としても活用できます。昆虫の生態や進化、分布などを調べる際に、標本は非常に重要な役割を果たします。一方で、昆虫を殺す行為に対して否定的な意見を持つ人もいます。しかし、自然環境や生物多様性の研究において、標本は欠かせない資料です。昆虫標本を通じて、私たちは自然の仕組みをより深く理解することができるのです。
 今回はカブトムシやクワガタなどの乾燥標本を作ってみましょう。
昆虫標本を作る際に用意するものは?
・標本にする昆虫(生体または死骸) 
・酢酸エチル(生きている昆虫を処理する場合。取扱注意!換気の良い場所で使用) 
・発泡スチロールやコルクボード(針を刺して固定するための台) 
・標本針(昆虫を固定するための専用の針) 
・パールピン(脚や翅を整えるための細いピン) 
・防虫剤(衣類用で可) 
・乾燥剤(湿気を防ぐためのもの) 
・標本ラベル(採集データなどを記載)
① 標本にする昆虫を準備する
 まずは標本にする昆虫を準備します。生きている昆虫の場合は、まず安全に処理する必要があります。一般的には酢酸エチルを使った方法が使われます。酢酸エチルを少量染み込ませた脱脂綿を昆虫と一緒に密閉容器(タッパーなど)に入れ、数分放置すると処理が完了します。
 また、冷凍庫で冷凍する方法や、蝶や蛾の場合は胸部を軽く圧迫する方法もあります。
 甲虫(カブトムシやクワガタなど)は死後すぐに標本作りを始められますが、バッタやカマキリなど内臓の多い昆虫は、腐敗を防ぐために内臓を取り除く場合があります。
すでに死んで硬くなった昆虫は「軟化処理」が必要です。50〜60℃のお湯に30分程度浸し、脚が動くようになるまで待ちます。硬い場合は時間を延長してください。動くようになったら水気を丁寧に拭き取り、準備完了です。
② 展脚する
 次に、昆虫の脚や翅を美しく広げる「展脚」を行います。展脚とは、昆虫を自然な姿で固定する作業で、標本の美しさや観察しやすさを左右します。
 発泡スチロールやコルクボードの上に昆虫を置き、標本針を使って体を固定します。標本針は昆虫のサイズに合わせて選び、カブトムシやクワガタの場合は右の上翅の上部あたりに刺します(正確な位置は図鑑やネットで確認すると良いでしょう)。
 次に、パールピンを使って脚や触角を整えます。図鑑や写真を参考に、理想の形を決めましょう。左右対称に整えると美しく仕上がります。脚や翅はピンをクロスさせて固定すると動かず便利です。丁寧に作業し、自然な姿勢を目指しましょう。
③ 乾燥させる
 昆虫を好みの形に整えることができたら、乾燥させていきます。タッパなどの密閉容器に乾燥剤と防虫剤と一緒に先ほど整えた標本を入れます。これらは衣類用や食品用のものなどで十分です。蓋をして密閉したら、直射日光の当たらない薄暗く涼しい場所で2週間〜1ヶ月乾燥させます。小型の個体はすぐに乾燥しますが、大型のものは時間がかかるため、途中で乾燥剤を交換することもあります。
④ 針を外して、データラベルをつけて完成
 2週間〜1ヶ月経って、標本が乾燥して固まったら、最初に刺した 標本針以外の展脚用の針を抜いていきます。この時、乾燥している昆虫の脚や触角は脆くなっていることがあるので、ゆっくり慎重に抜いていきましょう。うまく針を外すことができたら標本の完成です。
標本はデータラベルと一緒に保管することで、学術的価値のあるものとなります。データラベルとはその昆虫をいつ、どこで、誰が採集したかというメモです。飼育の場合は飼育した期間や産地、累代、飼育者などを記載します。
 データラベルとともに自分が保管したい標本箱などに標本を刺して管理しましょう。
さいごに
今回は昆虫標本の基本的な制作方法をご紹介しました。標本を制作するのに一番簡単な昆虫の種類は、今回紹介したカブトムシやクワガタなどのコウチュウ類です。
もちろんチョウやガ、バッタ、カマキリなども標本に残すことは可能ですが、使う道具や方法などが種類によっていくつか異なってきます。
昆虫標本は、採集や飼育の思い出を残すだけでなく、その昆虫がその時代、その場所に存在したことを示す貴重なデータとなります。
採集した昆虫を飼育するだけでなく、このように標本として残す方法もぜひ覚えておくとよいでしょう。
写真:PIXTA
【プロフィール】
むし岡だいき
昆虫採集YouTuber 。チャンネル登録22万人 、一番好きな昆虫はコロギス。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
