スーパーでまだ生きている生きものを見て「飼ってみたい」と思ったことはありませんか?
魚売り場や漁港での偶然の出会いから始まった、ゆかいな飼育記録が本になりました。
海から水槽へ暮らしの舞台を移した水の生きものたちの「セカンドライフ」をのぞくと、感動・笑い・学びがたくさん!
子どもから大人まで、読むたびに心温まる物語の数々をぜひお楽しみください。
連載第5回は、「さよならはまだ早い 水辺の生きものとのキセキ」の中から、「毛ガニの『カニタマ』」を紹介します。
※本連載は『水の生きものセカンドライフ 瀕死の生きものを救ったら、ゆかいな日々が訪れた』から一部抜粋して構成された記事です。
毛ガニとドライブ
SNSで、鮮魚スーパーからカニが脱走するという情報を見かけた僕は、なにかに呼ばれているような気がして、すぐに車で向かった。遠方だったので、往復の時間を計算するとカニ救出のためにかかった時間はなんと7時間。
目的のスーパーに入り陳列棚を覗くと、さっそくパックから脱走しようとしている一匹の毛ガニを発見! ラップを押し上げるようにして、なんとか外に出ようとしているが、弱っているのかラップの締め付けが強いのか、なかなか思うようにはいかないようだ。
毛ガニが動くたびにギチギチとラップが引っ張られる音が鳴っていたが、パックを手に取ると急に大人しくなり動かなくなってしまった。もしや、力尽きてしまったのか……? そんな不安がよぎり急いで購入し、車へと戻る。
助手席に毛ガニの入ったパックを置いて、安全のためにパックにもシートベルトを装着。安全確認ヨシ!
車を少し走らせて到着したのは、海。バケツに海水を汲んだらすぐに先ほどの毛ガニを投入。すると、口元からぷくぷくと泡が出はじめた。そのまま様子を見ていると、口元のハサミが動きはじめて、少し前の状態と比べると多少元気を取り戻したように見えた。
決して万全な状態とは言えないが、ひとまず命の危険からは脱したようで一安心。だが、油断はできない。なぜなら、このまま7時間も運転して家に帰らなければいけないのだ。
毛ガニは冷たい水を好むので、車内の暖房などは厳禁。そんな理由で、途中で氷を調達して、毛ガニの様子を見ながら水が温かくならないように気を配ることになった。道中はできるだけ快適に過ごせるように、みなさんの車にも載っているであろうエアーポンプを作動。
え…… 載ってない? ダメですよ、みなさん。車に載せなければいけない必需品ですからね。いつ野生の毛ガニと出会って、家に持ちかえることになるか分からないんですから。スペースがないということでお困りなら、スペアタイヤを降ろしてエアーポンプを載せましょう。
と、冗談はさておき。壊れかけのエアーポンプからは頼りない空気しか出せない状態ではあったが、それでもないよりはマシというもの。急いで帰るから辛抱してくれ!!
往復7時間もドライブしていたせいか、家に到着した頃には昔から見知った友達のような感覚になっていた。さて、まだ名前も決まっていない友達のために急いで水槽を作ろう。
水合わせが済んだ水槽に毛ガニを入れると、水槽の下に敷いている砂を掘りはじめ、砂の中に潜ろうとしている。必死に隠れようとしているのだろうか。しばらく様子を見ていたが、そのまま目を折りたたんで眠る姿勢になったので、この日はエサをあげずにゆっくりと休ませてあげることにした。
パックとの格闘、そして7時間のドライブ。毛ガニにとってはとんだ大冒険で疲れてしまうのも無理はない。時間はすでに深夜の3時過ぎ。おやすみ、と声をかけて僕も布団に潜り込んだ。
蹂躙される岩とヒトデ
翌朝、毛ガニを入れた水槽へと向かうとなにか様子がおかしい。水槽の中に入れたライブロックの位置が大幅にずれているのだ。なんて馬鹿力を発揮してるんだ……体力も落ちているはずなのに。
そんなに元気ならばエサも豪快に食べてくれるだろう。ということで、用意したのはおなじみのアオイソメ。口元に持っていってあげると、さっそくハサミで掴み、口元へとゆっくりエサを運ぶ。すると、予想どおりすんなりとエサを食べてくれた。
環境が変わってもエサを食べてくれたことで、またひとつハードルを越えることができた。これで、落ちた体力も少しずつ戻っていくだろう。
一安心したのもつかの間。次の日に水槽を覗いてみると、一緒に入れていたはずのコブヒトデが砂に埋まっているではないか。
この日だけならば、ヒトデが埋まっていたのもただの偶然かと思えていたのだが、なんの恨みがあるのか来る日も来る日も砂に埋められているヒトデ。さすがに埋まったヒトデを救出する頻度が多くなってきたため、安全を守るために避難させることとなった。
そんな毛ガニの名前を今回も募集。みなさんからいただいたコメントを参考に、僕の独断と偏見によって「カニタマ」に決定。うーん、美味しそうな名前だ。
カニタマに様々なエサを与えて好みを探っていると、面白いことが分かった。アサリはすぐに食べるのに、つぶ貝をあげてみると、ハサミでこちらに押し戻して食べようとしないのだ。まるで「これはいりません」と言わんばかりの拒否反応。同じ貝なのにここまで嫌がられるとは……カニタマとは友達だと思っていたけれど、何を考えているのかは分からないままだ。
水の生きものとのひょんな出会いの物語はいかがだったでしたか?
本書では、その後の成長記録や貴重な写真はもちろん、生きものとの関わりから見つけた生きもののおもしろさ、いのちの大切さについてもつづられています。
朝の読書タイムや、自由研究にもぴったりな1冊、ぜひお手に取って、新しい世界をのぞいてみてください。